第二回・幼馴染ーズ(+α)の作戦会議(2)
また長くなりそうでしたので、分割です。
ちょっとシリアスムーブかな?所々、崩れるけど。
読んでくださり、ありがとうこざいます‼︎
今後もよろしくどうぞっ‼︎
既に無言を貫き始めているダラスによる、国王の機密暴露に話が逸れたアニス達は、国王陛下の頭への好奇心(……ラフェルは自分の父親の秘密を知った所為で、微妙に心に傷を負った様子)に……アニス達はなんとか蓋をした。
「えっと……陛下の機密が衝撃強すぎて逸れちゃったけど……話を戻そっか?」
アニスは、場の空気を切り替える目的で手を二回ほど叩く。
その合図に、ラスティ達も真剣な顔に切り替わり……やっと逸れていた会話が戻り始めた。
「繰り返しになるが……わたしとブリジットが結ばれたことは、ハフェル公爵にとって予想外以外の何物でもないはずだ。じゃなきゃ、ブリジットに手をあげようなんてしないだろうし」
「…………そうですわね」
ラフェルの言葉に、ブリジットは頷く。
厳しく躾けられ、権力を手に入れるための道具扱いをされてきた。
しかし、ハフェル公爵にとってブリジットは一応は利用価値のある大切な駒だったのだ。
そのため、今の今まで暴力などを振られることはなかった。
駒を傷つけることはなかった。
しかし、今回の件で手をあげられたということは……既に、ハフェル公爵の中でブリジットの利用価値はかなり下がっているということの裏付けになるだろう。
「ハフェル公爵の取る行動として考えられるのは、神獣の婚約者を降りることへの反対か……渋々ラフェルの婚約者になることを了承するかのどちらかだな」
「…………あり得るだろうな。〝一線を超えたなんて信じない〟なんて言って、ブリジットはラスティの婚約者だとか主張しそうだ」
「うわぁ〜……想像できるぅ……。あの人、権力に執着しすぎだよねぇ……。神獣の婚約者の代わりに王太子の婚約者になるのだって、充分な権力を手に入れられると思うんだけど……」
大きな溜息を零す三人に、ブリジットは〝ズーンッ……〟という効果音が似合いそうなほど落ち込む。
そして、ゆっくりと頭を下げ、謝罪した。
「…………その……わたくしのお父様の所為で……ごめんなさいね……」
「「「‼︎」」」
三人はその沈んだブリジットの姿を見て、ハッとする。
真面目なブリジットは、自分が父親に酷い扱いを受けていようが……実の父だからと、ハフェル公爵がしたことに罪悪感を覚えるのだ。
彼女は何も悪くないのに、自分達の何気ない言葉で、彼女を落ち込ませてしまったことに……失敗したと思いながら、アニスは彼女の頭を撫でながら慰めた。
「あぁぁぁ……大丈夫だから、そんなに落ち込まないで? というか、ブリジットは何も悪くないんだから……」
「…………でも……わたくし……」
「もーっ‼︎ 難しく考えないの‼︎ ブリジットもラフェルも互いに惹かれちゃったんだから、仕方ない。私達も二人が結ばれたことが嬉しい。周りの奴らがちょーっとだけ煩いけど……そんなの、協力して黙らせれば良いの。私達四人は何も問題ないんだから、ブリジットがそんなに落ち込んだり、悩んだりする必要はないんだよ? ブリジット達が幸せになるためなら……私はなんだってするんだから‼︎ だから、ブリジットは幸せになることだけ考えてればいいんだよ?」
ふわりと、華やかに咲き綻ぶアニスの満面の笑顔は……その言葉が嘘偽りないのだと告げているようで。
ブリジットは優しすぎる幼馴染の言葉に、逆にボロボロと涙を零し始める。
号泣しだした彼女を見て、アニスは自分が泣かせたことに〝ガーーーンッ‼︎〟とショックを受けるし……泣いた理由を察したラスティは苦笑を漏らす。
ラフェルは大切な人が泣かされたことに「アニス〜?」とちょっと怖い目を向けるが……。
ブリジットが「ち、違うわっ……‼︎」と止めたことで、「……ははっ、分かってるよ」と苦笑しながら返事を返した。
「アニスの言葉が嬉しくて、泣いたんだろう?」
「え、えぇ……そうなのよ。なんて優しくて素敵な幼馴染なのだろうって……わたくしには勿体ないぐらいだわ」
「………えへっ。それほどでも♪」
そんな風に言われたアニスは、嬉しそうに笑う。
ラフェルはそんな幼馴染を見て……ちょっとだけ拗ねたような顔をした。
「……………はぁ〜……悔しいな。なんで、いつもブリジットのことを喜ばせるのがアニスなんだ」
「…………ラフェル……」
「ブリジットの前で、格好いいところを見せたいんだけどな」
少しだけ悔しそうなラフェルと、そんな彼の言葉にほんのりと頬を赤くして恥ずかしそうにするブリジット。
甘酸っぱい空気が流れ出した瞬間ーーーー。
場の空気を壊していくアニスがニマニマと笑いながら、告げた。
「あははっ‼︎ 男の嫉妬は見苦しいねっ☆」
「…………………」
ラフェルのこめかみに血管が浮き、胡乱な視線をアニスに向ける。
しかし、その矛先は彼女ではなく……その保護者(?)であるラスティに向かった。
「ラスティ‼︎ 君のアニスをなんとかしろ‼︎」
「……いや。なんとかしろと言われても、どうしろと?」
「ずっとブリジットの隣に座ってるしっ……‼︎ わたしだって、ブリジットの隣に座りたいっ……‼︎」
