幕間・護衛騎士の報告Part 2
幕間とか言っときながら、いつもより文章多めな気がしますw
まぁ、そんな日もある!(←いつも同じこと言ってるな……)
という訳で、解説は後書きにて!
よろしくねっ☆
「ひゅるりんりん〜ひゅるりららん〜陛下の〜髪の毛が〜今日も〜元気に散ってまぁす〜♪」
謎すぎる音程の歌と共にスッと、国王の執務机に置かれる頭皮ケアセット。
国王ジルドレットは差し出されたそれを見てから……ゆっくりと顔を上げて、微笑んだ。
「ブン殴るぞ」(←ドスの効いた声)
「あ、はい。真面目にやります」
「………はぁ……なんで毎回同じような会話を繰り返すかな……」
午後六時の国王の執務室。
いつものようにダラスから報告を受けようとしていた国王ジルドレットは、ふざける彼の態度に溜息を零した。
「いやぁ。だって、最初っからシリアスだとストレスで陛下、余計にハゲそうじゃないですか。だから、少しでも頭に良さそうなの差し入れして……ダメージを減らしてあげようかなって」
「余計なお世話だっっ‼︎」
「えぇ〜……わたしの優しさを無下にするんですか〜……まぁ、いっか。じゃあ、報告しま〜す」
ダラスはさっきまでのふざけた雰囲気を消し、今日のこと……王太子と魔王の誓約(という名の雇用契約)の報告を始める。
話が進めば進むほど、国王の顔色が悪くなっていく。
そして……最終的に頭を掻きながら、呻き声を漏らした。
「ラフェルゥゥゥ……ラスティ殿ぉぉぉ……‼︎ 魔王陛下に対して嫌がらせって何をしているんだぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」
「いやいや。まだ可愛らしい嫌がらせでしたって」
「その言い方だと可愛らしくないverもあるってことじゃないかっっ‼︎」
「そりゃ勿論」
ダラスはにっこりと、どこか遠い目をしながら笑う。
分かりやすい行動を取るのはブリジットだが……他の幼馴染達だって、ブリジットほど表立ってないが中々に過激だ。
アニスが理不尽な悪意に晒される原因を解決しないと意味がないと理解していたラフェルは、後々のために彼女に悪意を向けていた人達の情報収集をして、色々とエゲツない弱みを握ったり、馬車馬の如く働かせる予定を立てているし。
ラスティの方は……その無駄に長けた魔法の力で腹痛の呪いをかけたり、悪夢を見る呪いをかけたりして……実害を与えている訳ではないが、結構精神抉るようなことをしているし。
そして……アニスは……。
「…………魔王陛下達の魔法で異常に(というか他の三人分?)アニス嬢にヘイトが集まってたし、ご自身のことは結構無頓着でしたから、今までアニス嬢が思いっきり動いてたことはありませんけど……ぶっちゃけ、あの方が幼馴染〜ズのために動いたら一番ヤバいですよね〜」
「止めろぉぉぉ……なんか聞かなくても嫌な予感がするから、聞きたくないぃぃぃぃ……‼︎」
「いや、聞いといた方がいいかと〜。アニス嬢、めっちゃ暗器の扱い&広域爆撃がお得意なので……」
「どういう教育してるんだぁぁぁぁぁっっっ、アドニスゥゥゥゥゥゥ⁉︎」
ガシガシガシすぽーんっ‼︎
「ぶふっ‼︎」
こんな時であると言うのに、ダラスは思わず口を手で覆って勢いよく顔を逸らし、小刻みに震えながら声を押し殺して爆笑する。
しかし、そうなってしまったのも仕方ないことだった。
何故なら……ジルドレットの頭の頂点を覆っていたカツラが飛んだのだから。
ストレスが原因で頭を掻き毟ったため……カツラが空へ飛行した。
あまりにも美しいカツラの飛びっぷりに……ダラスは笑いを堪え切れない。
そんな護衛騎士を見た国王は、クワッと顔を歪めながら叫んだ。
「何を笑っている‼︎」
「だって、カツラ‼︎」
「………カツラ……? まさかっ⁉︎」
ペタペタ。(←頭の頂点をタッチ)
「ないっっ⁉︎⁉︎」
「あははははははははははっ‼︎ あははははははははははははははっ‼︎」
ダラスはとうとう我慢できなくなり大爆笑しながら腹を抱えて、蹲る。
