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家族への説明大会(3)


シリアス?っぽいかなぁ……?


家の用事のため、ちょっと明日の更新は無理かもしれません。

今後とも、よろしくどうぞっ‼︎

 







 ラスティは、カティに軽くお説教されながらソファに座りだしたアドニスとアトラスを見つめながら……〝とんでもなく面白くて、暖かい人達なんだなぁ……〟と心の中で思った。





 貴族の家庭において、ここまで仲が良い家族は滅多にいない。

 それはそうだ。

 最近は恋愛結婚……なんてものも増えてきているが、今だに政略結婚が主流で。

 政略結婚でも、互いにより良い夫婦になろうと歩み寄るところもあれば……歩み寄らずに、冷たい仮面夫婦になる貴族も多い。

 そうなると……子供の扱いなども予想がつくもので。

 充分な愛情を注がれず育った子がまた政略結婚をし、自分がされたことを自分の妻と子にして、同じことを繰り返していくという悪循環。

 それに加えて、貴族というのは野心家が多い。

 家庭や子供をのし上がるための駒のようにしか思っていない者や……贅沢をするための道具だとしか思っていない者だっている。


 そんな現在の貴族社会において……こんなにも家族を大切にしているレーマン公爵家はとても〝異端〟なのだろう。


 でも、その〝異端〟は悪くない……優しい〝異端〟だ。

 ラスティは、眩しいものを見るかのように目を細めながら……悲しそうな顔で、アニスの家族を見つめた。


「ラスティ?」

「うぉ……」


 ただジッとアニスの家族を見つめていたラスティは、急に顔を覗き込んできて視界いっぱいに広がったアニスの顔に少し驚く。

 宝石のような翡翠の瞳は、探るように彼を見つめていて。

 ラスティは僅かに首を傾げながら、問うた。


「……………どうした?」

「大丈夫?」

「……………何が?」

「だって、羨ましそうな顔をしてるから」

「………………」


 そう言われて、ラスティの淡い若葉色の瞳が大きく見開かれる。

 彼は困ったように苦笑しながら……素直に頷いた。


「実際に、羨ましいんだと思う。俺には、()()()()()()から」

「…………ぁ……」


 そう言われて、今度はアニスが目を見開く番だった。





 ーーーーーー神獣。

 神獣は、王太子と同じように妻を娶るが……次の神獣がその女性から産まれるのではなく……。

 神獣とその妻は、《神獣の核》と呼ばれるものを作り出し……神獣の対として相応しい王太子が産まれた時に、次代の神獣が《神獣の核》から産まれる。

 詳しい内容は、あまり公にされていないが……先代の神獣……つまりは、ラスティの父親と母親は、《神獣の核》を産み出してから数年後ーーーー《神獣の核》を神殿に託し、忽然と姿を消した。

 しかし、それはラスティの両親だけじゃない。

 姿を消す時期はそれぞれ違うが……ずっと、ずっと……歴代の神獣達も同じことを繰り返していて。



 全てを要約すると……神獣というのは、家族の愛を知らずに、ただ独りで成長するのだ。





「……………ごめん、ね……ラスティ」


 アニスは、何も考えずに言ってしまったことに後悔した。

 辛いことを思い出させようとした訳じゃないのに。

 自分の言葉は、ラスティを傷つける言葉だったと……顔を歪める。

 だが、ラスティはそんな彼女に柔らかく微笑んだ。


「別に傷ついてないから、そんなに落ち込むなよ。落ち込む姿なんてお前には似合わないぞ」

「…………でもぉ……」

「………アニス。本当に大丈夫だって」


 ラスティはするりっと長い尻尾でアニスの頬を撫でながら、身体を乗り出し、こつんっと額と額を合わせる。


「婚約者のお前が……俺の家族になってくれるんだろう? だから、大丈夫だ」

「…………ラスティ……」

「それとも……アニスは家族を持たない俺と。神獣である俺と家族にはなってくれない?」


 悲しそうな声と、翳りを帯びた瞳。

 いつもと違う弱々しい彼の姿に、アニスは慌ててしまう。

 そして、そんなラスティを慰めるように……アニスは細い腕を彼の首に回しながら、ぎゅうっと強く抱き締めた。


「そんな訳ないよ‼︎ ラスティはもう家族みたいなものじゃん‼︎」

「本当に? 婚約者の義務感で言ってるんじゃなくて?」

「馬鹿っ‼︎ 私、義務感とかでそんなこと言えるような、器用な性格してないよ‼︎」

「じゃあ、一年後……俺の本当の家族に……俺の花嫁になってくれるか?」

「うんっ‼︎」

「よし、言質は取った」

「………………へ?」


 ほぼ反射的に答え続けていたアニスは、最後の言葉にピシリッと固まる。

 ギギギッ……と鈍い動きで、ゆっくりと身体を離し……ラスティの顔を見ると……。



 彼はニヤニヤと意地悪そうに笑っていた。



「いやぁ……花嫁にきてくれるかって聞いて、了承してもらうのって結構嬉しいもんだな?」



 そう告げたラスティはぺろりっと彼女の頬を舐めて。

 アニスはさっきまでの弱々しい姿が演技だったことに気づき、声にならない声をあげながら、顔を真っ赤にする。

 そして、思いっきり彼の両頬を思いっきり引っ張った。


「騙された‼︎ ラスティがすっごい悲しんでるって、慌てたのにっっ‼︎」

「騙したなんて人聞きの悪い。ちゃんと家族になってくれるかって、花嫁になるかって聞いただけだろ?」

「い……いやいやいや‼︎ というかっ‼︎ 会話の論点がいつの間にかズレてるよっ⁉︎ ラスティが羨ましそうって会話からどうして、私が花嫁になるとかの話になるの‼︎」

