パーティーは一種の戦場(2)
話が長くなりそうなので、ちょっと変なところかもしれないけど……区切りました‼︎ 次に続く‼︎
では、よろしくねっ☆
進行の都合上、先に会場入りしたブリジットとラフェルを見送ったアニスとラスティは、パーティー会場となる王宮のダンスホールに近い控え室で緊張した面持ちをしていた。
「はぁ〜……緊張するね」
「俺の方が緊張してるさ。パーティーなんざ滅多に参加しないからな」
そわそわと落ち着かなく歩くラスティの姿に、ソファに座ったアニスは苦笑を漏らす。
アニスの方は王太子の婚約者だったというのもあって何度かパーティーに参加していたが……ラスティは彼女よりも参加する機会が少なかった。
身の安全を守るため、という理由もあったが……神獣の姿では、ダンスや立食をしながら行われるパーティーで動きづらいのだ。
そのため、ラスティはパーティーに滅多に参加することがなかったし……今日のパーティーで後から会場入りするのも、ダンスが始まる時間帯にいないよう(ダンスの始まりに身分が高い者達から踊り出すため)、パーティー入りの時間をズラすためだった。
(いつもならパーティー前はもっと緊張してるんだけどなぁ……今日はいつもと違うかも)
アニスは心の中でそう呟き、息を吐く。
豪華なダンスホールに、色とりどりのドレスが咲き乱れる。
賑やかな話し声、溢れる笑顔。
柔らかに告げられる、毒ある言葉。
一見は華やかで煌びやかなパーティーだが、その裏では悍ましいほどの思惑と陰謀が張り巡らされている。
麗しい仮面を被った、腹の探り合い。
それがアニスが知るパーティーというモノだ。
ある意味、一種の戦場のようなものとも言える。
しかし、今日は普段のパーティー前の緊張はなく……いつもよりも落ち着いていた。
それは自分よりも落ち着かない彼がいるからなのか……。
それとも、ラスティが隣にいるという状況が緊張を緩めているのか。
その答えはアニス自身でも分かっていなかったけれど。
とにかく、ラスティがいるからこそ……落ち着いているのは確かだった。
「ふふっ……」
「…………アニス?」
「ラスティは凄いなぁと思ってね?」
「………………はぁ? 何言ってるんだ……?」
「分からなくてもいいの。私だけが分かってればね?」
「…………なんだ、それ……?」
ラスティは立ち止まり、意味が分からないと言わんばかりに首を傾げる。
しかし、アニスはそんな彼の姿を見てクスクスと笑い声を漏らした。
トントントン……。
そんな中、扉をノックする音に、二人は意識をそちらに向ける。
そして、扉越しに声がかけられた。
『ラスティ様、アニス様。お時間です』
「あぁ、分かった」
「はい。今行きます」
どうやら入場の時間になったらしい。
アニスはソファから立ち上がり、ドレスの裾を払いながら軽く身支度を整える。
ラスティもそんな彼女の隣に立ち、大きく息を吐く。
二人は互いに顔を見合わせて……気合いを入れるように頷きあった。
「……よし。パーティーという名の戦場に向かおっか。ラスティ」
「……確かに似たようなものかもしれないが、言い方ってもんがあるだろ……まぁ、うん。頑張ろうか、アニス。何があっても俺が守るから、安心しろ」
真剣な瞳が彼女を射抜く。
アニスは頬を僅かに赤くしながら、ラスティの首元を撫でた。
「やだ、格好いい〜‼︎ でも、無理しなくていいからね?」
「無理してないぞ。ここ最近、なんか調子良いし」
「…………調子良い?」
「こっちの話。んじゃあ、行こう」
アニスはキョトンとするが……神獣の魔法によって扉が開かれたことで、考えるのを止める。
案内役の青年を前に、廊下で待機していた神殿騎士を連れて二人は会場に向かう。
徐々に大きくなっていく音楽と、賑やかな話し声。
そして……ホールの前の扉に辿り着き、オルトとティーダに見送られながら、アニスとラスティは会場へと足を踏み入れた。
「神獣ラスティ様と、神獣の婚約者アニス・レーマン公爵令嬢のご入場です」
紹介の声に合わせて、沢山の視線に晒される。
探るような、値踏みするような、媚びるような、悪意を隠すような。
様々な思惑を孕んだ視線に、アニスは真っ向から笑みを返す。
その姿は堂々としており、まさに華のよう。
パーティーにしては質素なドレスを纏っているというのに、その笑顔だけで周りの者達を魅了させるようだった。
アニスはラスティの歩みに合わせて会場を進み、壇上の王座に座した国王夫妻達の前に立つ。
そして、優雅なカーテシーをしてゆるりと頭を下げた。
