訓練時間は、簡単には始まらない
読んでくださってありがとうございます‼︎
ちょっと説明会だよ‼︎
………書いてて思った。こんだけ書いておきながら、まだ全然小説内の日にち進んでないの。驚きだねw
まぁ、今後ともよろしくお願いします☆
草の絨毯が生い茂った中庭に出たアニスとラスティは、オルトとティーダに見守られながら……神獣の力の訓練を始めることにした。
流石のアニスも魔法の訓練中は、真剣モードに切り替える。
精神の揺れは、魔法の暴走を招く恐れがあるからだ。
そのため、中庭の中央でラスティと向かい合うように立ったアニスは、さっきまでの照れていた彼女とは打って変わって……真剣な表情で訓練に臨んでいた。
「じゃあ、始めよう。前提として聞きたいんだが……魔法について、説明はいるか?」
ラスティの質問にアニスは一瞬大きく目を見開き……徐々にその顔に呆れを滲ませる。
そして、腰に手を当てて、ぷくりと頬を膨らまながら答えた。
「流石にそれは馬鹿にしすぎだよ? それぐらい分かるって‼︎」
この世界における魔法とは、生きとし生きる者が自然と生み出す魔力(内魔力とも呼ばれる)に、呪文(なお、実際に声に出す必要はない、イメージでも問題ない。呪文は方向性を決めるために使うだけ)で方向性を与えることで現象を起こす。
この世界自体にも魔力は漂っている(外魔力とも言う)が……人間種は他の種族の者達(主にエルフや精霊など)と違い、生憎と外魔力を使うのが下手であり、大体は自己が生み出す魔力のみで魔法を使うのが通常だった。
これは、この世界に生きる者なら貴賎問わず教わる一般教養だ。
しかし、神獣の力は……通常の魔法とは少し違った。
「…………改めてみると、神獣の力って不思議だよね?」
アニスは、手の平に黄金の魔法陣を出現させながら呟く。
魔法が使えるアニスは、神獣の力が魔法の仕組みと似ているようで似ていないことに気づいていた。
言葉で方向性を与え、現象を起こすことは変わらない。
異なるのは……。
神獣の力を用いた魔法は、通常の魔法よりも万能であること。
神獣の力と呼ばれるのが、魔力とほぼ同じであると言っても過言ではないだろうが、それでも微妙に違うこと。
そして……アニスは、あくまで神獣の力を利用しているに過ぎないこと。
その三つを口にした彼女は、手の平の魔法陣を握り潰しながら……考えるように首を傾げた。
「神獣の力は多分、魔力の位置付けになるんだよね? でも、これはあくまでラスティの力。私は、神獣の力を貰って、呪文で方向性を決めて、現象を起こしているだけ……つまり、私は神獣の力という、外魔力を利用している?」
「……………そうなるだろうな。アニスが使ってる神獣の力は、あくまでも俺が生み出したモノであるようだし」
「ふむふむ……。でも、不思議だね。人間種は外魔力を使うことに優れないはずなんだけど……私、勝手にラスティの力を使ってるよね? なんか分かりやすく、神獣の力を譲渡されてる訳じゃないよね?」
「うーん……。やっぱり、そこは相性が良いからなんだろ。俺が生み出す神獣の力を、好きなようにアニスも使える……それ以上は説明の仕様がないだろ」
「そっか……まぁ、確かに。魔法は今だに未知な部分があるぐらいだから、神獣の力はもっと未知に溢れてるかもね」
彼女の言葉に、ラスティは長い尻尾をゆらりと揺らす。
そして……とても言いづらそうに、そろぉ〜……と目を逸らしながら、呟いた。
「……………まぁ、ぶっちゃけ。俺自身もこの力がなんだか分かってないし」
アニスはそれを聞いて一瞬固まる。
しかし、意味を理解した瞬間、ギョッとした顔になった。
「…………えぇぇっ⁉︎ ラスティも分かってなかったの⁉︎」
「………あぁ。害がないのは、なんとなく分かってたし……便利だな、とぐらいにしか」
