俺と君だけの秘密
今回は2話投稿‼︎
なんかこの話だけだと、区切りが悪かったので‼︎
今後とも〜よろしくどうぞ‼︎
ふわふわのオムレツにサラダ、コンソメスープ。
シンプルな丸パンに牛乳……という健康的な朝食を食べ終えたアニスとラスティは、ゆっくりと食後のお茶を飲んでいた。
アニスはティーカップをソーサーに置くと、マジマジと同じソファの隣に座ったラスティを観察した。
その視線に気づいたラスティは不思議そうにしながら、聞いた。
「どうした?」
「………なんか……改めて見てみると、ラスティの人の姿って顔がいいね?」
「…………そうか?」
「うん。なんて言うかな……ラフェルが正統派イケメンって感じだとすると、ラスティが野生派イケメンってヤツ?」
「ワイルドイケメン?」
ラスティの傾けた頭に合わせてさらりと髪が流れ、それを男らしい骨ばった指先が耳にかける。
アニスはその一連の動作を見つめながら、真顔で頷いた。
「漏れ出る色気が凄いと思う」
「…………え? 俺の人型って色気出てんの?」
「フェロモンたらたら?」
「……えぇぇぇぇ……うっそぉ……」
ラスティはその言葉に心底驚いている様子だったが……アニスの言った言葉に、間違いはなかった。
クリーネ王国の男性は色白で華奢な人が多く……真面目、爽やかな印象を抱きやすい。
対してラスティの容姿は、凛々しい顔立ちといい……鍛え上げられた肉体といい……漂う野性的な色気といい……この国の男性と比べると随分と〝艶やか〟だ。
そのため、アニスはいつもと違うラスティの姿に、なんだか落ち着かない気分になっていた。
ラスティはそわそわとする彼女を見て、顎に手を添えて考え込む。
そして、ニヤリと笑うとほんの少し身を寄せて……いつも尻尾でするように、彼女の頬を優しく指先で撫でた。
「…………アニスは。俺の容姿、好き?」
「…………んぅ?」
「神獣は容姿で判断はしないし、俺にとってこの姿は恥ずかしいって感じなんだけど。人にとっては、容姿も重要な要素だろう? この国の男性と俺の容姿が全然違うなら……アニスにとっても俺の容姿は好ましくないのかなぁ……って思っちゃってさ」
神獣は外見の美醜ではなく、その性格や魂の質で判断する。
だが、人にとっては容姿は重要な恋愛の要素の一つになるだろう。
ラスティは自分の人の姿がアニスにとって好ましいかが気になって……そう質問した。
しかし、彼の予想に反して……アニスはキョトンとした顔をした。
「……いや、まぁ……確かに人型は初めて見るからなんか落ち着かないけどね? でも、私は容姿を気にするような性格じゃないよ? ラスティがラスティなら、どんな姿でいても構わないよ」
「……………そう?」
「そう。まぁ……とは言っても。慣れるかどうかは別の話で。ラスティの人型に慣れるまでは、時間がかかるけどねぇ……」
そう言った彼女はスススッ……とラスティから距離を取るように離れる。
しかし、同じソファに座っているため距離はあまり取れず……アニスの背中はソファの肘掛けにぶつかる。
じんわりと照れた様子で頬を赤らめた彼女に……ラスティはクスクスと笑いながら、距離を詰めた。
「なら、慣れるために間近でもっと見てみる?」
「はいっっっ⁉︎」
「近ければ慣れるのも早いかも?」
唇が触れてしまいそうなほどの近さで、ニヤリと意地悪そうな笑顔を見せるラスティ。
アニスは耳まで真っ赤にしながら、彼の胸元をできる限りの力で押した。
「そんなの確証はないよねぇっ⁉︎ というか、なんで急にそんな押せ押せなのっっ⁉︎」
「いつもこっちが翻弄されてるのに……押されるアニスを見るのは楽しいからだけど?」
「はぁ⁉︎」
ニヤニヤ、ニヤニヤ。
いつもと同じような意地悪そうな笑顔なのだが……人の姿で見るのは初めてだからか、アニスは何故か小っ恥ずかしい気持ちになり顔に熱が集まる。
そして、我慢できなくなり……彼の両頬をぐにぃっ‼︎ と引っ張りながら叫んだ。
「むきゃぁぁぁぁー‼︎ 意地悪ぅぅぅ‼︎」
