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既に10人死んでいる 第一章 洞窟編

本文始まってますが、大事な事なので最初に書いておきます。

この小説、十数人の登場人物が居ますが、タイトル通りになりますので3人(James、Michael、タナカ)だけ覚えて頂ければ大丈夫です。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


一体、どうしてこんな事になったんだ。

突如として居なくなった四人を想起しながら考える。

いや、居なくなったんじゃ無い。

十中八九、喰われたのだ。アイツに。考えたくも無い。

が、すぐに頭を振って無駄な思考を捨て、兎に角走る。

息はとっくに切れて、肺が燃えるように熱い。

足はだんだん感覚が無くなってきてるし、酸欠で頭が痛い。

それでも走る。姿も見えない何かから逃げるために。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


怪奇現象サークル、というものがある。

大雑把に言うと会員限定掲示板の様な物だ。

毎週月曜に議題を決め、一週間それについて議論する。

年会費とか入会費とかは特にないし、会員の義務もない。

気楽な感じのところだ。


メンバーは17人。


"BOSS"<ネコ>

自称"魚"<スズキ>

自称"アメリカ人"<James>

自称"軍人"<Michael>

自称"豆電球"<夜神月>

自称"佐藤"<タナカ>

自称"神格"<AC>

自称"探検家"<ゴレーヌ>

自称"ゴレーヌの妹"<シレーヌ>

自称"日本人"<エドモンドごわす>

自称"医者"<フエラムネ>

自称"ヒーロー"<AKIRA>

自称"雨男"<サンダー>

自称"人間"<human>

自称"中二病"<僕の瞳はアレキサンドライト>

自称"名無し"<名無し>

自称"ホームレス"<fff>


<○○>がそれぞれのハンドルネームで、自称"○○"ってのは新規入会者の自己紹介から付けられる、まあ渾名みたいな物だ。


今週の議題は、「霊的実体」。


<James>霊的実体 is what?

<Michael>そうだな。そこから決めねーと。

可視光線観測が不可能な物理的若しくは非物理的実体、って事で良いか?

<ネコ>良いんじゃにゃいかな。

<エドモンドごわす>ボス、入ってたんでごわすか。

<AC>ネコさんお久しぶりっす。

<僕の瞳はアレキサンドライト>BOSSが入ってるって珍しいっすね。

<fff>ボスも珍しいがアレニキ(※僕の瞳はアレキサンドライト。長いのでアレニキやアレネキと呼ばれる)も珍しいっすよね

<夜神月>ボスが来てるって聞いたんすけど

<ネコ>にゃあの事より"霊的実体"の今ははにゃしにゃ。

<ゴレーヌ>そういや同僚から"幽霊が出る山"ってのを聞きましたね

<AKIRA>これは怪奇現象サークル初の遠征って流れっすか!

<ネコ>オフ会も遠征も良いけれど、詮索はにゃし、参加は自由。

これは絶対厳守にゃ!

<スズキ>僕は鱚だとバレるのは嫌なのでいけません

<フエラムネ>それより"いつどこに"が分からないとどうしようも

<AC>そっすね。

<ゴレーヌ>同僚から聞いた話だと、■■県■市の■■■山に死後の事を司る神様が祀られてるので、霊魂とかも集まるって事らしいです。

<名無し>あー、遠いんでちょっと無理っぽいっす。

<AKIRA>僕もちょっと無理そうです

<ネコ>参加できそうにゃ人だけ書き込むにゃ

<James>できそうっす

<Michael>上に同じく

<夜神月>同じく

<タナカ>参加できると思います

<AC>自分も参加できるかと

<ゴレーヌ>同じくっす

<シレーヌ>お兄様が行くなら私も

<エドモンドごわす>ごわすも行けそうでごわす

<フエラムネ>行けそっすね

<サンダー>行けます!

<human>参加します

<僕の瞳はアレキサンドライト>行きますね

<fff>近くの駅に住んでるので行けそうです

<ネコ>にゃあは行けにゃいにゃ。

だから参加者は

<James><Michael><夜神月>

<タナカ><AC><ゴレーヌ>

<シレーヌ><エドモンドごわす><フエラムネ>

<サンダー><human><僕の瞳はアレキサンドライト>

<fff>

これであってるにゃ?

<タナカ>あってますね。

<ネコ>他に参加したい人はいにゃいかにゃ?

<ネコ>いにゃさそうにゃ。

それじゃあ参加するみんにゃで日付とか細かいこと決めるにゃ


とまあ、こんな感じで怪奇現象サークルの遠征が決まったのだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


遠征当日。


タナカはいつも通りな、高層ビルが立ち並ぶ無機質な東京の景色を眺める。

「ああ、やっぱりなんか怪獣に壊されそうな街だ」なんて不謹慎な事を考えながら朝の支度を済ませ、今日の予定を再度確かめる。

電車賃と御八つの実芭蕉を持った事を確かめ、最後に愛用のカメラの点検をして家を出る。


待ち合わせの■■駅で、赤いバンダナを持った人を探す。

今回のリーダー的な立ち位置のゴレーヌが目印として赤いバンダナを付けているのだ。


すぐに見つかったので話しかける。


「えーっと…ゴレーヌさん、ですか?」

「うん。

それで、君は……」

「あ、佐藤です。」

「タナカ君だったか。

こっちにもうみんな集まってるよ。」

「僕遅れてました?

