神殿での話し合い(1)
体調、ギリギリ復活です‼︎という訳で、更新なのです‼︎
シ〜リアス続くよ〜。ど〜こまでも〜♪
もうそろそろシリアスを終えたいけど、終わらないし……またもや分割です。
まぁ、今後ともよろしくどうぞ‼︎
神殿は、基本的に質素倹約を体現したかのような余計な装飾のない建物になっている。
しかし、それも当然だろう。
神殿の主な収入源は〝国民達の寄付〟だ。
その使用用途は、神殿を飾ることではなく……あくまで民に還元すること。
つまり、孤児院の運営や浮浪者への支援、行事の運営費用など……有益に使われているのだ。
ゆえに、神殿は必要以上に華美な装飾は施されていない。
だとしても、王族や貴族などを招き入れる応接室が……質素すぎるのもまた問題で。
……粗末な部屋で待たせるのかと激怒する王侯貴族がいるため……アニス達が足を踏み入れた応接室は質素ではあるけれど、他の部屋と比べるとある程度豪華な内装が整えられていた。
部屋の中央に置かれた長テーブル。
その上座に置かれた一人用のソファに座った国王ジルドレットと大神官バルトラスは、心底疲れた顔でどこか遠くを見つめていた。
国王と大神官を挟んで右側の長ソファには、見るからに激怒している様子のブリジットの父親……ハフェル公爵。
その左側には我関せずと言わんばかりに涼しい顔をしたアニスの父親……アドニスの姿。
アニス達はジルドレット国王とバルトラス大神官が、虚ろな目をしている理由がなんとなく理解できた。
俗言う、板挟み状態になっていたのだろうーーーーと。
「お待たせ、しました……父う……え………」
「あぁ……随分と遅かったな……?」
「…………………」
「……ラフェル?」
ラフェルが代表して挨拶をするが、その顔が徐々に険しい顔になり国王……正確には、その頭に視線が向かう。
彼の視線に目敏く気づいたアニスは笑いを堪えるために思いっきり顔を背け、ブリジットはそろぉっ〜と目線を晒す。
……………ラスティもラスティで思いっきり顔を背けたい気持ちにはなったが……このままでは国王に機密がバレたことがバレると思い、そうなる前にラフェルの隣に移動し、その足を軽く叩いて、黙り込んでしまった彼を現実世界に返した。
「ハッ⁉︎ し、失礼しました‼︎」
「ど、どうしたんだ……? 急に険しい顔で黙り込んで……」
「いえ………なんでもありません」
ラフェルは笑顔でそう返すが、長い付き合いの幼馴染ーズは彼の本音が分かっていた。
…………自分の父親の頭が気になっているな、と。
アニスは念話で、ラスティに告げる。
『ぷぷぷっ……まぁ、気になっちゃうのも仕方ないよねぇ? ハゲてるって聞いたのに、ふさふさしてるんだもん……絶対、カツラだよ……』
『ぶふっ⁉︎ アニス、念話でそんなこと言ってくるんじゃない‼︎ 噴き出しかけたろっっ⁉︎』
『めんごろー』
『謝る気がないっっっ‼︎』
アニスとラスティは念話で会話をしているが、表向きには無言のまま固まる四人。
国王ジルドレットはそんな四人を見て、不思議そうに思いながらも……席に座るように促した。
「ブリジット、こちらへ」
「………えぇ……」
下座に置かれた一人用のソファに、父親と離れて座るようにブリジットをアドニス側にエスコートし、ラフェルはハフェル公爵に近い方に座る。
「アニスはわたしの隣に座るかい?」
「そこしかありませんよ、お父様」
アニスは父アドニスに促されてその隣に座り、ラスティはその足元に座った。
全員が席につき、何故か(実際にはハフェル公爵から放たれる威圧によって)気まずい沈黙が満ちる。
数秒にも数十秒にも数分にも感じる時間の中……一番初めに口を開いたのは、国王ジルドレットだった。
「さて……今回集まってもらったのは、神獣と王太子の婚約の件に関してだ。結論から言えば、アニス嬢とブリジット嬢を交代して婚約を結ぶことになる」
「…………一つよろしいでしょうか、国王陛下」
「何かな、ハフェル公爵」
「わたしは今回の件を信じておりませぬ」
ハフェル公爵の言葉に、皆が目を見開く。
今回の報告は王宮からされているのだ。
つまり、それを信じないということは、王宮を……国王の言葉を信じていないと言っているも同然で。
ジルドレットは真剣な顔で、彼に問うた。
「何故だ?」
「それはそうでしょう。ブリジットはアニス嬢より優秀だ。ゆえに、その座を蹴るような愚行をするとは……考えられない」
「だが、実際にーー」
「神獣の婚約者はブリジットだ。わたしは王太子の婚約者になることなど認めない」
シンッ……と静まり返る応接室。
ハフェル公爵は、例えブリジットとラフェルが一線を超えたことが真実であろうと認める気がないようで。
認めなければ……なんとかなると、思っているようでもあった。
けれど、その沈黙を切り裂くように……バルトラスは口を開く。
「……ですがのぅ。アニス嬢がブリジット嬢より神獣ラスティ様と相性が良いとお聞きしておりますから……今回の件があろうとなかろうと、婚約者を交換するのが一番だと思いますぞ?」
