パーティーは一種の戦場(1)
久しぶりの更新です〜‼︎お待たせ〜‼︎
暑かったり、寒かったり……体調には気をつけようね‼︎
暫くは不定期になるかも?
今後ともよろしくねっ☆
美しく結い上げられた髪には白い生花が飾られ、金薔薇の刺繍が施された白のワンピースドレスにはフリルが付け加えられて夜に着れるようなドレスには変わっていた。
薄化粧を施された顔は、その美しさをより一層高めていて。
婚約者の色で統一されたネックレスとイヤリングをつけた彼女の姿を一言で表すならば……まさに〝華〟。
アニスはドレッサー越しに見た自分の姿に、苦笑を零した。
「あぁ、やっぱり……ちゃんと準備すると、シンプルめな服でも〝豪華〟って感じがしますね」
「うふふふっ〜‼︎ それはそうですわ‼︎ どんな服を着ようと、その美しさを損なうことがないのですから‼︎」
「アニス様は、着飾れば着飾るほど美しくなられますから〜‼︎」
そんな彼女の背後で小躍りしながら満足げに笑うのは同じ顔をした二人の少女。
彼女達はレーマン公爵家でアニス専属の侍女を務めていた双子のトーリとトリエ。
今回のパーティーにあたり、アニスの身の安全のために信頼できる侍女にパーティー準備を手伝ってもらった方が良いだろうと判断した国王ジルドレットが、専属侍女であった二人を王宮に呼んでくれていたのだ。
トーリとトリエは、着飾った主人を見て本当に嬉しそうにしながら告げる。
「神殿に入られてしまって、もうアニス様を着飾ることはできないのかと嘆きましたが……まさかっ‼︎ こんなに早く着飾ることができますなんて‼︎ 嬉しすぎて死んでしまいそうですわ‼︎」
「………それぐらいで死んでしまいそうになるのは、止めましょうね?」
「うふふっ〜‼︎ わたくし達の〝アニス様を着飾る〟という生き甲斐が無くなって死にかけていましたが……今回のお陰で復活です〜‼︎」
「どんだけ着飾るのが好きなんですか……? そんなに生き甲斐なら、お母様にお願いしてみーーーー」
「「生き甲斐なのは、〝アニス様を着飾る〟ことですので(〜)‼︎」」
「(おぉうっ……圧が凄い……)」
クリーネ王国での成人は十八歳だが、デビュタントは十六歳であるため……アニス達も既に何度かパーティーへの参加をしていた。
そして、パーティーに参加するたびに準備をしてくれたのはこの二人だった。
仕事だからしてくれているのだとアニスは思っていたのだが……どうやらそういった訳ではないらしい。
(…………まぁ。お茶してた幼馴染〜ズを追い出すぐらいだもんねぇ……なんで私、今までこの二人が仕事だからしてくれてるんだって思ってたんだろ……?)
アニスは心の中で苦笑する。
さっきまで……パーティー直前に着替えるだけだと思って、会いに部屋まで来てくれたブリジットとラフェルを交えて四人でお茶をしていた。
しかし、トーリとトリエがやって来ると「「準備がありますので(〜)‼︎」」と、他の三人を有無を言わさず追い出し……お風呂に入れられたり、全身マッサージされたり、髪にオイルを塗られたりと……念入りに準備をされたのだ。
こんな手間がかかること……仕事だからとできるはずがない。
とても楽しげにしているはずがない。
アニスは自分の鈍感さに……自分のために手間暇をかけてくれる二人の思いやりに気づくのが遅かったことに苦笑を漏らしながら……二人の方に振り返った。
「トーリ、トリエ」
「「はい(〜)?」」
「いつも……パーティーごとに合う相応しい装いにしてくれて、ありがとう」
着飾ることは令嬢にとっての武装だ。
理不尽な悪意を向けられることが多いアニスは、身に纏うドレスや装飾品さえも自分を守る武器となる。
その武器を与えてくれていたのは……いつも家族で。
武器を着せてくれるのは、トーリとトリエだった。
アニスはにっこりと、微笑みかけた。
「本当に、感謝してるよ。トーリ、トリエ」
「「……っ‼︎」」
トーリとトリエは目を見開く。
お礼を言われることは今までだって何度もあったが、こうやって砕けた口調で言われたのは初めてだった。
それはつまり……令嬢の仮面を外した、素のアニスにお礼を言われたということで。
二人は破顔しながら、頭を下げた。
