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家族への説明大会(2)


やっぱり長くなりそうだったので、分割しました。


またもや最初はシリアスだったけど、後半に連れシリアスが消え去るという……自分でも書いてて謎だわー。


まぁ、楽しんでもらえたら幸いです。

よろしくお願いします‼︎


 








 二人の会話を聞き、自分の心配が杞憂であることを悟ると同時に……()()()()に見た娘の素の表情(子供らしい一面)を見て、カティは心底驚きつつも……泣きそうなほどに安堵していた。







 アニスは、幼い頃から神童と呼ばれたブリジットと比べられてきた。

 それに母親として心を痛めなかった日はない。

 規格外すぎる幼馴染がいるがゆえに……自分の娘が不条理に貶められ、「ブリジット嬢はできたのにアニス嬢はできないのか」と周りの者達に子供でいることを無理やり止めさせられたのだ。

 何度もそんな馬鹿なことを言う者達を叩いてやりたかったし、できることなら罵詈雑言を浴びせてやりたかった。

 けれど……そんなことをしたら、逆に娘の首を絞めることになる。

 だから、カティは未来のアニスのために……公爵家の令嬢として相応しい教養(武器)を与えることにした。



 例え、無知だと嘲られようと、蓄えられた知識で返り討ちにできるように。


 例え、些細な行動を貶められようと、美しい所作とマナーで魅せられるように。


 例え、謂れもない悪意を向けられても……悠然と微笑み、全てを受け流せるように。



 幼い頃から、厳しい教育を受けさせた。

 その選択を選んだことを、間違っているとは今でも思わない。

 そのおかげで、《顔だけ令嬢》なんて悪意ある渾名で呼ばれるようになっても……アニスは公爵家の令嬢として相応しい教養や振る舞いを見せつけているし、勝手に向けられる悪意を受け流せるほどに強くなったのだから。

 けれど、その弊害で……アニスは家族にも、令嬢として相応しい振る舞いを見せるようになってしまった。

 本当のアニスを、晒け出すことがなくなっていた。

 甘えることが、なくなっていた。

 周りの者達だけでなく……アニスにした教育が、更に彼女を成長(大人に)させる一因になってしまったからなのだろう。

 気付いた時には、もう子供らしいアニスはいなくなっていて。



 本当の自分を隠す日々はアニスの心を追い込んでいるのではないかと、もっと子供らしい時間を与えてやるべきだったのではと、心配して悩んだ日もあった。



 けれど、今のアニスは……幼い頃と変わらない素の表情を見せている。

 それはきっと、本当の自分を晒け出せるほどに信頼できる人が隣にいるからで。

 カティは自分の娘が……素を見せられる人がいたことに安堵していた。

 ………………ただ、神獣と気軽すぎる会話をしていることに、ちょっと胃が痛かったが。


「…………お母様、大丈夫ですか?」


 アニスは、呆然としている母親の顔を覗き込む。

 心配そうな顔で見つめられたカティは目尻を軽く拭いながら、柔らかく微笑んだ。


「えぇ、大丈夫よ。アニスに本当の自分を見せられるような人がいたことに、安心しただけだから」

「……………あ……」


 アニスはその言葉に目を見開く。

 母が自分アニスのためにと厳しく躾けてくれたのは理解している。

 戦うための武器を与えてくれたことを、理解している。

 そこまでして、自分のことを心配してくれたからこそ。



 心配をかけたくないと思ったアニスは……家族に本当の自分を見せる(甘える)ことを止めてしまった。



 アニスが素を見せるのは家族ではなく……小さい頃から、それぞれの苦悩を相談し合い、共に協力し合い、互いに励まし合う幼馴染達…………特に、共にいて気が楽なラスティの前ばかりになっていたのだ。


「…………ごめん、なさい……お母様……」


 アニスは小さな声で呟く。

 その謝罪にカティは目を僅かに見開き……申し訳なさそうに顔を歪めた。


「いいえ、いいえ。謝ることではないのよ、アニス。貴女が心配をかけまいと甘えなくなったのは、分かっているわ。ただ……母親として。家族として。ほんの少しだけ悔しくて、寂しかっただけよ」