すみません。」


そこで自分含め遠征メンバー13人が一同に会す。


軽く自己紹介をして、早速登山を始める。


「案外きちぃっすね。」

「そりゃぁ山だからね。」


そんなこんなで幽霊の目撃情報が最も多い山の中腹まで登り、一旦休憩をしていた時。

ガタッと。大きく縦に揺れ。

ゴゴゴゴゴと。小刻みに揺れる。


自称アメリカ人のJamesが

「はぁ。また地震か。」

と呟いた後、慌てて取り繕う様に

「ナンデスカ今の揺れハ!

コレがJAPANESE"JISHIN"!?」

と言っていたのは印象的だった。


揺れは比較的短く、なんとなく懐かしい地震から身を守るポーズを取った遠征メンバー達が立ち上がり大きい地震だったなどと談笑し始める。


しかし直後、先程よりも更に大きい縦揺れが起こる。

立っていた者は全員が倒れ、座っていた面々もただでは済まなかった。

幸いこの揺れもすぐにおさまった。


だが当然、まだ余震が続く可能性は高い。


「どこかに避難しよう。」


誰からともなくそう言い出した。

しかしながら、此処はそこそこ標高がある山の中腹。

避難所などあろうわけが無い。


そこで一行は、偶然近くにあった洞窟へと避難する事になる。


さて、非常に大事な事なので言っておきます。

まず、絶対にこいつら(怪奇現象サークル)の様な行動を取ってはいけません。

物語の都合上こいつらはこういう行動をとって居ますが、土砂崩れとかで生き埋めになる可能性のが高いです。

山で地震が起きた際は、

①根を張った頑丈な木につかまって、低い姿勢を取りながら収まるまで待つ。

②急斜面や崖など危険と思われる場所から素早く離れる。

③土石流は谷筋に沿って流れていくため、谷筋に対して直角の方向に避難する。

これを守って下山するべきだそうです。

(https://www.jihoken.co.jp/kasai/jishinmadoguchi/cat2/1543/より引用)

とにかく、こいつらの行動は絶対に真似しないで下さい。


「ふー。

取り敢えず安心……か?」

「一応焚き火を三角に並べときましたから、気付いて貰えれば救助して貰えるはずです。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ゴレーヌさん、この洞窟、奥に続く道がありますよ!」


この洞窟に避難して1時間ほど。

水を濾過できる奴を作ったり、武器を作ったりして、2,3日は暮らせるくらいにはなった。

それからこの洞窟に何があるか調べはじめ、先程の台詞に戻る。


「調べるしか無い……よな。」


そこで役割分担がなされた。

まず、洞窟の手前側で待機する人員。

これは、水を濾過できる装置や武器を作った守るべき"知識があって手先が器用"なタナカ、救助が来たとき分かる"耳の良い"James、見張りのために"目が良い"エドモンドごわす、計3人が待機組となる。

探索人員は、屈強な体格でなんか強そうな自称"軍人"Michael、統率力のある自称"探検家"ゴレーヌをそれぞれリーダーとして2班が結成され、ゴレーヌ班が先行、印を付け、Michael班が地図を作る。

道が分岐している場合はゴレーヌ班は立ち止まり、Michael班と一時合流、相談の後分担して調査する事となっている。

班同士での連絡は班のリーダー同士であるMichaelとゴレーヌが、ACがノリで持ってきたトランシーバーを用いて行う手筈となる。

また、Michaelとゴレーヌには武器としてライターと殺虫剤を持っている。

※殺虫剤を噴射して火を近付けると非常に良く燃え上がり、簡易的な火炎放射器となる。危ないので絶対に真似しないで下さい。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


<ゴレーヌ視点>


「取り敢えず全員居るな?

点呼!」

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「うし、全員居るな、行くぞ野郎共!」


洞窟は暗く視認での安否確認が出来ないため、点呼での安否確認をしている。

まあ、半分以上はノリなんだけども。

一応、本職は作家だが、大抵取材のため危険な場所に赴く。

そういうのが好きでやってるとこもあるが、死の危険だってある。

特に、暗く足下が不安定な洞窟は危険でしか無い。

後ろの面々が、気付いたら消えている、なんてことがあるのだ。


「点呼!」

「1!」

「2!」


「おい、fff?

どっか落ちたのか?」


「居ますよ。」


「fff、こういう場所で、気付いたら後ろの奴が居ないなんて事があるんだ。

点呼で生きてるか居るか確認するのに、ふざけられたらそれが出来ないんだよ。」


静かに淡々と諭す。

するとfffも分かってくれたようで


「分かりましたよ、隊長。」


と言ってくれた。


「よし、それじゃ点呼!」

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「はぁぃ」


低くどもったダミ声で、誰かがはーいと応える。

誰かがふざけたのだろうと思い、怒りを抑えつつ聞く。


「おい、今はーいって言ったの誰だ?

