真夜中の、男達の密会
男性陣が真夜中にコソコソと何かやっているようです……。
シリアスだよ☆
よろしくねっ☆
ある日の夜深くーーーー。
王宮の一室。
一握りの者しか知らさせていない、密会用の応接室にて。
国王ジルドレットと、王太子ラフェル……そして、レーマン公爵アドニスは、一人用のソファに座りながら、長テーブルを挟んで顔を合わせていた。
そんな中、黄金の光が放たれながら神獣ラスティが現れる。
ラスティは、先に来ていた三人の顔を見て、軽く頭を下げた。
「すまない、遅れたか?」
「いや、大丈夫だ。約束の時間には少し早いから」
ラフェルはそう言って、事前に用意しておいたラグの上にラスティを座らせる。
全員が揃ったのを確認したジルドレットは……ほんの少し疲れたような顔で、笑った。
「本当は……皆で酒でも飲めたらよかったんだが……そうは簡単にはいかないな」
「それはまたの機会にしましょう、陛下」
「あぁ……そうだな、レーマン公爵。では、早速本題に入ろう。回りくどいのは好かないんだ」
ジルドレットの顔が国王のモノへと変わり、場の空気が一瞬で張り詰めたものに変わる。
静まり返ったその応接室の中で……国王は、ゆっくりと口を開いた。
「今度開かれる夜会で、アニス嬢を囮にし……ブリジット信者達の手がかりを掴みたい」
ラスティは事前に聞いていたため驚かなかったが……親馬鹿でもあるアドニスまでもが驚いていなかったことに、少し驚く。
神獣の視線に気づいたアドニスは、レーマン公爵の顔を崩さずに肩を竦めた。
「わたしも、事前に聞かされている。この間、王宮に招ばれたからな」
「…………なるほど……」
どうやら……この間、レーマン公爵家に顔を出しに行った時にいなかったのは、この話を事前にされていたかららしい。
そして、事前に話していなかったら……きっとスムーズに話は進まなかっただろうと、ラスティは納得する。
「本当は……反対したいですし、こんなことを娘にさせたくはない。どこに娘を危険を晒したがる親がいるものか」
「……………義理父殿……」
「だが、国王が口にしたということは、もう決まっているも同然でしょう。どうやら……国王陛下はわたしでは分からないようなことを分かっている……知っているようですから」
「…………………」
国王と公爵の間に冷たい空気が流れ、場の空気が一気に数度下がるような錯覚を覚える。
そこで向かい合うのは……気が知れた友としてではなく、あくまで国王と公爵として。
鋭い無言の応酬を交わす国王ジルドレットとレーマン公爵の姿に……ラスティとラフェルは、ごくりっと喉を鳴らした。
「教えて頂けませんか? 国王陛下」
「………………」
「その無言は、どちらでしょうな」
「…………レーマン公爵。貴殿は、バタフライ効果という言葉を知っているか?」
「……………バタフライ、効果……?」
「……分かりやすく言えば、初期条件の僅かな差が、後の結果に大きく影響を与える……という意味だ」
「…………つまり?」
「知る人が多ければ多いほど、後の結果がどうなるか分からないんだ。だから、今のわたしは何も語らない」
国王ジルドレットはそこで言葉を区切る。
そして……一度大きく息を吐いてから、再度口を開いた。
「アニス嬢の身が危険になるかもしれない。だとしても……リスクを背負ってでも、奴らを早々に制圧しなければいけないんだ。分かってくれ」
ジルドレットの目には、強い光が宿っていた。
その目が言外に語るのは、何かを知っているが……それを教えることはできず。
どんな手段を取ってでも、ブリジット信者達を制圧しなくてはいけないと国王が判断しなくてはいけないほど、危険だということ。
アドニスは国王を探るように見つめるが……暫くして、肩を竦めながら溜息を零した。