「…………何?」
ピクリッ。
ハフェル公爵はそれを聞いて鋭い視線をバルトラスに向ける。
普通であれば怯むような凄みのある視線だったが……大神官はそれに笑顔で応じた。
「如何されましたかな?」
「…………公的な発表は〝相性の問題〟とするつもりらしいが、漠然とした理由すぎるだろう。それに、その程度の理由で婚約者を変えるなど……他の者だって納得しないと思われるが?」
「……おやおや? まさか……ブリジット嬢からお聞きしておられないのですかのぅ? アニス嬢はラスティ様のお力……神獣のお力を譲渡して頂くことができるほど、相性が良いのだということを」
「………………は?」
それを聞いたハフェル公爵は目を見開き、呆然とする。
だが、直ぐにブリジットの方へと振り向き、怒りを押し殺すような声で質問した。
「ブリジット‼︎ どういうことだっ‼︎」
「っ……‼︎」
父親の怒気に気圧されたブリジットはぶるりっと身体を震わせ、強張った顔になる。
しかし、そんな彼女を守るようにラフェルがスッと身体を乗り出した。
「その話を聞く前に……手を出されたのでは?」
トントンッと頬を指先で突く仕草に、ハフェル公爵は娘を叩いた時にまだ何か言おうとしていたことを思い出すが、自分が聞く耳を持たなかったことを思い出す。
加えて……王宮からの手紙には『公的な発表では〝相性の問題〟とする』なんていう漠然な理由しか書いてなかったため……性格の問題だとかそう言った理由だと思っていた。
ゆえに、認めなければ問題ないと思っていたが……神獣の力に関する相性であれば、そんな簡単な話ではない。
しかし、受け入れることも素直にできなくて。
ハフェル公爵は心の中で舌打ちをしながらも……最初のスタンスを崩すつもりはないと言わんばかりに告げた。
「だが、それも神獣の婚約者になりたいアニス嬢の狂言かもしれないだろう? 大体、花嫁が神獣の力を使えるなど……そんなの初代ぐらいしーーーー」
「まぁ……酷いですね、ハフェル公爵」
シュンッッ‼︎
『っっっ⁉︎』
宙に浮いた黄金色の剣が、ハフェル公爵の眼前スレスレまで迫る。
ラスティを除く、驚愕に染まる皆の視線を集めながら……黄金色の魔法陣を片手に展開したアニスは、にっこりと獰猛な笑みを浮かべながら、首を傾げた。
「私が嘘を言っているとでも? これを見ても、同じことが言えるのでしょうか?」
「……なっ……なっ……⁉︎」
ハフェル公爵だけでなく……実際にアニスが神獣の力を使えることを見たことがあるラスティとアドニス以外の全員が目を見開いていた。
信じていなかった訳ではないが、衝撃を受けてしまうのは仕方のないことだろう。
今の今まで、神獣の力を他の者が使えるなど……初代神獣の花嫁だけだとされてきたのだから。
ラスティはアニスの行動に心の中では〝よくやった〟と思いながらも、表向きには呆れたように大きく溜息を零しながら……しなやかな尻尾で彼女の足をぺちりっと叩いた。
「アニス、物騒だぞ」
「あらあら……ごめんなさい? 信じて頂くには実際に使って見せるのが手っ取り早いと思い……こんなことをしてしまいました」
「まぁ、それはそうだが……」
アニスが魔法陣を消すのと同時に黄金の剣も姿を消す。
完全に魔法剣が消えたを確認してから……ラスティは念話をした。
『ナイス、アニス。見ろよ、ハフェル公爵の顔。いつもと違って、愕然としてる』
『あははっ、ちょっとは痛い目に遭わないとね? ブリジットを傷つけたんだもん。脅かすぐらい、許されるよね?』
『勿論。他の奴が許さなくても、俺が許す』
『やっぱりラスティも幼馴染大好きだね〜』
『まぁーな』
アニスとラスティが念話で会話をする中、驚いていたバルトラスが一番に我に返り……「ごほんっ」と咳払いをして、穏やかな笑顔を見せた。
「…………という訳で。見て分かりましたように……ラスティ様と相性が良い以上、アニス嬢が神獣の婚約者になるのが相応しいかと思われますぞ」
「………そ、んな……まさか……」
ハフェル公爵は口元を手で覆いながら、愕然とする。
ブリジットとラフェルが一線を超えたことは、神獣の婚約者を降りる原因となるような……許し難いことだったが。
だが、アニスが神獣の力を使えると言うならば。
例え、二人が一線を超えていようがいまいが……婚約者が変わるのは決まっているようなモノではないか。
…………ハフェル公爵が権力を失うのは、決まっているようなモノだったのだ。
「…………何故、今更っ……‼︎」
ハフェル公爵は、切羽詰まったような顔でアニスを睨む。
その顔は、〝何故、今更そのことを打ち明けたのか〟と問うているようで。
アニスはその言葉に、クスクスと笑い声を漏らした。
「ふふふっ。ブリジットとラフェルが惹かれあっているならば、それを応援するのが幼馴染というものでしょう? だから、ですよ。確実に婚約相手を交換させるには……これが一番ですもの」
そう答えたアニスの笑顔は、まるでハフェル公爵の思い通りにはさせないと……嘲るようだった。




