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003 契約婚、持ち掛けられました。

 

「一体、何が無理なのだ。理由を説明しないか」


「実は・・・・お母さんのせいで借金一千万円も背負っちゃったのよ! 返す当てがないから、店を売るしか無いって・・・・さっきお父さんが言われたところよ。そこへ、一矢が来たってワケ」


「それはまた・・・・間の悪い時に・・・・」


 流石の一矢も悪いと思ったのか、押し黙った。


「そういう訳だから、ごめんね。今日はお弁当用意できない――」


「それは出来ない相談だ。毎日私が弁当を買ってやるという約束は約束だろう」私の台詞をブッた斬り、一矢はにっこり笑った。「私はここの弁当を、唯一楽しみに毎日仕事を頑張っているのだ。日替わり弁当――今日のメニューは何か、昼になるまでワクワクが止まらないのだ。それが無くなるのは仕事に差し障って非常に困る。中松だって同じ気持ちだろう」


 今、彼が言った中松というのは彼の付き人の事だ。運転手兼マネージャー兼雑用係。黒子みたいなものね。

 ちなみに中松道弘なかまつみちひろは、幼い頃から一矢の面倒を見ていて、何というか忠誠心が凄い。一矢と私が小学生くらいの頃、死にかけている彼を拾ったのがきっかけでボディーガードとして雇う事が決まってから、金魚の糞みたいに一矢に付きまとって――もとい執事的な事をさせられて――いる。


 一矢の家はお金持ちだけどお姉さまたち(一矢には腹違いのお姉さまが二人いる)との確執とか色々あって複雑だから、事情をよく知っている幼馴染の私と中松にしか彼は心を赦していない。高慢ちきでとんでもなく偉そう、嫌味で性格最悪にひねくれている上に意地悪だから、一矢は同じ学校に通う同級生に――本人は認めないが――幼少期に嫌がらせ(というか虐め)をされていた。目撃して何度か追い払ったり庇ったりした事がある。以来、懐かれて(?)しまった。だからきっと、いや多分、友達は私しかいない・・・・ハズ。


 中松が私の作るお弁当を一矢のように楽しみにしているとは思えないが、彼なら一矢に同意を求められたら『その通りです、一矢様』と言うに違いない。ヤツは、忠犬ハチ公ならぬ忠犬中松だから。


「一矢、今の私の話聞いてた? お弁当を作る時間なんか無いって! 大変だって言ってるじゃない!」


 途中まで作っていたんだけど、話があるって中断して借金問題の話を聞いて今に至るのよ。

 それにしても、そんなに楽しみにしていたんだ。お弁当。

 まあ、味は悪くない、という普通に聞くと冷徹なコメントだから、流石の私もそこまでは解らなかった。


 でもお店の存続危機に面した今、お弁当を作る時間は無い。一矢(と中松の分)のお弁当より、店の存続問題の方が大切だ。コンビニのお弁当が無理なら、今日くらいどこかのお弁当屋で買って間に合わせて欲しいものだ。


「借金問題が片付いたら、私の日替わり弁当が出来上がるのか?」


「そりゃあ片付いたら店が開けられるから、お弁当だって作れるけど・・・・でも、無理よ! お金無いから店を売ろうとかお父さん言い出す始末だし。そんな事になったら営業も続けられないし、今後二度と一矢のお弁当を作れなくなっちゃう」


「何だと! それは困る。うーん、そうだな・・・・伊織、だったら――」何やら逡巡し、一矢が偉そうに言った。「私が助けてやってもいいぞ」


「えっ? 本当!? お金貸してくれるの!?」


 そうだった! 一矢の家はお金持ちだったんだ!

 高慢男に借りを作るのはシャクだけど、サラ金でお金借りるとか無理だし、この際一矢で手を打とう。

 貸してくれるというなら、日替わり弁当に私の特製ミートボール一個、毎日サービスしちゃうから!

 一矢はお弁当のおかずのなかでも、私が作る特性ミートボールが好きなんだ。感想に『味は特段悪くなかった、もっと食べてやっても良いぞ』とか上から目線で言う位だから、しっかり食べたいって事なのよ。本当に分かりにくい男。でも好き。以下同文。


 

「金を貸すのとは少し違うが、まあいい・・・・。ただし、条件がある」


「じょ・・・・条件!?」


 一体何を言われちゃうんだろう。

 幼馴染のよしみで、利子は格安にしてもらいたいのだけど。できれば無利子希望!

 ミートボール二個に増量は・・・・ちょっと多いサービスになっちゃうからキツイけど、まあ何とか頑張ってみるよ。うん。




「伊織。私の専用になれ」




 突然の言葉に意味が解らなかった。「はいぃ?」



 専用って何よ? 思わず戸惑った。



「解らんヤツだな。私の専用――つまり、嫁になれという事だ。私と結婚すればいい。お前の借金は、私が肩代わりしてやる」



 よ、嫁!? 結婚!? 話が急すぎて、ついて行けない。



「なんだ、その不服そうな顔は。相変わらず不細工だな。もう少しマシな顔はできないのか」



 大きなお世話!



「安心しろ。結婚と言っても、偽装だ。ぎ・そ・う。どうしようもなくモテる私に、縁談が毎日押し寄せて困っているのだ。幼馴染のよしみで伊織、お前が助けろ。その代わり私がお前の窮地を助けてやろうじゃないか。どうだ? ナイスアイディアだろう。流石私だ」



 ドヤ顔で言われた。ふっ、ふざけるなあっ!



「大丈夫だ。調査によればこれは今流行りの契約婚というやつで、何も問題は無い」



 知らなかった! 契約婚って流行っているの!?


 

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


次の更新は、6/14 0時です。

毎日0時・12時・18時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

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