最終決戦には、愛の鞭を添えて
………なんで、こうなった?
分かりません、気づいたらこうなりました。
うん、開き直ろー。
今後とも、よろしくねっ☆
王宮の地下ーーーー。
国王しか知らないその地下室に、魔王の封印は存在した。
見た目はただの、透き通った巨大な水晶の塊だ。
しかし、その水晶自体が封印術式であり……その内部は亜空間になっている。
そんな水晶の前で……アニスもとい魔王妃とラスティ、国王ジルドレット(ついでに魔族達)は互いに顔を見合わせた。
『それではご一緒に〜レッツゴー殴り込み〜☆』
魔王妃は拳を上に突き上げながら、ニコニコと笑う。
そんな彼女のノリに……ラスティとジルドレットは頬を引きつらせ、魔族達もどこか遠い目をしていた。
…………沈黙すること数十秒。
くるりっとラスティ達の方を見た魔王妃は、拗ねたような顔をした。
『……………ノリが悪いわよ?』
「いや、逆にあんたはノリが良すぎないか……?」
『アニスさんは〝いぇーい‼︎〟って言ってくれてるわ‼︎』
「そりゃあアニスとあんた、何故か似てるからな‼︎ 意気投合すんのも当然だろ‼︎」
『だって、アニスさん。あら……わたくしもアニスさんといると楽しいわよ〜』
キャキャッと楽しげに笑う(多分、アニスと喋ってる)魔王妃を見て、ラスティは思わず大きく溜息を零す。
だが……いつまでもこうしていられないため、彼は真剣な顔で国王の方へと振り返った。
地下室はあまり広くないため……ブリジット達は先ほどの応接室で待っていて、見送り役は国王のみ。
そのため、ラスティはタイミングが良いと幼馴染達のことをお願いすることにした。
「何かある……とは思わないが何かあったら、ブリジットとラフェルを頼みたい」
「…………任されたくないな……」
思わず本音が溢れるジルドレット。
しかし、ラスティはこれだけは譲れないとお願いを続ける。
「物理的に暴れるのはブリジットだと思う。けれど、ラフェルも中々に過激だ。あいつは猫被ってるけど……知略的な面でヤバい。下手したら、ブリジットを使ってやらかす。止められるのは……陛下だけ(多分)だ」
「はぁっ⁉︎ 余計に任されたくないんだがっっっ⁉︎」
「だって、こんなこと陛下にしか任せられないだろう⁉︎ 後は任せた‼︎」
「(嫌だぁぁぁぁ‼︎)」
絶句する国王を無視して、ラスティは魔族達の精神を無理やり魔法で引きずり出す。
ずるりっ……‼︎ っと黒い靄を纏った魔族達が抜け出ると……魔族達に乗り移られていた人達はその場に崩れ落ちた。
「なっ……⁉︎」
「意識を失ってるだけだから大丈夫だ。そいつらも任せた。じゃあ、行ってくる」
『行ってくるわ』
「えぇぇぇぇ……」
困惑する顔をする国王を置き去りにして……。
ラスティは魔王妃(withアニス)と魔族達を引き連れて、封印術式に入る魔法を発動させたのだった……。
*****
ふわり、ふわりと。
星のような煌めく光が散らばる暗い空間を……重力を無視しながら、ゆっくりと落ちていく。
このまま落ちて行った先に、魔王達はいるのだろうと……本能的に思った。
魔王妃は懐かしい気持ちになりながら……ラスティに声をかけた。
『ごめんなさいね、神獣さん』
「…………何がだ?」
『一番迷惑をかけているのは、神獣達にだから』
「…………」
確かに……神獣とその伴侶の負担は計り知れないだろう。
封印術式の中で眠り、目覚めたらもう知っている、親しい人達はとうの昔にいなくなっていて。
寂しさを抱えて生きていかなくてはいけない。
遠い未来で、孤独に生きなくてはいけない。
しかし、それは仕方のないことだった。
偶然にも神が未熟だったから、そうなってしまったのだ。
それに…………。
だからこそ……神獣には伴侶がいる。
「…………確かに、親しい者がいない世界で生きるのは辛いだろうな。けど、巻き込むことになるが……そのための、伴侶だ」
『…………あぁ、そうなのね』
神獣の伴侶とは、神獣と運命を共にする者。