ふざけて良い場所じゃないんだぞ」


しかし、誰も返事をしない。


「おい、聞いてるのか?

しかもわざわざあんな低い声でふざけて。」


誰も、返事をしない。


「おい、居るだろ?」


だれも、 へんじを しない


「おい!」


だれも  へんじを  しない


聞こえるのは、洞窟に風が流れて鳴る共鳴音のみ。

あまりの静けさに不安になり、確認しようとあわてて配られたライターを着火する。

恐怖で、"洞窟内で火を使う危険"を忘れて。


死の数瞬前に見えたのは、誰も居ない洞窟の風景だった。


洞窟内に溜まった可燃性ガスに着火したライターの火は、瞬く間に洞窟内を走り、ゴレーヌもまた洞窟の壁と同様黒い炭となった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


<Michael視点>


ゴレーヌ班が進んでから暫く経ったのを確認し、洞窟の中へ歩を進める。


「よし、俺らも行くぞ!」


暫く進み、一応点呼をする。


「点呼!」

「1!」

「2!」

「3!」


「あれ?サンダー、どうかしたのか?」


洞窟内を確認しようとライターを取り出すが、いや、酸欠とか可燃性ガスとかあぶねえな、と思い、キーホルダーの小型ライトを使う。


目に入ったのは、鮮血が飛び散る中、足を透明な何かに喰われているサンダー。

透明な何かには、返り血だろう赤い液体がべっとりとつき、本来無色透明で見えないのだろうその歪でグロテスクな姿が分かる。

人間の頭蓋に当たる部分は大きく肥大し、それを支える胴体はアーチ状の円筒形となっている。

背中だろう部分からは背骨と思しき物が大きく突き出しており、恐らく巨大な頭蓋とのバランスを取っているのだろう。

人間で云う下半身はずんぐりとした形状になっており、そこから生えた触手の様な物が蠢きサンダーを捕らえている。

それはサンダーを徐々に食べ進めて行き、やがて頭を口に含んだ後ぺっと吐き出す。

サンダーを完食したその化け物は、ゆっくりとMichaelの方を向く。


「うわあああああああああああああああああああああああ」


グロいだとか、サンダーが死んだだとか、他の3人も喰われたのかとか、そんな事は頭をよぎりすらしなかった。

頭の中を恐怖が支配し、気付いた時には逃げ出していた。


幸運だったのは、逃げ出した方向が偶然入り口側だった事だろう。


長い長い洞窟を走る。

そこでふと、不穏な音に気付く。

ぺたぺたぺたと、ついてくるような。

でも後ろには何も居ない。


……違う!


見えないんだ。


そもそもどうして、あの化け物が一体だけだと思っていた?

他の個体が、返り血を浴びていない個体が居たら。

当然その個体は透明だし、目には見えない。


そう考えている間も、ぺたぺたぺたと云う足音は止まらない。

ぺたぺたぺた、ぺたぺたぺたと。


逃げる。何も考えず足を動かす。

走る。ただただ。


一体、どうしてこんな事になったんだ。

突如として居なくなった四人を想起しながら考える。

いや、居なくなったんじゃ無い。

十中八九、喰われたのだ。アイツに。考えたくも無い。

が、すぐに頭を振って無駄な思考を捨て、兎に角走る。

息はとっくに切れて、肺が燃えるように熱い。

足はだんだん感覚が無くなってきてるし、酸欠で頭が痛い。

それでも走る。姿も見えない何かから逃げるために。


やがて、ぺたぺたという音が聞こえなくなった。

それからすぐに、待機組の所へ着いた。


安全な所に来た、そんな安堵感から着いてすぐに倒れ込む様に気絶した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


<タナカ視点>


待機組は正直暇だ。

いや、待機組は待機組で作業をしているんだが、単調で決まった作業しかない。

考え事をしながらでも出来るくらい。

んで、その作業がたった今終わった。

暇だ。


そんな時だった。

見張りのエドモンドごわすがこう言った。


「なんか居るでごわす。

ごわすは見てくるでごわす。」


「おう!

