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神殿での話し合い、その後


今後もよろしくどうぞ‼︎


 







 その後ーー。



 残る話は大人達による微調整になるため、先に退室を許された幼馴染四人(とダラス)は……最初に集まった神獣用の応接室に戻った。




 アニス、ラスティ、ラフェルは応接室の扉が閉まるなり、立ったまま互いに視線を交わす。

 そして……言葉で合図をしたかのようなタイミングの良さで、ハイタッチを交わした。


「やったぁ‼︎ ブリジットの身の安全、確保‼︎」

「まぁ、なんか陛下が色々と深読みして……ラフェルの本音以上の理由を見つけて、ブリジットの王宮暮らしに納得してくれたみたいだったけどな」

「だとしても、父上に納得してもらったのには変わらないんだからいいだろ‼︎」


 三人はそう言って笑い合う。

 ブリジットは、自分のことでそこまで心を砕いてくれる幼馴染達の姿に感動し……勢いよく三人に抱きついた。


「皆っ……‼︎ わたくしのために、ありがとうっ……‼︎ こんな素敵な幼馴染を持てて、わたくしは幸せよっ……‼︎ 大好き‼︎」


 アニス達は滅多に行動で示さないブリジットが、抱きつくほど喜んでくれていることに目を瞬かせる。

 そして、お返しだと言わんばかりにブリジットを……幼馴染達をギュウッ……と抱きしめ返した。


「あははっ、私も大好きだよ‼︎」

「俺もお前らが好きだぞ」

「わたしだって、皆が大好きだ‼︎」


 互いに抱き締め合い、微笑み合う四人の姿はまるで絵画のように美しく……穏やかな光景で。

 それを壁際に空気となりながら見ていたダラスは、ワザとらしく目元をハンカチで拭いながら、「うんうん」と頷いていた。


「いやぁ〜……感動的ですね〜。泣いちゃいそうですよ〜」

「「「「………………」」」」


 アニス達はその声でビシッと動きを止め、なんとも言えない顔でゆっくりと護衛騎士の方は向く。

 流石にそんな顔で見られると思っていなかったダラスは、目を瞬かせながら……不思議そうに首を傾げた。


「…………あれ? どうかしましたか? その生温いような……据わってるような目で、こちらを見て」

「…………いや、またなんか爆弾発言するのかなぁ……って……身構えたというか?」


 アニスの呟きに他の三人も抱き合うのを止めて、頷く。

 話し合い前の幼馴染ーズ作戦会議中にされた、国王の機密ハゲ暴露は中々……いや、かなり衝撃的だったのだ。

 そのため、ダラスが口を開いたらまた何か爆弾が落とされるのではないかと……少し身構えてしまったのだった。

 ダラスは神妙な顔をするアニス達を見て、ぽかんっ……と口を開ける。

 しかし、その言葉の意味を理解して……お腹を抱えながら笑い出した。


「あははっ‼︎ 流石にこれ以上、陛下の機密を暴露したらなんかしませんよ〜‼︎」


 ケラケラと笑うダラスは笑ってはいるが、嘘を言っている様子はない。

 それを聞いたラフェルはホッとしたように、胃のあたりを押さえた。


「良かった……これ以上、父上の秘密を知ったら、わたしの胃が危険だった……」


 ラフェルは視線を遠くにしながら、ぽつりと呟く。

 ただでさえ、自分も父親と同じハゲになるのか……その遺伝が自身の子にも引き継がれるのかと不安になっていたのだ。

 これ以上、不安の種を増やされたら堪ったもんじゃなかった。

 ブリジットはそんな彼を見て励ますように、グッと握り拳を作る。


「え、えっと……大丈夫ですわよ、ラフェル‼︎ 例え、貴方の髪の毛がなくなろうとも……貴方は格好いいですわ‼︎」

「…………う、うん? あ、ありがとう……?(……その言葉を喜んでいいのか、悲しむべきなのか……分からない……)」


 困惑するラフェルと励ますブリジット。

 それを横目で見ていたアニスとラスティは、クスクスと笑いながら念話をした。


『…………なんか、横から見てると超面白い』

『それな』

『ラフェルの頭はどうなるのかっ……⁉︎ 乞うご期待っ☆』

『誰に言ってるんだ?』

『テキトーに言っただけだよぅ〜。というか、喉乾いたからお茶しよ〜』

『だな』


 アニスは部屋の隅に置かれていた棚からティーセットを取り出し、お茶の準備を始める。



 そして、準備を終えて、皆でお茶をしながら待つこと数十分後ーーーー。



 扉がノックされ、ダラスが開けると……そこにはアドニスと大神官バルトラスが立っていた。

 アドニスは、アニス達がお茶をしているのを見て、少し申し訳なさそうな顔をする。


「おや、お茶をしていたのかい? 邪魔してしまったかな?」

「いいえ。大丈夫です、お父様。ですが、随分とお早かったですね? もう少し時間がかかるかと思っていました」

「ふふふぉ……なんだかんだと王と公爵様ですからなぁ。有能なので、トントンと話がまとまったのですよ」


 バルトラスは好々爺とした笑みを浮かべながら答える。

 そして、今回の話し合いで決まったことを再度、話し始めた。


「さて。確認でもありますが……アニス嬢はこのまま神殿で暮らして頂き、ブリジット嬢も王宮で暮らすこととなりました」

「アニスの身も危ないが……ブリジット嬢の身も危ないということで、このまま殿下達と共に王宮に向かうことになる」

「わたくしも、ですか?」


 ブリジットは目を瞬かせる。

 アドニスはそれに答えるように頷いた。


「あぁ。ブリジット嬢()()に傾倒している者達がいるからね。彼らが()()()()()()()()()()以上、早めに居を移しておいた方が安全だろうという判断だよ」

