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既に10人死んでいる 第二章 終末旅行編

総合判断システム<ARS-A>に依る地下防衛迎撃設備の起動許可を確認


自己認識正常判断開始ーーーシステムオールグリーン、ハードソフトともにシグナル正常値を確認


第一核融合炉起動準備開始

第一安全装置停止ーーー正常な停止を確認

第二安全装置停止ーーー正常な停止を確認

第三安全装置除去ーーー正常な動作を確認

■■■■■ーーー正常な起動を確認

第四安全装置除去ーーー正常な動作を確認


統括管理システム<ARS-D>起動ーーー正常な起動を確認

<ARS-A>より<ARS-D>へ全起動権限の移譲を開始ーーー成功しました。


これより、第一核融合炉起動を開始します。


第一副電源装置を起動ーーー成功しました。

第二副電源装置を起動ーーー成功しました。

第三副電源装置を起動ーーー成功しました。


超伝導回路の開放を開始しますーーー予測完了時間まで残り13秒、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、成功しました。

誤差計測ーーー完了。電圧、電荷、磁場ともに誤差10^-25%未満。正常値です。


高電圧回路への移行を開始ーーー正常に終了しました。

炉心プラズマへの着火ーーー成功しました。

炉心温度推移は正常値です。

高電圧回路を一時不活性化ーーー平常な数値内での不活性化を確認。


第一核融合炉、起動開始。ーーー正常な起動を確認しました。


続いて、第二核融合炉起動準備を開始します。


ーーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーー



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「おい……なんなんだよこれ」


三人は、建物の一つすら無事には残っていない惨状に立ち尽くす。

そして何よりも、目の前に悠然と佇む巨大な怪物が、どうしても拭えない絶望感を与える。

怪物を飾るようにかかった虹の橋が、雨によって可視化された怪物を最早幻想的な神格の類かとすら思わせる。


「うそ……だろ………

こんなんどうすれば良いんだよ…」


「ーー先端技術研究要塞都市サイタマ……

それしか無いと思う。」


「未来都市サイタマか……

ーーあまり好きでは無いんだけどね。」


先端技術研究要塞都市サイタマ。

それを語るには矢張り5年前に漸く終わりを迎えた"人類の9割が死亡した大災害"、所謂"悪夢"についての話は欠かせないだろう。

2023年6月23日から2027年4月3日までに断続的に発生した、"高次生命体に依る攻撃"と思しき何か。最終的に人類の9割が死亡し、世界はその姿を大きく変えた。

この大災害"悪夢"に依って数を大きく減らした人類は、統治機関の再構築を始めた。

残り1割の人類が効率的に連絡を取り合い設立された、完全単一の政府執行機関"人類連邦政府"。

旧日本国支部は、悪夢終了時点での旧日本国の首都サイタマに建造された。

様々な分野での研究開発が進められ、外部からの妨害や侵略に耐えるため防衛に特化した能力も持ち合わせたこの支部は、周囲の2,3ヶ月先の技術が使われてると言われる。

それが、『先端技術研究要塞都市サイタマ』であるッッッ!!

またの名を、『未来都市サイタマ』とも呼ばれるのだ……ッ!


そして、Michaelが言った事。

先端技術研究要塞都市サイタマには、地下に巨大な防衛迎撃設備が備わっている。

しかしこれを起動するには莫大なエネルギーが必要であり、起動後一年ほどしか電源が保たない。しかも、一度起動したら電源装置を破壊する以外での停止は不可能なのだ。これは、なんらかの工作により防衛設備が停止させられる事の無いようにだ。

