愛しい華を飾るのは、俺の務めーーーーなんてな
いつも読んでくださり、ありがとうございます‼︎
タイトルから分かりますように、ラスティの思春期(?)爆発会です?
今後とも、よろしくどうぞ‼︎
朝の身支度のために先に転移で部屋に戻ったアニスは、後からやって来たハティア(オルトとティーダは廊下で待機)の手を借りて……身支度を始めた。
「はぁ……アタシも一緒に転移して欲しかったわ。移動が超楽そう」
クローゼットから無地の白いワンピースドレスを出したり、装飾品を用意しながらハティアは呟く。
部屋に備え付けられた浴室にある洗面台で顔を洗って、主部屋に戻ってきたアニスは……頬を掻きながら苦笑した。
「あははっ、ごめんね? 転移って自分以外の生きてるモノはさせられないんだよ。だから、ハティアは無理かな」
「残念。あー……でも。だから、いつもラスティ様だけ転移してたのね。納得だわ〜」
「うん」
転移魔法は、便利なように見えてそれなりに制約がある。
自分以外の生きてるモノ……人、動物、植物などを転移させることはできないし。
無機物でも重量制限があるらしく、自分の体重よりも重い物は転移させられない。
しかし……アニスとラスティは相性が良いため、自分達に限り、互いに転移させることもできる。
念話もまた同じく……通じるのは互いだけ。
例外はあくまでも、アニスとラスティだけなのだ。
そう説明を受けたハティアは、感心したように頷いた。
「そう聞くと……アニス様って、すっごいのね」
「へ? 何が?」
「だって、神獣と相性が良いって……普通はできないはずのことをできるようになるぐらいってことでしょ?」
「……………言われてみれば、そうだね」
「そりゃあラスティ様が大切にする訳だわ」
「私、大切にされてる?」
「超されてるわよ。ラスティ様だけじゃなくて、ブリジット様もラフェル殿下もね。あんたら、幼馴染過激派じゃない」
「幼馴染過激派ってダラスにも言われた〜」
「あははっ‼︎ 他の人にもおんなじこと言われてんのね‼︎」
ハティアは、面白そうに大きな声で笑う。
アニスはちょっとムスッとしながらも……なんだか面白くなって、クスクスと楽しげに笑った。
「はぁ〜……笑ったわ。んじゃあ、そろそろ真面目な話に戻りましょうか」
「はーい」
笑いで滲んだ涙を拭いながら、ハティアは今日の予定を話し始める。
「今日の午前中には、婚約者が変わったことが王宮から正式発表されるらしいわね。で、神殿でも朝のお祈りの時間にアニス様のことを伝えて顔見せするらしいから……これを着てね。それが終わったら朝食になるわ」
「この服は?」
「神獣の婚約者もとい伴侶が着る服よ。神官服では区別がつかないから……こういったドレスなのよね」
「へぇ〜……そうなんだ。でも、私が着れる?」
アニスは壁のフックに掛けられたワンピースドレスの裾を摘みながら、首を傾げる。
彼女がラスティの婚約者に決まったのは、数日前だ。
つまり、アニス用の服が用意できるはずがない。
となると、この服はブリジットのために用意されたモノになるはずで……二人の体型はかなり違うため、アニスが着れるか怪しかった。
しかし、ハティアは軽いノリで「平気じゃない?」と答えた。
「お祖父ちゃーーごほんっ。大神官様が〝アニス様にはこれを着せなさい〟って言ってたし?」
「………うーん……なら、大丈夫なのかな? まぁ、布が余ったら詰めればいっか」
「そうそう」
そうして、アニスは着替え始める。
普段着る令嬢のドレスであれば、コルセットやらパニエやら色々と着なくてはいけないのだが……神殿はあくまでも質素倹約が規則だ。
そのため、アニスに用意された服も限りなくシンプルに近い。
