ここまで照れられると、こっちも照れる
区切りのいいところで切ったので、ちょっと短めかも?
この季節(いや、普通に夏日だよね……)は地味に脱水を起こしやすい(寝起きも要注意‼︎)から、体調に気をつけようね‼︎
今後とも、よろしくどうぞっ☆
ラスティは、この状況を喜ぶべきなのか困るべきなのかと悩んでいた。
アニスの午前の勉強時間が終わり、ラスティも大神官バルトラスへの報告が終わった後。
朝食の時のように、アニスと共に昼食を取ることにした。
しかし……。
「アニス……そんなにソファの隅にいたら、食いづらくないか?」
「だ、大丈夫‼︎ 気にしないで‼︎」
ソファの隅に出来うる限り寄って、顔を真っ赤にしながらサンドウィッチを頬張るアニス。
…………彼女は明らかに、ラスティから距離を取っていた。
ラスティの部屋において、座れるのはこのソファぐらいしかない。
それはそうだろう。
ラスティの身体は獣であるため、人型にならない限りは椅子に座ることは難しいのだ。
そのため、基本的に床に敷かれたラグの上にいることが多く……ラスティの私室には、ソファと長テーブル、そしてベッドとラグぐらいの家具しかなかった。
ゆえに、食事を取るにはこのソファに座るしかないのだが……。
ソファから落ちそうなぐらいに端に寄って食べるのは、食べづらそうとしか思えない。
朝の彼女はこんなにも変な座り方をしていなかったのと、ラスティがほんの少し動く度にピクリッと分かりやすく震えるのを見ると……辿り着く答えは一つ。
(うーん……これはもしかしなくても、意識され始めたってことか? でも……なんで急に?)
食事のために人型になっているラスティは、ぽりぽりとケモ耳の根元辺りを掻きながら少し困った顔をする。
アニスが自分を男だと思っていないことに、ラスティは気づいていた。
男だと思っているならば抱きついたり、健全であろうと共に夜更かししたりしないだろう。
しかし、婚約者になり将来、結婚する関係になったのだ。
神獣と相性が良い所為で、アニスからは美味しそうな匂いがプンプンしているのに……男だと思ってもらえないままでは、アニスに手を出せなくて困る。
………ゆえに、ゆっくりとアニスの認識を改めていけば良いと思っていたが……何故、こんなにも急に意識するようになったのか。
(…………まさか、人型の影響?)
変わったことと言えば、十七年目にして初めて人の姿を見せたことぐらい。
そして、神獣姿と変わらぬように……スキンシップをした。
だが……この人型、分かりやすい男の姿が、アニスにきちんとラスティが男であることを認識させたのならば。
(………………神獣姿じゃなくて人型で、アニスに男だと思ってくれるようになった……。それを喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか……悩みどころだな)
神獣の姿でも人の姿でもラスティであることは変わらないが。
彼にとって、本当の姿だと思えるのは……どちらかと言えば、神獣の方だ。
できることならば、神獣姿のままで意識してもらえるようになりたかった。
しかし、人であるアニスに神獣姿で男として意識してもらえる可能性は……かなり低いだろう。
そもそもの話、意識してもらえるもらえなければ意味がないため……そんな風に考えるのは、高望みしすぎだとラスティは考え直す。
それに……今のラスティはそんなことを気にするよりも………現状の方を気にするべきだった。
(……………ぶっちゃけ……ここまで照れられると、こっちも照れるんだが……? アニスにつられて、俺まで上手く接せなくなるじゃないか……。これから大丈夫か? 俺……?)
ラスティは僅かに頬を赤くしつつ……そう心の中で零しながら、サンドウィッチを口に含むのだった。
*****
(………………全然、味が分からなかった……)
顔を真っ赤にしたアニスはそう心の中で呟きながら、食べ終えた食器をカートへと片付けていた。
折角用意してもらった昼食だったのに……隣にいる彼を意識しすぎて味が分からないなんていう、恋愛小説の登場人物のような現象が自分に起こるなんて……アニスは思いもしなかった。
今更ながらに、ラスティと共にいることに緊張してしまうなんて……今朝までの彼女だったら考えられない。
だが、現にこうして彼を意識してしまっている。
自分でさえ不審に思えるのに、ラスティが不審に思わないはずがない。
けれど、これまで通りに接することは、直ぐにできそうになくて。
これからどうすればいいのだろうと考え込んでいたアニスは……いつの間にか隣に来ていたラスティに気づかなかった。
「アニス?」
「ひゃいっ⁉︎」
「うぉっ……⁉︎」
大袈裟なほどに驚いたアニスに、ラスティもまた驚く。
けれど、彼はアニスが驚いた理由を察したように苦笑を漏らし……優しい声で告げた。
「この後、神獣の力の使い方を教えたいと思ってるんだが……大丈夫か? なんだかんだと、転移と魔法剣、魔法盾ぐらいの使い方しか教えたことなかったし。過ぎる力は使い方を知らないと身を滅ぼすからな」
神獣の力を公にするつもりがなかったアニスは、何かあった時のためにと最低限の自衛ができる方法のみ教わっていた。
それが王太子の婚約者としてどこかに攫われた時などに逃げれるようにと転移魔法。
何者かに襲われた時に身を守れるようにと魔法剣、魔法盾魔法。
しかし、神獣の婚約者として公表した以上……きちんと力の使い方を学ぶ必要があるだろう。
「…………う、うん。大丈夫」
彼の言葉に納得したアニスは、視線を合わせずに頷く。
ラスティは少し困った顔をしながら……答えた。
「じゃあ、中庭に行こう。力が暴走することはない滅多にないだろうが……外の方が、部屋に被害を及ぼさないだろうし」
「わ、分かった」
「んじゃ、オルトとティーダに声かけてくる」
ラスティはそう言って神獣の姿に戻り、廊下で待機している神殿騎士に声をかけに行く。
入れ替わるようにカートを回収しに来たハティアは……顔を赤くしているアニスを見て、いつものように鼻血を噴き出しそうになった。
「(ごふぅっ‼︎ 可愛い‼︎)ど、どうしたの? また何かあった?」
そう言われたアニスは顔を真っ赤にしたまま、ピクリッと身体を震わせる。
そして、勢いよく顔を振って否定した。
「な、なんでもない‼︎ 何もないよっ⁉︎ ただ、私が勝手に動揺してるだけでっ……‼︎」
「(あぅっ……ナイス美少女ぉぉぉ‼︎)ふふふっ……頑張って落ち着きなさいな」
「が、頑張る……この後、ラスティと勉強会だし」
「(おぉ……なんか萌えそうなイベントの予感……でも、下手に突っつくのは無粋よね)えぇ。頑張って頂戴な、アニス様」
アニスはハティアと向き合って、拳をグッと握り締める。
部屋に戻ってそんな二人の姿を見たラスティ達は、互いに顔を見合わせ……〝何してるんだ?〟と首を傾げるのだった。