なんか面白いのあったら教えてくれ!」


それから1時間ほどが経った。

エドモンドごわすは帰ってこない。

不安になり、洞窟から出て追いかけようとした。


が、しかし。


通れない。

まるで洞窟の入り口に透明な壁があるように、通れないのだ。


それでもなんとか通ろうとしていた時。

何かが落ちる音がして、足に何か生暖かい液体がかかる。


いやな予感がしつつも、足下を見ると。


エドモンドごわすの生首が転がっており、その切断面から血液が流れ出ていた。

その生首がさっきまで生きていた人間である事を証明するように、生首はときおりピクリと動く。


さっきまで喋っていたエドモンドごわすが生首になったこと、洞窟から出れない事、死体の生々しさ、血のどろっとした感触、さっき引き留めるべきだったという思考。

恐怖、不快感、後悔。

様々な感情が混ざり合い、目の前のこれを否定しようとする。

しかし、いくら否定しようとしても、あの生暖かい液体が、ピクリと動く目の前のコレが、どうしようも無いまでに非現実的な現実を自分に押し付けて来る。

同時に、何かが頭の中で囁く。嘯く。囀る。

「おまえのせいだ。」

引き留めるべきだった、そんな後悔と相俟って、自分の心臓を締め付ける。


違う、俺のせいじゃない。こんなことしてない。

「おまえのせいだ。」

ちがう。

「おまえのせいだ。」

ちがう。ちがう。

「おまえのせいだ。」

ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう。


「あああああああああ!」


半ば発狂しかけているタナカは、その叫び声を最後に気絶した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


<James視点>


メンドい作業をこなしながら、少しタナカの様子を見る。

なんかもう作業終わったらしく、暇だとかほざいてやがる。

おい。

作業を押し付けたくなるが、アメリカ人はそんな事はしない。


心の中で毒づきながら作業を進めて居ると、エドモンドごわすが何か見つけた。

特に音はしていなかったんだがな。

それからエドモンドごわすは様子を見に外に出た。


それから一時間、エドモンドごわすは帰ってこなかった。


考えても仕方ないと思い、無心で作業を続ける。

そんな時だった。

ぽすん、と間の抜けた音が響いた。

タナカがその音が鳴った原因の何かを見て、悲鳴をあげた。

それからタナカが倒れた。

俺はエドモンドごわすみたいに目が良い訳では無い。

がしかし、見えてしまった。

タナカの足下に出来た赤い水溜まりが。


「エドモンドごわす……?」


いや、まさかな。

え?でも…

いやいやいや……

うーん…


一目見るだけ。

ちょっとした好奇心でしか無かった。


見てすぐに後悔する。

エドモンドごわすの頭が転がっていた。

そのギョロッとした眼球が、生気を失った眼球と、目があった。


「ヒッ」


彼が短く悲鳴を漏らしてしまったのも詮無い事だろう。

なんせ彼は平和ボケした日本人である。

自分の事をアメリカ人と言っているが、今となっては珍しい日本産まれ日本育ち日本国籍両親祖父母曾祖父母まで日本人のTHE・日本人である。

Michaelは祖父がアメリカ人のクォーターなので、寧ろMichaelの方がアメリカ人してるのだ。


しかし、彼に休まる隙は与えられない。

明らかに異常な様相のMichaelが帰ってきたのだ。

Michaelは此方を見るなりドサッと倒れ込んでしまう。


「なんなんこれ?」


最早リアクションにすら疲れてきたJamesは、この光景が夢だと信じて眠ることにした。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


3人の中で一番最初に目を覚ましたのはタナカだった。

そりゃあ一番最初に倒れたのがタナカだし、当然といえば当然だろう。


「うーん……なんか嫌な夢見たなー。

エドモンドごわすが死んでて……」


そこまで記憶を辿ったあたりで、足にまとわりつくべっとりとした何かの正体が分かる。


「気のせい……だよな?

そう…だよな?」


恐る恐る自分の足下を確認する。

黒い何かが足にこびりついており、さらにその先にはかつて首があった場所に蠅が集った生首がある。


昨晩は死亡直後であったため蠅も集って居らず、すぐに気絶してしまったためじっくりとは見ていなかった。

胃がないため少しずつではあるが着実に腐敗が進む死体は、その目、鼻、口、耳、穴という穴に蠅が集っており、昨晩よりも酷い様相を呈す。


「オエェ……ヴォェエ……オエッ」


腐敗した死体の異臭と、タナカのキラキラの酸っぱい臭いが実に不快なハーモニーを奏でる。


タナカの次に目が覚めたのはJamesだった。

耳が良い分眠りが浅くなってしまうのだろう。


そんなJamesを朝に出迎えてくれるのがこの景色だ。

蠅の集った死体が異臭を発し、☆キラ☆キラ☆してるタナカの方から酸っぱい臭いも漂ってくる。


さて、此処で一つ残酷な事実をお伝えしよう。

キラッ☆キラッ☆はうつるのだ。

皆さんは経験あるだろうか。バスで酔った人が吐くところ見てたら自分も吐きそうになったこと。

因みに作者はうつす側の人間でした。


「ヴォエエエエエェェェェ」


そして最後に目覚めたのはMichaelだった。

二人が.。:*キ+゜゜ラ+*:.。キ.*:+ラ☆した結果、最早死体の異臭よりもキラキラの酸っぱい臭いが濃厚に漂う中での起床であった。


Michaelにキラキラ耐性があった事が唯一の救いだろう。合掌。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


さて、目が覚めた三人の手にはモップがある。



ーーー掃除が、始まった。



そもそもモップどっから持ってきたんだよ(洞窟に居る)って云うのを語っておこう。

まず、棒を2本拾ってきてペットボトルのキャップを当ててライターで軽く炙って⊥字の形状にくっつけた。(※危険なので真似しないで下さい。こいつらは主人公補正で死なないだけです。)

そしたら、⊥の_の部分に着ていた服を巻きつけてモップの完成である。


「なんで俺まで……」


因みにMichaelは巻き込まれた被害者だ。


「掃除も終わったし。」

「なんで俺までやらなきゃいけなかったんだ……」

「情報交換をしよう。まずはMichael、一体何があった?」


「何が?そうだ、何があった?

