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私の知らない私の話(仮題)  作者: 大吟醸
第一章
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これは薬のせいなのか、それとも…(仮題)

 カーテンの隙間から漏れてくる光で、目を覚ます。いつも、中途半端に開いているカーテンは、こういう時に便利だ。自分のだらしなさを計画性とはき違えているわけではないが、こういうことがあるから、カーテンを完全に閉めきってしまうのが不安になるときがある。


 だらだらと意味のない思考を巡らせながら、体を起こし、スマホの電源ボタンを押して、時間を確認しようとするが、画面が点かない。どうやら薬のせいで、充電器に差し込むのを忘れたまま寝てしまったらしく、電源が切れている。部屋に時間を確認できるようなものは何もない。彼女が出て行ったときに、何もかもどうでもよくなっていた私は、どうせ寝るだけだから何もいらない、と家電も家財道具も一式をすべて彼女に渡していた。最初はなすがままに任せて、死んでしまってもかまわないと思っていたのだが、今まで生きてしまっているせいで、結局一月前に買った単身用の冷蔵庫だけが部屋で駆動音を響かせている。この冷蔵庫の音だけが響く静かな部屋で、先週まではかろうじて、腕時計が二つ目の音を刻んでいたのだが、電池交換をしていなかったせいで、今は同じ時刻を指しているだけの役立たずになってしまっている。


 口の中が気持ち悪いので、スマホを充電器に差し、歯磨きをしに洗面所へ向かう。幼いころ、高い所から落ちた衝撃で右に曲がった骨のせいかはわからないが、詰まりやすい鼻呼吸は、寝ている間は口呼吸になっているようで、毎朝、不快な目覚めを続けている。薬を飲んで寝ても、それは変わらないらしい。当たり前といえば当たり前だ。単なる睡眠薬で、鼻をどうにかするわけではないのだから。


 洗面所で鏡を見ると、昨日よりは幾分すっきりした顔に見える。久しぶりにぐっすり寝たおかげだろうか。それでも、長年の間に居座った目の下のクマは薄れることなく、そこにある。歯磨きをしながら、こうやって見るとなんだか老けた気がするな、と無精髭の伸びた自分の顔をぼんやりと眺める。


 口をゆすいで、部屋に戻り、多少充電されたスマホを起動させて、時間を確かめる。10時48分。出社時間は14時だから、今から準備をしても十分時間はある。しかし、私は自分が独りであることを否が応にも自覚しなければならない、この「何もしなくて済む空虚な時間」が嫌で、着替えを済ませ、髭を剃り、不十分な充電のままのスマホと財布、仕事用の鞄を持って家を出ようと玄関へ向かう。


 靴を履いている時に違和感を覚える。何かが昨日帰って来たときとは違っているような気がする。昨日の夜、座り込んだ玄関の様子を思い出そうとするものの、靄がかかったようにはっきりとしない。5分ほど考えるが、やっぱりわからない。生来の適当で大雑把な性格のせいで、細かく思い出せないのだ。


 結局、勘違いだろうと結論付けて、家を出て車に向かった。

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