幕間・護衛騎士の報告
息抜き(?)話です。
ふざけました。後悔はしていない。
先に弁明(ぶっちゃけネタバレ?)しておきますが……騎士が自分が仕える王にまでフレンドリーじゃ駄目じゃない?と思う方もいるかと思いますが、理由があります。
それは後々の展開に繋がるということで……。
体調不良は治りかけが一番危ないとはよく言ったもので……また体調崩しました。明日の更新がなかったら、いつものかと思ってください。
それでは〜、今後ともよろしくどうぞ〜。
「……午後六時……国王の仕事が終わる頃……かの秘密は今、解き放たれーーーーっ‼︎」
「お前、今日の報告に来たんだよな? わたしを馬鹿にしに来たのか?」
「あ、はい。真面目にやります〜」
「お前が真面目にやってることの方が少ないがな」
「あはは〜」
午後六時の国王の執務室。
王太子の護衛騎士であるダラスは、夜間勤務の護衛騎士に引き継ぎを終え……日課である国王ジルドレットへの報告を行っていた。
普通であれば紙媒体での報告なのだが……ジルドレットは自分達の家族の護衛を務めている騎士から直接報告を受け、家族に些細な変化がないかと気を配る人であった。
……………しかし、国王である以上……時には優しいだけの親ではいられないが。
ダラスは騎士にしては軽すぎる口調で、今日一日の王太子ラフェルの様子を報告する。
「殿下は今日も変わらなく……と言いたいですが、ブリジット嬢が王宮で暮らすことになりましたからね。ちょっと浮かれてますよ」
今日は色々なことがあった。
神殿での話し合いに、ブリジットの王宮暮らしの開始……。
今までの護衛人生で一番、重要な一日であったと言えるだろう。
ジルドレットはその報告を聞き、僅かに顔を顰めた。
「そうか……ライナが少し、心配だな」
「…………そうですね」
その言葉に、ダラスも同じような顔をしながら頷く。
ライナとは……ラフェルの二つ年下の妹であり、クリーネ王国の宝石姫と呼ばれるほどの見目麗しい王女だ。
そんな彼女は国を二つ挟んだ異国の地に三年後ーー十八歳になり次第、嫁ぐこととなっている。
王族として政略結婚は受け入れるべきものと理解はしていても……不安を抱くのが人間というもの。
ジルドレットは王女の護衛騎士からの報告で、ライナがまだ見ぬ相手との婚姻への不安を抱いているのを聞いていた。
そんな彼女の前で、ラフェルとブリジットの姿を見せたら……ライナは婚姻に対して前向きになれるかもしれないし、自分は二人のように幸せな夫婦になれるのかと、更に余計な不安を抱くかもしれない。
それどころか……自分は政略結婚をせねばならないのに、兄だけ恋愛結婚できることに怒りを抱くかもしれない。
だが、現時点ではあくまでも〝かもしれない〟の話で。
ジルドレットはこれからのことを考えて、困ったように溜息を零し……天井へと視線を向けた。
「本当は、恋愛結婚をさせてやりたいとは思うんだがな……いかんせん、王族は柵が多すぎる」
「仕方ありませんよ。それが王族というものです。それが嫌なら、王族を辞めるしかない」
シンッ……と静まり返る執務室。
そう告げたダラスはいつもとは違い、張り詰めた空気を纏い……翳りを帯びた顔をしていて。
しかし、次の瞬間には……いつもの穏やかな護衛騎士の空気に変わっていた。
「まぁ……そんな考え自体、思いつかないかもしれませんけどね」
「……経験者の言葉は重みが違うな」
「あははっ。止めてくださいよ、陛下。わたしは全てを捨て、逃げた……ただの臆病者です」
ダラスは泣きそうな顔で苦笑しながら、首を振る。
ジルドレットは過去を捨てた彼へ配慮して、それ以上その話をするのを止めた。
「報告ありがとう。下がっていいぞ」
「はい、失礼します」
ダラスは一礼して執務室を後にしようとする。
しかし、扉の取っ手に手をかけたところで「あっ」と何かを思い出したかのように呟いた。
「忘れてました、陛下」
「…………ん? どうした?」
ダラスはジルドレットの執務机の前に戻り、懐をゴソゴソと探る。
そして……コトンッと細長い瓶を、執務机の上に置いた。
「………これは?」
「育毛剤ですね〜」
「なるほど、育毛ざ…………えっ⁉︎」
一瞬流しかけたが、ジルドレットは執務机に置かれた育毛剤とダラスを何度も交互に見る。
ダラスは〝て・へ・ぺ・ろ・っ☆〟という効果音が似合いそうな戯けた顔で、こつんっと自身の頭を軽く叩いた。
「陛下の機密をラフェル殿下(with幼馴染〜ズ)にペロッちゃったんで〜……お詫びの品でっす☆」
「…………………。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ⁉︎」
ジルドレットは執務机に身体を乗り出して、ダラスの胸倉を掴む。
そして、大きな声で叫んだ。
「お前っ‼︎ 何してくれてるんだっっっ⁉︎ 親としての威厳を殺すつもりかっ⁉︎」
「あはははっ‼︎ いやぁ……すみません。あまりにもラフェル殿下がシリアスってたんで……あまり重く考えると陛下みたいにハゲますよって言っちゃったというか〜……。あ、でも安心してください‼︎ ストレスハゲってのと、カツラのことはペロッてないんで……頭の頂点だけが光り輝くほどにつるっ禿げってのはバレてないですよ〜」
「ペロッてしまっていたのなら、ストレスだと言うのも言っておけよ‼︎ 遺伝だと思われるだろうっっっ⁉︎ というか、ハゲてんのがバレてたらカツラのことも必然的にバレてるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「言われてみれば確かに‼︎」
その瞬間ーー。
王としても大人としても聡明であるジルドレットは、神殿での話し合いでラフェルが自身に険しい顔を向けていた理由に気づいてしまう。
キノコが生えそうなぐらいに落ち込む国王を見て……ダラスは、かな〜りフレンドリーに(※騎士が自身が仕える王にそんなことしちゃいけません)ポンポンっと肩を叩き、励ましの言葉をかけた。
「でも、口に出さなきゃ何も問題ないですよ〜。流石にデリケートな話だし……こちらが話題にしなければ下手に突いてきませんって〜」
「だとしても、心の中で〝自分の父親の頭はハゲなのか……〟って思われることになるだろうがっっ、馬鹿ダラスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼︎」
「あははははははははははっっっ‼︎ 言われてみりゃそうですね‼︎」
「もう……最悪だっ……‼︎」
ジルドレットはガンッ‼︎ と額を叩きつけるほどに、執務机に思いっきり突っ伏せる。
いつかバレるとは覚悟をしていたが……まさか、こんな急にだとは思っていなかった。
それをバラしたダラスを恨もうにも……悪意があるように見えて、実際には悪意なくラフェルを励まそうとしてつい漏らしてしまったというのが、これまでの付き合いから予想できるため……恨むことすらできない。
国王ジルドレットはやり切れない気持ちを抱きながら……息子に機密バレしたという事実に号泣するのだった…………。




