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002 幼馴染、一矢登場!

 


「騒がしいな。一体朝から何を騒いでいるのだ」



「いっ、一矢・・・・」



 家族会議のすったもんだ中、幼馴染の三成一矢みつなりいちやが突如現れ、リムレスフレームの細めの四角メガネに包まれた鋭い目を私に向けてきた。

 一矢は、イタリアのローマで創業された紳士服ブランド・ブリオーニのスーツが今日もキマっている。最高級の素材と熟練職人によるハンドワークに拘った、イタリアのエレガンスを追求し続けていると言われるスーパーブランドのスーツだ。上品な一矢によく似合う。

 風も無いのに艶やかな濃アッシュグレーの――最早銀髪――が、さらーっと流れる様を見ると、上流階級の男の感じがぷんぷん漂ってくる。何時もなんかいい匂いしているし、洋食屋のソース臭い私の匂いとは大違いだ。




 一矢のクセに・・・・ちぃくしょう、カッコイイ。




 

「定休日でも無いのに店を閉めているのか? 表から入れなかったぞ」


 今日は店を開けるどころではなくなったので、都合により臨時休業を致します、という張り紙をして店の木製扉は内側から鍵をかけている。一矢は裏の勝手口へ回って、この中へ入ってきた模様。そっちの入り口は業者用に鍵を空けているから、自由に出入りできる事を彼は知っているから。


「今日は臨休にしたの。悪いけど今日は帰って。ただ今取り込み中。見てわかるでしょ。それどころじゃないの」


「伊織の都合など私には関係ない」



 出た! こっちの都合はお構いなしの、『一矢(自分)ルール』。



「それより私の弁当はどうなっている? 毎日お前の所で頼んでやっている日替わり弁当を、この私がわざわざ取りに来てやったのだが」


 高慢ちきな態度で一矢が言った。


 相変わらず偉そうな男!


 ううう。でも、なぜかときめいてしまう。性格最悪に歪んで高慢なのに、顔がかっこよすぎるのがいけないのよ。もっと不細工だったら蹴っ飛ばしてやれるのに。美しい顔に傷がついたらと思うとそんな事出来ないし。

 まるで海外の絵画に描かれているかのような、透き通る白い肌。つやつやの濃アッシュグレーの銀色に染めた美しい髪、前髪は長いのに全然ボサボサじゃないし、リムレスフレーム眼鏡の奥にある切れ長で冷徹無比な瞳に見つめられたらゾクゾクするし(私は変態か?)、背も高いし成績もいいしお金持ち(というかお坊ちゃま)で品もいいし、偉そうで高慢なところだけ何とかなれば、私だってもう少し素直に・・・・。


 でも自分でも思う。一矢はハイスペック男子だと思うが、性格がクソ最悪だ。だからこんな男を好きだなんて、男の趣味が悪いとしか言いようがない。何で性格へそ曲がりのこんな男が好きなのか、未だにわかんないもん。

 事の発端は幼い頃、時折垣間見せる一矢の素で可愛い笑顔に心を奪われてしまったのが原因だという事は解っているけどね。



「さっき連絡入れたじゃない。お弁当は出来ていないわよ。それどころじゃないって言っているでしょ!」



 好きなくせに素直になれなくて、かれこれ十数年の年月が経ってしまった。

 私の初恋は拗れる一方だ。今更もとに戻せない。


 そんな一矢は毎朝欠かさず出勤前に、グリーンバンブーでお弁当を買っていく。私の店で本来お弁当はやっていないのだけれど、昼食がどれも不味くて困っているから、お前が作れ、とか一矢ルールを突然言い出されて仕方なく作ってあげることを始めてかれこれ数年。

 貧乏洋食屋の売り上げ貢献だとか偉そうに言われ、メニューはおまかせの日替わり弁当を毎日買いに来る方程式が出来上がった。

 今日は事情があってお弁当を作れないからごめん、とスマートフォンからショートメールでさっき連絡を入れておいたのだ。


「その連絡は見たが、以前より約束しているのにも関わらず、急に出来ないと一方的に契約を反故するとは、社会人として無責任だと文句を言いに来た。一体、私の弁当はどうなるのだ」


「だから作る事が無理なの! そんなに弁当が食べたきゃ、今日はコンビニ弁当でも買って食べてよ」


 あああー。好きなのに乱暴な言い方しか出来ない私のばかばかばかー。

 せめて『ごめんね』とか可愛く言えたらいいのに・・・・。でもできないーいいいぃ!

 そういう言葉をさらっと言える女子を尊敬しまーす!


 

「伊織っ! わざわざ出向いてやったというのに、この私にコンビニ弁当を食べさせる気か!? あんな添加物まみれの毒を、私に食べろと言うのか!」


 一矢が怒り出した。


「しょうがないでしょおおお――――っ! 今、この店の存続危機なのよ! 一矢のお弁当を作る暇が無いんだってば! ゴメンって連絡入れたじゃない! やむを得ない事情なの!」


「存続危機にやむを得ない事情って・・・・どうしたのだ。まさか・・・・最近伊織がグリーンバンブーの焼き場を担当していると聞いたが・・・・あまりの不味さにとうとうこの店に客が来なくなったのか・・・・」


 青ざめた顔で一矢が言った。


「失礼ねぇ! 違うわよ、大馬鹿者!」


「私に向かって大馬鹿とはなんだ。聞き捨てならないな」


「だから、無理だって言っているの!」


 一体誰が毎日毎日早起きして、一矢の日替わり弁当を作っていると思っているのよ。

 まあ、味は悪くない、とか感想寄こすなんて、性格最悪でひねくれ過ぎでしょ! それ、一矢の誉め言葉だって解っているし!

 気にいらない時は、はっきり『不味かった』と遠慮も無く言うのよ。毎日お弁当の感想がメールで送られてくるから、ヤツの味や好みはしっかり把握したけどね。それが解って欲しいから、わざわざ『感想』とかいうタイトルでメール送ってくるんだ。面倒くさい男。でも好き。ああー!

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m


次の更新は、6/13 21時です。

毎日0時・12時・18時更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

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