「あはははっ‼︎ アニス、顔真っ赤だぞ‼︎」
「煩いっっ‼︎ というか、ムカつくぅぅぅ‼︎ ラスティの頬っぺた、もふもふじゃなくてモチモチしてるぅぅぅ‼︎ 私より肌ツヤが良いぃぃぃぃぃぃ‼︎」
「いやいや。アニスの方が肌、綺麗だし……可愛いぞ?」
「むきぃぃぃぃぃ‼︎ 私より肌綺麗なラスティに言われると、嫌味にしか思えないぃぃぃ‼︎」
ケラケラと笑ったラスティはアニスをそのまま抱き締め、自身の膝の上に座らせる。
彼女の薄朱色の髪を指先で弄りながら、チュッとその毛先にキスを落とす。
そんなキザな彼の行動にアニスは「むぐっ」と変な声を漏らし、そろぉ〜りと視線を逸らした。
「…………人型が恥ずかしいってのは、やっぱり私には分からないけど。なんでそういう恥ずかしい行動は普通にできるの……」
「……………ん?」
「急にお膝抱っことか。毛先にキス、とかさぁ……」
ピシリッ……。
その言葉にラスティは目を見開いて固まる。
まるで今気づいたと言わんばかりの彼の顔が、徐々に赤くなり……耳や首元まで真っ赤になったのを見て、アニスは大きく目を見開いた。
「…………まさか……無意識とか言わないよね?」
「…………」(←ダラダラと汗が出てるラスティ)
「ラスティさん? 聞いてる?」
ジト目で見られたラスティは、それはもう冷や汗を掻いていた。
アニスを抱き締めて膝に乗せたのも、毛先にキスしたのもほぼ無意識の行動だったのだ。
神獣の姿では簡単に抱き締められないため、スリスリと身体を擦り寄せるだけだが……人型だと、簡単に手足が動かせるため思わず本能に任せて行動してしまう。
言われるまで恥ずかしい行動に気づかなかったラスティは、顔を真っ赤にしながらぽつりと呟いた。
「………………すみませんでした……無意識です……」
「無意識なのね……」
「やっぱり、人型は恥ずかしい……」
「………………いや、それは人型が恥ずかしいんじゃなくて……無意識の行動が恥ずかしいんだと思うよ……?」
「…………うぐっ……戻ります」
「…………うん。その方が良いよ」
ラスティはアニスをソファに降ろすと、トンッと足を軽く床に叩きつけ、魔法陣を出現させる。
そして、人型になった時と同じように黄金の光に包まれると……それが消えた後には、いつも通りの神獣姿のラスティがいた。
「あぁ……やっぱりこっちの方が落ちつく……。人型みたいに無意識に行動しようにもできないし」
「…………まぁ、確かに抱っこはできないよね……」
「ご、ごめん。本当に無意識だった……怒ってるか?」
「怒ってないけど……。いつも私が抱き締めるのに、私が抱っこされるのは恥ずかしかった……」
アニスは真っ赤になった頬を両手で覆いながら、答える。
そんな彼女を見て、ラスティとじんわりと頬を赤くした。
互いに顔を真っ赤にしながら、黙り込む。
どれくらい経ったか分からなかったが……少しして先に口を開いたのはラスティの方だった。
「と、とにかく‼︎ 俺の人型は今もこれからもアニスにしか見せる気がないから……他の人には言わないでくれよ⁉︎」
「…………う、うん……」
「秘密にしてくれなかったら、また人型で抱っこして恥ずかしがらせるからな‼︎」
「えぇっ⁉︎ な、なんでぇっ⁉︎」
「そう脅したら、簡単に他の人にバラさないだろ‼︎」
「脅されなくてもバラさないよっ⁉︎」
「一応だよ、一応‼︎」
ラスティは自分が何を言ってるかが分からなくなり始めていたが……アニスの太腿に前足を乗せ、こつんっとおでことおでこをぶつける。
そして、至近距離で真っ赤になりながら呟いた。
「俺と君だけの秘密。良いな?」
「ふぁ……ふぁい……」
「よろしい。んじゃあ、そろそろ時間だし……オルト達に声かけてくる」
ラスティはその返事に満足げに笑い、くるりと振り返って扉の方へと向かう。
早々にアニスから離れた彼は気づいていなかった。
おでこを合わせるのはいつもしている行動であったが……今回はいつもと違い、アニスの頬が真っ赤になっていたことに………。




