慣れようタイム
前回(?)ここ最近(?)シリアスだったからね。
時には甘い(?)話をぶち込んでみよー‼︎
では、よろしくどうぞっ☆
午後の、ラスティとする訓練の時間ーーーー。
アニスは唐突に彼に声をかけた。
「ねぇ、ラスティ。訓練さ……今日はここまでにしちゃ駄目かな……?」
「……………ん?」
ラスティはその言葉に目を瞬かせる。
彼女が神殿で暮らし始めてそこそこな日にちが経ったが……今の今までこの訓練の時間を縮めたり、怠ったりすることはなかった。
ラスティは〝珍しいな……?〟と思いながら、首を傾げた。
「別に構わないが……体調でも悪いのか?」
「ううん。ちょっと……その……」
「……………アニス?」
「…………あの、ね?」
歯切れの悪い言葉と、徐々に赤くなっていくアニスの頬。
じんわりと潤んだ彼女の翡翠色の瞳に、ラスティは無意識に喉を鳴らす。
そして…………。
「……………ラスティと二人っきりになりたくて……」
「ングッ‼︎」
アニスから放たれた言葉で、噴き出した。
「ゴホゴホッ……‼︎」
「ラスティ⁉︎ 大丈夫っ⁉︎ ここ最近、凄く噎せてるねっ⁉︎」
アニスは咳き込むラスティの背中をさすりながら、言う。
しかし、ラスティは恨めしい視線を彼女に向けた。
「いやっ……今回のはアニスが悪いっ‼︎ いきなり〝二人っきりになりたくて……〟なんて言われたら、驚くし、噎せるわっっっ‼︎」
「……………へ? なんで?」
「なんでぇ⁉︎ そりゃぁ、変な意味かと思っちゃったからだろうがっっっ‼︎」
「………………………………ふはぁっ⁉︎」
最初は無言だったアニスは、ラスティが言わんとしたことの意味を理解した瞬間、貴族令嬢らしからぬ声を出しながら、顔を真っ赤にする。
そして、慌てて首を振って否定した。
「ち、違うよっっ⁉︎ そういう意味じゃないからねっっっ⁉︎ ラスティに慣れるための時間が欲しいってだけでっ……‼︎」
アニスが二人っきりになりたいと言ったのは、純粋に……意識しすぎて上手く接せないため、少しでも慣らそうと共に時間を過ごしたいという意味だった。
ラスティはたどたどしい言葉から、彼女が行ったことの意味を理解して……少し落ち着いた。
「あぁ……そういう。なるほどな。アニスって結構、俺の身体をもふもふするの好きだもんな。神獣姿でも意識しすぎて上手く接せないから……もふもふ不足にでもなった感じか?」
「そ、そうだよ‼︎ そうなのっ‼︎ そうなんです‼︎」
「何それっ、その三段活用(?)っっ⁉︎ お前、地味にテンパってるなっっ⁉︎」
「テ、テンパってるに決まってるでしょぉっ⁉︎ だっ、だって……ラスティが変なこと言うから‼︎ 私の言葉がそういう意味だと思っちゃったとか言うからぁ‼︎ なんでそんなこと、素直にぶっちゃけちゃうのかなぁっっ⁉︎」
「ぐふっ……‼︎」
顔を真っ赤にしたアニスに言われ、ラスティは呻きながら顔を真っ赤にする。
確かに、ラスティは彼女の言葉を変な意味かと思ってしまった。
しかし、それは……思春期男子ならば、仕方のないことでもあった。
「し……思春期だから、仕方ないだろ‼︎ 一応、俺も男なんだから‼︎ 偶には、そんなこと考えちゃうことだってあるし、動揺してぶっちゃけることもあるって‼︎」
「ふにゃぁ⁉︎ そ、そんなこと言われても……逆に困るぅっ‼︎ 慣れようとしてるのに、また意識しちゃうぅぅ‼︎」
「止めろぉぉぉ‼︎ こっちまでなんかっ……こうっ……困るだろぉぉぉっっ‼︎」
顔を真っ赤にしながら、ギャーギャーと叫び合うアニスとラスティ。
本日の護衛係であるティーダは、そんな二人を見て……どこか遠い目をしながら、呟いた。
「あっっっまっっっ酸っぱ……なんで、幼馴染同士(?)なのにこんなに関係性に差があって、オレらはこんな風になんねぇのかな……いや、絶対、あのハティアの所為だな……うん……」
