実家に帰らせて頂きます
クッキー焼いたり、餃子焼いたりしてたら、予約投稿するのわすれちゃった☆
遅くなってごめんなさい‼︎
前話にちょっと継ぎ足しをしたよ‼︎
今後とも〜よろしくどうぞっ‼︎
朝、アニスが悲しい夢を見て泣いてしまうということは起きたが……着替えを済ませ、祈りの時間を終え、朝食の時間になった頃ーーーー。
アニスは思い出したように、人型になったラスティに告げた。
「そうだった。今日、実家に帰らせて頂きます」
「ゴホッッ⁉︎」
ラスティは唐突に婚約者から言われた言葉に、口に含んでいた紅茶を噴き出しかけた。
彼はゴホゴホッと咳き込み、涙目になる。
(少しずつ慣れてきてはいるが……)恥ずかしさから食事の席ではちょっと距離を置いてるアニスは、そんなラスティを見て……いつもと違い、慌てて彼の背中をさすった。
「ラスティ、大丈夫⁉︎ なんか飲み物いる⁉︎」
「い、いや……大丈夫だっ……‼︎ じゃなくてっ‼︎ 唐突になんだ⁉︎ やっぱり、神殿内で何かあったのか⁉︎ 誰かに虐められたとか⁉︎」
「へ? なんで? ただ、顔を出しに行くだけだよ?」
キョトンとしながら首を傾げたアニス。
その顔に深刻な様子は感じられない。
どうやら、本当にレーマン公爵家に顔を出しに行くだけのつもりらしい。
…………確かに、アニスの父親であるアドニスに、週一ぐらいの頻度で神殿を抜け出して、帰るつもりだと伝えていた。
しかし、〝実家に帰らせて頂きます〟と言うのは、間違ってはないんだが……微妙に間違っている気がした。
ラスティは眉間にシワを僅かに寄せ……呆れたように息を吐いた。
「…………アニスさん」
「なぁに?」
「今の台詞は、なんというか……この場所に居たくない的な感じに聞こえるから。二度と、帰って来る気がないように思えるから。……普通に実家に顔出してくる程度にしてくれないか……?」
「んぅ?」
「あぁ……うん。分からないんだな。まぁ、いいか。〝実家に帰らせて頂きます〟は俺が驚くから、止めてくれってこと」
「………んー? 分かった」
アニスは今だに不思議そうに首を傾げていたが……取り敢えず頷いてもらえたことに、ラスティはホッと安堵の息を零す。
そして、思い出したように告げた。
「あぁ、そうだ。一応、俺もついて行くぞ」
「え? ラスティも? いいの? 神獣なのに、神殿出て……」
「今までだって、結構息抜きがてら勝手(誰かに言ったら、護衛とか面倒になる)に抜け出してるから問題ない。それに、大事はないだろうが……アニスに何かあったら、心配だからな」
「えぇ? 転移で実家に帰るぐらいで、そこまで心配しなくても……」
「駄目だ。転移であろうが何であろうが……今のアニスは最重要人物に名を連ねてると言っても過言じゃない。それに、アニスの父君にアニスを守るって約束したからな。どんな時でも側にいて、守りたいんだ」
アニスは真っ直ぐに見つめられ告げられる言葉に、頬を赤くする。
ラスティが自分のことをそこまで想ってくれるのが嬉しくて……しかし、むず痒い気もして落ち着かない。
彼を男性だと意識して、少しずつ慣れてきた気もしたが……やはり、まだまだ完璧に慣れそうにはない。
アニスは少し恥ずかしそうにしながら、小さな声で呟いた。
「…………私のこと、考えてくれて……ありがとう……」
「あぁ、どう致しまして。午前はハティア達の授業があるから……午後に行こうな」
「……うん、よろしくね」
ラスティは彼女の頭を優しく撫でる。
アニスは頬を赤くしながらも、大人しくそれを受け入れていた。
*****
午後のお茶の時間。
レーマン公爵夫人であるカティは、サロンでお茶を飲みながら窓から見える庭を見つめていた。
「アニスは大丈夫かしら……神殿で、辛い思いなどをしていないかしら……」
「奥様……」
長年レーマン公爵家に仕える侍女長ジーナは、レーマン公爵家の令嬢アニスが神殿に行った日から、ずっと娘を心配し続ける母に心を痛める。
しかし、ジーナもまた、カティと同じ気持ちだった。