奥を調べて……

サンダーが…喰われた…?

ぅあ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛……

真っかな……化け物……見えない…う゛ぁ゛…喰わ……れた…みて…た……

逃げた!……にげた……ぺたぺた…ぺたぺた!

お゛…おい゛がげてきだ…ぺたぺた……ぺたぺた……ぺたぺた

たべた。たべられる。にげた。


さんだーがはきだされた。

みてた

たべられた

ぼーっと。

ぺたぺた

ぺたぺた

にげてきた

こわい

くわれた

あいつ

みえない

あかい

とうめい

ぺたぺた

ぺたぺた

でっかい

ぺたぺた

ばけもの

ぺたぺた

あかい

みえない

にげてきた

にげた

みてた

おれ

ぺたぺた

なんもしない

くわれた

おいかけてきた


ぺたぺた!

ぺたぺた、こわい。

ぺたぺた、あかい。

ぺたぺた、みえない。

ぺたぺた、くった。

ぺたぺた、はきだした。

ぺたぺた、こっちむいた。

ぺたぺた、ころされる。

ぺたぺた、にげてきた。」


「ぺたぺたってなんだよ。なんだよ!」


恐怖からか語気を強めて問うタナカ。


「は?ぺたぺた?なんだよそれ?

っつーかォまヱだレだ?」

「何言ってんだよ、お前が話したんだろ、ぺたぺたって!」

「だからなんだよさっきから。だれなんだよ」

「ふざけてんじゃねェよMichael!」

「は?誰だよそれ。俺は……

おれは……

おれは?

おれは。


だれだ?」

「おい!」


Jamesがタナカと話すMichaelに異常な様子を感じ取り、一旦Michaelからタナカを引き離す。


「だれだ?おいだれなんだよ!

おまえ!おれは…

おいだれだよ!だれなんだよ!

だれなんだよ…


おい!おまえ、しってんだろ?

だれなんだよ、おれ?

まいけるってだれだよ?


おれがだれでだれはだれをだれにだれのだれとだれだれだれだれだれだれだれだれだれ……」


譫言の様に「だれ」と唱え続けるMichael。

どうして酸欠にならないんだろう?


「……だれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだれだ……ハァだれハァだれだれハァだれだれだれハァだれだれだれだれだれハァだれだれ」


あ、なったっぽい。


「おい、取り敢えず水飲め。」


JamesがMichaelに水を差し出す。


「落ち着いたか?」

「…ああ、取り敢えず。

それで、俺は誰なんだよ」


Michaelが縋るようにJamesに尋ねる。


「取り敢えず順を追って説明していくぞ。


まず、俺らが知り合ったのは"怪奇現象サークル"でだ。

覚えてるか?」

「いや……すまない。」

「良いんだ。

説明を続けるぞ。

この怪奇現象サークル、ってのは会員制掲示板みたいなもんだ。

入会費とか年会費とかは特に無いから安心してくれ。

さっき言ってたJamesってのはこの怪奇現象サークルでのお前の名前だ。


それで、この前怪奇現象サークルで幽霊が出る山ってのが話題に上がったんだ。

んじゃ行ってみよう、ってことで遠征になった。


13人が集まった。」

「え?

だって此処には3人しか……」

「一旦落ち着け。

登山している最中、地震が起きてな。

一旦洞窟に避難したんだ。それが此処だな。


それから濾過器を作ったり、武器を作ったりして取り敢えず2,3日は暮らせる様にした。


そうすると、怪奇現象サークルなんてのに入るような好奇心旺盛な奴らだ。

洞窟の奥を探検しようってなった。

見張り3人を残して10人が奥に行った。」

「それが俺らって事か。」

「いや違う。James、君は奥に探検に行って帰ってきた唯一の人間だ。」

「はぁ?

んな訳ないだろ。

ってかこっちに居たのは3人なんだろ。

1人どうなったんだよ。」

「ちょっと待ってろ。」


そう言ってJamesがビニール袋を用意する。


「吐くなら此処に吐け。良いな?