「…………はぁ……語る気はないのですね」
「あぁ」
「ならば、仕方ありません。万全の態勢で挑みましょう」
「………………すまない」
「いいですよ。事前に教えてくれて、気持ちを整理する時間をくれましたし。わたしは王の臣下です。国王陛下の決定に従う他ない」
「…………全てが終わったら、全てを教えよう」
「それだけが聞けただけでも僥倖です」
張り詰めた空気が緩み、ほんの少しだけ温度が戻った感覚がする。
ラスティとラフェルは、ホッと息を吐く。
そして……自分達がこの場に呼ばれた理由を問うために、口を開いた。
「…………それで? 俺らが呼ばれたのは、アニスの囮作戦でどんな役割を与えたいからだ? 国王陛下」
「役割を与えたいだなんて……まぁ、素直に言ってしまえば、アニス嬢の護衛をやって頂きたい」
「…………言われるまでもなく、守るに決まってるだろ。アニスは俺の婚約者だぞ。傷一つ付けるものか」
「それは安心だ。しかし……ラフェルから、当の本人に囮作戦のことは話さない方が良いと言われたのですか……」
「っっ‼︎ まさかっ……‼︎ アニスにもう囮作戦のこと、話したりしてないだろうなっ⁉︎」
ラスティはギョッとしながら、ジルドレットに牙を剥く。
滅多に見ない神獣のその姿に、ジルドレットとアドニスは目を見開き……慌てて首を振った。
「まさか‼︎ ラフェルから話すべきではないと言われましたし……‼︎」
「神殿に入ってから、わたしも会っていない‼︎ 伝えようがない‼︎」
二人の本気の否定にラスティは嘘はないと判断し、「はぁ〜……よかった」と、安堵しながら大きく息を吐く。
ラフェルは、彼がここまで反応した理由が分かってしまい……困ったように苦笑した。
「どちらかと言えば、アニス嬢と接点が一番多いのはラスティだろう? 君が一番、気をつけるべきだ」
「俺がそんなミスする訳ないだろ。もしそうなりそうだったとしても、誤魔化せる自信がある」
「それもそうか」
ラスティとラフェルは訳知り顔で話を続ける。
普通であれば、囮となってもらうアニスに伝えるのが当然なのだが……どうして、一番危険な目に遭うかもしれないのに、そこまで伝えるのを止めるべきだと言うのか。
ジルドレットは険しい顔をしながら、質問した。
「だが、やはり……アニス嬢を囮にすると伝えるべきでは? 何も知らずにいたら……」
「父上……我々四人、幼馴染〜ズがなんて言われてるかご存知でしょう? 過激派幼馴染ですよ」
「今回の目的はブリジット信者達の手がかりを掴みたいがためだろう? 要するに、ブリジット関連のことだ。つまり……」
「「アニス(嬢)のことだから、ブリジットのためにいつも以上に張り切っちゃって、逆に余計な危険に首を突っ込みに行きかねない‼︎」」
「「……………………」」
ジルドレットとアドニスは〝まさかぁ……〟と思いながら、無言になる。
しかし、普段は温厚なブリジットがアニスを害そうとした貴族子息を拳で黙らせた件を思い出し……もしかしたら、あり得るかもしれないと思ってしまった。
「…………アニス嬢が張り切って、逆に危険なことに首を突っ込ませないためにも……」
「アニス嬢には伝えない方が得策です。ついでにブリジットにも。アニス嬢を囮にするなんて知ったら、殴られますし……ブリジットまでも、アニス嬢を守るためにって首を突っ込みにかねない‼︎」
「…………ラスティ様……」
「大丈夫だ、義理父殿。アニスは俺が守る。危険な目に遭わせるものか。信じてくれ」
子供達の力強い説得に、大人達は納得する。
そしてーーーー。
その後、男達の秘密裏な囮作戦は、アニスとブリジットに伝えない方向性で、内容を詰めることになるのだった…………。




