第二回・幼馴染ーズ(+α)の作戦会議(1)
いつも読んでくださりありがとうございます‼︎
今日の更新は早めです‼︎
長くなりそうだったので、分割しました。
後半はギャグってます(笑)
今後とも、よろしくどうぞっ‼︎
ハフェル公爵家は、典型的な貴族の家と言えるだろう。
政略結婚で結ばれた夫婦。
血を残すという義務で産んだ子供。
そして……権力を、金を求める貴族らしい野心。
ハフェル公爵家……いな、ブリジットの父親であるハフェル公爵は典型的な貴族であった。
本来であればハフェル公爵は、自分の娘を同等以上の格のある家、あるいは王族へと嫁がせて典型的な地位の向上を図っただろう。
しかし、偶然にも同じ時期に神獣が産まれ、偶然にも娘が神獣の婚約者に選ばれた。
それが、ハフェル公爵の野心に火を注いだ。
国を守る守護者。
人々の信仰の対象。
そんな存在の婚約者に自分の娘がなるのならば……王太子の婚約者になるよりも、権力を得ることができるのではないかと。
揺るぎない地位を手に入れられるのではないかと、思ってしまったのだ。
ハフェル公爵が自分の娘に厳しい教育を施したのは……彼女が優秀であったからだけでなく、神獣の婚約者という地位を手放すようなことがないようにとしていたにすぎなかった。
ゆえに、今回の件はまさに予想外すぎた。
ただの駒だとしか思ってなかった娘が、こちらの意思に反して動くなど……誰が想像できただろうか。
つまり……ハフェル公爵は出世のための道具が神獣の婚約者じゃなくなることに……求めていた揺るぎない地位が呆気なく崩れていくことに、激怒していた…………。
*****
神獣専用の応接室。
暴走しないようにとラスティに今だに押さえられているラフェルは、薄ら冷たい笑みを浮かべながらぽつりと呟いた。
「どうやら、ブリジットがラスティの婚約者から外れることが……王太子の婚約者になることが、ハフェル公爵はとても気に食わないらしい」
ブリジットの隣に座ったアニスは……それに酷く呆れたような様子で、肩を竦める。
そして、その綺麗な顔を凄まじく顰めながら告げた。
「そう言えば……ハフェル公爵って典型的な〝神獣派〟だったね?」
神獣派とは、その名の通り……王太子よりも神獣の方が上の存在だと考える者達のことを指し示す。
だが、神獣派は神獣を信仰したり、神聖視している訳ではない。
神獣と王太子は対であるのだし、そもそも比べるものではないのだが……神獣派は、神獣についた方が権力を手に入れられると考えているのだ。
普通ならば、神獣の婚約者の父親程度がそれほどの権力を手に入れられる訳ではないのだが……現在のクリーネ王国には、神獣を異常に神聖視する者や、何故かブリジットまで崇拝する者までいる。
それは一般市民だけでなく、王侯貴族にもいるのだ。
そのため……ハフェル公爵は、神獣の義理父、ブリジットの父親として少しずつ尊敬の目を集め……発言力を強めつつあった。
だが、今回の件でブリジットはラスティの婚約者を降りることとなる。
ゆえに、ハフェル公爵は神獣の婚約者じゃなくなるような……つまり、神獣の花嫁の生家、神獣の花嫁の父親としての揺るぎない地位を失う原因を作ったブリジットに激怒し、娘に手をあげるなどという蛮行に走ったのだろう。
「…………俺とラフェルには上も下もない。対等な関係だ。なのに、神獣派やら王太子派やら……貴族社会というのは、面倒なことこの上ないな……」
ラスティすら呆れたように溜息を零す。
そんな三人の姿を見たブリジットは……落ち込んだ顔で、頭を下げた。
「……みんな……ごめん、なさい……わたくしの所為で……」
沈み、暗い声にラフェルは「違うっ‼︎」とラスティを気合いで押し退けて立ち上がる。