これ以上掃除はしたくない。」


「は?」


「あそこにある。」


そう言って、Jamesがかつてエドモンドごわすだった物を指差す。


「ゥヴォェェエエエ」


「こっちに残ったうちの一人だ。」


「生首……ォェッ…なにかォェッ思い出せォェッそうなんだけォェッど…


ォェッそうだ、サンダーが、喰われて……吐き出された、見てた、逃げた。

足音が、おいかけてきた、ぺたぺた。



みんな、喰われた……


そうだ、思い出した。

喰われたんだ、みんな。

おれ、にげてきた。

なんもせずに見てた。」


「落ち着け、ほら、水だ。飲め。」


JamesがMichaelに水を差し出す。


「あ、ああ。

洞窟の奥へ進んで、サンダーが返事しなくて、見たら誰も居なくて、透明な何かにサンダーが喰われてて。」


少しずつ息が荒くなる。


「大丈夫か?

ちょっとずつで良いんだ、ほら水飲め。」

「あ、ありがとう。

返り血でそいつの姿が分かって、化け物…だった。

そいつがサンダーを喰い終わって、頭を、吐き出した。

こっち向いて……」


Michaelの息がどんどん荒くなる。


「一旦、水飲め。」

「ああ。

逃げたんだ。

おいかけてきたんだ。

見えないから足音だけ、ぺたぺた、ぺたぺた。」

「そいつは返り血を浴びてなかったのか?」


タナカが尋ねる。


「あ、ああ。

たぶん、別個体……だと…思う。」

「きつかったろ、すまんな。

水でも飲むか?」


Jamesが労いつつ水を勧める。


「それじゃあこっちの話だが……

タナカの方が詳しいな。」

「こっちの話か……


ああ。

探索班が行った後、待機組の俺とJamesは作業を、エドモンドごわすが見張りをしていたんだ。

そしたら、エドモンドごわすが『なんか居るでごわす』『ごわすは見てくるでごわす』って言ってな。」


タナカは微妙に似てないモノマネをしつつ語る。


「一時間、帰ってこなかった。」


シリアスなはずなのに、さっきの微妙に似てないモノマネのせいでなんとも言い難い雰囲気が漂う。


「その後、帰ってきた時には……まあ、知っての通り。

アレだ。」


エドモンドごわすの生首の方を向き、言い放つ。


「それから……」

「まだあるのか……」

「この洞窟から出られない。」

「ゑ?」「は?」

「行くよ?見ててね?」


そう言ってタナカが洞窟の入口から出る様にタックルする。

しかし入口部分で透明な何かに阻まれ、外に出ることは出来なかった。


「この物語はフィクションです。

実在の人物、団体、地域、日本大学とは一切関係ありません。」

「よし、水飲んで落ち着こう。」


Michael&Jamesは両方血迷った反応を返した。


「なあ、これって物とかも全部通さないのか?」

「……確かに。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


それから、小一時間検証をした結果、以下の事が分かった。

・非生物は通れる

・死体も通れる

・死体に湧いた蛆は通れた→生きた人間だけが通れない?

・何か物があると言うより、磁石が反発するように弾かれる

・物理的な運動エネルギーでの破壊は非常に困難(要するに殴っても壊れない)


「俺達は此処から出られずに……死ぬのか?」

「気をしっかり持て、Michael。

ほら水だ。」

「こ、殺す気だな!?

出られないからって、俺を殺して喰う気だな!?

その水怪しいぞ!」

「んなこたぁ無いって、落ち着けよ。

飲まないなら俺が飲むけど良いか?」

「勝手に飲めよ!

俺は絶対に飲まないからな!」


ごくごくごく、とJamesが豪快に水を飲む。


「ぷはぁーーーッ!!

ううっ・・・

キンキンに冷えてやがるっ・・・!」

「え?毒……」

「だから落ち着けっつったろうに。

いくら出られないからって貴重な労働力を潰すか普通?

っつーか毒なんてそんなすぐに用意できるか?」

「ニコチンは水に溶けやすいから、5,6本タバコを水に溶かせば致死量のニコチン水溶液が作れるよ。まあ色が茶色くなるからすぐ分かるけどね。

麦茶飲む?」


タナカが毒の作り方を言う。

絶対に真似しないで下さい。


「いや、遠慮しとくよ。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「実の所、此処から出る方法は検討が付いてるんだ。」

「は?」

「……なるほどね。」


Jamesだけが分かっていない。

こういうときありますよね。すごく気まずいですよね。


「だが、必要な物が無い。」

「ねぇ、どういうことなの?

ねぇ。」

「仮死薬ならある。」

「ダニィ!?」

「一応連邦政府の所属軍人だからな。

だが、今は持ってない。」

「ダニィ?!」

「落とした。」

「オトシタダッテ!?」

「どこに落としたんだよ?」

「…………洞窟の奥、怪物から逃げる途中に。」




「「はあ!?」」

「おいおいどうすんだよそれがないと出れないんだろ?」「ちょ落とすとか無いだろ落とすとか!」

「じゃあ訊くが、目の前で人を喰った怪物から逃げるとき、物を落とすことに頓着するか?」

「軍人じゃねえのかよ!」

「軍人は軍人だが救助部隊所属の所謂軍医助手って奴だからな。

消毒とか、包帯の取り替えとかそういうのしかやってねえかんな。」

「じゃあ、此処から出るにはその怪物が居る洞窟の奥まで行って、そのカシャクとか云う奴を回収しなきゃなんねえと。そう云う事か?」


しばしの沈黙が流れ、一行を重苦しい空気が包む。

沈黙を破ったのはJamesだった。


「で?

