夜の語らいは、遠く離れていても近くにいても
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その後ーーーー。
ラスティは家族水入らずの時間を過ごせるようにと、早々に神殿に帰っていった。
二度と会えなくなる訳ではない。
しかし、神殿は警備の都合上……神殿で暮らす者に会うだけでも、面倒な手続きが多いのだ。
そのため、会える頻度が低くなるのは必然で。
それだけでなく……神獣の婚約者になることはとても名誉なことであるが、いつか姿を消すのが決まっているのだ。
実質、家族との最後の時間と言っても過言でない今に……感傷的になるのは、仕方のないことだった。
けれど、アニス達は家族の時間を悲しい雰囲気で過ごしたくないという気持ちから……その気持ちに蓋をして、穏やかな時間を過ごした。
共にサロンでお茶をして、他愛のない話をして。
いつものように食事をして。
そして、夜の挨拶をして部屋に戻り……夜の身支度を終えて、ベッドに入る。
いつもと変わらぬ一日。
けれど……唯一違ったのは、神殿に行くための準備があったこと。
ベッドに腰掛けたアニスは、部屋の隅に置かれた旅行鞄をチラリとみてから、薄いカーテンがかけられた窓見える夜空に視線を動かす。
そして、ゆっくりと目を閉じると……小さな声で、彼の名前を呼んだ。
「ラスティ。今、少しお話しして良いかな?」
『…………ん? アニスか? どうしたんだ、急に』
頭の中に念話で響く、柔らかな声。
アニスはその声に、安堵感を抱きながら微笑む。
「夜にごめんね? 寝るところだった?」
『大丈夫だ。今、神殿の外廊下から空を見てたところ。気にしなくていい』
「あははっ、そっか。奇遇だね? 私も家の窓から空を見てるよ」
『無駄にタイミングいいな』
青白い、僅かに欠けた月。
空から零れ落ちるのではないかと思えるほどの、満点の星々。
アニスは無言で空を見上げ続ける。
そして……ぽつりっと呟いた。
「ちょっとねぇ……後悔してるんだぁ……」
『後悔?』
「そう。もっと家族に甘えた方が良かったのかなぁ……って」
家族に愛されていることは分かっていた。
だからこそ、家族に心配をかけたくなくて。
周りの人達の悪意で傷ついているところを見せたくなくて。
本当の自分を、傷ついている自分を隠して……令嬢の仮面を被ることにした。
だけど……心配をかけまいとしたことが、心配をかけてしまっていたのではないかと、今更ながらに気づいてしまった。
本当は甘えて欲しいと、家族は思っていたのかもしれないと……気づいてしまった。
だから、アニスは……後悔していた。
「…………心配、かけたくないって思ってたんだけどなぁ……私、家族に心配かけてたのかなぁ……」
アニスだけがいる部屋に、小さな後悔が零れ落ちる。
けれど、そんな彼女に……ラスティは残酷な言葉を告げた。
『なんだ。今更、気づいたのか』
「っっっ‼︎」
その言葉が意味することは、ラスティはアニスが空回りしていたことに気づいていたということで。
アニスは思わず叫んだ。
「ラ……ラスティは気づいてたのっっ⁉︎」
『まぁ……気づいてたって言えば、気づいてたかな』
「っっ……‼︎ なら、なんで教えてっ……‼︎」
『それは、俺が教えることじゃないだろ? お前が気づかなきゃいけないことだろ?』
「っっっ……‼︎」
アニスはそう言われて言葉に詰まらせる。
家族に愛されていることは……他人から教えられるものではない。
他人が口を出すべきではないのだ。
自分自身で気づくことに……意義がある。
『なんで、他人から教えられて気づかなきゃいけないんだ。それは怠惰だ。お前のことを思っている人のことを考えてない。だから……俺は言わなかった』
「…………」
『酷い奴だと……俺が最低だと思うか?』
「……………ううん。思わないよ……」
アニスはゆっくりと首を振って、否定した。
もしも、自分がラスティを心配したとして……。
ラスティがそれに気づかずに他人から言われて、やっとこちらが心配していることに気づいたら……あぁ、自分の思いはその程度なんだなぁ……と悲しくなる。
彼が言わなかったことは、間違いではない。
「…………ここまで、気づかなかった私が悪いんだね……」
幼馴染だけでなく……もっと、家族にも目を向けるべきだった。
今更すぎる、気づきだった。
アニスはパタリッとベッドに倒れ込み、顔を両手で覆う。
そして、グスッ……と鼻を鳴らして、目元を擦った。
『…………目、擦ると赤くなるぞ」
「…………見てないのになんで的確かなぁ……」
「見てるからだけど?」
「えぅ⁉︎」
アニスはガバリッと起き上がり、足元にちょこんっと座ったラスティ(身体のサイズ小さめ)を見て、ギョッとする。
夜にこうやって念話で会話することは多々あった。
