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009 旦那様(ニセ)が、鬼カッコイイ件。

 あれからニセ嫁修行をこなし、へとへとになった。もう無理だ。鬼の修業、キツすぎる。早くも音を上げたくなってしまった。

 きつくしめたコルセットで何とか姿勢は保てたものの、息苦しさに姿勢が乱れると鬼中松の嫌味が飛んでくる。気を抜く暇が無い。

 更にテーブルマナー、話し方、振舞い方・・・・全てダメ出しされ、それをまともに一つも修正できないまま、午後七時を迎えた。お腹すいた。



「そろそろ一矢様がお帰りの時間になります。早速お出迎えをなさっていただきます。失敗は赦しませんよ」



 ひいいー。鬼だぁー。鬼ヶ島からやって来た鬼だぁー。怖いよー。

 悪い姿勢や言葉遣いで一矢を出迎えたりしたら、クソミソに言われるんだろう。自然とコルセットで巻かれた身体に力が入る。

 今日の最後の最後に、ボロクソに言われて悔しい思いをしながら家に帰りたくない!


「あの・・・・中松。気になったんだけどさ」


「『あの、中松、少し気になる事があるのですけれど』と、せめてニセ嫁修行の身の間、このくらいの言葉遣いはできませんか、伊織様」



 がああー! いちいちうるせーな、小舅かああ! と言いたい。



「『いちいちうるせーな』等と、淑女は心で思ったりなさいませんよ?」


 ぎく。ばれてーら。顔に出ているのね。きっと。

 反省して、キリっとした顔に切り替えた。これ以上文句言われたら、今すぐニセ嫁やめてやるー、って怒って帰っちゃいそうだから。


「中松、一矢・・・・様のお食事の用意は、しなくてもよろしいの?」


「一矢様の食事は、こちらで用意しておりますのでお気になさらずに。伊織様はどうかご自分の事だけをお考え下さいませ」


 冷徹鬼!


 

「あら、そうでござーますの」


「あら、そうでございますの、でございますよ」


「まあ、おほほ」


「お顔が般若みたいになってございますよ、伊織様。お鏡でも見られたらいかがでしょうか」



 目の笑っていない笑顔で言われた。




 があああー!




 この世にこんな嫌味な男、いないわ!

 こんなクソ鬼だから、いい年なのに嫁のひとりもいないのね! ふん。可哀想に!!

 中松を脳内で勝手にディスる(悪口を言う)事で、正気を保った。



「楽しそうだな」



 玄関先で中松とバトルしていると、不意に声がした。一矢の声だ。


「あっ」


 二人で同時にハモり、慌てて一矢に向き直った。


「これは一矢様、お帰りに気が付かず、大変失礼いたしました」


 中松が慌てふためいている。ふふ、この男の焦るところ、初めて見た。

 頭を下げて主人ニセだけどに侘びている。うーん、ニセだけどとしては気分いい!


 

「あの・・・・インターフォンはお鳴らしにならなかったのでしょうか? 故障でございましたでしょうか?」


「いいや。インターフォンは鳴らしていない。我が嫁がどのように修業をしているのか、様子を見ようと思ってな。セキュリティーを解除して黙って入ってきた」


「左様でございましたか。一矢様のご希望を先にお伺いしておけば良かったですね。失礼いたしました」


 スマートに侘びた中松に、チラ、と見つめられた。


「お、お帰りなさいませ、一矢様」


 挨拶に一歩出遅れた。普段はゆるTと呼ばれるようなラフなトップスに、下は殆どゴムの入ったズボンが主な服装で、たまに着飾るのは家族で外食の時か友達と遊びに行く時だけ――そんな私が初めて、薄ピンクに襟元がレース、袖もレースにひざ下丈、全長約百二十センチくらいのふんわりとしたお嬢様ワンピースを身に着けているのだ。勿論これは、お嬢様に扮する為に中松が用意したものだ。一矢の趣味なのか、中松の趣味なのか、それとも何も関係の無いものなのかさえ、判別がつかない。とりあえず高級ブランド品みたいだから、値段は鬼高だろうという事くらいしか。

 しゃんと背筋を伸ばし、ワンピースの下に巻いたコルセットごとお腹に力を入れて立った。ニセ嫁として頑張っている修行の成果を、ニセ夫に見て貰わなければ。



「ほう・・・・見違えたな」



 口の端を持ち上げ、一矢が笑った。不敵な笑いなのに、ときめいてしまう趣味の悪い私。

 あああー。


「だが、私の前でその様な言葉遣いは不要だ。伊織、普段通りで良い。帰ったらお前が出迎えてくれるというのがベストだ。私も伴侶を貰ったのだ、という気分に浸れるだろう?」


「あ・・・・うん。解った」


「それより、中松と何を楽し気に話していたのだ? 場合によっては浮気とみなすぞ」


「はあっ!? クソ中松なんかと浮気だなんて、冗談じゃないわよっ!! 厳しいご鞭撻べんたつに対して嫌味合戦をしていただけだしっ!」


 一矢の言葉に、あれだけ練習してきた美しいとか上品とかそういう類の言葉遣いは、一切合切吹き飛んだ。

 どうやら私は根っから上品には向いていないらしい。育ちのせいか、それとも自身のせいなのか。恐らくどちらも正解だろうと自分で結論づけた。


 

「伊織様、クソは余計でございますよ。お言葉遣い・・・・淑女になられるなら、もう少し改めていただかないと困ります」



 こめかみをピクピクさせた中松に対して、一刀両断!




「主人がいいって言ったのよ! 文句あるなら一矢に言って! ね、一矢?」




 助けを求める為ににっこり笑って一矢の方を見ると、彼はお腹を抱えていた。そして――





「あーっはっはっは! 傑作だな」





 見た事もないような楽しそうな顔で、一矢が笑った。



 きゃあああ――っ!


 一矢のくせに!

 一矢のくせに!!





 なんでそんなにカッコイイのよおおおお――――っ!!






 

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


本日の18時更新、上手くできなくてすみませんでした。


次の更新は、6/16 0時です。

毎日0時・12時・18時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

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