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家族への説明大会(1)


長くなっちゃいそうなので、(1)。

シリアス……な空気かと思ったら、何故かシリアスブレイクしました。自分で書いときながら、謎だぜ‼︎


まぁ、よろしくどうぞっ‼︎

 







「という訳で。ラスティ様の婚約者になりますので、明日から神殿で暮らしますね」

「「ごふっ⁉︎」」




 その言葉に、父親であるアドニスと兄のアトラスは、口に含んでいた紅茶を勢いよく噴き出した。


 幼馴染四人で軽くお茶をした後に帰宅したアニスは、早々に婚約者が変わった件を伝えた方が良いだろうと……サロンでお茶をしながらアニスを待っているらしい父達の元へ直行した。

 今日は運が良いことに……王宮で働く父が休みであったし、領地で代行領主を務めている兄も王都のタウンハウスに報告がてら顔を出しに来ていた。

 普段、離れ離れだったり、仕事が忙しかったりで顔を合わせる機会が少ないからこそ……今、家族が揃っているのは、またとないタイミングだった。



 そして、サロンに入ったアニスが放った第一声が……「ただいま」よりも先にコレだったのである。



 衝撃的すぎる一言に、二人が紅茶を噴き出してしまうのは……仕方のないことだった。


「あらまぁ」


 ゴホゴホっと咳き込む父と兄の隣で、のほほんっと頬に手を当てるのは母親であるカティ。

 唯一、動揺していなかったらしい彼女は、困ったように苦笑しながら……壁際に控えていた侍女に視線を向けた。


「じゃあ、直ぐに侍女に準備をさせなくちゃいけないわね」

「いやいやいやっ‼︎ 何をカティは普通に反応してるかなっっっ⁉︎」


 アドニスはサラッと娘の一言を信じて、そのまま準備を始める妻に思わずツッコミを入れてしまう。

 けれど、カティはにっこりと微笑みながら……告げた。


「ふふふっ。相変わらず疎いんだから、このお馬鹿さん」

「…………………」

「それに、子供がどうしてそんなことを言ったかを察することができて親と言えるでしょう? まさか、アドニス様はアニスのことが分からないのかしら?」

「…………………………………………」



 ヒョォォォォ……。



 決して冷たい声でも、冷たい視線でもないのに……何故かサロンの空気が一、二度ぐらい下がったような錯覚を覚える。

 アニスは、母親の言葉に撃沈する父を見て……心の中で呟いた。


(………………母は強し)

「アニス」

「あっ、はいっ‼︎」


 カティに声をかけられたアニスは、ちょっと慌てながら返事をする。

 そんな娘の姿を見て……カティはクスクスと笑い声を漏らす。

 そして、ゆっくりと立ち上がると……娘に歩み寄り、優しくその手を取った。


「少しアニスと二人で話したいの。アドニス様達は席を外してくださる?」

「「えっ⁉︎」」

「いいえ、違うわね。出て行って頂戴」


 有無を言わさぬ声音。

 最初は渋った顔をしたアドニスであったが……妻が引かないと分かると、大人しく息子を連れてサロンを後にする。

 壁際に控えていた侍女も退室させると、カティは娘を長ソファに座らせ……その隣に座り、真剣な顔で見つめてきた。


「………ブリジットさんとラフェル殿下が結ばれたから……だから、二人を守るためにアニスはラスティ様の婚約者になり、神殿に入る必要があるのね?」

「っっっ‼︎」


 アニスは目を見開いて、言葉を失う。

 公にしていないのに、母がブリジットとラフェルのことを知っていたのだ。

 驚かずにいられるはずがない。

 思わず身構えてしまうアニス。

 けれど、告げられた言葉は……謝罪だった。


「……ごめんなさいね。そんなに身構えなくても大丈夫よ。わたくしが自ら、その件を表沙汰にするつもりはありません」


 そう告げたカティはいつもの変わらない優しい笑顔を浮かべていて。

 しかし、その深緑色の目は……ほんの少しの悲しみを帯びていた。


「アニス世代の人に対してなら隠し通せたかもしれないけど……貴族女性として生きてきた大人わたくし達にとって、子供達の恋愛事情なんて分かり易すぎたわ。だから、余程鈍い人でなければ、ブリジットさんとラフェル殿下が惹かれあっていたことに気づいている人もいるでしょう」

「…………そう、なんですか……」

「えぇ。でも、わたくしはそれがいけないことだとは思わないわ。惹かれてしまうのは、どうしようもないことだもの」


 人の心は簡単に制御することなどできない。

 だから、婚約者以外の人に惹かれてしまったのは仕方ないことだ。

 けれど、それは……あくまで一線を超えなければの話だ。


「………ブリジットさんとラフェル殿下が結ばれれば……その代わりに、アニスがラスティ様の婚約者になる可能性が高いでしょうね。それはそうだわ。だって、王太子と神獣が対であるように……花嫁達も対なんだもの。でも……ねぇ、アニス。今、貴女達を取り巻く事情が、とても危険な状況だと知っていて……ラスティ様の婚約者になるの?」