そのため、地下防衛迎撃設備は簡単には起動しない様になっている。

具体的には"悪夢"若しくは"悪夢に相当する災害"若しくは"現存人類の半数以上の死者が出る可能性のある災害"の発生時にこの地下防衛設備を起動する手筈となっている。

起動方法は義務教育の一環として小中学校で習い、地下防衛設備制御AI<ARS>が最終判断を下すと起動される。


まあ要するに、「サイタマの防衛設備で怪物やっつけよーぜ」って事だ。


「おいおい、此処からどうやって移動するんだよ。」


「歩いて。

それしか無いだろ。」


そう言って、Michaelは歩き出す。


「おい!」


慌ててJamesとタナカが後を追いかける。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


<James視点>


「変わり映えしないな。

どこもかしこも同じ様な景色だ。」


怪物に踏み潰された大地を進む。


「怪物に気を付けろ、小型の怪物なら近付かれても気付かない可能性がある。」


怪物。

奴らはなんなのか。

左手を軽く握って開いて、その感触を確かめる。

しっかりと感覚がある。

最悪の気分だ、何時も通り。


ぺたぺたと云う足音がしたら、其方に左手を向ける。


それだけで怪物が逃げていく。


嗚呼本当、何時にも増して最悪の気分だ。


「因みにあとどのくらいあるんだ?」

「80kmって所かな。」


……本っ当に、最悪の気分だ。


「あれ?」

「どうしたんだ?」

「いえ、ただ歩いてるのもなんなので怪物について考えてたんですが、あまりにも不可解だったので……」


タナカは語る。


「先ず、山にはあの巨大怪物ーー超大型とでも呼びましょうかーーは居なかったはずです。

これは、山の木々が無事だった事で分かります。」

「ああ、そうだな。」

「では、何故居なかったのでしょう。

標高が高いからと云う理由なら、標高の低い麓部分の木々が残ってる時点でおかしいですし、小型の怪物があの標高に居るのは不自然です。」

「なるほど、確かにそうだ。」

「そして、その小型の怪物が問題なんですよ。

なんであいつらは()()()()()()()()んですか?」

「いや、追って来てたじゃないか。」

「いいえ、()()()()()

少なくとも、あの洞窟の入口近く、我々の居た所には。」


それから、ずいっと顔を近付けタナカは語る。


「ねえ、()()()()んですよMichaelさん。

いえ、疑ってるわけではありません。


怪物が、一本道で撒けないはずのあの洞窟で、我々の居るところまで追って来なかった理由はなんですか?」

「……スタミナが切れたとか?」

「あの程度でスタミナ切れするような存在が、どうやって標高のあるあの洞窟にたどり着けたんですか?」

「じゃあ、途中で追いかけるのを止めたとか。」

「どうして?」

「諦めたとか?」

「そんな途中で諦めるのに、どうして山は登れたんですか?」

「じゃあ、怪物が繁殖してあれは子供だとか。」

「最初に言いましたが、少なくともあの山に超大型は来ていません。」

「じゃあ、あの小型が親で子供を守ってるとか?」

「どうして、わざわざあの洞窟で繁殖する必要があるんでしょうか。

それ以前に、あの洞窟から繁殖したのなら超大型は2日足らずで生長した事になります。

山に登る前、超大型は居ませんでしたから。」

「……I don't know!」

「洞窟の入口のアレだってそうです。

少なくともアレは自然現象では無い。


一体ナニモノが、何の為に?」

「知るか!」

「あれは、僕達を閉じ込める物だったのか、それとも守るものだったのか。」

「分かるわけ無いだろ。」

「守るためだったら辻褄は合います。

追い掛けて来なかったのは、入口のーー仮に結界とでも呼びましょうかーーに近付けなかったから。

超大型も同様、結界に近付けなかった。」

「じゃあなんだ?守る為の結界から出た、だから危ないとでも言うのか?」


違う。

後ろから聞いていたが、恐らく半分は間違っている。

入口のアレ、タナカの言葉を借りて結界と言おうか、結界は、外から守り干渉を防ぐ為の物だろう。


ーーそして恐らく、我々を洞窟に閉じ込めるための物でもあるのだ。あの洞窟で我々を隔離し何かを行ったのだろう。


生きた人間以外が通れたのは、そうしなければ食料を確保できずに死ぬ可能性があるからだろう。生きた人間以外が通れればその辺の草でも食える。


ん?おかしい。

外部からの干渉を防ぐなら、どうしてエドモンドごわすは食べられた?