同じように封印術式に入り、神獣を孤独にさせないために存在する。
ラスティから神獣の伴侶の本当の意義を聞いた魔王妃は、悲しそうな顔で呟いた。
『…………神獣さん達だけでなく……その伴侶の人達にも。沢山の方に、迷惑をかけたのね』
「まぁ……それは否定しないが。でも、魔王が救われたら……今までの神獣達も〝よかったな〟って笑ってくれるさ」
『……だといいんだけど』
「安心しろ。運が良いことに、今までの神獣達はみーんな性格が良い。善人だ。ただ、哀れな魔王が救われる日を願ってくれていたらしい」
『………そうなの、ね』
そもそも、未熟な神の補佐をするために存在した初代神獣は……自ら魔王の封印に手を貸すと言ったくらいだったらしい。
魔王妃はそれを聞いて目を閉じ……目尻に浮かんだ涙を拭った。
『ねぇ、神獣さん』
「今度はなんだ?」
『下についたら、皆の動きを拘束することはできるかしら? 足がついたら即拘束して欲しいの』
「…………それぐらいなら問題ないが……多分、魔王は無理だぞ?」
『構わないわ。あの人はわたくしがなんとかするから』
「…………分かった」
『ありがとう。さぁ、つくわ』
その言葉で下を見れば、黒い靄が眼下を渦巻いていた。
靄は生きているように蠢き……ラスティ達が降り立つであろう場所を避けるように移動する。
ラスティは、魔王妃に言われた通りに、拘束の魔法を維持状態にした。
そして……地に足がついた瞬間、ラスティは一気に魔法を展開させた。
「《広域神聖拘束・発動》‼︎」
『っっっ……‼︎』
ラスティの足元から、地面を走るように広域展開していく黄金色の魔法陣。
苦しそうに呻いた声が響きながら……黄金色の光が、魔族達が動かないようにその場に縫い止めた。
『貴様っ……‼︎ 神獣かっ……‼︎』
「あぁ。そうだ」
『忌々しいっ……‼︎』
黄金の光に靄が浄化され、魔族達の姿がゆっくりと見え始める。
老若男女……だが、その数は二十人にも満たない。
ラスティは魔族達の少なさに、大きく目を見開いた。
「…………これ、は……」
『魔族は種として能力が低いの。でも、この人数でも一国を落とすのは容易だわ』
魔王妃はそう言って、足を進める。
その先には……歪な王座に座した闇を纏った青年の姿。
この空間に溶けるような黒髪黒目だと言うのに、何故かその存在感は……誰よりもはっきりとしているようだった。
ラスティはその青年を見て、理解する。
彼こそがーーーー魔王。
魔王は表情の抜け落ちた顔をゆっくりと動かし……濁った瞳を魔王妃に向けた。
『…………お前は』
『お久しぶりね、魔王陛下。わたくしの愛しい貴方』
『……………知らない。お前など、知らない。我はただ、滅ぼすのみ。殺すのみ』
『…………酷い人。わたくしが分からなくなるほど、おかしくなってしまったの?』
魔王に反応はない。
永すぎる時が、狂気が、彼の中の記憶をおかしくしてしまったのだろう。
彼自身を、おかしくしてしまったのだろう。
今では、なんのためにクリーネ王国への怨みを募らせていたのかが分かってすらいないのかもしれない。
ただ、虚しくて。
ただ、悲しくて。
ただ、許せなくて。
その負の感情だけで……今の魔王は動いている。
ならばーーーー。
『力づくでも、思い出してもらいましょうかーーーー愛の鞭の、時間よ』
…………パァァァァァンッッ‼︎ バキンッッッ‼︎
「『……………………え?』」
ラスティと魔族達の動きが止まった。
その光景に、目を大きく見開いて固まった。
魔王妃の手には、いつ出現したのか分からない銀色の……鞭。
巧みな鞭捌きは、瞬き一瞬の間に……魔王の座していた王座を横から薙ぎ払い……魔王を地面に転がしていた。
ラスティは思う。
ーーーーー待ってくれ。鞭って王座を破壊するほどの威力あったっけーー? というか……。
「なんで鞭っっっ⁉︎ いきなり展開がハード(プレイ?)すぎないかっっっ⁉︎」
ラスティは思わず、そう叫ぶのだった……。




