001 店を手放す!? 冗談じゃない!
初めまして、さぶれと言います。
主にエブリスタでラブコメ中心に執筆、活動しています。
今回『小説家になろう』で初めて掲載させて頂きます。
笑いあり、キュンありの楽しいラブコメです。
どうぞよろしくお願いいたします。
表紙イラスト
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紗蔵蒼様
「借金一千万円――――っ!?」
寝耳に水。晴天の霹靂。その他様々な思いつく限りの類似ことわざ達が私――緑竹伊織の脳内を駆け巡った。
ここは都内某所にある老舗洋食店、グリーンバンブー。創業百年を迎える木造の店は古く小さいが昔ながらの趣があり、三代目を継ぐ私の父――緑竹一平とその嫁であり私の母でもある美佐江が、本日の仕込みを始める午前八時半頃より、その店内で家族会議――といっても弟や妹たちは学校があるから私と両親だけ――を開いて私に頭を下げた所で、驚きの事実に大声を上げてしまったところだ。
「まあちゃんが困っていたから、力を貸してあげたくて・・・・」
「伊織、内密にしていてスマン! どうしてもという美佐江の頼みを断れなくて・・・・」
話によるとお母さんの同級生の旦那がラーメン店を開業するにあたり、母に連帯保証人になって欲しいと頼んで来たのだ。家族(というか私)に相談すると大反対されると思った母は困っている同級生を見捨てられず、私に黙って父にだけは相談して保証人になったんだとか。
しかし同級生が逃げたと発覚し、どうしようもなくなったので遂に私にゲロった(告白した)というワケ。
「バカじゃないのっ! 勝手にそんな保証人なんか引き受けて!!」
「だって伊織に相談したら、反対するだろっ。俺の愛する美佐江が困っていたんだ! 美佐江を助けたとい思うのは当然で仕方がないだろう!!」
父の逆ギレに私は更に逆ギレで返した。
「こうなる事が解ってるんだから、反対するのはあったりまえでしょおおおおお――――っ!!」
私の雷に、二人はしゅんとなった。
はあああー。もう! お父さんは昔からお母さんに甘すぎる!
のほほんとしてお人よしのお母さん。お父さんが一目惚れして猛アタックして結婚し、グリーンバンブーの看板娘として、美人で愛想のいいお母さんはあっと言う間に人気になったのだけれど、その裏で困ったことが起きるようになった。
訳の分からないものを常連のお客様に売りつけられても、可愛そうだからと言って断らずにアホみたいな金額を支払ってしまうお母さん。今に始まった事では無く、家族は何時も振り回されっぱなしなの。
親切というか最早このレベルは病気――のお母さんを『やっぱり俺の惚れた女は違う、優しいなあ』と意味不明な事を言って何でも赦してしまう父。
そんな事を繰り返すものだから、騙される事この上ない。何時しか私が目を光らせるようになり、印鑑を押す契約・保証人関係は絶対に私を通すようにあれだけ固く誓わせたというのに!!
「同級生のまあちゃんが逃げちゃうなんて、思わなかったのよおー」
「一回くらい思え! つーか疑え! いつもいつも騙されてちゃってさあ! 尻ぬぐいする私の身にもなってよ!!」
「だあってええー」
「だってじゃない! 母親のくせにベソかくな!」
もう!
お母さんがこんな調子だから、私が何時も苦労するのよっ!
「伊織! これ以上美佐江をいじめないでくれ!」
しくしく泣いているお母さんの前に立ちはだかるお父さん。かー。まとめて殴ってやろうか!?
「何で私がお母さんをいじめている事になっているのよ! 二人とも、もっとしっかりしてよ!!」
胃に穴が開くわ!
「スマンったらスマーン!!」
お父さんに土下座された。そんな一銭にもならぬ土下座ですむかーい!
謝る気があるなら、お金作って持ってこーい!
「それでその、一千万円の借金ってどうやって返すのよ!」
頭痛がしてきた。私の家は代々洋食屋を経営している。持ち家だから辛うじて借金こそないものの、さっきの通りお母さんが他の人を助ける為にって店の利益をそういう事に使っちゃう上、夫婦ラブラブだから子だくさんで貯金なんて全然ありゃしないのよおおお!
一千万円だなんて、私のへそくりじゃ返せるような金額じゃないしいいい!
家族構成は父と母、それに私が長女、大学四年生の妹が一人、高校三年生の弟、高校一年生の弟、中学一年生の弟が一人、小学五年生の妹が一人の計六人の子供。祖父母はもう亡くなっているから、合わせて八人家族。お母さんの祖母父はまだ健在だが、別に住んでいる。
私は大学に進学せず、地元の公立高校卒業と同時に我が洋食店で働いている。早く一人前の料理人になるべく奮闘中で、ベテランコックが定年で辞めることになったから、ようやく最近焼き場を任されるようになった。ステーキやトンテキやグリルチキン等、この店で出す焼き物系を担当している。
でも、それだけじゃ物足りない。早く揚場も覚えたいし、秘伝のソースとかカレーとか、色々作りたいと思っている。
大学生の妹、美緒は農業大学に通っている。無農薬野菜を上手に育てて店で使いたいと言っているし、高校三年生の琥太郎もホールを手伝ってくれているし、ゆくゆくはキッチンに入るだろう。家族みんなで大切にしている洋食屋だ。
「仕方がないから、借金のカタに店を売る事にする。これしか方法が無いんだ。わかってくれ、伊織」
代々受け継がれ、私達家族みんなで大切にしてきた店を突然『借金のカタに売る』とか言い出したものだから、
「はあ――――――っ!?」
と、超特大の声が私の口から飛び出た。
勝手に借金一千万円も拵えてきた挙句、百年も続いてきた大事なお店を簡単に手放すですって!?
ふざけんじゃないわよおおお――――っ!!
しかも住居兼用なのに、この店(というか家)売ったら、どうやって生活していくのよおおおお――――っ!
家族全員が家無し子になっちゃうじゃないのよぉおおお――!
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
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