超大型が山に居なかったのなら結界の干渉を防ぐ能力は山全体に及ぶはず。

それを回避できるのは……


結界を張った本人くらいだろう。

エドモンドごわすは、そいつに喰われた。


つまり其奴は、 "敵"  だ。


いや実に、最悪の気分だ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「あと2,3時間で暗くなるし、今日はここいらで仮拠点を建てるか。」

「そうだな。彼処に川があるし良いんじゃ無いか?」


タナカはMichaelにそう答えると、地面を軽く掘り返し、鉄の棒を突き立てる。


「え?ちょ、何その棒。」

「戦車対策です。

流石にRPG持ってくのは忍びないので。


それに、武器にもなりますし。」

「杖術でもやってたの?」

「ええ。

けど、先生の言ってることが良く分からなくて三日でやめました。

動きはめっちゃ格好良かったんですけどね。」


そんな事を駄弁りながらもMichaelは作業を進める。

地面に突き立てた棒の先端を金槌で叩きある程度の深さまで棒を植えると、棒の根本に土を被せ金槌で叩いて固める。

元はビルの基礎部分であっただろうコンクリート片を拾ってくると、金槌で錘状に叩き割る。

鉄の棒にブルーシートを被せ、角を先程のコンクリート片で地面に突き刺し固定すれば、(超)簡易テントの出来上がりである。

仕上げに、鋏を使って入口を切れば完璧だ。


「めっちゃ器用やん。」

「それな」


Jamesの呟きにMichaelが同意を示す。


「怪物対策は俺がやるよ。」


そう言ってJamesは簡易テント周辺の土を掘り返すと、コンクリート片を適当な大きさに割って中に入れる。3割程度の高さまで破片を入れたら、ブルーシートを被せ軽く土をかけた。


「これで、怪物が乗ったら落ちてコンクリート片のガチャッって音が鳴るよ、多分。」


"多分"と言っているが、実のところ左手さえしっかりと扱えればさしたる問題は無いのだ、彼にとっては。


「ねえ、なんなの?

なんかこういうときってブルーシート持ってなきゃいけないの?」


タナカは戦々恐々と云った様子で恐る恐る尋ねるのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


午前六時

一番最初に起きたのはJamesだった。

ぺたり、と云うようなそんな異音。

そしてすぐに響いた、ガシャンと云う音で目が覚めた。


Jamesは叫んだ。

腹の底から力一杯に。


「てええぇぇぇぇぇぇえきぃしゅううううぅぅぅぅぅぅううううううう!!!!!!」


その声に、タナカが跳ね起き、辺りを見渡す。

タナカは怪物がコンクリート片の上を脱出しようと動くガシャガシャと云う音で漸く現状を理解すると、簡易テントを支える鉄の棒を手に取り音のする方向へ突きつけ、全体重を乗せた重い突きの一撃を放つ。


ざくり、と軽い音が鳴り、

ぴしゃり、と何かが落ちた。

薄紫の体液が流れ、その姿が露わとなった。


その歪な怪物は、背骨らしき物の一本を欠いた姿だった。

しかし、文字通り瞬く間にその部分が再生され、薄紫の体液だけが何かダメージを受けたことを思わせるのみとなる。


「再……生…した……?」


そこにのそのそ起きてきたMichaelが表れる。


「再生…ってまさか、怪物が?」

「あ、ああ。」


「うそ……だろ…」


「おい、取り敢えず逃げるぞ」


Jamesがそう言い、三人は再び移動を始めた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「それで、あんなに取り乱して何があったんだ?」


Jamesが尋ねる。


「「…………」」


それに対し二人は顔を見合わせると、タナカが言い放った。


「怪物が、再生したんだ。」

「再生?」

「ああ。俺が棒で背骨っぽい所を折ったんだ。

そしたら……

そしたら、本当に一瞬でまた背骨っぽいのが生えてきたんだよ。」

「背骨っぽいのが……生えてきた…………?

