王太子と魔王の誓約という名の雇用契約
サブサブタイトルは、「(チョイ見せ)過激派幼馴染〜頭脳派&魔法派〜」です。
他の幼馴染〜ズの過激なところを見てみたいとリクエスト頂いたので、入れてみよーと頑張ったら何故かチョイ見せになりました(笑)
まぁ、そういう時もあるよね‼︎
今後とも〜よろしくねっ☆
魔王と魔族達の封印がされた術式が崩壊してから早いもので、早一週間ーー。
今だにラスティの両親は目覚めていない。
封印術式に長らく取り込まれていたのだ。
医師から身体に異常はないと言われていても、どこかしらに負担をきたしているのだろう。
先代の神獣とその伴侶が目覚める前にーーラスティは、ラフェルに頼まれた要件を終えることにした。
*****
「お待たせして悪かったな、魔王陛下。さぁ、早速誓約を結ぼうか」
「…………いや、大丈夫……だ……」
王太子の執務室に置かれた執務机に座ったラフェルは、にっこりと笑ってお腹を押さえる魔王に微笑みかける。
魔王は色白い顔をしながら……「その前に……」と、部屋の壁際に置かれたラグの上に座った神獣ラスティ(ちなみにその隣にはダラスが無言で控えていた)へと視線を向けた。
「…………神獣殿……この魔法を解いてくれないか……腹が痛い……」
魔王はそう、頭を下げながら懇願する。
ラスティはそれに驚いたような顔をして、首を傾げた。
「おっと。気づいてたか」
「気づくに決まってるだろう⁉︎ 神獣の魔法は特殊だから、分からないはずがないっっ‼︎ というか、腹痛が続く呪いなんて地味すぎる嫌がらせ、止めてくれないかっっ⁉︎」
「アニス」
「うぐっ……大人しく、受け入れよう……」
ラスティと魔王の会話を聞いていたラフェルは、キョトンとした顔をする。
そして……クスクスと笑いながら、幼馴染の方へと視線を向けた。
「なんだ。魔王達にも嫌がらせしてたのか」
「あぁ」
ラスティはこくりと頷く。
本当は……本人がやり返していない以上、幼馴染とはいえ自分達が手を出すのはお門違いだというのは重々承知していた。
しかし、アニスは自分のことだというのに……無関心気味なのだ。
暴走していたとはいえ魔王達の所為で理不尽な悪意に晒されて。
いつも笑っていたが……確かに、アニスは心の傷を負っていた。
普通ならば、なんで自分がこんな目に遭わなくてはならないのだと怨むはずなのに。
なのに……アニスは、魔王達に報復をしなかった。
だが、大切な幼馴染が……大切な婚約者を傷つけられて黙っていられるほど、ラスティは大人ではない。
ゆえに、彼が選んだ選択は……魔法で嫌がらせをするということだった。
…………ちなみに、今までもアニスに理不尽な悪意を向けてきた奴らは、こそっと同じような地味な嫌がらせを受けている。
「アニスが味わってきた苦しみに比べたら可愛いもんだと思うだがな。ただ腹痛が続くだけで、実際に厠と友達になる訳じゃないんだし。それに……ラフェルの仕事を補佐する上では迷惑この上ないから、貴方達にはもうやらないさ」
ラスティはそう言ってあっさりと、腹痛の魔法を解く。
徐々に治っていく腹痛に……魔王はホッと息を吐いた。
ラフェルはそんな魔王を見て、更にケラケラと笑う。
「ははっ、よかったな。軽めの嫌がらせだったようだし、ラスティにあっさりと解いてもらえて」
「…………その言い方だと……重い嫌がらせもあるし……あっさりと解いてもらえてない人もいるみたいじゃないか……」
「あはははっ」
「………………」
何も言わずに和かに笑っているだけだというのに、腹黒く見える王太子の笑顔。
魔王は〝………あっ。いるんだな……?〟とそっと目を逸らした。
「まぁ、ラスティのアニス好きは取り敢えず置いといて……今度こそ本題に入ろう」
ラフェルは空気を変えるようにそう言って、一枚の書類を魔王に渡す。
魔王はそれを受け取り、目を通した。
誓約の内容を要約すると、以下の通りだった。
