幕間・母は敏し
短くて、ごめんね……。
今後とも〜よろしくねどうぞ‼︎
カティは、目の前のソファに座った娘とその婚約者の姿に……心の中で驚いていた。
第三者から見ても、アニスはラスティとラフェルを異性として意識していなかった。
しかし、今の姿はどうだ。
以前会った時よりも、その纏う空気が違っている。
意識してないが故の距離の近さだったのに、今はほんの少し距離が置かれていて。
それどころか……カティに話をしているというのに、チラリチラリと互いに目を向けたり。
動いて互いの距離が少し近づけば、分かりやすく反応し、互いにほんのりと頬を赤くする。
まるで互いに意識し始めた初心な恋人のような……甘酸っぱい空気ではないか。
自分の娘ながら、〝この子、大丈夫なのかしら? このままいったら、婚姻しても幼馴染意識のままで、子作りとかで一悶着起こしそうだわ……〟と思うことが多々あったが、たった数日で娘は変わったらしい。
それを喜ばしいと思いながらも……一体何があったら、お子様(?)思考だったアニスが変わったのだろうとも思った。
一つ言えるならただ一つ。
(アドニス様とアトラスがいなくて良かったわね……)
カティは心の中で苦笑を零す。
今日は偶然にも、アドニスは国王に招ばれて王宮に行っており……アトラスは昨日、レーマン公爵領に戻ってしまったばかりだった。
アニスが父兄に会えないのは運が悪かったとしか言えないが……二人(とラスティ)にとっては運が良かったとも言えるかもしれない。
(きっと親(兄)馬鹿である二人は、ラスティ様がアニスに何かしたと思って……喧嘩を売りそうだわ)
その予想は強ち間違いではない。
アドニス達は、隠すまでもなく親(兄)馬鹿だ。
娘(妹)の様子が変われば、その婚約者が何かしたのだと思い……「何をしたんだぁぁぁぁぁ‼︎」と喧嘩に発展するだろう。
カティは簡単に夫(息子)がしそうなことを想像できてしまったことに溜息を零しながら……ティーカップを傾けた。
(…………アドニス様達には黙っておきましょう。面倒事の予感がするもの)
カティはそう思いながら、観察をする。
むず痒そうに、恥ずかしそうに……でも、嬉しそうに。
恋、とまではいかなさそうだが……互いに意識していることを隠そうとしない、アニスとラスティ。
(聞くのは簡単だけれど……下手に突かない方がいいでしょうね。なんだか、この二人は不器用そうだもの……拗れたら大変だわ)
カティは長年の勘でそう判断し、敢えて何があったのかは聞かないことにした。
母親として願うのはただ一つ。
どうか、娘が幸せになれますようにーーーー。
カティは、娘から語られる神殿での暮らしを笑顔で聞いていた。