あれって4,50cmはあったよな。

その背骨っぽいのが、い、一瞬で…?」

「背骨っぽいのが、一瞬で。」


そんな雑談をしていると、タナカが何かを見つける。


「あれ?

もしかして……」


そう言って駆け足でそこへ向かうと


「おーい、ちょっとこっち来てくれ。」

「ん?なんだ?」

「この瓦礫を退かしてくれないか?

俺の力だけじゃちょっと厳しくてな。」

「良いけど、何でだ?」

「え?」

「いや、なんでこの瓦礫を退かすんだ?」

「……本気で言ってるのか?」

「?

……まあ良い、これを退かせば良いんだな?」

「ああ。」

「行くぞ!


『せーの!』」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

<タナカ視点>


Michaelに手伝ってもらい岩を退けると、下敷きになっていた女性に手を差し出す。


「大丈夫ですか?」


それに対し女性が応える。


「ええ、なんとか。」

「良かったです。」

「その、助けて頂いてありがとうございました!」

「いえいえ。」


そこへMichael達が声をかける。


「おーい、そろそろ行くぞー!」

「ああ、今行く!

……それではまた、会う事があれば。」

「あ、あの……

すみません、同行させていただいてもよろしいでしょうか……」

「……皆に聞いてみます。


おーい、James、Michael!