一)魔王達はアニス・レーマン公爵令嬢の配下であるが、出向というカタチで王太子ラフェル・ディスカヴィ・クリーネの下で働くこととする。
二)主な仕事は王太子の(広域的な意味及び、過大解釈含むの)補佐である。
三)仕事において虚偽の報告や謀反などが発覚、発生した場合は、それ相応の処分をする。
四)仕事内容を許可なく第三者に口外することは固く禁止する。
五)自身の命が脅かされる状況下や緊急時以外では、無闇に他者を害することを禁止する。
六)有事の際は休日を与えることが難しい場合があるが、基本的には週休二日の交代制勤務とする。加えて、長期勤務後は長期休暇を与える。賃金は応相談。勤務態度や勤務内容によって増給、特別手当を与えるものとする。
七)意見や休暇申請がある場合は、早めに言うこと。
魔王は誓約書の内容に目を通し……ゆっくりと顔を上げた。
「…………これ、誓約書と言うよりも雇用契約書じゃないか?」
「まぁ、確かに。誓約書であり、雇用契約書でもあるな」
「この、広域的な意味及び、過大解釈含むってなんだ?」
「優良な人材は適材適所で使うべきだろう? だから、先にそのような指定をしておけば……魔王陛下達には色々としてもらえるという訳だ」
「………………(何故だろう……苦労する未来しか見えないんだが……)」
魔王は遠い目をして黙り込む。
そんな彼の姿を見たラフェルは、チラリと壁際に立つダラスにアイコンタクトをした。
今の今まで壁の花(笑)に徹していたダラスは、それだけで自分の主人が〝同じ立場となるお前から一言フォロー入れろ〟という指示を察する。
そして、〝仕方ないなぁ……〟と肩を竦めながら、声をかけた。
「まぁ、まぁ。魔王陛下。大変な仕事を任せられるかもしれませんが……ラフェル殿下は大悪魔じゃないですからね。休みがない日が続いても、ちゃーんっと後からまとまった休みくれますし。給料もそこらの人よりも多くもらえますから、そんなに不安がらずとも大丈夫だと思いますよ?」
ダラスはにっこりと笑いながら、そう告げる。
…………ぶっちゃけ、そう言いつつも……護衛騎士であるのに実はラフェル殿下の命令(という名の護衛以外の仕事)を受けていたダラスとしては、とんでもなく大変だというのが本音だった。
しかし、仲間が増えるのは自分の負担が減るということ。
このチャンスを逃さないため、彼は敢えてそれを告げなかった。
「………………(……この言葉は信用できない気がする……)」
魔王はダラスのフォローを聞きつつも、そう心の中で呟く。
しかし、ここまでの対応をされてしまっては……いや、最初から拒否権なんてものは存在しないと思っていたが、魔王側に更にこれを拒否することはできなくなったと言える。
…………普通であれば、無辜の民諸共、国を滅ぼそうとした罪人として……無賃金、無休暇労働も甘んじるべき立場であるのに、この契約は破格の待遇だろう。
魔王は大きく息を吐くと……覚悟を決めた顔で、王太子を見た。
「オレの選択が魔族一同の総意となる。この誓約を受け入れよう」
その返事を書いたラフェルは、壁際で待っていた幼馴染に声をかける。
ラスティはこくりと頷くと、誓約魔法を発動させた。
「神獣ラスティの名の下、誓約を聞き届けた。その誓約が破られし時、それ相応の対価を払うことと知れ」
「あっ……⁉︎」
ポゥゥ……。
黄金色の光がラフェルと魔王の身体に取り込まれていく。
しかし、魔王はそれどころではなかった。
自分がしてしまったことの重大さに気づき、思いっきり頭を掻き毟っていた。
「あぁぁぁぁ‼︎ やらかした‼︎」
雇用契約に思えてしまったが……しかし、確かにこれは誓約でもあったのだ。
誓約を結ぶ上で、大事なのは……その誓約が破られた時の代償。
だというのに、魔王はそれを一切聞くことなく、つい雇用契約を受け入れてしまった。
誓約を破らなければいいだけの話ではあるが……何かしたらの不幸が重なりそれが破られてしまった時ーー。
魔族達が……どんな代償を払わなければいけないのか?