「ご挨拶を、国王陛下。王妃。神獣ラスティとその婚約者アニス・レーマン公爵令嬢だ」
「御機嫌よう、国王陛下。王妃様」
「よくぞいらした。今日は楽しんでくれ」
国王ジルドレットは柔らかく微笑みながら、アニスとラスティを迎え入れる。
彼の隣にいた美しい王妃ラナンも同じように笑いながら……幼馴染達がいる場所を教えてくれた。
「あちらでレーマン公爵夫妻とラフェル達が歓談しているわ。挨拶をするのでしょう?」
「はい、ありがとうございます。王妃様」
「……楽しんで頂戴ね」
どこか辛そうな声音にアニスとラスティは首を傾げる。
しかし、王妃は笑顔を見せるだけでそれ以上、何かを言うつもりはないようだった。
これ以上ここにいても意味がないだろうと判断した二人は、国王夫妻に頭を下げて移動する。
そして……壇上の近くでレーマン公爵夫妻と歓談していたらしいラフェルとブリジットに近づいていった。
「ラフェル、ブリジット」
「……ん? あぁ、やっと来たか。ラスティ。アニス嬢」
「アニス、ラスティ。待ってましたわ」
「御機嫌よう、ブリジット、ラフェル殿下。お待たせしました」
四人はクスクスと笑い合う。
そんな仲の良い幼馴染達の姿に……レーマン公爵アドニスとカティはにっこりと笑った。
「わたし達には挨拶しないのかい? 拗ねるぞ?」
父親の言葉にアニスとラスティはハッとする。
そして、慌てて二人にも挨拶をした。
「あっ……ごめんなさい。お父様、お母様」
「あぁ……失礼した。レーマン公爵、公爵夫人」
「ふふふっ、気にしなくて良いわ。貴女達の仲の良さは今に始まった話ではないもの。アドニス様も拗ねないの」
「冗談だ。アニス達はこれからどうするつもりで?」
アドニスの質問はこのパーティーでどう動くかという問いだろう。
パーティーでは基本的に身分が低い者が身分に高い者へと挨拶をすることになっている。
アニスとラスティは身分が高い側になるため、このまま挨拶が来る人達に対応していくことにした。
「このまま共にいても?」
「勿論だ。固まっていた方が……色々と対応できるだろう」
ラフェルの返事に、ラスティとアドニスは通じ合うようにゆっくりと頷く。
男性陣の反応に……女性陣は困ったような顔をした。
「何かしているみたいだけど……あまり無茶なことはしないで欲しいわ。アドニス様もいい歳なんだから」
「本当ですね、お母様」
「わたくし達には何も教えてくださらないんだか……」
「皆さま、飲み物は如何ですか?」
『っっ⁉︎』
急に割り込んできた声に、アニス達はギョッとして振り返る。
そこには、燕尾服を纏った飲み物が乗ったプレートを持った使用人の姿。
教育をされている使用人であれば、会話を遮ってまで声をかけてくることはない。
あまりにも不自然すぎるその男に……気配すらなくここまで近づいてきた男に、アニス達は警戒心を強めた。
「貴方ーー……」
「あぁ、やっぱり駄目だな。我慢と回りくどいのは嫌いだ」
「…………えっ?」
男の手からぐらりと傾くプレート。
全員の視線が思わずそちらに向いてしまった瞬間、それが運命の分かれ道だった。
「アニスっっっ‼︎」
一番先にそれに気づいたラスティの叫び声に、アニスは慌てて視線を男に戻す。
いつの間にか男の手に握られていたナイフ。
それが真っ直ぐにアニスの胸元に向かっていて、彼女は驚愕にその顔を染める。
ラスティは急いで防御魔法を構築してアニスの前に展開しようとするが、動揺からか普段よりも展開速度が遅い。
そのタイムラグの所為で、防御魔法が発動する前にナイフがアニスを貫きそうにな………………ったが、それが届く前に男は空高く飛んでいた。
「ガハッッ⁉︎⁉︎」
『えぇっ⁉︎』
真上に飛ぶ男。
蹴り上げられた足。
魔法を中途半端に展開したラスティと、男に体当たりをしようとしたラフェルはその姿を見て固まる。
そして……今、自分よりも遥かに大きい男を蹴り上げた彼女を見て、思わず脱力した。
「わたくしの幼馴染に何をしようとしているのっっっ‼︎」
どうやら、襲われたアニスを救う王子様は、婚約者であるラスティではなく……ブリジットだったらしいーーーー。
いきなり、シリアス展開にぶっ込んだと思ったら、シリアスブレイクされた⁉︎
【解説】
王宮でのパーティーなので、ホール内での護衛は王宮騎士に引き継ぎになりました。
パーティーには貴族ばかりなので、護衛騎士がずっと付いてるのは物騒だし……オルトとティーダは、控え室待機です。
神殿と王宮、互いの領分を侵しすぎないってヤツだね☆