「…………お母様……」

「ラスティ様の前では、本当のアニスでいられるのね」

「……………はい。それに……ブリジットとラフェルの前でも」


 アニスだけではない。


 ブリジットもブリジットで、神童だと持て囃されることに……際限なく上がっていく理想ハードルに、家族からの期待に、疲弊していた。


 ラスティも、異常なほどに神聖視する者達や、逆に神獣の力を求める薄汚い人間達を間近で見てきて……人を信じられなくなりそうなほど、追い込まれていた。


 ラフェルだって……神獣の対として相応しいようにと、平和な国を維持するために……将来のこの国を背負う重責に押し潰されそうになってきた。


 皆が皆、誰かの前では本当の自分を出さなくて、追い込まれてきた。

 内容は違えど、幼い頃から似たように苦しんできたからこそ……アニス達は互いに分かり合えて、本当の自分でいられたのだ。


「……………そう。では、ラスティ様」


 カティは、アニスの足元に座していたラスティの方に向く。

 そして、その場に膝をつき……ゆっくりと頭を下げた。


「こんなことを言うのは失礼かもしれませんが……どうか、わたくしの可愛い娘を大切にしてください。どうか、アニスの身も心も守って差し上げてくださいませ」


 それは子を思う母の優しさ。

 カティに懇願されたラスティは一瞬驚いたような顔をした後……ふわりと微笑みながら、強く頷く。


「あぁ、勿論だ。アニスは俺が大切にするし、幸せにする。そして……目一杯甘やかそう」

「…………ありがとうございます。よろしくお願い致しますね、ラスティ様」


 アニスは優しい母の言葉に、嬉しさが胸に込み上げる。

 それと同時に……もう少しだけ、家族にも甘えるべきだったのかもしれないと……思った。


 場の空気がしんみりとした後……少ししてから、ラスティがガシガシと器用に頭を掻く。

 そして、「…………さて」と口を開いた。


「少し話が逸れたが……取り敢えず、当初の予定通り、アニスの身の安全について説明をするか。そのために、わざわざ転移までして来たんだから」

「……………そう言えば、そうだったね……」

「……………お前……呼び出した本人が忘れるのか……」


 ぽつりと呟かれたアニスの言葉に、ラスティは鋭い視線を向ける。

 けれど、彼女が「感動的な雰囲気だったから、忘れても仕方ないと思わない?」と反論したことに……それもそうかと納得してしまった。


「えーっと……義理母殿が気にしてるのは、異常なほどに俺を信仰してる奴らやブリジットに傾倒してる奴らについてだろう?」

「………え、えぇ……そうですわ(あら……? ラスティ様はその話を聞いていたかしら……?)でも……アニスとラスティ様の会話で、そこまで心配しなくてもいいと感じておりますわ」

「………まぁ、その通りなんだが。でも、貴女方の娘を頂くんだ。ちゃんと説明するのが筋だろう」


 ラスティの心配りに、カティは感心する。

 どうやら彼は、とても誠実な人柄ようで。

 この人ならばアニスを託しても大丈夫だろうと、安心した。


「ただ……何度も説明するのは手間だから、できれば義理父殿と義理兄殿も一緒の方がいい。アニス、呼んでこい」

「はーいっ‼︎」


 アニスはサロンを出ようとするが……扉を開けた瞬間に中に倒れ込んできて床にぶつかった父と兄の姿に、目をパチパチとさせる。

 そして、足元に転がる二人を数秒観察した後……ゆっくりと振り返るとラスティに告げた。


「なんか、扉の前で聞き耳立ててたみたい」

「…………あぁ……うん。そうみたいだな」

「…………アドニス様……アトラス……貴方達、聞き耳なんて……」


 サロンの壁や扉は分厚いため、外に音は漏れない。

 それが分かっていながら聞き耳を立てていたことに……アニス達は思わず呆れた顔をしてしまった。

 そんな三人のなんとも言えない視線に晒された、アドニスとアトラスは慌て立ち上がる。

 そして、覚悟を決めたような顔をすると……開き直ったように言い訳を始めた。


「だ、だって‼︎ わたしは父親だよ⁉︎ 聞こえなくても、妻と娘が心配でっ……‼︎ って、ラスティ様ぁっ⁉︎」

「あれっ⁉︎ いつの間に⁉︎」


 今更気付いたのか、二人は慌ててその場に跪こうとする。

 ラスティは先程カティにも言ったように「いや、跪かなくていいから」と告げると、ぽつりと呟いた。


「…………なんだろ……アニスみを感じる」

「アニスみとは」

「顔はいいのに、なんか残念」


 そう……アドニスもアトラスも亜麻色の髪に翡翠の瞳を持ち、綺麗な顔立ちをしている。

 だが、どことなく漂う残念感とでも言うのか。

 この親してこの子あり、という感じがありありと伝わってきて。

 アニスはラスティにそう思われていたことに、地味にショックを受けた。


「えぇ……私、残念な子なの……?」


 アニスの悲しそうな声に、ラスティは自分の失言に気づき、慌てながらアニスの頬にもふもふした頭を擦り付ける。

 それは、気軽い関係がゆえに調子に乗って……口が滑り、アニスを怒らせた時や悲しませた時に行う行為で。

 ラスティは、スリスリをしながら慌てて弁解をした。


「いや、アニスに限っては残念って褒め言葉だから‼︎ お前は多少残念なぐらいが可愛いぞ。完璧すぎたら、ちょっと気後れするし。俺が何かしてやることもできないし……だから、アニスはそのままでいいんだ」

「むっ……むむむっ‼︎」


 アニスは僅かに頬を赤くしながらも、素直に喜んでいいのかが分からない言葉に顔をしかめる。

 そして……ラスティの頬を両手で挟むと、むにむにと押し潰し始めた。


「なんか貶されてるのか褒められてるのか分からないし、女の子の扱いがなってない‼︎ それに、もふもふで誤魔化そうとしてるぅ〜‼︎」

「煩い‼︎ こんなこと言うのお前だけだしっ……慣れてないんだから、仕方ないだろ‼︎」

「不器用‼︎ というか、慣れてないとか言っちゃったら少し前の肉食発言はなんなのってなるよ⁉︎」

「それはそれ‼︎ これはこれ‼︎」


 アドニスとアトラスは、娘と神獣の凄く親しそうな会話(姿)に呆然とした。

 アニスがいつもと全然違うことにもだが、神獣ラスティが、実は結構普通な感じなことにも驚きを隠せなくて。

 それどころか、キャーキャーと言い合いをしているが、傍目から見るとイチャついているようにしか見えない光景に……親(兄)馬鹿である二人は我慢できなくなり、勢いよく大きな声で叫ぶのだった。



「「お父さん(お兄ちゃん)の前でイチャイチャするんじゃありませんっっ‼︎ 泣くよっっっ⁉︎」」



「「ふぉっ……⁉︎(※アニスとラスティの驚きの声)」」



 この時、全てを見ていたカティは頬に手を当てながら溜息を零しつつ……心の中で呟いた。





 〝…………この親(兄)馬鹿親子め。娘(妹)が男性とイチャイチャしてるぐらいで泣くとか言うんじゃありません〟……と。








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