その間にジルドレットは周りを見渡し、床に落ちてきたカツラを見つけ……慌てて頭の上に戻した。
しかし、ダラスの笑いは止まらない。
国王は爆笑するダラスを真顔で見つめ……そのこめかみに青筋を浮かべながら、にっこりと微笑んだ。
「ダラス」
「ひひひひっ……は、はい……?」
「ライナに君と既成事実を作るよう、言っておこう」
「くくくっ………………えっ?」
国王の言葉に思わず真顔になるダラス。
だが、その顔は徐々に蒼白になり……冷や汗を掻き、動揺を隠せない顔色に変わっていく。
それでも、国王はにっこりと微笑みを止めなかった。
「や、ちょっ……ちょっと待ってください‼︎ それは駄目ですって‼︎ わたしはただの護衛騎士です‼︎」
「……血で血を洗うような王位継承争いを疎い、暗殺を避けるために君は王籍を抜け、この国に逃亡したと思っているだろうが」
「っ‼︎」
急に語られた自分の過去に、護衛騎士は動揺する。
そう……ダラスは少し離れたところにある友好国ルペン王国の現国王の子……つまり王子だった。
しかし、側室の子であり第四王子でもあったダラスは、王位継承権を争う兄弟達に殺されかけ……王族という枷を疎い、全てを捨てる決心をした。
だが、一応は父親である現国王に王籍を抜ける手続きの申請と共に自分が消えることを伝えたところ……このクリーネ王国を亡命先に勧められたのだ。
そうして、剣の腕に自信があったダラスは、実力主義であるクリーネ王国の騎士団に入り……王太子の護衛騎士を任されるまでの才能を見せつけた。
そんなダラスに、ジルドレットは衝撃の事実を告げる。
「君は、王籍を抜けていない」
「…………えっっ⁉︎⁉︎」
ダラスはそれを聞いて言葉を失った。
亡命前に王籍を抜ける手続きをしたのに、抜けていない。
その事実に、彼の思考は止まる。
「なので……ルペン王国第四王子ダラス殿。君の意思を尊重して護衛騎士の仕事をすることを容認していたが……実際には我が友、ルペン国王から預かっている身。つまり、このクリーネ王国への長期留学中という扱いになっている。よって、ライナがお前に懸想してても、身分的には問題ないんだ」
ダラスはそれを聞いて、ギョッとしたまま固まった。
頭の中にあるのは〝まさか〟や、〝嘘だろう?〟と疑うような言葉ばかり。
しかし……亡命先にクリーネ王国を選んだのは、この国が平民であれど、異国出身であれど(異国出身の場合は、才能さえあれば騎士見習い期間中に後見人ができ、騎士として就職できる)……実力さえあれば安定した職につけるのだと父からススメめられたからだ。
そして、剣に腕の覚えがあったダラスが騎士になることは……父であれば予測できたはず。
つまり……初めからジルドレットとルペン国王が繋がっていて、踊らされていたのだと気づいてしまった。
今度はダラスが頭を掻き毟りながら、叫ぶ。
「嘘でしょうっ⁉︎ 全部、全部‼︎ 父上と陛下がっ⁉︎」
「言っとくが、騎士になったのは君の実力だぞ?」
「知ってますよ‼︎ 騎士団は実力主義なんですから‼︎ いや、もう……この際、抜けてなかったことはどうでもいい(いや、よくない)‼︎ それよりもっ‼︎ なんでそれがライナ姫との既成事実に繋がる⁉︎」
「別にカツラを笑われたからじゃないぞ?」
「それでその話に繋がったら、逆に驚きですから‼︎ いや、今はそうじゃなくて‼︎ ライナ姫は三年後、異国の地に嫁がれるのでしょう⁉︎ 婚姻は、国と国の契約です‼︎ なのに、なんでわたしと既成事実作らせようとするんですかっ⁉︎ わたしを国同士の関係を悪化させる原因にするつもりですかっ⁉︎」
「現時点では嫁ぐことになっているが、婿に来てもらうでも問題ないんだ。というか……冷静に考えてくれ、ダラス。二つ国を挟んだ異国だ、異国」
「………………二つ国を挟んだ…………まさかっ⁉︎」
ダラスはハッとして、大きく目を見開く。
そして、バンッと執務机を叩きながら(騎士がそんなことしちゃいけません)、叫んだ。
「ルペン国王っっっ⁉︎」
「正解だ。ちなみに婚姻相手は君だぞ、ダラス」