この女性も一緒に来て貰っても良いか?」


それに対し、Jamesが"女性"と云う単語にギュルンと振り向いた後、何故か怪訝な顔をしてこう言う。


「その女性ってどこにいるんだよ」

「此処に居るじゃないか。」

「はぁ?いn…」


何かを言い掛けたJamesをMichaelが止め、ボソボソと耳打ちすると、Jamesは寂しそうな、悲しそうな、そんな顔をして視線を逸らし。


「まぁ…いいよ…」


と言った。


その様子を不審に思いつつも、取り敢えず女性に声をかける。


「大丈夫みたいです。」

「良かった……

本当にありがとうございます。」

「いえいえ。

それで……取り敢えず、旅の目的を説明しますね。

我々は、地上に出現した巨大な怪物に対抗すべく、"先端技術研究要塞都市サイタマ"を目指しています。」

「なるほど。」


「もう行くぞ!」


Jamesが、痺れを切らしたようにそう言い、八つ当たりのように足下の石を蹴飛ばした。


「何そんなに切れてんだよ?」


そう尋ねたが、Jamesは小声で


「っざっけんな」


と言っただけだった。


「なんかすみません、私のせいで雰囲気悪くなっちゃって。」

「いえいえ、貴方のせいじゃありませんので。」


Jamesの舌打ちが聞こえ、タナカは慌てて歩き出した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

<James視点>


3人で荒廃した都市を歩く。

どうしても、気に食わない。

タナカがまるで誰かといちゃつく様な動作をする。

逃げたんだ、彼奴は。この辛い、到底認め難いくそったれた現実から目を背けた。見えないふりをしただけの逃避行。矢張り到底許せそうも無い。

負の感情を八つ当たる様に瓦礫を蹴り飛ばす。


自分の左腕を見る。

軽く握って開いて、その感触を確かめる。

目が覚めて、その感触が消えてやしないだろうか、そんな淡い気持ちを込めて。

逃げてしまいたい。

忘れてしまいたい。

目が覚めて、全て夢で、家族も、妹も、死んでなんて居なくて。

悪夢なんて無くて、全てあの幸せだった時間に戻りやしないだろうか。

あの日、あの瞬間からずっと。


目を背けようとする。逃げようとする。

でも、目を閉じると脳裏に鮮明に浮かび上がる。

甲高い制動装置の作動音。人が挽き潰される音。真紅に染まった視界。地面に染み着いた体液。いくら洗っても落ちない血の匂い。

残酷に、一切の容赦無く、はっきりと。


悪夢やら怪物やら、訳の分からないことばかりなのだ。今更人の一人や二人、生き返ったっておかしくないだろう。そんな思考にもう好い加減嫌気が差してくる。

いくら考えたって、帰っては来ない。

三年。三年、ずっとそんな事ばかり考えてきた。


理不尽だ。不条理だ。

それでも生きていくしか能の無い自分は、          。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


再び、夜がやってきた。

昨夜と違う状況で、タナカはドギマギして眠ることとなった。

そして特に何も起こらず朝が来た。


「おいタナカ、睡眠不足で倒れるような事にはなるなよ。」


Michaelがタナカにそう声をかけた。


「わぁってる。」


そうしてまた一行は歩き出した。


数時間ほど歩いたとき、先頭のMichaelが何かを見つける。


「これは……


おーい!

地下鉄の駅が生きてんぞ!」

「……!

ってことは駅構内の防衛システムが…」


Jamesの返答に、苦虫を噛み潰した様な顔でMichaelが返す。


「いや、それは無いみたいだな。


たぶん悪夢以前の物だろう。

ま、屋根の元で暮らせるだけマシってもんだ。」

「確かに屋根があんのはありがてぇな。

……まあ、女性が居るんだし部屋もあればもっとありがてぇが。」

「………………ろよ」

「は?」

「いい加減にしろよっつったんだ!」

「何の話だよ?意味分かんねえよ!」

タナカに対しJamesが叫ぶ。

「おい!」

Michaelが窘めるがJamesは止まらない。

()()()()()()()、其奴は。」

「は?」

「だから、その女性とやらは()()()()()()()()?」

「…こ、ここに居るじゃないか…」

タナカも違和感は感じていたのかも知れない。

若干震えた声でJamesへ言葉を返す。

()()()()()()()()()()()()

そんな奴は!」

「……な、何を、いって…………

お、おい、冗談……だよな?

だって確かにここに……かいわもした……

だって、だってそんなわけ……」

そう言って、タナカはMichaelに視線を向ける。

しかし、Michaelは静かに首を横に振った。

「つ、つかれてるんだよ……きっとそうだ。

そうでなきゃおかしいんだ。こんなじょうきょうだ、しかたないさ。ちょっと向こう行ってくるから、あたま冷やしてろよ。おちついたらまたはなそう。ほら、あいつら冷静じゃないからさ、むこうでまってようぜ。な?」

タナカは、何もない空中を掴むと駅構内へ駆けだしていった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

<タナカ視点>


「あいつら、いくら疲れてても酷いだろ。

ねぇ、そうですよね。目の前に居るのに無視しちゃって。」


いえ、仕方ないと思います と返答が返って来た。

ほら、やっぱり此処に居るじゃないか、とそう思った。


そうして、暫く二人で話した。


幸せな時間だったと思う。

だからあの時、壊さなければ。

偽りであっても、もっと良い生き方が出来た気がする。


あの時、あんな事しなければ……


あの時、自分は彼女に告白した。

そして、彼女は静かにうなずいた。

こんな状況で、と思うかも知れないが、こんな状況だからこそ、だった。


そうして、彼女にハグをした。


感触が、一切無かったんだ。

何も、何も、何も。

まるで夢幻か何かの様に、彼女はぼんやり霞んで消えていった。


そして、タナカの慟哭が駅に響いた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


下々の者に関わらず、時間は過ぎ夜は訪れる。


「おいタナカ、飯はどうすんだよ。


……チッ、無視か。」

「James、そっとしておいてやろうぜ。」


三人はそれぞれ、別な感情を胸に眠りについた。




朝を迎えると、タナカは妙に落ち着いていた。

それはいっそ不気味な程に穏やかであった。


「朝飯は?」

「食うよ。」

「先、進めるか?」

「ああ。…………さなければ。」


その言葉には、確かな殺意があった。

だが、MichaelもJamesも気付きはしても気にはしなかった。

そのツケを二人が払わされるのは、まだ先の事である。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ここを見つけられたおかげで、予定より早く付きそうだ。

