幕間・それは、誰かの記憶
………シリアス……。
ほのぼのは、どこへ行ったんだぁ……。
でも、もう察してる人は察してるだろうけど……伏線(?)のためには必要だし……。
最初の予想よりシリアスになっちゃって、困るね。
まぁ、苦手な人は逃げるということで‼︎
今後ともよろしくどうぞ☆
何度も響く爆発音。
パチパチと、業火の炎で燃え落ちる王都。
焼け焦げた匂い、物言わぬ骸と化した人々。
地獄という表現がピッタリなその場所で、炎を纏った彼女だったモノは軽やかに王宮の廊下を歩きながら、嘲笑をあげる。
『あははっ‼︎ あはははははっ‼︎ みんな、みんな‼︎ 燃えてしまえ‼︎』
踊るように。
嘲るように。
それはクルクルと回りながら、更に王都を、王宮を燃やしていく。
何が起きているかを分かっているのは、ほんの少しの人々だけで。
死んでいた大多数は、何も知らずに……理不尽に死んでいった。
そして……残された人々も、このまま抗う術なく同じ道を辿るしか…………。
「***っ……‼︎」
ガシャン‼︎
しかし、災厄の化身を取りおさえるように、唐突に出現した黄金色の鎖がそれを縛り付け、動かないように拘束した。
それは緩慢な動きでゆっくりと振り返り……黄金を纏った獣に笑いかける。
そして、その目に憎しみの感情を宿しながら、口を開いた。
『あぁ、我らを封印した憎き獣の血族か』
「何をっ……何をしているんだっ‼︎ ***っ‼︎」
『***? あぁ、この器の名前だったかな。残念なことに……***はいない。我がこの器を奪った時に、殺してしまったからな』
「なっ……⁉︎」
『だが、我が手を出さなくても……いつかは***は消えていただろうな』
クスクス、クスクス。
その美しい顔を醜く歪めながら、それは笑う。
『誰も味方がおらず、理不尽に向けられる悪意に追い込まれ。誰にも頼ることもできず、ただ一人で我慢するのみ。家族も、幼馴染と言える者達も、誰もこの器を助けようとしなかった。だから、この器の心は傷ついて、血を流して、死にかけて。その弱ったところを狙われて、我に身体を奪われた』
「…………つまり、俺達の所為だと言いたいのか‼︎」
『あぁ、そうさ‼︎ お前達は全員、上っ面だけの関係だったからな‼︎ この器も助けを求めることができなかった‼︎ この器を想ってくれる者などいなかった‼︎ あぁ、しかしだ‼︎ この器に向けられた悪意は、全て我々の仕組んだことであるがな‼︎』
「なっ⁉︎」
『だって、仕方ないだろう? 絶望して、心が死ぬほどに追い込まれなければ……我はこの器を奪えなかったのだから‼︎』
ゴウッッッ……‼︎
燃え盛る炎柱が、それの背後に出現し、その薄朱色の髪を揺らす。
そして……それはにっこりと笑って、美しき獣に告げた。
『さぁ、我をこの世界から追い出した……我ら魔族を封印した血族の末裔よ。どうか、我が手で死んでくれ。それが我が復讐となるだろう』
「…………ふざ、けるな……ふざけるなぁぁぁぁ‼︎」
『あははっ……あはははははははっ‼︎』
爆発と共に、それと獣の闘いの火蓋が落とされ……。
燃える王都の中、笑い声と叫び声が反響した。
*****
「んぅ……」
窓から差し込む柔らかな日差しに意識を覚醒させたアニスは、暫く天蓋付きの寝台の上で……自身の目尻から零れ落ちる涙を拭いながら、ゆっくりと起き上がった。
トントントンッ……。
「失礼するわね〜」
起きてないことを前提とするからか、ノックはしても返事を聞く前に部屋に入って来るハティア。
ハティアは寝台の上でポロポロと涙を零すアニスを見て、ギョッとしながら慌てて駆け寄った。
「アニス様っ⁉︎ どうしたのっ⁉︎ 何か嫌なことでもあったのっ……⁉︎」
「ハティア……」
「ちょっとラスティ様ぁぁぁ‼︎ 貴女の大事なアニス様がボロ泣してるわよぉぉぉぉぉぉぉお⁉︎」
「大丈夫かっ‼︎ アニスっっっ‼︎」
ハティアの叫び声に反応したのか、ラスティが転移をしてくる。
彼は、実際に泣いている彼女を見て……ハティアと同じようにギョッとしながら、慌てて寝台へと飛び乗った。
「どうした、アニス⁉︎ なんか、悲しいことでもあったのか⁉︎ それともここでの暮らしが嫌になったのかっ……⁉︎」
「………ラスティ……あのね………。なんか、嫌な夢を見てた気がしたんだけど……忘れちゃった」
アニスはふにゃりと笑って、彼のもふもふした身体を抱き締める。
そこに顔を埋めたまま、呟く。
「…………なんか、悲しくて。苦しくて、辛くて……どうしようもなかったんだけど……起きたら覚えてなくて。でも、悲しい夢だってのは覚えてたから……つい、涙が出ちゃったの……」
「つまり……実際に何かあったんじゃなくて。嫌な夢を見ちゃったってことだな?」
「…………うん。ごめんね……心配かけて……」
ラスティはそれを聞いて、ホッと息を吐く。
泣くほどの悲しい夢というのは、それはそれで辛いだろうが……実際に神殿での暮らしに何かあった訳ではないことに、安堵した。
ラスティは彼女を慰めるように、その長い尻尾で頬を撫でる。
そして、とても優しい声で……告げた。
「実際に……アニスに何か辛いことがあった訳じゃなくてよかった」
「…………うん……」
「大丈夫だ。所詮、夢は夢。実際に夢みたいなことが起きる訳じゃない。だから、泣くな」
「………………うん……」
アニスは身体を抱き締めたまま……頷く。
ラスティの言葉、どうしてだか素直に信じられる気がした。