ペチコートのみを下に着て、背中のボタンをハティアに留めてもらい……小振りな宝石が付いたワントップペンダントをつける。
着替えを終えたアニスは姿見鏡の前に立ち……驚いたように目を見開いた。
「…………うわぁ。なんで私にぴったりなのかな?」
「……本当それね。お祖父ちゃん、婚約者交換が予想できてたってこと……?」
思わずお祖父ちゃん呼びしてしまうほど、ハティアも驚いていた。
アニスが着た服は、とんでもなく丁度いいサイズだったのだ。
ここまで体型に合わさっているということは……バルトラスは事前に準備をしていたということで。
アニスとブリジットの立ち位置が変わることをバルトラスが予想していたのではーーという事実に、驚きを隠せなかった。
「…………お祖父ちゃ……じゃなくて。大神官様が先見の明があるってことだけが分かったわね……」
「…………うん」
「と、取り敢えず……髪を梳きましょ。ドレッサーの前に座って頂戴」
「は、はーい」
アニスはハティアに促されてドレッサーの前に座り、櫛で髪を梳いてもらう。
その時ーーーー唐突に頭の中にラスティの声が響いた。
『アニス、身支度終わったか?』
『着替えは終わったよ? 今、髪を梳いてもらってる〜。どうしたの?』
『いや、先に聖堂……お祈りをする場所に行くから、声をかけとこうと思って』
『えっ?』
アニスはそれを聞いて、目を見開く。
先程、ハティアからお祈りの時間に挨拶をすると言われたが……ラスティと共にその場所に向かうと、無意識に考えていた。
そのため、ラスティと別々に移動すると言われて……予想外のことに、アニスは少し動揺したのだ。
『…………一緒に行けないの?』
『大神官から伝える前に他の人に見られないようにってことで……アニスは後から聖堂に入って来ることになるらしい。だから、ハティア達とゆっくりおいで』
『…………むぅ……分かったよぅ……』
アニスの少し拗ねたような声音に反応したように、ラスティが微かに息を飲む念話が聞こえる。
そして……彼の意地悪そうな声が、頭の中に響いた。
『なんだ? 一緒が良かったのか? 寂しい?』
『っ‼︎ べ、別にぃ〜。寂しくないもーん』
『嘘つき。声が拗ねてるぞ?』
『むぅ……‼︎』
顔は見えないというのに、彼のニヤニヤとした笑い顔が想像できるようで。
アニスはぷくっと頬を膨らませる。
だが、本音を言えば……アニスは寂しかった。
始まったばかりゆえ、神殿はまだ、彼女にとって慣れない場所なのだ。
できうる限り、知っている人と共にいたいと思ってしまうのは当然の反応だろう。
加えて、昨日の夜から今日の朝までずっと一緒にいたため……短時間であろうと、余計に離れるのが寂しくなっている。
ラスティはアニスの本音を見透かして……意地悪そうな声ではなく、柔らかな声で告げた。
『大丈夫、別々に行動するのは今だけだからさ』
『………うん』
『…………だから、そんな寂しげな声、出すなよ。後で、一緒にいてやるし。好きなだけ、もふもふもさせてやる』
『……‼︎ うんっ‼︎』
一緒にいて、もふもふまでさせてくれるという言葉に、アニスは頬を緩ませる。
そのおかげで、寂しさが薄れた気がした。
『じゃあ、後でな』
『後でね、ラスティ』
そこで念話が切れて、ドレッサーの鏡越しにハティアと目が合う。
彼女はニヤニヤと笑いながら……アニスに質問した。
「コロコロ表情が変わってたわね? ラスティ様と念話でもしてたの?」
「えっと……うん。別々に聖堂に行くよって言われて、ちょっと寂しくなっちゃった」
「(ごふっ……ちょっと寂しさ滲んだ顔もかわえぇぇぇぇ‼︎)そ、そう……でも、アタシ達が一緒だからね」
「うん。ありがとう」
「(ぶふっ……美少女の笑顔っ……耐えろ、鼻血……‼︎)どう致しまして」