そのカシャクってのはどんな形してんだ?」

「え?」

「……勇気出して"探して来てやる"って言ってんだよ!」

「……良い…のか?

死ぬかも知れないんだぞ?」

「ああぁー!

言うなよそういう事!

心変わりする前にさっさと言えよ!」


Jamesは、何も怖がっていない訳では無い。

背中に隠した手は震え、顔には脂汗が浮かんでいる。

それでも、一生洞窟から出られずに死ぬよりはマシだと、そう自分に言い聞かせてなけなしの勇気を振り絞っているのだ。


ーー人は誰しも英雄に憧れる。

Jamesは、大衆にとってさしたる存在では無いが、少なくともこの三人の中では一番の英雄だった。


「……小瓶に入っている。

この位の、赤色の小瓶と青色の小瓶だ。」

「…分かった。行ってくる。」

「James!」

「なんだ?」

「すまない、勇気の無い小心者な俺を……赦してくれ。」

「行ってくる。」

「「すまない。」」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


<James視点>


「クソッ!」


あの場から逃げたかった。

誰かにやってもらおうとするあの空気が苦手だ。

人が嫌いだ。

利己的で、保守的で、狡賢い。

そんな人間が嫌いだ。


英雄が嫌いだ。

人を殺して、褒め称えられるヒーローが嫌いだ。


めぐるめく思考を誤魔化す様に、手に持った水を飲む。


何よりも、こんな思考をする自分が嫌いだ。

死んでしまえば良い。

だけど、死ぬのが怖い。恐ろしい。

あの目が、死んだエドモンドごわすの目が、虚ろで空虚な目が、もう動かずに蠅が集ったあの首が。

死が何なのかを嫌と言うほど突きつけて来る。


怪物がこわい。怖い。恐い。

思考が、雑念が、集中を邪魔する。


「死んでしまえば良いんだ。」


ふと口を付いて出たその声に呼応するように、それは顕れた。


「ハハッ、こりゃ確かに怪物だ。」


返り血を浴びたのだろう、深紅に染まったその体躯は、正に怪物と呼ぶに相応しい。

その怪物が、その顎を大きく開き、Jamesに喰らいついた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


真っ黒な世界に居る。

そこに、幼少期の自分が座っている。

その右隣には、小学生の自分が泣いている。

更に右隣には、殴られた青あざが痛々しく残る中学生の自分が立っている。

その更に右隣には、屋上から真っ逆さまに落ちていく高校生の自分が居る。

右隣には、無い番号を探して呆然とした留年生になる自分が立ち尽くす。

棺桶の前でうずくまる自分と妹が居る。

キーボードを意味なく叩く自分が居る。

仲間だと思っていた自分が居る。

知ってしまった自分が居る。

閉じこもった自分が居る。

怪奇現象サークルに入った自分が居る。

ネコさんに憧れた自分が居る。

棺桶を目前にして未だに現実を見ようとしない一人ぽっちの自分が居る。

天井に縄を吊す自分が居る。

てるてるぼうずが居る。

縄を売っていた店を逆恨みする自分が居る。

ネコさんに救われた自分が居る。

諦めて生きる事を受け入れた自分が居る。

洞窟で生首を見つけた自分が居る。

真っ暗な空間に自分が居る。

何も見えないが自分が居る。

()()()、自分が居る。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


声にならない悲鳴が聞こえた。

()()()


怪物が噛み千切った俺の左腕を吐き出す。

そして、まるで俺を畏れるかの如く震え、二歩三歩と後退る。


「なんなんだよ!

お前らは怪物だろ?

なんで俺から逃げるんだよ!

俺は人間だ!俺は人間だ。俺は人間だ……

俺は人間なんだよ!」


そこで自分の足が何かにぶつかり、カラン、と澄んだ音を鳴らす。


「もしかしてカシャクってこれか?」


それを左手で拾い上げる。

小瓶に入った赤色の液体、それは紛れもなく仮死薬だろう。


「……一旦戻るか。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「おい、James、その腕どうした?」

「?

……ああ、左腕か。喰われたよ。

随分と不味かった様で直ぐに吐き出されたがな。」

「は?大丈夫なのか?

血は?

出てないな。

ちょっと見してみろ。」


そこでJamesははたと気付く。


これがバレたら殺されるかも知れない。

俺は人間だ!怪物じゃ無い。


「いや、良い。」

「良いじゃなくてだな……

兎に角見せてみろ。」

「触るな!」

「?