「おぉう……すっごいテキトーだよ……。普通、自分の力のこと、自分がよく知ってるモノじゃないの?」
「神獣の力は、神獣じゃないと分からない。教えてくれるヒトがいなかったんだから、テキトーでも仕方ないだろ?」
「っっ……‼︎」
アニスはそれを聞いて目を大きく見開いて、声を詰まらせる。
…………ラスティはなんとも思っていないような、とても軽い口調で言ったが……そう言わせたことに、後悔した。
「…………ごめん、ラスティ……」
「ん?」
「そんなこと、言わせて……」
不思議そうに首を傾げたラスティは落ち込んだ顔をするアニスを見て、どうしてそんな顔をしたのかを理解して目を瞬かせる。
そして、クスリッと苦笑を漏らしながら、彼女に甘えるような体を擦り寄せた。
「俺は別に気にしていないんだから、お前が悲しそうな顔をするんじゃない」
「……………本当?」
「俺がお前に嘘をつくと思うか?」
「時々、嘘をつくよね? 前に私のお菓子食べちゃった時、犯人じゃないって嘘ついたよ?」
「それはそれ‼︎ 嘘のレベルが違う‼︎」
ラスティは思わずツッコミを入れる。
だが、「いや、そうじゃなくて……」とふるりと首を振って、脱線しそうになった話の流れを元に戻した。
「……本当に、気にしてないんだ。教えてくれるヒトがいなくても、幼馴染が……アニス達がいた。まぁ、完全に悲しくなかったのかと聞かれたら嘘になるが……それでも、俺のことを大切にしてくれるお前達がいたら、前を向けたんだ。そこまで悲しまずにいられたんだ。だから、本人が気にしてないのにお前が気にするな」
「…………ラスティ」
「お前は、俺の言葉を信じない?」
「…………ううん、信じるよ」
ぶっきらぼうなようで優しい声音と、ニヤリと笑うラスティの笑顔。
アニスは服が汚れるのも厭わずに芝生の上に座り込み……彼の首に腕を回す。
そして、ふわふわとした毛並みに頬を擦り寄せながら、小さく「ごめんね?」と呟いた。
「大切だから、何気ない言葉でも傷ついちゃったかなぁ……って心配になっちゃった」
「まさか。俺はそんなにヤワじゃないさ」
「ラスティは強いって知ってるけどね? 心配するのは、幼馴染の特権なの」
「そこは婚約者の特権と言うべきでは?」
「……………んなっ⁉︎」
そう言われたことで、アニスは一気に顔を赤くする。
魔法訓練のために真剣モードに意識を切り替えていたのが……〝婚約者〟と言う言葉で、強制的に恋愛初心者モードになってしまって。
加えて、自分がほぼ無意識でラスティに抱きついていたことに気づき……慌てて離れた。
温もりが離れたことにラスティは名残惜しい気持ちになったが……真っ赤になった彼女を見て、その感情は徐々に違う感情に変わっていく。
自分を意識してくれる喜びと、照れられることへの照れ。
ラスティは若葉色の瞳に、熱い何かを宿しながら……口角を上げた。
「ふはっ……顔真っ赤だな、アニス」
「あー、あー。聞〜こ〜え〜な〜い〜‼︎」
「可愛い」
「止めて‼︎ 嬉しいやら恥ずかしいやらで、照れてマトモじゃいられなくなっちゃうからっ……‼︎」
「待て‼︎ そんな素直に言われると、こっちまで照れる‼︎」
「私が照れてるんだから、ラスティも照れて‼︎」
「なんでだっっ‼︎」
ギャーギャーと顔を真っ赤にしながら、言い合うアニスとラスティ。
遠目でそれを無言で見守っていたオルトとティーダは思った。
((…………真剣な感じで訓練が始まるのかと思ったけどっ……イチャついてて始まらないっ……‼︎ というかっ‼︎ 羨ましいっ……‼︎))
幼馴染に恋心すら気づいてもらえない自分達と違って、(第三者から見れば)両想いで(多分)無自覚にイチャつくアニス達に……神殿騎士は羨ましそうな目を向けるのだった…………。