けれど、夜に婦女子の部屋に訪れるのは紳士ではないと……夜間にこうやって部屋に来ることはなかったのだ。
なのに、何故急にラスティが夜に部屋に転移してきたのかが分からなくて……アニスは呆然とした。
「ラスティ? 本物?」
「逆に、偽物がいると?」
「そんなもふもふボディを他に待ってる人、ラスティ以外にもいたら驚くね。というか、いつもより小さめ?」
「サイズ変わると違和感凄いからあまりやらないんだが……実は子猫サイズから城サイズまで身体の大きさを変えられたりする」
「へぇ〜……そうなんだぁ〜……いや、じゃなくてっ‼︎ なんで私の部屋にっ⁉︎」
「いや……まぁ、確かに婦女子の部屋を夜間に訪れるのはアウトな気もしたけどさ。アニスの家族に誓っちゃったし?」
「…………んぅ?」
「アニスのこと、守るって。俺にとっての守るは……身体も、心もだから」
ラスティはそう言うと、ベッドに乗り上がり……アニスの隣に座る。
そして、彼女の頬を肉球でぷにぷに押しながら……告げた。
「教えなかった俺が言うのも……怒らせるだけかもしれないけどさ。人間、間違わない奴なんていない。誰も傷つけずに生きられる奴なんていない。だから、大事なのはそのことに気づいてからだ」
「……………ラスティ……」
「人は反省して、次に活かすことができる。過去は変えられないけど、未来は変えられる。だから、これから家族に向きあえばいいさ」
「……………できるかな」
「できるできないじゃない。やるんだよ。俺も見守ってやるから」
アニスは目を潤ませながら、彼の首に腕を回す。
そして、強く強く……抱き締め、泣き笑いながら叫んだ。
「ラスティ〜‼︎ なんだか同年代に思えない貫禄ある言葉だよぉぉぉ〜‼︎」
「………つまり?」
「ジジくさい‼︎」
「テメェ‼︎ 励ましてやったのにソレ言うかっ‼︎」
ラスティは怒りながら、アニスの頬をペシペシ叩く。
けれど、その攻撃(?)は全然痛くなくて。
アニスは彼の励ましに、優しさに……頬を緩ませながらクスクスと笑った。
「…………うん。これからあんまり会えなくなっちゃうけど、完全に会えなくなる前に家族と向き合うよ」
「あ、それだけど……」
「ん?」
「俺、お前と一緒に姿を消すつもりないから」
「……………へ?」
アニスはキョトンとしたまま、ラスティの顔を見つめる。
だが、ラスティの顔はどこまでも真剣で。
その言葉が本気なのだと、よく伝わってきた。
「…………でも、歴代の神獣達は……」
「確かに、なんでか分かってないけど……神獣とその嫁は姿を消すよな。でも、そんなの嫌だ。アニスを家族と離れ離れにさせるのも、俺達の子を独りで生きさせるのも……嫌なんだ」
「…………ラスティ……」
「……まぁ、この世界には俺らの知らないことが沢山あるから、どうしようもないのかもしれないけど。現時点で、俺は姿を消すつもりはない。これだけは言っておく」
「……………うん。私も、それがいいな」
神獣とその花嫁が姿を消すのは普通だと思っていた。
ずっと、ずっと……歴代の神獣達がそうだったから。
姿を消すのが、常識になっていた。
けれど、できることなら……家族と離れ離れになりたくない。
神獣の対である王太子が産まれないと《神獣の核》から神獣が産まれないため、産まれる前にアニスは死んでしまうかもしれないが。
それでも、《神獣の核》を残して消えるなんて無責任なことしたくなかった。
「……ラスティ、ありがとう。大好きだよ」
アニスはふわりと、ラスティに微笑みかける。
その好きは、男女の好きではなかったけれど……好きと言われたラスティは、大きく目を見開いて、ぶわりっと毛を逆立てた。
「帰る‼︎」
ラスティは急にそう言うと、彼女の腕を叩いて身体を離す。
アニスは目をパチパチとさせながら、首を傾げた。
「あれ? 帰るの?」
「帰る」
「今更じゃない? もう少しいたら?」
「駄目」
彼はベッドから飛び降りると、音もなく床に着地する。
そして、「………あぁ、そうだ」と思い出したようにアニスの方へと振り返った。
「明日、皆揃って話し合いがあるぞ。王宮から神殿で話し合いましょうって、手紙が届いてるんじゃないか?」
「…………そう言えば、夕食の時に手紙が届いて……お父様が執務室に置いておくように言ってたかも」
「多分、それだな。あの人も来るだろうから、面倒なことこの上ないけど……頑張ろう。じゃあ、お休み。いい夢を」
「えっ……ちょっ、ラスーーーー」
シュンッ……‼︎
アニスが何か言う前に、ラスティは黄金色の光を纏って姿を消す。
中途半端に手を伸ばしたアニスは、ぽかんっ……と彼が消えた場所を見つめ……。
「……………なんで、あんな急に帰ったんだろ?」
そう呟きながら、首を傾げるのだった…………。
ラスティが急に帰ったのは、夜に女の子の部屋に行って、抱き締められて、好きなんて言われたもんだから……急に恥ずかしくなって慌てちゃった所為だよ(笑)




