パーティーは一種の戦場(3)
最後はちょっとシリアス伏線かも?
次回、明かされる真実‼︎
って感じで行かせて頂きます(笑)
今回も〜よろしくね‼︎
※前話の後書きにオルトとティーダのパーティー中の行動解説を追加しました☆
事は起きた。
しかし、前回と違った。
ナイフを持った男。
けれど、その刃先が向かったのが違った。
……それを撃退した人も、方法も、違った。
そして……壇上の上からそれを見ていた彼女は、飛んだ男の身体から黒い靄が滲んでいたのを見逃さなかった。
何故、今ここにそれがいるのか。
もしかしたら前回は気づかなかっただけで……同じようにいたのかもしれない。
だが、今はそんなことを考えている暇はない。
とにかく、この手を逃す気はないと彼女は大きな声で叫んだ。
「ラスティ様っ、神聖結界を展開してくださいませ‼︎」
「…………えっ?」
「奴らに逃げられる前にっ……早くっ‼︎」
指を指し示せば、神獣の視線もあの黒い靄を認識する。
ラスティもそれがよくないものだと理解したのか、さっきとは打って変わって、一瞬でホール全体を覆うように結界を展開させた。
「《神聖結界・展開》っっ‼︎」
「うっ……ガァァァァァァァァ⁉︎」
「なんっでっ……⁉︎」
「キャァァァァァァァ‼︎」
「うぐっ……‼︎」
ホールの中。
蹴り上げられた男を含めた男女四人の呻き声が響いて、そのまま倒れ込む。
神獣の力によって、倒れた者達からはブリジットに蹴り上げられた男と同じように黒い靄が滲み出始めていて。
その光景を見た彼女は……王妃ラナンは。
「…………あぁ……やっと見つけた……‼︎」
泣きそうな顔で、そう呟いた。
*****
アニスは驚愕していた。
それはそうだろう。
理不尽な悪意を向けられることは多々あったが……実際に物騒な悪意を振り翳されたことは、今までなかったのだ。
向けられるナイフへの動揺で、迫り来る死への恐怖で、思考が真っ白になって動けなくなった。
だが……まさか、ナイフが刺さる前にブリジットが男を蹴り上げるとは思いもしなかった。
アニスの中の彼女はいつも穏やかで、ちょっぴり引っ込み思案で……でも、ラフェルが大好きな可愛い女の子だ。
そんなブリジットのまさかの行動。
これには驚かずにはいられなくて……そして、更に驚愕に追い討ちをかけたのが、ラスティの魔法だった。
彼がこのダンスホール全域を覆うように展開した神聖結界。
すると、その魔法によって苦しみ出したブリジットに蹴られた男と……他三人。
彼らからは黒い靄が滲み出ていて。
一体、何が起きているのか?
アニスは困惑しきっていたが……取り敢えず、心配するように抱きついてきたブリジットを抱き締め返した。
「アニス、アニス‼︎ 怪我はしてませんわね⁉︎ 大丈夫ねっ⁉︎」
「だ、大丈夫だよ……ブリジット……ブリジットが守ってくれたから……」
思わず外向け用モードが解けて、素で答えるアニス。
ブリジットはペタペタと彼女の頬を触り、怪我がないことを確認すると花が咲くように微笑んだ。
「あぁ、良かった‼︎ もしアニスに何かあったら、この男に報いを受けさせなきゃいけないと思いましたわ‼︎」
「えっ……やだ。ブリジットがイケメン……惚れるぅ……」
アニスは頬を赤く染めながら、ブリジットを見つめる。
幼馴染の初めて見る一面は、トキメキものだった。
ギャップ萌え、というヤツである。
「…………いや、確かにブリジットのお陰でアニスは無事だったし、完全に俺らは出遅れたけど‼︎」
「ブリジットもレディなのだから、危ないことはしないでくれ‼︎」
見つめ合うアニスとブリジットの間に割り込んで、互いの婚約者に寄り添うラスティとラフェル。
出遅れ神獣と王太子は、自身の婚約者に怪我がないかを確認してホッと息を吐いた。
「……すまん、アニス……守るって言ったのに……。動揺して動くのが遅くなった」
ラスティは泣きそうな声で呟きながら、アニスの身体に身を寄せる。
本当であれば、自分が婚約者を守るべきなのに。
彼女にナイフが向けられたことに動揺して、魔法を上手く展開することができなかった。
ブリジットが不審者を蹴り上げてくれなかったら……どうなっていたことか。