そんなに嫌か……

じゃあこの洞窟から脱出したら絶対医者に行けよ?良いな?」

「そんな事より、カシャクってこれで良いのか?」

「ああ、これが仮死薬なんだが……」

「なんか間違ってたか?」

「いや、なんも間違ってない。

けど、量が足らない。あと赤が1本、青が2本必要なんだが……


ーー俺が行ってくる。」

「いや、良いよ。

赤が一本、青が二本だな?」

「あ、ああ。」

「じゃ!」


Jamesは何かを誤魔化すため、まるでコンビニに行くようなノリで怪物の巣窟という死地に赴いた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


<James視点>


あの怪物は何に怯えたのか。

"俺"じゃ無いだろう。

自分の左手を見つめる。


そんな事を考えている所に怪物が襲って来た。

"ヒダリテ"を掲げると怪物は平伏し、畏怖する。

俺を、ヒダリテを。


「ハハッ……ハハハハッ…」


乾いた笑いが零れる。


「嗚呼、もう嫌だ。」


自分で自分の首を絞める。

ぐっと力を込め、喉仏を潰すように力を込める。

痛みと共に徐々に息が出来なくなる。酸欠特有のクラッとした感覚に襲われ、思わず手を離す。


「ハァ、ハァ、ゲホッ」


気分は最悪。

体調も微妙。


「James、お前がやるしか無いんだ、お前しか居ないんだ、俺じゃ無くJames、お前なんだ。」


仮面に全てを押し付けて、逃げる。

何時もの逃避行。


それから仮死薬はものの数分で見つかった。


「俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、俺は人間だ、」


そんな事をぶつぶつ呟きながら帰路につく。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「Michael、カシャクはこれで良いんだな?」

「ああ。もちろんさ。」

「本当に、やるのか……?」

「ーーああ。」


Michaelがタナカの問いに力強い肯定を返す。


「良いか?

先ず俺が死んで外に出る。

次に、Jamesが俺に蘇生薬を打つ。


それさえ出来れば、後は俺が全部やる。

これでも一応軍人だからな!」


なんかまだどゆこっちゃ?って方のために説明しておくと、


①生きた人間は出られない

②死体は出られる

③じゃあ一回死にゃあ良いじゃん

④そういう薬使うZE☆←イマココ


Michaelが洞窟の入口にもたれかかり、注射器を取り出す。


「頼んだぞ」


自身の動脈を見極め、針を刺す。


バタリ。


倒れ込むように洞窟の外に出たのを確かめ、その足に注射針を向ける。


「……此処で良いんだよな…?」


多少の不安はある。

けれど、信じて。

その針を、皮膚へと突き刺す。



ドクン!



ドクン!



ドクン!ドクン!


ドクン!ドクン!


ドクン!ドクン!

ドクン!ドクン!ドクン!

ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!

ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!


心臓が、動き出す。

ピクリ、ピクリと体が動き出す。


ゆっくりと瞼が開き、


「おっはよーう!」

「よかった、成功だな?」

「ああ!勿論だ!

さあ君も娑婆へ Come on!」

「…よろしく頼む。」


そうして、Jamesもまた一度死んで生き返った。


少しだけ望んでいた死は、それほど良いものでは無かったけれど。

一歩進んだこの感覚は、きっと生きてるって事なんだろう。

Jamesは少しそんな事を思った。


殿(しんがり)はタナカ!

Hay! Come on!」


そんな感じで、三人は洞窟から脱出できた。


おめでとう!

さあ、街へ降りて御覧♪


「よし、さっさとこんな山下山しよう!」


真逆思わないだろう。


「そうだな!

それに限る!」


鬱蒼と茂った木で隠れて見えないその先が


「よっしゃ行くぞー!」


真逆考えないだろう。


「やっと降りれるのかー……」


脱出した後の娑婆の景色が


「ん?雨か?」


想像だにしないだろう。


「どうでも良い!

さっさと降りるぞ!」


地獄の様な光景など。


「お、こっから街が見えそうですよ!」

「どんな感じ?」

「ちょっと待って下さいねー……………………


あれ?」

「見せてみ?…………


は?」

「なになにどゆこと?……………………


何……コレ?」


慌てて全員が山を降りる。


かつて街だった荒廃した大地。

ビルと云うビル、建物と云う建物がすべからく踏み潰され、そこかしこで火の手が上がっている。

火事の煙が、降っている雨が、残酷なまでにはっきりと透明なそれを可視化する。


巨大な怪物が、破壊された街に悠然と佇んでいた。

補足・蛇足

・怪物(普通種)は基本的にあまり高度な知性は有さない。例外はあるが、例外は重要なポジションに居るのでモブ怪物が高度な知性を有すことは無い。もし高度な知性を有する様に感じられたらそれはきっとネット小説大賞受賞作品を見て"やっぱ異世界もの多いなー"って思った作者が血迷って怪物に誰か転生させようとした名残。

・第二章で書くが、この世界は現実とは大きく違う。連邦政府だとか、軍人だとかはそれ関係。

・第一章は洞窟編、第二章から作風がガラッと変わって終末旅行編(先端技術研究防衛要都市サイタマ地下防衛設備起動権限奪還作戦編)、第三章はワクワク☆学園潜入編の予定。

・「麦茶飲む?」→麦茶は茶色、ニコチン水溶液の色も茶色って云うブラックジョーク

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