守られるだけの弱い女の子じゃない
体調崩しました。
更新されなかったら、体調不良だと思ってください。
暫く不定期かな……?
今後とも、よろしくお願いしますm(_ _)m
今度開かれる夜会にあの四人が参加するーーーー。
その噂が流れ出した瞬間、社交界では様々な思惑が行き交った。
新たな神獣の婚約者に媚び諂おうと画策する者。
婚約者の交代に直談判したい者。
今後どう身を振るかを見極めようとする者。
その他諸々。
何か言えるとすれば……このパーティーで何かが起こることは、確実だということだった。
*****
パーティー当日ーー昼過ぎ頃。
実際にパーティーが始まる時間は夜だったが……準備のために先乗りして王宮を訪れたアニスとラスティは、まず国王に挨拶に向かった。
「よく来たな」
パーティー当日だというのに、執務室で政務を行なっていた国王ジルドレットは、急な訪問者達に柔らかな笑顔を向ける。
アニスとラスティはゆっくりと頭を下げて、挨拶をした。
「ご機嫌よう、陛下。本日は準備のために王宮の一室をお貸し頂き、ありがとうございます」
「こんにちは、国王。俺まで早めに来てごめん」
「気にしないでくれ。神殿はあまり社交界と近くないからな。準備はこちらが手伝った方がいいかと思っただけだ」
「ご配慮、ありがとうございます」
アニスとラスティはゆっくりと顔を上げ……国王の顔を見つめる。
色濃く残る目の下の隈と、疲労感。
若干、カツラもズレかけている気がする。
…………明らかに、国王ジルドレットは疲弊していた。
「…………あの、差し出がましいようですが」
「………ん? なんだ?」
「…………大丈夫か? その、だいぶ疲れているみたいだが……」
「…………あぁ、気にしないでくれ。少しばかり、用事が立て込んでいるだけなんだ」
国王はそう言いながら、執務机の上に置いてあった小瓶から錠剤を出して、口に放り込む。
あまりにも自然な動作に……アニスとラスティは、国王が薬常習犯だというのを察し、ギョッとした。
「だ、大丈夫ですか⁉︎ なんの薬⁉︎ ヤバい薬⁉︎」
「ぶふっ‼︎ 違うぞっ⁉︎ ただの胃薬だっ……‼︎ 国王がヤバい薬になんか手を出す訳ないだろうっっっ⁉︎」
「でも、すっごい自然な動作で薬、飲んでるぞ⁉︎ 日常的に胃薬飲むくらい、国王の仕事って大変なのか⁉︎ なんか手伝うことある⁉︎」
「いやいやいや、大丈夫だ‼︎ 君らは全員、ラフェルと同じ反応をするんだなっっっ⁉︎」
国王は思わず笑ってしまう。
自分の息子が初めて、ジルドレットが胃薬飲んでいるところに遭遇した時も……似たような反応をしていた。
それどころかブリジットの時も慌てながら〝大丈夫なのか〟、〝手伝うことはあるか〟と質問してきたのだ。
あまりにも似た幼馴染四人の反応に……ジルドレットは、笑いを禁じ得なかった。
「ははっ……大丈夫だ。飲むのがつい癖になってるだけだから、そんなに心配しないでくれ」
「「癖になってるって駄目じゃない(ですかね)か?」」
「…………まぁ、大人は色々とあるんだ」
ジルドレットはそう言って、どこか悲しげな……遠くを見つめるような目をする。
しかし、次の瞬間にはその顔に柔らかな笑みを浮かべていた。
「あぁ、そうだ。ラフェルとブリジットが二人に早く会いたがっていたぞ。流石に、私室に行くのは問題だろうから……準備用に与えた客間にラフェル達を向かわせよう。部屋に戻って、待っているといい」
「……………はい」
「あぁ、そうしよう。では、失礼する」
「御前、辞させて頂きます」
「あぁ。またパーティーで」
明らかに話を逸らされたが、アニスとラスティは大人には大人の事情があるのだろうと察し、それに流される。
そして、国王の執務室を辞して……侍女の案内の元、客間へと戻る。
その途中で、アニスはラスティに念話をした。
『………………なんか、隠してたよね?』
『…………あぁ。でも、語る気はないらしい。全部終わったら、話すって言ってたけど』
『ふぅん……なら、このパーティーにも何かある感じかな?』
ラスティはその言葉に思わず反応してしまいそうになるが、なんとか堪える。
ラスティ達がしようとしていること……ブリジット信者達の尻尾を掴むために、アニスを囮にしようとしていることを、本人に知られたら……逆に本人が頑張りすぎて、余計なことに首を突っ込み、怪我をしてしまう可能性が高い。
ラスティは大切な幼馴染であり、婚約者である彼女を守るために……誤魔化すような笑みを浮かべた。
『さぁ? 分からないが……お前は大人しく俺と一緒にいろよ? 俺とアニスが、ラフェルとブリジットが婚約者になったことは間違いじゃないって証明するためのパーティーなんだからさ』
『…………うん、そうだね。仕方ないから……今回は、ラスティの想いに免じて、気づかなかったフリしてあげる』
『…………………』
ラスティはぎこちない動きで隣を歩くアニスを見つめる。
その視線に気づいた彼女は、目を瞬かせた後……にっこりと綺麗な笑顔を浮かべていて。
その笑顔で、アニスが自分達が隠し事をしていることに気づいていることを理解する。
ラスティはぶわりっと冷や汗を掻きながら……恐る恐る質問した。
『………………まさか……知って……?』
『ラスティが私を介して、私の周りの会話を聞き取れるように……私も同じことができるって考えなかったの?』
『…………………あっ……』
そう言われて、彼は思わず頭を抱えたくなる。
アニスは神獣と相性が良い。
神獣の力が使えるということは、ラスティにできることが……アニスも可能ということで。
あの、夜の密会は彼女には知らせなかったが……ラスティを介して、内容を盗み聞きしていたのだろう。
『アニスっ……これはっ……‼︎』
『まぁ、確かに? ラスティ達の予想通り、私は幼馴染のためなら無茶しちゃうかもしれないけどさ? 私もそこそこ成長したから……そこまで無鉄砲なことはしないよ?』
『……………うぐっ……でも……アニスが無茶なことして、ほんの少しであろうと傷つくのは……嫌なんだ……よ』
『…………ラスティ』
『…………大切な女の子だから、守りたいんだ』
真剣な声音に、アニスは頬を緩ませる。
そして、彼の身体に近づいて……その頬を軽く撫でながら、彼女は呟いた。
『んもぅ。聞いてなかったの? 今回だけはラスティの想いに免じて大人しくしてあげるって、言ったでしょう? ラスティが私のこと、心配してくれたのは……嬉しかったから。でも、これだけは覚えておいて?』
ピタリっと動きを止めたのにつられて、ラスティも足を止める。
その瞬間にアニスは彼の耳元に唇を近づけて、小さな声で呟いた。
「私は守られるだけの弱い女の子じゃないから、今度からはちゃんと協力させてね?」
そう言って笑うアニスは、とても凛としていて……とても美しくて。
アニスは固まったラスティを置いて、先を歩いている侍女を追う。
少ししてハッと我に返ったラスティは〝あぁ、敵わないな……〟と心の中で降参しながら……慌ててその後を追うのだった。