「あはははっ‼︎ 今更気づいたのか。ちょっとお馬鹿なところが可愛いな」

「むきゃぁぁーー‼︎」


 奇声をあげながら、ラスティの頬を引っ張り続けるアニス。

 それをケラケラ笑いながら受け入れ続けるラスティ。

 …………地味に二人の世界に入って存在を忘れられかけていたアニスの家族達は、泣きそうな視線(※母は生温かい視線)を二人に向けていた。


「カ、カティ……やっぱり泣いていいかな? お父さん達、忘れられてるよね?」

「い、妹が……男とイチャイチャしてる……というか……凄い親しげ……お兄ちゃんには甘えてくれなくなったのに……」

「…………相変わらず、残念な人達なんだから。(でも、これ以上このままにしていたら……話が進まなそうね。アドニス様達も悲しすぎて、ポンコツになりそうだし)」


 カティは溜息を零しながら、パンパンッと手を二回ほど叩く。

 ピタリっと動きを止めたアニス達は、ゆっくりとカティの方を向き……にっこりと、目が笑っていない笑みを浮かべていた妻(母)の姿に、ピキッと頬を引きらせた。


「婚約の説明のために、集まったのだから……いい加減、本筋に戻りましょうか」

「「「「あ、はい」」」」


 カティから放たれる只ならぬ気配(※無言の圧力という)を感じた四人は、慌てて居住まいを正す。

 そして、ラスティはこれ以上カティを怒らせない(?)ためにも、早々に話を切り出すことにした。


「えっと……アニスから聞いたとも思うが……アニスが俺の婚約者に。ブリジットがラフェルの婚約者になることになった。その理由は、〝相性〟による問題だ」

「……………相性、ですか?」


 アドニスとアトラスは首を傾げるが、カティはそれを黙って聞いていた。

 本当の理由は、ブリジットとラフェルが一線を超えてしまったからだが……公的に発表される理由は、全て〝相性(この一言)〟で済ませる予定になっている。

 ブリジット達のことを察してしまっている人(カティやら他の貴族女性達)もいるだろうが……幼馴染達を守るためにも、自分の家族であろうと、本当の理由を話すつもりはなかった。


「その相性っていうのは、性格だけじゃなくて。力に関してもなんだ」

「力ですの?」

「あぁ。アニスは俺の力を譲渡できるぐらい、神獣との親和性が高いんだ」

「「「…………神獣との親和性が高い?」」」


 その言葉に、今度はカティも含めて首を傾げることになる。

 ラスティに視線で合図されたアニスはこくりと頷き、右手を持ち上げる。

 そして……その手の平の上に、黄金色の魔法陣を出現させた。


「「「なっっっ⁉︎⁉︎」」」

「黄金色は神獣の力だってことは分かりますよね? つまり、私はラスティの力を使えるってことなんです」


 アニスはそう言って、魔法陣を握り締めて消す。

 人にも魔法の力は存在するが、黄金色の輝きを持つのは……神獣だけとされている。

 ブリジットでさえラスティの力を使うことができなかったのに……アニスはそれが可能なのだ。

 本当の理由を知っているカティでさえ、その事実に驚きを隠せなかったし……アニスがそれほどまでにラスティと相性が良いとなれば、婚約者を変える充分な理由になると納得した。


「運が良いことに……俺達四人は仲がいいからな。例え、婚約者が変わろうと問題なかったんだ。だから、アニスは俺の婚約者になることになった」

「……………成る程……」

「だが、それに納得しないやからもいる。余計な邪推をする奴もいるだろうし、嘘だと信じない奴だって出てくるだろう。だから、信じてもらうためにも……アニスには神殿に早めに入ってもらうことになったんだ」

「あぁ……ブリジット嬢に異常なほどに傾倒している者達が、変に解釈するかもしれないということなんだね? だが、アニスが早く神殿入りすれば……神殿がアニスをそれだけ大切にしているのだと、見せつけることになると」

「そうだ。それに、俺の側にいてくれた方が、()()()()()()に対処しやすいからな」


 ()()()()()()

 その意味を理解したアドニスは、さっきまでとは打って変わって、険しい表情で黙り込んだ。



 神獣の力を使えるーーーー。



 それはつまり……アニスを狙う者さえも現れるかもしれないということ。



 親としては、娘のことが心配だ。

 だからこそ、側で見守ってやりたいとも思う。

 けれど、公爵家よりも……神獣であるラスティの方が遥かにアニスを守る力に優れている。

 加えて、神殿自体、神獣が暮らしているとあって厳しい警備が敷かれているのだ。

 そちらで暮らした方が……アニスの安全に繋がるのは、間違いない。

 アドニスは覚悟を決めたように息を吐くと……真剣な瞳で、ラスティを見つめた。


「お聞かせください。ラスティ様は……アニスを命尽きる最後の瞬間まで、絶対に守りきると誓えますか?」

「誓える」


 ただ一言。

 けれど、その言葉でラスティの本気が伝わるようで。

 鋭い視線と視線が交わり、アドニスとラスティは目を合わせ続ける。

 そして……。


「…………分かりました。アニスのことを、よろしくお願いします」


 アドニスはゆっくりと……頭を下げた。


「あぁ、勿論だ。神獣ラスティの名において誓おう。アニスは俺が絶対に守りきる」




 ラスティの声は、とても強くて。

 アドニス達は……その返事に、安心したように笑った。





 名にかけて誓われた言葉は、子を思う親にとって何よりも信じられる言葉だった。







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