そして、落ち込むブリジットに歩み寄ると……その場に跪き、彼女の柔らかな手を取りながら、真剣な顔で告げた。
「ブリジットが悪い訳じゃない‼︎ わたしだって……ブリジットの父親のことを知っていながら、君への想いを断ち切れなかったんだ‼︎」
ブリジットは、父親からの権力を得るための道具として扱われてきた。
そして、ラフェルはそんなハフェル公爵の異常なほどの権力への渇望を知っていたからこそ……ブリジットはラスティの婚約者でいるべきだと思っていた。
何故なら……ラスティの婚約者でなくなったら、ハフェル公爵がブリジットに何をするか分からなかったから。
最悪の場合、二度と会えなくなるようなことになるんじゃないかと不安になったから。
だが……結局は想いを断ち切れなくて、こんなことになってしまった。
現時点ではブリジットと二度と会えなくなるような事態にはなっていないが……ラフェルはブリジットが傷ついた原因は自分にもあると実感していた。
「そ、そんなことないわっ‼︎ わたくしだって……お父様のこともこうなることも分かってて、貴方への想いを断ち切れなかった‼︎」
「…………ブリジット……」
「だから、わたくしも悪いのよ……」
沈痛な雰囲気が流れ、応接室に無言が満ちる。
そんな中……アニスは困惑しきった顔で、隣に来たラスティの身体をゆっさゆさと揺らしていた。
「ど、どうしよう……ラスティ……ブリジットもラフェルも真面目すぎるから、なんかシリアスに話を受け止めすぎだよぉ……」
「それなぁー。重く考えすぎだよなぁ……いや、国を守ってくには、こんぐらい真面目な方がいいのかもしれないけど……でも、相っ変わらず真面目すぎるよなぁ……」
「いやいや。ここは黙って見てましょーよ。重要な一場面だと、わたしは思いますよ? ちょっとどっかの演劇みたいで楽しくなってきました〜」
「「ダラスの言葉の方がこの場の空気を壊してると思うよ(ぞ)?」」
「「……………………………」」
沈痛な空気は……あまりにも気が抜けるアニスとラスティ(ついでにダラス)の言葉で、どこかに霧散してしまう。
流石のブリジットもなんとも言えない据わった目を二人(+α)に向けていたし……ラフェルはこめかみに血管を浮き上がらせながら、笑顔(という名の怒り)を向けた。
「…………アニス……ラスティ……ついでにダラス‼︎ お前達なぁ……‼︎ 場の空気を壊していくスタイルは止めろっっっ‼︎」
「えぇぇぇ……だって、二人が凄くシリアスムーブなんだもん……」
「そーだ、そーだ‼︎ 難しく考えすぎなんだよ、馬鹿ラフェルと馬鹿ブリジット‼︎」
「そーですよ〜。あんまり深く考えすぎるとハゲますよ………………国王陛下のように」
「「「「えっ⁉︎ 国王陛下(父上)、ハゲてんのぉ(るんですの)(るのか)っ⁉︎⁉︎⁉︎」」」」
思わず今までの話を全て忘れてツッコミを入れる幼馴染ーズ。
ダラスは「あ、ヤベッ」っと慌てて口元を手で隠した。
「これ、機密でしたわ。聞かなかったことにしてくださーい」
「えっ……いやいやいや⁉︎ 無理だよ⁉︎ 今、すっごいことペロッたから忘れられないよっ⁉︎」
「えぇ〜……まだ若くなかったっけ? ラフェルの親父さん」
「えぇ……でも、確かにここ最近、わたくし達の件もあって白髪が増えてきてらっしゃって……‼︎」
「父上がっ……まさかっ……‼︎ 本当なのかっ、ダラスっ‼︎」
「ノーコメントで〜‼︎ わたし、これ以上ボロ吐かないよう黙ってまーす‼︎ というか子供に頭のこと気にされるとすっごいダメージだと思うんで、言っちゃダメですよ〜‼︎」
「「「「漏らしたのダラス(お前)(貴方)だよ(ですよ)(だぞ)っ⁉︎⁉︎」」」」
その幼馴染ーズのツッコミは、それはもう綺麗にハモッていたのだった………。