 母親が心配しているのは、そこだったのだと……アニスは理解する。



 この国は、王太子と神獣の契約によって成り立っている。

 そのため、()()()()()()()()()()()として、()()()()()にラスティを神聖視する者も少なくない。

 そして……ブリジットは、歴代の神獣の婚約者の中でも飛び抜けて優秀と言われている。

 だから、神獣を崇め祭る人達も()()していたし、()()()()()()()()()()神聖視し始めている危険な思考の人も現れてきていた。

 そんな彼女の代わりに、ラスティの婚約者になったらどうなるのか。



 ………最悪、アニスが神獣に相応しくないと思った者達が、()()()()()でアニスに害を成そうとするかもしれない。



 カティは、その異常なほどに傾倒している者達によって……可愛い娘が傷つけられてしまうのではないかと、心配していた。

 それは親であれば当然の反応ことで。

 アニスは〝こんなに心配させて、私は親不孝者だなぁ……〟と思いながら、頷いた。


「………はい。全てを分かっていて、私は了承したんです」

「…………アニス……」

「私は幼馴染だから。二人がとても惹かれあっていたのを間近で見てきたから。だから、大切な人に幸せになって欲しいんです」


 それで例え、傷つくことになろうともーーーー自分で決めたことだから、後悔はしない。

 アニスは覚悟を決めた顔で、真っ直ぐに視線を返す。


「貴女はその選択に後悔しない?」

「しないです」

「………………そう……」


 カティはそっと目を伏せる。

 その姿は何やら考え込むようで……覚悟を決める時間でもあるようで。

 暫くしてゆっくりと目を開けたカティは……優しくも強く、娘の身体を抱き締めた。


「…………アニスが決めたなら、わたくしはもう何も言わないわ。そもそもの話、最初の言葉を告げた時点でもう決まっていることなのでしょうし。でも……どうか無事でいて頂戴。貴女ばかりが傷つくような……悲しむようなことにならないようにして頂戴……」

「…………お母様」

「…………お願いよ……アニス……」


 アニスは言葉を詰まらせる。

 心配してくれる母の優しさはとても嬉しい。

 泣きたくなるほどに、嬉しかった。


 ………()()()



 ………………()()()()()()




 こんなにも心配してもらう必要は……実は無かったりするのだ。



 アニスはそろぉ〜……と視線を斜め上に向ける。

 そして、ぽつりと呟いた。


「…………あの……お母様……ごめんなさい……」

「…………アニス……?」

「…………えーっと……実は、そんな身の危険を心配しなくても……大丈夫だったりするというか……物理的には、傷つくことはないというか……」

「…………………ん?」


 …………カティはそこで、アニスがとても言いづらそうにしていることに気づき、これは何かあると悟る。

 アニスは何度か口を開閉したが……説明するのが難しいと言わんばかりに顔を歪めると、大きな声で名前を呼んだ。


「ラスティーっ‼︎ 説明ヘルーーーップ‼︎」

「いや、なんだその呼び方」

「⁉︎⁉︎⁉︎」


 サロンの床に金色の魔法陣が描かれ、光の放流と共に美しい獣が現れる。

 カティは神獣ラスティが唐突に現れたこと……というか、娘のあんな適当すぎる呼び出し方で現れることに驚きながら……慌ててその場に跪いた。


「ラスティ様っ……⁉︎」

「あぁ……そういうのいいから。ここは公的な場ではないし……流石に未来の義理母に跪かせる趣味はないぞ」


 ラスティはそう言い放つ。

 あまりにもサッパリとした物言いに、カティは困惑を隠せなかった。

 それはそうだろう。

 幼馴染として育ったアニスは、ラスティと共に過ごしていたから彼の素を知っていたが……アニスの家族達は公的な場でしか会ったことがないため、真面目な(神獣モードの)ラスティしか知らなかったのだ。

 彼は呆然とするカティを尻目に、アニスに向かって歩き出す。

 そして、ソファに座った彼女の足元に来ると、ペシッとその顔面に肉球を押し付けた。


「むぐっ‼︎」

「この説明下手め」

「ぐごごー‼︎」

「何言ってるか分からないな」


 面倒くさそうな雰囲気を出すラスティの手を、アニスは乱暴に叩き落とす。

 そして、若干涙目になりながら告げた。


「なら、直ぐに離そうよ‼︎ 一瞬、息が詰まったからねっ⁉︎」

「本来なら自分で説明するべきなのに……なんて説明するか分かんなくて、わざわざ俺を呼んだんだ。ぶっちゃけ、いきなり呼ばれた俺はとばっちりだぞ? これぐらい、可愛い嫌がらせだろう?」


 にごにぎと手(指?)を動かすラスティ。

 どうやら、説明を放棄した自分の代わりに、母親に説明させようとして呼んだのが……ちょっと気に食わなかったらしい。

 面倒事を押し付けるな、と言いたいのだろう。

 アニスはその言い分に納得しながらも……ラスティの肉球をモミモミとしながら、頬を膨らませた。


「だってー。話していいか分からなかったからぁ……」

「話すも何も……もうお前が俺の婚約者になるんだから、いいんじゃないか? というか、俺と相性が良いこと話さないと余計な面倒が増えるだろ」

「それもそっか」


 アニスはにぱーっと笑うと、母親の方に振り返る。

 しかし、カティの顔がぽかんっ……としていたため、アニスはハッと息を飲んだ。

 そして、ラスティの肩辺りを掴みながら、ユサユサとその身体を揺すった。


「どうしようっ、ラスティ‼︎ ラスティの素が地味に普通すぎて、お母様が驚いてるよ‼︎」

「ぶふっ‼︎ はぁ⁉︎ この状況で驚いてるのはお前の素の方だろ⁉︎ 責任転嫁するんじゃない‼︎」

「…………そうかもしれない‼︎」

「俺が言っといてなんだが、納得が早い‼︎」



 カティは漫才のようにキャーキャーと言い合うアニスとラスティを見て、悟るのだった。





 これは、自分の心配が杞憂でしかなかった感じだと…………。








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