神殿での話し合い(2)
シリアス?かも?
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アドニスは、口を出さずに事の流れを見守っていた。
権力を欲しするハフェル公爵は、短気ゆえにブリジットの話を最後まで聞かず。
事の全容を知らないがゆえに、認めなければどうにかなると思っていたらしいが……。
ハフェル公爵がどう足掻こうとも……アニスとブリジットの立ち位置が変わるのは確定している。
今回の話し合いは、はっきり言ってただの予定調和だった。
けれど、彼がここまで権力に執着するようになってしまった理由を知っているからこそ、アドニスは多少の同情も禁じ得ない。
しかし、アドニスにとって大事なのは家族であるアニスだ。
娘が幼馴染達のために婚約者を交換することを望んでいるのならば、余計な口を挟み、話を更に拗らせるべきではないだろう。
ゆえに、アドニスは敢えて口を閉ざし見守ることにしていた…………。
*****
シンッ……と静まり返った応接室。
国王ジルドレットは、悠然と笑うアニスを睨むハフェル公爵に「落ち着け」と声をかけた。
「…………この婚約者を交換するといった話は、確かに我が息子ラフェルとブリジット嬢の一件が始まりだった。しかし、それを公表するには外聞が悪い。それを覆い隠さんとアニス嬢が打ち明けた真実は……今回の一件を食らい、霞ませるほどの真実だったというだけだ」
「………っ……‼︎」
アニスがラスティの力を使えることを打ち明けたのは、あくまでもブリジットとラフェルを守るため。
その二人が結ばれるように応援するため。
重大すぎる秘密ではあったが……どこまでも幼馴染のためでしかなかったのだ。
ゆえに、ハフェル公爵の〝今更、何故こんなことを告げたのか〟……という疑問は、アニスが言った言葉の通りでしかなかった。
「それでも……まだ何か言いたいことがあるか? ハフェル公爵」
ジルドレットは鋭い視線でハフェル公爵を見つめる。
その視線は、言外に〝神獣の力を使える人間を、神獣以外の花嫁にして……余計な争いを生む原因にしたいのか〟と聞いていた。
できることなら……もっと早くそれを打ち明けて欲しかったと思うほどに、アニスの存在はとても危険だった。
今の今までは隠し通せていたが……もし何処からかアニスの力のことがバレたら。
彼女はその身を様々な者達から狙われることになるだろう。
神獣がいなくなった後であれば、その価値は更に跳ね上がる。
そして……神獣ではなく人間であるからこそ、手を出しやすく。
この国の者だけでなく他国の人間すら狙ってくるかもしれない。
神獣の婚約者になるということは、〝一応は〟王侯貴族が手を出せない、王侯貴族の権力に屈しない神殿という守護で、アニスの身を守ることに繋がるのだ。
そして、人の手に過ぎたる力を与えないためにも……余計な争いを防ぐためにも。
神獣の婚約者になることが最善策でもあった。
ハフェル公爵もジルドレット国王の危惧していることを理解しているからこそ、何も言えなくなる。
だが、権力に取り憑かれているからこそ……自分の地位が崩れていくことに、納得しきることができなかった。
『なーんで、ここまで権力に執着するのかなぁ……意味分かんないよ』
アニスは、悔しげに歯を噛み締めるハフェル公爵を見つめながら、念話でぽつりと呟く。
その声は酷く呆れながらも……ここまで権力に執着する姿は、いっそ憐れだと言うようでもあって。
ラスティも心の中でそれに同意した。
「…………沈黙は意見がないと取る。話を戻すぞ」
国王ジルドレットはそう溜息を零すと、隣にいた大神官バルトラスに視線で合図をする。
バルトラスはこくりと頷き、空気を買えるように穏やかな口調で語り出した。
「さて……アニス嬢とブリジット嬢の婚約者交換はあくまでも神獣ラスティ様に望まれたから、円満の交換であるとしますぞ。そのため、その信憑性を高めるため……身の安全のため、アニス嬢には一年早く神殿入りして頂きます」
昨夜の内にラスティから神殿に早く入る理由が……〝神殿に早く入ることで、神獣ラスティがアニスを自分の手元に早く置いておきたいとしていると皆に思わせること〟だと聞いていたバルトラスは、それに加えて彼女の身の安全を確保するという理由も付けて、今後のことを口にする。