それが、分からないのだ。
魔王はかつては一国の王であったというのに、自身の迂闊さを呪いたい気持ちだった。
だが……そんな魔王の反応を見て、ラフェルは腹黒さを隠さぬ笑顔でクスクスと笑う。
「あははっ、随分な反応だな。まぁ、その反応が見たかったから黙ってたが……中々にいい反応だ」
「っっっ‼︎」
「まぁ……生憎。ラスティの誓約魔法は神の前で行う誓約と同じだ。代償はわたしが決めるものではなく、公平なる神の判断で下されるから安心するといい。わたしもその誓約を破れば罰を与えられるしな」
「…………………えっ」
そんな王太子の言葉に、魔王はピシリッと動きを止める。
二人の会話を聞いていたダラスは、思わず腕をさすりながら呟いた。
「うわぁ……殿下、えっぐ。とうとう、魔王陛下に対して腹黒を隠さなくなってますね……」
「わたしの部下になるなら、表向きの対応をする必要はないからな。それと、腹黒ではなく策略家と言ってもらいたいんだが?」
「ソウデスネ」
「……………ダラス」
「はい。殿下は策略家であられます」
ピシッと九十度の礼をしたダラスに、ラフェルは呆れたような溜息を零す。
魔王は震える指先で……ラフェルを指差した。
「………お前っ……ワザと代償の話をっ……⁉︎」
「誓約には代償が付き物だという誰もが知ってるようなことを忘れたのはそっちだろう? まぁ、誓約を雇用契約のように思わせて、ワザと代償から意識が逸れるように誘導はしたが」
「なんでそんなことをっ⁉︎ 動揺するオレを見て、楽しむためかっ⁉︎」
「知らないとは思うが……わたし達は過激派幼馴染〜ズと呼ばれているんだ。幼馴染達のためならば、時に過激な行動を取ってしまうからな。ブリジットは武闘派、ラスティは魔法派。アニス嬢は……まぁ、うん。ちょっとアレだから置いといて……わたしは頭脳派、とでも言おうか」
質問の答えにならぬ返事に、魔王は困惑する。
しかし、ラフェルは優雅に指を組みながら……にっこりと微笑んだ。
「わたしだって、大切な幼馴染を傷つけられて怒っていない訳ではないんだ。ちょっと精神的に動揺させるぐらい、可愛らしい嫌がらせだろう?」
「…………」
魔王は額に手を当てて、空を仰ぐ。
ブリジットが肉体的な過激行動を取るとするならば……ラスティが魔法による嫌がらせで、ラフェルが精神的な嫌がらせを与えることを得意とするのだろう。
今回はまだこの程度で済んでいるが……過激派と呼ばれている以上、これ以上に過激な嫌がらせをしてくる可能性が捨てきれない。
魔王は、自分達の上司となった王太子が……とんでもない人間であり……これから、過激派幼馴染〜ズの言葉に見合った扱いをしてくるのだろうということに気づいて、意識を遠くにやりかけた。
「あぁ、安心してくれ。子供じみた嫌がらせはこれっきりのつもりだ。これからはどんどん働いてもらわなきゃいけないからな。きちんと給料と休暇は与えるんだから、それ相応の成果あげてくれることを願うよ。頼んだぞ?」
………………結論から言うと。
その後、魔王達は本当に馬車馬の如く働くことになったのだった……。