仕える一家の令嬢であれど……アニスを幼い頃から見てきたのもあって、侍女長にとってもアニスは自らの娘のような大切な存在だった。
ジーナはカティを、自分を納得させるためにも……言葉を紡ぐ。
「大丈夫ですわ、奥様。アニスお嬢様にはラスティ様がいらっしゃいます。きっと、辛い思いなどしておられないはずです」
「そう、よね……そうだといいわ」
「えぇ。きっとそのはずですわ」
カティはジーナが入れた紅茶を飲もうと、ティーカップを傾ける。
しかしーーーー。
「ただいま帰りました」
「ゴホッ⁉︎」
唐突に聞こえた帰宅の挨拶&急に目の前に現れたアニス(とラスティ)の姿を見て、貴族女性らしからぬ噎せ方をした。
「ゴホゴホッ……‼︎」
「だ、大丈夫ですか⁉︎ お母様っ……‼︎」
「奥様っ、こちらをお使いくださいっ……‼︎」
カティは侍女長から差し出されたハンカチで口元を覆いながら、あわあわと動揺するアニスに視線を向ける。
そして、今だに本調子ではなさそうでありながらも、勢いよく立ち上がり、ガシッと娘の肩を掴んだ。
「どうしたのっ、アニス⁉︎ 急に帰って来るなんて……‼︎ 何か神殿で嫌なことでもっ……ラスティ様に何かされたのっっっ⁉︎」
「義理母殿。流石に本人を前にして言うもんじゃない」
「違いますよ、お母様。単に顔を見せにきただけです」
「でもっ……神殿に入ったら、簡単には帰ってこれないのでは……?」
「俺の言葉はまさかの無視か……」
ラスティは困ったように苦笑する。
しかし、今回ばかりは仕方ないだろう。
娘の心配をしていたら、実際に娘が何の連絡もなく、いきなりレーマン公爵家へと転移したのだから。
心配そうにする母を不思議に思いながら……アニスは答えた。
「確かに、私の身の安全のために神殿に入ったんですし……警備の都合上、神殿にいなくちゃいけないというのもよく分かります。だけど、お母様。私達は転移が使えるんですよ?」
「…………あっ‼︎」
「つまり……秘密裏に抜け出すくらい、簡単にできます」
「っっっ‼︎」
カティはそう言われて、目から鱗と言わんばかりの顔になる。
そして、脱力したようにソファに座り込み……眉間を揉みながら、叫んだ。
「やられたわっ……‼︎ 確かにその通りよねっ……⁉︎ もう滅多に帰ってこれないと思っていたわっ……‼︎」
「お父様と同じこと言ってますね」
「アドニス様もご存知だったのっ……⁉︎ 知ってて黙っていたなんてっ……人が悪いわっっ‼︎ いや、でもっ……勝手に出てきたら駄目でしょう……⁉︎ 何かあったら、大変じゃない……‼︎」
「だから、俺が一緒なんだが……」
「⁉︎ ラスティ様っ⁉︎」
カティはそこでやっと、娘の婚約者の存在に気づく。
彼は苦笑しながら、告げた。
「本当に今気づいたんだな……。というか、義理母殿もやっぱりアニスの親だな……同じアニス味を感じる……」
ラスティはついでと言わんばかりに、自分もよく誰にも言わずに神殿を抜け出すことやら……アニスが神殿から出た時に護衛を兼ねて、今後も共に行動するつもりだということを伝える。
カティは、人間よりも遥かに凄い力を使える神獣がアニスを守ってくれるならば……こうして外に出るのも問題ないだろうと納得する。
しかし、親としては子供達の行動に少しだけ苦言を呈した。
「……確かに息抜きは必要かもしれないけれど。今度からは事前に連絡をするとか、神殿関係者の誰かに一言伝えるとかしなくちゃ駄目よ?」
「大神官は俺の抜け出し癖を知ってるから問題ないと思う。連絡しなかったのは……アニスが悪いな」
「…………ですね。今度からは事前に連絡します」
「えぇ、そうして頂戴。だけど……」
カティはそこで言葉を区切り、柔らかく微笑む。
そして、娘の頭を撫でながら、優しく告げた。
「会いにきてくれて嬉しいわ。ずっと、心配していたから……元気な貴女の姿を見れて、良かった」
「…………お母様……」
「さぁ、神殿でのこと……色々と聞かせて頂戴」
「……………はいっ‼︎」
アニスは母の言葉に、笑顔で頷いた。