「友好国は異国って言わないと思うんですけどっ⁉︎ というかっ……ライナ姫の婚姻相手がわたしぃぃぃ⁉︎⁉︎」
どちらかと言えば……ふざける側の自覚があるダラスは、今回ばかりはふざけていられなかった。
もう、何がなんだか分からなかった。
「……元々、今日話そうと思っていたんだ。そろそろライナが痺れを切らして、君を襲いそうだからな」
「はぁぁっ⁉︎」
ダラスは鈍い訳ではないので、確かにライナが自分に懸想している(自惚れではない)のは分かっていた。
しかし、この国において自分は異国民であるし……後見人がいれど、王族に釣り合うような身分ではないと上手くアプローチを躱していたのだ。
しかし、それに痺れを切らした王女が襲ってくるーー。
姫君なのに異性を襲うなんて予想外すぎて、ダラスは開いた口が塞がらなかった。
「だから、下手なことが起きる前に君をライナにぶん投げる」
「下手なことなんて起きません‼︎」
「ライナはよく君の子を産みたいと言っているぞ」
「淑女の発言じゃないっっ‼︎ というか、ライナ姫は十五歳‼︎ 未成年‼︎」
「確かにこの国では十八歳を成人としているが……我が国の王族の法律では、政略結婚の都合で十五歳から婚姻可能だ」
「嘘ぉぉぉっ⁉︎」
ダラスは徐々に外堀を埋められている感覚(……いや、実際に埋められていってる?)に陥る。
「とか言いつつ……君もライナを憎からず思っているだろう?」
「妹分としてです‼︎」
「またまた〜。じゃなきゃ仲睦まじく微笑みあわないと思うが?」
ペロリッ。
ジルドレットが執務机の棚から取り出した紙……誰かが走り書いたであろう微笑みあってる自分とライナの絵に、ダラスは悲鳴をあげる。
走り書きの中の自分はどう見ても……愛しいものを見るような顔をしていた。
…………甘い笑顔である。
「うひゃぁぁぁぁ‼︎ わたし、こんな甘い顔で笑ってるぅぅぅぅぅぅ⁉︎」
顔を真っ赤にしながら叫ぶダラスを見て、ジルドレットはニタニタと笑う。
いつもはハゲを弄られる日々であったが……今度からはこちらがこの件で弄れそうだった。
「婚姻相手だと知らずに仲睦まじくなるなんて、まるで運命のようだな。という訳で……義息子としてこれからよろしくな」
「無理です‼︎ お暇致します‼︎」
「無理。という訳でベンソーン‼︎ こいつ、ライナの部屋にぶん投げてきてくれ〜‼︎」
「畏まりました」
「ぎゃぁっ⁉︎」
いつの間にか部屋の中にいた老年の男性……国王ジルドレットの護衛兼補佐を務めるベンソンは、護衛騎士であるダラスを容易く縄で縛ると、俵担ぎをして優雅に一礼する。
ダラスはギャーギャー叫びながら、逃げようとするが……ガッチリと拘束したベンソンに勝てずにそのまま運ばれていった。
「ふっ……いい仕事をしたな」
そう言ったジルドレットは、執務机の一番下の棚に隠しておいた秘蔵の蒸留酒とグラスを取り出し……満足げな笑顔を浮かべながら、蒸留酒をグラスに注いだ。
余談だが……翌日、満面の笑みを浮かべながら寄り添うライナと顔を真っ赤にして乙女のように恥ずかしがるダラスの姿が、王宮の中庭で確認され……その後、国王ジルドレットにめちゃくちゃ弄られるのだった………。
【アニスさんが暗器を使える理由】
理不尽な悪意を向けてくる人達がもしも襲ってきた時に、反撃できる手段があった方がいい&ドレスとかに隠しやすいという理由で、両親から仕込まれました。
まぁ、実害なかったし、自分のことに地味に無頓着だから実際にその手腕が出ることはなかったけど!
後、ナイフを向けられた時は暗器出すよりもブリジットの方が動きが早かった!
【ダラスが国王にフレンドリーな理由】
ダラスにとってジルドレットは父親の友人、親戚のおじさんポジションだった。
一応、騎士になってからは適切な対応をしようとしたけど……ジルドレットが「既知の関係だから、今まで通りでいい(※一人で他国に来たのだから、知っている人の前では無理をする必要はないという配慮)」と許可してくれたので、甘えてフレンドリー(変わらぬ態度)でいってた。
総括すると、ご都合主義だぜっ☆