「ハフェル公爵は既にご帰宅なさいましたぞ。荷物は後から王宮に届けるそうです」

「…………そう、ですか……」


 挨拶もなく父親と別れたという事実に、ブリジットはほんの少し悲しげな顔をする。

 けれも、ハフェル公爵家と離れる決断したのは自分だと……彼女は気持ちを切り替えて、前を向いた。


「分かりましたわ」

「ブリジット嬢は王太子妃教育があるため、時間の都合上、学園に通うのは時々になるだろうが……アニスは……神獣の力が使えると分かった以上、学園に籍は置けど、通うのはほぼ不可能だと思って欲しい」

「はい。分かってます、お父様」


 学園を卒業することは貴族にとって一種のステータスになるため、神獣の婚約者として必要になる。

 しかし、神獣の力を持つとなれば……学園すらも安全とは言い切れない。

 ゆえに、学園に席だけ置き、通わないというスタイルになるのだろう。

 アニスは自分の身の安全のためだと理解して、それに素直に頷いた。


「神殿、王宮でそれぞれ暮らすに当たって……婚約者交換の公表は早めにするべきだろうということで、明日には公表されますぞ。周りが騒がしくなるかと思われますが……どうか、動じずに」

「「はい、バルトラス様」」

「うむ。良い子ですな。では、飴をどうぞ」


 バルトラスは服の懐から飴を取り出すとアニス、ラスティ、ブリジット、ラフェルの順番に渡していく。

 昔から変わらない良い子へのご褒美に四人は互いに顔を見合わせ……にっこりと笑って、「ありがとう」と感謝の言葉を返した。


「では……ラフェル殿下。ブリジット嬢。そろそろ参りましょうか」


 バルトラスは二人に声をかける。

 ブリジットとラフェルは、どうして自分達に声をかけたのかを察し……それに了承した。


「失礼します、レーマン公爵……またな。ラスティ、アニス」

「辞させて頂きますわ、レーマン公爵。……また後でね、アニス、ラスティ」

「失礼致します」


 ラフェル、ブリジット、ダラスは別れの挨拶をして、バルトラスの案内で応接室を後にする。

 そんな彼らを見送ったアドニスは……ぽつりと呟いた。


「気を遣わせたかな」


 先に部屋を後にしたのは、親子の別れを邪魔しないようにと配慮してくれたのだろう。

 アドニスはバルトラス達の思いを汲んで、娘の方へと向き直る。

 その顔には、ほんの少しの寂しさを感じさせる笑顔が浮かんでいて。

 アニスは真っ直ぐに、父へと視線を返した。


「寂しくなるな」

「…………会えなくなる訳じゃありませんよ?」

「でも、毎日は会えなくなるだろう?」

「そう、ですね……」

「…………難しいだろうが……いつでも、帰ってきなさい」


 アドニスは、優しく娘の頭を撫でる。

 別れを惜しむように……優しく、何度も。

 アニスはその手の温もりに頬を緩めながら、こくりっと頷いた。


「毎日は難しいですけど……週一ぐらいで帰りますね。ラスティも一緒に」

「……………………ん?」

「………ん?」


 アドニスは娘の言葉にピクリッと動きを止め、意味が分からないと言わんばかりの顔で首を傾げる。

 アニスも不思議そうに首を傾げ……それを横で見ていたラスティはクスクスと笑いながら、告げた。


「レーマン公爵。アニスは俺の力が使えるんだ」


 唐突にラスティに声をかけられたアドニスは、今だに困惑した顔のまま……答える。


「へ? あぁ……そうだな?」

「つまり、転移が使える」

「…………………あっ……」

「要するに……アニスは実はいつでも帰れるということだ」


 そこまで言われて、アドニスはやっと意味を理解し……目を見開く。

 そして、じわじわと滲む感情を我慢できず……最終的に、ケラケラと大きな声を出しながら笑い出した。


「ははははっ‼︎ なるほど、確かにそうだなっ‼︎ あぁ、やられた……カティ達も気づいてないんじゃないか?」

「多分、お母様達も気づいてないと思います。だから、秘密にしておいてくださいね? 驚かせてやりたいんです」


 アニスはまるで……幼い子供のように悪戯っ子めいた笑みを浮かべながら、告げる。

 その顔は、令嬢の仮面ではなく……アニス本来の笑顔。

 アドニスはその笑顔に嬉しくなりながら頷き……笑いながら、目尻に浮かんだ涙を拭った。


「あぁ、わたしとの秘密だな。カティ達が驚く姿が目に浮かぶ……。楽しみにしながら、アニスが帰ってくるのを待っているよ」

「はいっ‼︎ また会いましょう、お父様‼︎」

「あぁ、またな。アニス」





 そう告げながら楽しげに笑った親子の顔は……とてもよく似ていた。







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