ティーダの声は、何故か無駄に哀愁漂っているのだった……。
*****
中庭の言い合いから数十分後ーーーー。
庭で騒いでいたこともあって、神官達に生温かい視線を向けられるようになり始めた頃……アニスとラスティは周りの視線に気づき、慌ててラスティの部屋へと戻った。
ティーダは空気を読んで既に廊下で待機済みであり、部屋にはアニスとラスティの二人っきり。
互いに沈黙を保ちながら……気不味い空気が流れていた。
「「……………………」」
チラリ、チラリと互いに視線を向けては逸らすを繰り返して更に数十分。
先に動き出したのは……ラスティの方だった。
「…………アニス」
「ひゃ、ひゃいっ‼︎」
「…………そんな赤くなるなよ……ほら。俺に慣れるんだろ? どうすればいい?」
ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、ラスティはそう問う。
なんだかんだと言って……今までスキンシップ過多であったのに、一気に減ったことに……ラスティも多少は寂しさを覚えていたのだ。
アニスの心の整理がつくまでは、幾らでも待とうとは思っていたが……彼女自身が、自分に慣れるために行動しようとしてくれたのならば、それに乗らない手はなかった。
「…………えっと……慣れる……慣れるために……」
「考えてなかったのかよ」
「………だってぇ……」
アニスは涙目になりながら、黙り込む。
大胆な行動力ばかり見せていたアニスとは思えないぐらいの、ポンコツ具合。
ラスティはそんな彼女を見て……苦笑を零しながら、提案をした。
「そう言えば、さっきもふもふ不足って言ってたよな。なら、神獣の姿のまま、触れ合うか?」
「う、うんっ‼︎」
「あぁ、でも……人型の方が、慣れるのが早いかもしれなーーーー」
「っっっ⁉︎ 人型は駄目っっ‼︎ 刺激が強すぎるっっ‼︎」
顔の前で両手をクロスさせながらバツを作るアニス。
ラスティはクスクスと笑いながら、答えた。
「ふはっ……だろーな。冗談だよ」
「…………………はぁっ⁉︎ 揶揄ったのぉっ⁉︎」
「だって……すっげぇ、照れてんだもん。俺は多少落ち着いてきたけど……お前が照れたままだと、また引きずられそうで。どうだ? 揶揄われて、少しは落ち着いたか?」
「………………………悔しいけど、少しは落ち着きました……」
そう悔しそうに呟いたアニスの頬は、先程よりは赤みが落ち着いていて。
彼女は少しムスッとしながら……ラスティがいつも座っているラグの上に座り、彼に向かって両手を開いた。
「んっ‼︎」
「…………ん?」
「私から行くのは勇気いるから、ラスティから来て‼︎」
「ごふっ……‼︎ それはそれで、俺に勇気がいるだろうがっ‼︎」
「良いから、来て‼︎」
ぷくりっと頬を膨らませたアニスは、一向に引く気がないらしい。
ラスティは声にならない呻きを漏らしながら、視線をあっちこっちに彷徨わせる。
しかし、少ししたら覚悟を決めたように……緩慢な動きで、アニスの腕の中へと向かっていった。
顎を彼女の肩に乗せ、重い身体で押し潰してしまわない程度だけ寄りかかる。
そうすればアニスはゆっくりとラスティの首に腕を回し……スリスリとそのもふもふ身体に顔を擦り寄せる。
温かい体温と、ほんのりと感じる太陽と草の香り。
そして……トクトクと早く脈打つ鼓動。
落ち着かないのに、落ち着く。
恥ずかしいのに、嬉しい。
そんな難しい気持ちになりながら……アニスとラスティは互いに身体を寄せ合う。
「……………なんか……一生、慣れそうにない気がしてきた……」
「………奇遇だね。私もだよ……」
そうは言っても……二人は互いに離れようとはしないのだった。