「勿体ないお言葉ですわ、アニス様‼︎ 逆にこちらがお礼を言いたいくらいですもの‼︎」
「アニス様を着飾ることは、わたくし達にとっても幸せですから〜‼︎」
「…………ふふっ……私、果報者だね。こんなに優しい人達に囲まれてる」
そう言って、彼女は双子を抱き締める。
周りの優しさに気づくのが遅かったことに……アニスは、心がほんの少しだけ痛くなった。
トントントン。
『入っていいか、アニス』
そんな時、扉のノック音と共にラスティの声が廊下から聞こえる。
アニスは胸に滲んだ後悔を振り払うようにゆっくりと双子から離れて……返事を返した。
「うん、どうぞ。入って?」
『あぁ、失礼する。準備はできた、かーー……」
扉が開き、するりと客室に入ってきたラスティは今日はパーティーのために、その身体に合った白いローブを纏っていた。
ただローブを纏っただけだが、いつもより凛として見えるラスティにアニスはどきりっと胸を鳴らす。
彼の方もアニスに視線を向けて……その目を見開いて固まった。
「…………」
「……ラスティ?」
アニスは無言のまま呆然とする彼を見て、こてんっと首を傾げる。
テケテケと駆け寄り、彼の目の前にしゃがみ込み、目の前で手を振り……ラスティの頬をみょーんっと伸ばした。
「おーい。ラスティ?」
「…………ハッ⁉︎」
「あ、元に戻った。えっと……思わず固まっちゃうくらいに、私の格好、変? トーリとトリエが着飾ってくれたんだけど……似合わない?」
アニスは少しだけ拗ねたような顔で呟く。
しかし、ラスティはそんな彼女の言葉を勢いよく否定した。
「ち、違う‼︎ いや、そのっ……似合わないはずがないんだ‼︎ 元々、似合うと思ってその刺繍をしたんだしっ……‼︎ ただっ……化粧までしてると、前にそのドレス着てた時よりも綺麗でっ……‼︎ つい見惚れたって言うかっ……‼︎」
「……………っっっ……‼︎」
「その……凄い、素敵だ。アニス」
「…………ふへっ……そんなに、言われると……照れるねぇ……ラスティも、そのローブ似合ってるよ……?」
「……………おう」
互いに顔を真っ赤にしながら、アニスとラスティは微笑み合う。
むず痒くなるような初々しい空気を放つ二人に当てられたのか……ラスティと共に迎えに来ていたらしい青のグラデーションドレスを着たブリジットと黒を基調とした王族の正装をしたラフェルまでも、若干顔を赤くしていた。
「…………なんか、幼馴染の恋愛シーンを見るのはむず痒いな……」
「ですわね……なんて言うのかしら……これ……」
「……甘酸っぱい?」
「えぇ、そうですわ‼︎ 何か行動をしている訳でなく……素敵だと伝えているだけなのに、凄く甘酸っぱいですわ‼︎」
ブリジットは目をキラキラさせながら、サムズアップをする。
ラフェルは、そんな婚約者の姿に苦笑を漏らした。
王宮で暮らし始めたことで徐々にブリジットも変わってきた。
ハフェル公爵家と周りの者達に、神獣の婚約者として相応しい振る舞いをすることを求められ、過度な期待を寄せられて……その期待に応えようと自分を抑えていたが……。
今の彼女は重すぎた期待から解き放たれ、本当の自分を見せれるようになったのだ。
ラフェルは、大切な女性が素の自分を出せるようになったことに……嬉しくなった。
「…………愛しい女性が楽しそうだと、わたしまで嬉しいな」
「…………んっ……‼︎」
「わたしもラスティも……こんなに素敵な婚約者を持てて、幸せだな」
ラフェルはブリジットに蕩けるような甘い視線を向けながら、彼女の頬をするりっと撫でる。
ブリジットは頬を赤くしながら、高鳴る胸を手で押さえた。
「……もうっ‼︎ アニス達に当てられてますわね⁉︎ 貴方まで甘いことを言うなんて……‼︎」
「ははっ、かもな」
ブリジットとラフェルの方も甘い空気が流れ出し……アニス達よりも少し大人な雰囲気が漂う。
初々しい空気と大人びた空気。
微妙に違えど、どちらも甘い空気に晒されたトーリとトリエ(ついでに廊下で待機&ラフェルの護衛で付いてきていた騎士〜ズ)は心の中で思った。
『……………………独身にはこの空気はキツい(ですね)(〜)っっ……‼︎』