此処から線路沿いに歩けば良いし、道が整ってる分速くいける。

多分今日中に着けると思う。」

「それは良かった。」

「よし、んじゃさっさと歩くぞ。」


一行は地下鉄構内からホームへと降り、線路上を進む。

実際には、文明が滅びようと高圧電流が生きてる可能性もあるかもしれない気がすると思うので真似しないで下さい。文明が健在な時にやると鉄道営業法第37条や刑法第125条、同第234条などに抵触するおそれがありますので、人命救助以外では絶対に線路内に立ち入らないで下さい。


暫く無言で歩いていたが、Michaelが沈黙を破った。

「暗いな。

ライト着けた方が良いんじゃないか?」

「そうだな。」

「……めっちゃ声響くな。おもしれぇ。


ヤッホォォォォオオオオ!!!!」

「うっせぇ!」

「おまえもやってみろよ。」

「……ヤッホーー!


…………確かに意外とおもしれぇ。」

「タナカもどうだ?」

「……そんな場合じゃ無いだろ。」

「は?」

「一刻も早く!怪物を!駆除するんだ!

彼女を奪った怪物を!!」

「何を……言っているんだ…?

彼女を……奪った………?」

「だってそうだろ?

人一人が目の前で忽然と消えたんだ。

短期間であの巨体を出現させる位の何かが無いとおかしいだろ!」

「だから、そんな人間なんて」

「存在しないって言うんだろ?

なんでそんな言い切れるんだよ。根拠でもあんのか?」

「ーーまあまあ落ち着け。

そう言う話はサイタマについてから、な。」

ヒートアップしそうになる二人にMichaelが割って入り落ち着かせる。

「そう……だな……」


トンネルに足音が反響する。


多少の気まずさはあったものの、さしたる問題もなく一行は旅の終着点たるサイタマへと近づいていった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「此処を上へ上がって、そっから十分ちょいで着くはずだ。」