アニスはそれに、素直に頷いた。
「はい。分かってます」
「よろしい。では、手配の方は儂にお任せくださいませ」
「よろしくお願い致します、大神官バルトラス様」
ここまでは、元々のアニスとラスティの考えた通り。
大事なのは、これからだ。
「発言をよろしいでしょうか、父上。大神官様」
ラフェルが手を軽く挙げながら、口を開く。
父上であるジルドレットは話のタイミングから、なんとなく息子が言わんとしていることを察していたが……きちんと確認をするためにも発言を許可した。
「発言を許可しよう、ラフェル」
「ありがとうございます。ブリジット嬢のことに関してです」
ピクリッ……。
ハフェル公爵がブリジットの名前に反応するが、口を開く気配はない。
ラフェルはチラリとそちらを見てから、真っ直ぐに父親へと視線を戻した。
「ブリジット嬢も王宮で暮らした方が良いと思われます」
「…………ブリジット嬢が、王宮で?」
「はい、そうです。彼女の身の安全のためにも……王宮で暮らした方が安全だと判断しました」
ジルドレットは顎に手を添えて、黙り込む。
息子の言葉で、国王として聡明なジルドレットは何が言いたいかを理解した。
「…………成る程。考えてみればブリジット嬢の身にも、危険があるか」
「はい」
ブリジット本人は何も問題がない。
しかし、問題があるのは彼女を取り巻く環境だ。
現在の、怪我をしている彼女の姿で分かるように……公爵家も安全ではないだろう。
それだけでなく、ブリジット本人に傾倒している者も婚約者を変えると公表された後に何をするかが分からない。
王宮も完全には安全とは言い切れないが……目の届く範囲にいることは、公爵家にいるよりも安心感があるだろう。
息子の本音としては、ブリジットを暴行を振るうハフェル公爵の元において起きたくないだけであったが……ジルドレットはラフェルの本音よりも深読みしていた。
「まぁ……ブリジット様が王宮で暮らすのですか? なら、近くにいるからこそ手続きも幾分か楽でしょうし……沢山お茶をして、息抜きすることができますし。今まで習ったことを、互いに教え合うことがしやすくなりますね」
アニスはにっこりと微笑みながら、ラフェルを後押しをするように告げる。
ラスティも同じように、口を開いた。
「あぁ……確かに。神殿と王宮、習ったことは似たようで似ていないだろうからな。婚姻までの一年間で覚えるにはとても大変だろう。二人は仲が良いから……互いに教え合えば良い刺激になるかもしれないな」
「そうでしょう? それに、ブリジット様は優秀ですが……覚えることは沢山あります。公爵家で暮らすよりも王宮で暮らしながら学んだ方が、効率も良いでしょうね」
「………ラスティ様、アニス嬢の言葉にも一理あり、か。ブリジット嬢はどうしたい?」
国王ジルドレットは、ぽんぽんと続く予め打ち合わせしていたかのような言葉に僅かに苦笑を漏らしながら……ブリジット本人にも聞く。
ブリジットは、ラフェルに手を握られながら……真剣な顔で頷いた。
「わたくしも、王宮で暮らしとうございます。身の安全のため……でもありますが、ラフェル殿下に相応しい王太子妃になるために、時間の無駄なく教育を受けたいのです」
「……ふふっ……」
ジルドレットは笑う。
その笑顔は……優しい親の顔で。
小さな頃から知っている子供達が、大人を納得させることができるようになったこと……つまりは、子供の成長を喜んでいるようだった。
「ハフェル公爵。ブリジット嬢を花嫁修行と称して、王宮に住ませ……身の安全を確保すると共に、一年間で王太子妃教育を完璧に仕上げる。これは国王としての判断だ。異論はあるか?」
「……………いえ。陛下のご随意に」
「レーマン公爵は?」
「元より異論はありません」
「よろしい。では、アニス嬢は神獣ラスティ様の婚約者として神殿で暮らし……ブリジット嬢は王太子ラフェルの婚約者として王宮で暮らすこととする。では、次に公表についての話だが……」
その後も、話し合いは続くが……ひとまず、無事にブリジットをハフェル公爵家から離すことを国王に納得させたアニスとラスティ、ラフェルは……。
互いに視線を合わせ、ニヤリと笑い……心の中でガッツポーズをするのだった。