ハティアは気合で鼻血を耐え……アニスの髪を緩く結い上げ、顔に薄化粧を施して身支度を終える。
レーマン公爵家にいた時よりは時間はかかっていないが……全てが終わった頃にはそこそこ時間が経っていた。
アニスは立ち上がり軽く裾を払ってから、廊下に出る。
そして、ハティアとオルト、ティーダと共に聖堂へと向かい始めた。
他愛ない話をしながら、廊下を進む。
そして、聖堂前の扉に辿り着いたところで、タイミングよくラスティから声がかかった。
『アニス、どこにいる?』
『聖堂前だよ?』
『うん、ナイスタイミング。そのまま入っておいで』
『………分かった』
アニスはハティア達に「このまま入っていいってらしいよ」と声をかけて、大きく息を吐く。
何度か深呼吸を繰り返し、覚悟を決めて……聖堂の扉を開けて、足を踏み入れた。
静まり返った聖堂内。
向けられる、長椅子に並んで座る神官達の視線。
祭壇の前に立つ大神官バルトラスと……彼女を見つめて大きく目を見開く神獣ラスティの姿。
アニスは少しでも怖気付いていると思われないように、胸を張って真っ直ぐに歩み進める。
だが、祭壇前に辿り着く前にラスティがゆっくりと歩き出し……聖堂の真ん中で二人は向き合った。
無言のまま互いに見つめ合うこと数十秒。
ラスティにジッと見つめられたアニスは、どうしたのかと首を傾げた。
「…………どうしました?」
「…………………いや、似合わないって訳じゃないんだけど……うーん。うーんっ……?」
「………ラスティ様?」
「えいやっ‼︎」
「うわっ⁉︎」
ラスティの気の抜ける声に合わせて、黄金色の光がアニスの身体を包み込む。
シュルシュルと光は糸のように細くなり、アニスの服を彩っていく。
そして……光が消えた頃には、彼女の纏っていた白いワンピースドレスには豪奢すぎないが、けれど美しい黄金の薔薇の刺繍が施されていた。
「うわぁ……‼︎」
「………うん。アニスには、これぐらいの方が似合う」
ラスティは満足げに笑う。
容姿が優れているため、どんな服装であれど美しいが……薔薇の刺繍がされた今の姿の方が、先程よりも似合っている。
アニスは綺麗なその刺繍の美しさに頬を赤くしながらも……心配そうな顔をした。
「…………あまり華美なのは、神殿的によろしくないのでは?」
「俺の魔法だからセーフってことで。それに……」
「…………それに?」
「ううん、なんでもなーー『愛しい華を飾るのは、俺の務めーーーーなんてな』」
「…………ふぇ?」
「あっ……‼︎」
アニスは頭の中に響いた彼の声に大きく目を見開き、ラスティも驚いたようにピシッと固まる。
どうやら無意識に、ラスティは念話で本音を零してしまったらしい。
二人は互いに見つめ合ったまま、顔を赤くした。
『お願いだから、忘れなさい』
『無理』
『頼む、忘れてくれ。キザすぎた。恥ずか死ぬ』
『いや‼︎ そんな風に言ってもらえて、結構嬉しいもんっ‼︎』
『うぐっ‼︎ そんなこと言われたら、言い返し辛いだろっ……⁉︎』
無言のまま睨み合い数秒後……。
互いに何をしているのだろうと思いながら、二人はなんとも言えない温かな感情が込み上がってきて、クスクスと笑い出す。
そして、アニスはその場にしゃがみ込み……ふわりと笑って頭を下げた。
「素敵な服にしてくださって、ありがとうございます」
「………どう致しまして」
『今後も好きなだけ着飾ってくれていいよ? 私を綺麗にするのは、ラスティの務めだからね‼︎』
『それは忘れなさいって、言ってるだろっっっ⁉︎』
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするラスティを見て、アニスはクスクスと笑い続けるのだった……。




