幼馴染過激派〜肉体派タイプ〜
【注意】残酷……というか、暴力表現あり。
短いけど、区切りがいいところなので仕方ない。
ブリジット&ラフェル視点の話になります。ダラスがブリジットに殴られると言われた理由が明らかに……‼︎
もしかしたら、キャラ崩壊?かも。
まぁ、今後ともよろしくお願いします‼︎
ラスティとラフェルの婚約者が交換されたことが早朝に正式発表されると、それは直ぐに国中に伝わった。
長い歴史の中で、王太子と神獣の婚約者が変わることは初めてのことであり……。
〝相性の問題〟という理由は、アニスがラスティに乞われて早々に神殿に入ったということにしたお陰で、大半に受け入れられた。
しかし、素直に信じない者も少なくなかった。
それは、アニスが神獣の力を使えると信じない者であったり……。
神獣の婚約者はブリジットの方が相応しいと考える者だったり……。
そして、ブリジット本人に傾倒し、その事実を湾曲解釈した者だったりと……様々だった。
*****
婚約者交換が発表された日の正午頃ーーーー。
ラフェルと一緒に庭園の東屋で昼食を摂っていたブリジットは、心配そうな顔で呟いた。
「…………アニスは大丈夫かしら……? 婚約者が変わったことで、何か言われてたりしないかしら……?」
ラフェルは魚のムニエルを切っていた手を止めて、ナイフとフォークを皿に置く。
そして、彼女を安心させるように優しく告げた。
「ラスティが一緒にいるんだ。そこまで心配しなくても大丈夫だろう」
「でもっ……今までみたいに酷いことを言う人がいるかもしれないわっ……‼︎」
ブリジットは泣きそうな顔で、叫びに近い声で告げる。
彼女は自分に、異常な信者とも言える人が付きまとっていることを知っていた。
しかし、いくら言葉で拒否しようと……彼らは一向に減らず、増えるばかりで。
そして、彼らは何故かブリジットの大切な幼馴染であるアニスに本当に理不尽すぎる悪意を向けるようになった。
ブリジットはとても優秀だが、アニスだって公爵令嬢として相応しいレベルの教養を身につけている。
なのに、他の人達はアニスを貶し、ブリジットの側にいるのは相応しくないと罵倒するのだ。
〝何故、勝手に周りの者達に決められなくてはいけないのだ〟と、〝大切な幼馴染に悪意を向けるな〟と、ブリジットが反論したことがある。
しかし、彼らは彼女の意思を無視して異常に信奉する癖に、自分の言うことを聞かなくて。
それどころか、〝慈悲深い……わざわざ優しくしてやるなんて〟と湾曲解釈ばかりするのだ。
更に最悪なことに……奴らは他の人の目があるところでは、何もしない。
けれど、アニスだけの前では……彼女に悪意溢れる言葉を浴びせる。
それを咎めようにも〝何も言っていない〟、〝何も知らない〟と知らぬ存ぜぬを貫かれて……どうしようもできない。
声を出して反論する度に、悪い方向に転がっていく。
ゆえに、ブリジットは何もできなくて。
本当にタチが悪く、怒りを禁じ得ない。
彼女は悔しそうな顔で歯を噛み締めながら、呟いた。
「あの時のようにっ……実際に被害を出そうとすれば、わたくしの手自ら、始末することができるのにっ…………‼︎」
「「(……………ヒェッ……)」」
ラフェルと声が聞こえる距離に唯一控えていたダラスは、普段は温厚なのに……幼馴染が絡むと盗賊並みに野蛮な思考になるブリジットの言葉に、ぶるりっと身体を震わせる。
……………ずっと昔、たった一度だけ。
幼馴染に向けられた悪意が実害として、アニスを傷つけようとしたことがあった。
いっそ狂信者とも言えるような貴族の子息が暴走して、アニスに牙を向けようとしたのだ。
『貴女様の側にあの女はいるべきじゃない……‼︎ いっそ、殺してーーーー』
『………何を、おっしゃっているの?』
何故、大切な幼馴染だと言っているブリジットにアニスを害そうとしていると告げようと思ったのか。
……そう言ってみたかっただけで、実際にアニスに害を成そうとはしていなかったのかもしれないが。
ブリジットがそれを聞いてしまった瞬間ーーーー彼女は、身体能力を上げる魔法を使って、その者を拳で黙らせた、そんなことができないようにした。
暴力はいけないことだと分かっていたも、大切な幼馴染を殺すなんて言われたら……我慢なんてできるはずがなくて。
アニスは知らないが……その一件の処理をする際、詳細を知ったラスティとラフェル(ついでに国王やらダラスなど)は……〝普段温厚なブリジットを、怒らせるの危険〟だとよぉ〜く学んだのだった。
…………ちなみに、この一件はアニス・レーマン公爵令嬢を殺害未遂を、ブリジット・ハフェル公爵令嬢が止めたということで処理され、その貴族子息は領地に療養することとなった。
この事件のおかげ(?)で、アニスに実害を及ぼそうとする者はいなくなったが……。
その一件の所為で、余計に奴らはアニスへの悪意を巧みに隠すようになってしまった。
そのため、ブリジットは自分の所為で大切な幼馴染を守れないことに歯痒い気持ちになっていた。
ラフェルはそんな彼女の肩に手を置き鬼気迫った顔で、落ち着いてもらうための言葉をかけた。
「ブ、ブリジット‼︎ 落ち着け‼︎ ラスティだぞ⁉︎ あの、ラスティが一緒にいるんだ‼︎ だから、アニスが傷つくことは絶っっっ対にない‼︎ あいつが信じられないのかっ⁉︎」
「っっ‼︎ そうですわね……ラスティが一緒にいるなら、きっと大丈夫ですわよね……」
ハッと我に返ったブリジットは、いつもの柔らかな雰囲気に戻り……落ち着いた様子で紅茶を飲む。
ラフェルはそんな彼女を見て、ホッとしたように息を吐いた。
「………………とにかく。今後、アイツらが何をするか分からない。それでも、わたし達なら……きっとなんとかできる。わたしも協力するから……皆でなんとかしていこう」
「…………えぇ。そうね」
ブリジットはふわりと笑う。
その笑顔は、さっきまでの彼女とは全然違って。
(………なんか無理やり話をいい感じにまとめてますけど〜……ブリジット様って幼馴染過激派〜拳タイプ〜ですよね……)
黙って護衛に徹していたダラスは、ぽつりと心の中で呟くのだった。
なお、ブリジットは大切な幼馴染を殺す的なことを言われて、血が上って拳で黙らせましたが……普段は暴力なんて、駄目だとちゃんと分かっている子です。