「漸くか。」


やや駆け足気味に3人は歩く。



「此処が、サイタマ……!」

「ARSの起動手順は覚えてるか?」

「ああ。

……確かこんな風に、右レバーを上に。左上の釦を押して、右上の釦を引く。

……………3秒待って、左レバーを上に切り替え。左上、右下の釦を順に押した後、再度左レバーを下へ。

一通りの認証機器が出て来るから、あとは指紋認証受けて終わり。」


丁度話が終わったタイミングで音声案内が聞こえた。


「測定が終了しました。

所属:人類連邦政府軍事部

職業:医官助手


識別番号の音声認識が可能です。」

「AKU096O81IL」


Michaelが応える。


「了解しました。

ようこそサイタマへ。」


それに続き二人も同じ様に認証をする。


「それでは状況説明を。」

「外に巨大な怪物が現れた。

此処に来るまで、無事な自治区の確認は出来なかった。」

「……外部状況の確認を開始します。

ピピーピーピピーピピーピピーピピピピピピピピピーピーピーピーピーピピーピピピーピーピーピピピーピピピーピーピーピーピピピピーピピピピーピピーピーピーピピピーピーピーピピピピーピーピピーピピーピーピピピーピーピーピピピピーピピピーピピーピーピピピーピーピーピピピピーピーピピーピピピーピピピーピーピピピピーピーピピーピピピーピピピーピーピピピピーピピーピーピピピピピピピピピピピーピーピーピーピピーピピーピピーピーピーピーピピピピピーピピピーピピピーピピーピピピピピーピピピピピーピピーピーピーピーピピピピピピピピピーピーピーピーピーピピピーピーピーピーピーピーピピピーピーピーピピピピピピピーピーピーピピピピーピピピピピピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピーピピピピーピーピーピピピピーピーピーピーピーピーピーピピピピピピーピーピーピーピピピピーピーピーピピピピピーピーピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピーピピピピピピピピーピーピーピーピーピーピピピーピーピーピーピーピピピピピーピーピーピーピピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピピピピーピーピーピピピピーピピピピピピピピピーピーピーピーピーピピピピーピーピーピーピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピピピピーピーピピピピピピーピーピーピーピピピピピピピピピピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピピピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピーピピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピーピピピピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピピピピーピーピーピーピーピーピピピーピーピーピピーピーピーピーピーピーピピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピーピーピピピーピーピピーピーピピピピーピーピピーピーピピーピピーピピーピピピピピピピピピピーピピーピピーピーピーピーピーピーピピピピーピピーピーピーピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピーピーピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピピーピーピーピーピーピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピピピピーピピピーピーピーピーピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピピピピピピピーピーピーピーピーピーピピピーピーピーピーピピピピピピーピーピーピーピーピーピーピーピーピピーピピーピピピーピピーピーピーピーピーピピピーピピーピピピピーピーピピピーピピーピーピピピーピーピピ………………………

完了しました。


外部に巨大な活動体を確認。

呼称を決定してください。」

「「「怪物、で。」」」

「了解しました。

以降、対象を怪物と呼称します。


それでは……」


ジャキン、と音がして、無数の銃口が現れる。

それらは全て、Jamesに向けられていた。


「巨大活動体、怪物の組成は水が92%、未知の物質39種類の混合物が7.2%、水を除く人体と同等の組成物が0.8%でした。


あなたの組成は、水が78%、水を除く通常の人体の組成物が16%、未知の物質39種類の混合物が6%でした。

未知の物質39種類の混合物は、怪物の組成と同等の物です。


あなたは、怪物ですか?」


「Jamesが怪物って、そんなわけ……」

Michaelが否定しようとする。しかしARSはこう答える。

「試してみますか?」

そして、無数の銃口のうち一つから発射された弾丸が、Jamesの胸、心臓を打ち抜いた。

しかし、Jamesは倒れない。

胸から薄紫色の液体を流すが、すぐにそれも止まった。


だが、体と違って顔面は蒼白であった。


「あなたは、怪物ですね?」


to be continued

補足・蛇足

・"旧日本国の首都サイタマ"と云う部分は、単純に悪夢の最中に東京が滅んだ(維持不可能となった)ため、遷都が繰り返された結果そうなったと云う設定。七回の遷都の結果なので、第七新東京にしようかとも思ったけど、流石にマズいかな、と先端技術研究要塞都市サイタマになった。

・周囲の2,3ヶ月先と云うのは、研究所勤めの人間が多いのでその家族が発売前の商品をおためしとして早めに使えるため。多くは半年ほど前からなのだが、研究者関係でない人が都市人口の丁度半分ほどであるためこういう言い回しが使われる事が多い。

・戦車に狙われた時は、主砲の届かない車体下のキャタピラーの間部分に潜り、キャタピラー部分に鉄の棒などを挟んで破壊するのが一番楽らしいです。チコちゃんでやってました。

・しつこいくらいに書いてますが、こいつらの行動は主人公補正と運で成り立ってますので、絶対に真似しないで下さい。

・Jamesが"女性"と云う単語に反応したのは妹が死んでるから。

・ドギマギとまどマギってなんか似てるよな。

・Jamesがタナカに対し過剰にキレてるのは、"現状のストレス"と"自分は耐えてるのに彼奴は逃げた"と云う心理が理由。

・第三章 ワクワク☆学園潜入編 第四章 殲滅編 の予定

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