ラスティは自身の未熟さを後悔して、唇を強く噛む。
そんな彼を見て……アニスは、ふるふると首を振った。
「…………ううん、大丈夫だよ。ラスティ。動揺しちゃうのは仕方ないって。私なんか魔法すら展開できなかったんだから」
「でもっ……‼︎」
ラスティの瞳には後悔が滲んでいる。
しかし、彼が上手く魔法を展開できなかったのは仕方ないことだ。
魔法は精神に左右されやすい。
ラスティにとって大切な人が傷つけられそうになったのに、冷静でいられるはずがないのだ。
逆を返せば……精神が安定しないほど、ラスティはアニスのことを想ってくれているという証明でもあった。
自身の身が危険に晒されたことはよく理解しているが……ラスティが自分を大切に想っているということを知れたのが嬉しいアニスは、少し困ったように笑う。
そして、何かを思いついたようにふんわりと微笑んだ。
「うーん……なら、次に期待ってことにしよ?」
アニスはしゃがみ込んで、婚約者の顔を見つめる。
そして、彼の首に腕を回し……ふわふわの毛並みに顔を埋めて、お願いした。
「ラスティの後悔が消えないっていうなら、次で挽回すればいいの。だから、今度はちゃーんっと、守ってね?」
「っっ……‼︎ あぁ、勿論だっ……‼︎ 今度は、守ってみせる……‼︎」
誓いを立てるように、ラスティは彼女の頬に柔らかくキスを落とし……アニスは顔を真っ赤にする。
甘々な空気に包まれ始めたそんな二人の側では、ラフェルがブリジットの手を取って安堵の息を零していた。
「…………ブリジットが強いことは、分かっている。はっきり言って、物理的にはわたしよりも強いだろう」
「ラフェル……」
「だけど、いくら強いと言ってもっ……傷つかない訳じゃない‼︎ お願いだから危ないことはしないでくれっ……‼︎ 君が傷ついたら、わたしはっ……‼︎」
「…………心配させて、ごめんなさい。ラフェル」
ブリジットは、自分を心配してくれるラフェルに抱きつく。
大切な人達のためならば、ブリジットは何度だって動くだろう。
アニス、ラスティ……そして、ラフェル。
ブリジットにとって、幼馴染はとても大切で……愛しいから。
それでも、できる限りは……この優しくて、自分を案じてくれる愛しい婚約者のために無茶をしないようにしようと心の中で思った。
それぞれの婚約者達と抱き合う幼馴染達。
良いムードに包まれる四人だったが……本当に気まずそうに声をかけてきた国王の声で、ピタリと動きを止めた。
「……良い雰囲気の中、大変申し訳ないんだが……そろそろ話を始めても良いだろうか?」
「「「「っ‼︎」」」」
四人は慌ててバッと周りを見渡す。
完全に今の今まで、夜会中だというのを忘れていた。
落ち着いて周りを見ると、パーティーの参加者達が愕然としたり……困惑したりしていて。
加えて、黒い靄を纏った四人の男女が王宮騎士達(ホール内の警備は王宮騎士の役目)に拘束されて……壇上前に押さえつけられていた。
神聖結界の効果でその靄を視認できるようになった人々は、本能的な忌避感を覚えてその四人から距離を取る。
呻く彼らを見つめながら……国王は場を収めるために声を張り上げた。
「………皆が困惑しているのは、分かっている。しかし、今回の件は国王預かりとする。今夜の夜会は中止、関係者は事情聴取を行うため残るように‼︎」
凛とした声が響き、騒ついていた人々は今だに困惑を隠しきれなかったが……国王の指示に従って動き始める。
そして……いつの間にかアニス達の側に来ていた王妃ラナンは、小さな声で皆に話しかけた。
「皆さんは応接室に。ラスティ様……申し訳ありませんが、神聖結界をあの四人に展開したまま、移動してくださいますか?」
「…………それは問題ないが……何故、貴女はあんな指示を?」
さっきよりも落ち着いたラスティは、ブリジットが蹴り上げた後……神聖結界を展開するように指示を出した王妃に探るような視線を向ける。
だが、王妃ラナンはその視線を真っ直ぐに受け止め……泣きそうな顔で笑った。
「勿論、全てを語らせて頂きますわ。信じて頂けない……滑稽なお話かもしれませんが」