「ブハッ……‼︎ 絶対、最後の言葉が本音だろ⁉︎ 素直すぎだろう、お前‼︎」
「ふんっ‼︎」
ラスティはケラケラ笑いながら、目尻に浮かんだ涙を器用に前脚で拭う。
幼馴染の前では……アニスはとても抱擁力溢れてるし、ブリジットは人前では見せない姿を見せたりしているし……ラフェルに至っては子供みたいに素直になる。
本当、このメンバーは飽きないなぁ……と思いながら、ラスティはアニスを魔法でふわりと自分の側に来させた。
「うぉっ……浮遊感‼︎」
「ほら、アニス。見苦しい嫉妬をしてるラフェルのために、俺の側にいなさい?」
「………‼︎ ふふふ〜っ。なら、仕方ないねぇ〜?」
アニスはその言葉に何かを察したようにニヤリと笑う。
彼女の顔には〝ラフェル、面白い〟とはっきりと書いてあって。
ラスティは呆れたように、誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。
「…………ぶっちゃけ……アニスの所為でラフェルにこのまま拗ねられたら、更に話が進まないからな」
「ん? 何か言った?」
「いや? 何も?」
ラスティはアニスからの質問に首を振って、床に身体を横たわらせる。
そんな彼の身体に寄りかかるように、アニスは床を気にすることなく座り……ラフェルはその間にしれっとブリジットの隣に座って、ぎゅうっと彼女との手を恋人繋ぎで結び直した。
ラスティは幼馴染達を一瞥して、「さて……真面目に進めるぞ」と口を開く。
「取り敢えず、俺とアニスの相性が良いことを公表する予定だから、ハフェル公爵がいくら反論したって婚約者が変わることは確定済みだと考えてくれ」
「うん」
「えぇ」
「あぁ」
アニスとラスティが、自分達の相性を良いことを広めていなかったのは……国が決めた婚約だったというのと、結婚しようが幼馴染四人が共にいるのが変わらなかったという他に……ハフェル公爵のこともあったからだ。
もしブリジットが神獣の婚約者でなくなれば……権力を手入れられないと知ったハフェル公爵に、八つ当たりされる可能性が高い。
現時点でブリジットは父親から暴行を受けているのだ。
それに間違いはないだろう。
そして……ブリジットは幼い頃から道具扱いされてきたため、心理的に父親に反抗することができなくなっている。
ゆえに、父親に何をされても……彼女はそれを受け入れるしかない。
アニスとラスティは、そんな幼馴染の身の安全を守るためにも、相性のことを公にしていなかったのだ。
だが、今回はそれを公表してでもそれぞれの婚約を確実に解消し、相手を交換して、婚約を結び直す必要がある。
そうしなければ、ブリジットとラフェルが結ばれることができないのだから。
「ラフェルには悪いけど……神獣派のハフェル公爵にとって、王太子の婚約者は格落ちみたいな感じなんだろうね。実際は充分な地位だと思うけど」
「あぁ、そうだろうな。だからこそブリジットが心配なんだ。流石に最悪な展開……までとはいかないだろうが、わたしの婚約者となったら扱いが酷くなるのは想定できる。だから、ブリジットの身の安全を守るために……作戦会議をしてるんだ」
「…………みんな、話が逸れまくるから本題に入るまでだいぶ、時間かかったけどな。主にラフェルの親父さんの機密とか」
「うぐっ‼︎」
ラフェルはそれに胸を押さえる。
………………どうやら尊敬する父親の、阿呆感溢れる機密は……息子に中々の衝撃を残しているらしい。
ラスティは心底申し訳なさそうな顔になりながら、頭を下げた。
「………ごめん……そこまで親父さんの頭を気にしてたか……」
「いや……ちょっと……威厳ある父上と機密のギャップが強すぎて……大丈夫だから、続けてくれ……」
「………あぁ」
若干心配そうな雰囲気を出しながらも、ラスティは話を続けた。
「という訳で……どうやってブリジットを守る? ……に繋がるんだが、一つ言えるのはブリジットをハフェル公爵家にいさせるのは止めた方がいいってことぐらいかな」
「うーん……それはそうだけど。でも、神殿に身を寄せるって言っても、余計な噂がたつよね?」
神殿は家庭内で家族や夫に暴力を振られた女性や子供が逃げ込む場所としても機能している。
そのため、一度逃げ込めば神官が仲介に入って、そういった問題に対処してくれるのだが……。
流石に、ブリジットがそれをするのは少しばかり問題があるだろう。
婚約が解消されたのに、元婚約者がいる神殿に身を寄せるとなれば……変な勘繰りをする者や、事実を湾曲理解する者が現れるだろう。
アニスが懸念するのも当然だった。
「なら、選択肢は一つだ。わたしの元……つまりは王宮で暮らさせるしかない」
ラフェルはそう言いながら隣に座ったブリジットのガーゼで覆われた頬を、触れるか触れないかの距離で撫でる。
そして……心配そうな顔で質問した。
「…………ブリジットは……どうしたい?」
「…………? わたくし?」
「君の身を守るためとはいえ……ブリジットの意見を、聞いてなかったから」
ブリジットはそう言われて大きく目を見開き……数秒後、目を伏せて黙り込む。
その仕草は彼女が考え込んでいる時のモノで。
その少ししてから……ブリジットは……ゆっくりと口を開いた。




