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聖戦のアヴァターラ  作者: 紅咲 時雨
第一編 聖戦前日録
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第2章《蹂躙遊戯》 六話 激闘《前編》

前編後編に分かれています。

「闘気家の居場所は戦地だ。そこが崖だろうが閑静な住宅街だろうが狭い家屋だろうが、そこは必ず戦地と化す。」

和畳が敷かれた室内に、仙人の如し老師があぐらをかいて座っていた。

彼の左右には側近と思わしき巨体が対になる様に直立しており、老師の話を黙聴していた。

そしてもう一人、老師の話を整った正座で拝聴する人間がいた。

巫女装束を身に纏った少女だった。

「この言葉の意味、お主には理解できるな。覡よ。」

「はい、お祖父様。」

かんなぎと呼ばれた少女は、こくりと頷き、真っ直ぐに返事をした。

「最強の漢、ニルヴァナ・ガーシャが表舞台から姿を決して以降、クシナガラには【引力】が発生しておる。新たなる最強の漢を引き寄せる【引力】がな。」

「…それ故に、この機会を逃すまいと思い立ち、アヴァターラの開催に出資なされたのですね。」

「その通り。それ故に我ら【闘真会】も歴代最強の漢を送り込んだ。奴は我が闘真会の中で一番目に闘気をの種を開花させ、現在この日本には奴を倒せるものは一人とて居らぬ。」

老師は誇らしげに語る。覡は彼の様子に微笑み、相槌を打った。

「はい。鉄野様は誰もが認める最強の闘気家です。だからこそあの御影様も彼の成長を促進させるべく協力なさっておりました。」

「ーーー」

覡の言葉に老師の表情が歪んだ。

ーー触れてはならなかったか。

「御影ーーー奴は武道の冒涜者よ。二人目の闘気家故にあらゆる助力を惜しまなかった我々を裏切りおった。まさかあの二人ーーいや、覡も関わりを持っていたとはな。」

御影と呼ばれる男に老師は憎悪にも似た感情を向けていた。

まさかここまでとは、覡は額に汗を浮かばせた。

「ーーー闘気家は惹かれ合う。それ故に断ち切れぬ鎖があったというのか。」

どこか悔しげに、老師はそう呟いた。

「覡よ、我が愛おしき孫よ。聴かせておくれ、女という性で初めての闘気発現者としての意見を。闘真会は、いや我は鉄野を選んで正解だったのか、否かを。」

どこかで【鉄野拳】に対する評価に揺らぎが生じたのか、老師は覡に問いかける。

覡は首肯し、言葉を繋げた。

「もちろんです。お祖父様は正当な評価をなさりました。確かに御影様は闘気に関してはずば抜けた才能がありました。アヴァターラにおいてそれは最強の武器であり、無視し難い事実です。しかし覡は観ました。鉄野様と御影様の御前試合の一部始終を。」

「何とッ!」

「結果は鉄野様の勝利でございました。鉄野様はアヴァターラに備え、己の最強とする【型】を完成なされたのです。」

「…そうか、とうとう完成させたのか…。我が眼は正しかった。」

どこか誇らしげな表情を浮かべ、しかし瞬時に顔色を変えた。

「ならば良し…だが覡、我らが会に背くも同然の行いを冒したお前らには然るべき処罰を与えねばならない。分かっておるな?」

老師の命令は絶対。御影を勘当したのにも関わらず交流していた覡と拳には処罰を与えるほかない。

「はい、何なりと。」

「…クシナガラへ赴き、鉄野拳の勝利を見届けよ。ここに航空券はある。即座に向かうが良い。案ずるな、荷物は嘉神かがみが先に輸送している。」

母上の許可も得られていると。ならば向かわねばならない。

「では失礼いたします。お元気で。」

「ああ、吉報を待っておる。」

そして覡は、軽い身支度を済ませ、飛行機に乗って日本を後にした。


ーーーーー

「ここがクシナガラですか…。」

空の旅を終えた覡は、想像以上の大都会に触れ、感服していた。

が、それもつかの間、彼女は鉄野が宿泊しているパリニヴァナ区域にあるホテル《ナラシンハ パレス》へと直行することにした。

配送アプリであらかじめ連絡しておいたタクシーに乗車し、現地に向かう際、運転手は意味深な言葉を残していた。

「本気かい!?…仕事だから仕方ないけどちょっと遠くに止めさしてもらってもいいかい?なに、俺だって死にたくないからね。」

なんのことだろうかと疑問に思ったが、時間がなかったので聞き流しタクシーを走らせた。


この街に来て数十分、何やら様子がおかしい。

対向車線を走る車の運転はたどたどしく、頭をカバンなり手なりで守るようにして歩道を走る住人が大勢いた。

運転手も先程から「あー、もう。」「都合が悪りぃなぁ…。」「こっちまで来てなきゃ良いけど…。」と独り言をぼやいていた。

痺れを切らした覡は、苛立ちつつ運転手に現状について問い質そうと口を開いたーーーーーー

刹那ーーー

ドォォォン!!という轟音とともに、タクシーの真横スレスレに、コンクリートの塊が降って来た。


「ーーーーーッッ!?!?!?!」

「うぁあああああああああああ!!!!だから言ったじゃないかぁぁああああ!!!!」


非現実的な状況に驚きを隠せない覡。運転手は泣きながら絶叫していた。

「何も言われてないですよ!なんなんですかこれは!!」

意味深な言葉で濁して来た運転手に激昂する覡。

「君が良いって言ったんだろ!!?ああもう!!」

彼女の言葉に反論する運転手、脇道にタクシーを停車し、ぐしゃぐしゃに顔を歪ませた顔で運転手は

「ああもう運賃は要らないからここで降りて!お金より命の方が大事だ!この先に用があるなら運が悪かったな!こっから先は地獄だよ!!」

顎をこれでもかというほどに外に向け、降りろと催促する運転手。

「なんなんですか…しかしわかりました。あなたの気が変わらぬうちに降車させていただきます。」

現状がどうであれ、運賃がタダになるのは非常にありがたい。

はっきり言って不安しかないものの、覡は降車することに決めた。


ーーーー


これから綴られるは、覡がクシナガラへ上陸する前に起きた、二人の闘気家の激闘録である。


ーーーー


「愉しませてくれェ…なァ!!!!」


ヴェルモンテが放つ上段蹴りを、スターマンは回避せずに受け止めた。

「ーーー成る程なァ。漢の闘い方を理解してやがる…ッッ!!」

ヴェルモンテはそう言い残すと数メートル後方に飛んで距離を取り、ただ自分自身を黙視しているスターマンに睨んだ。

「流石だァ、あの刹那に何発叩き込んだァ?だがその程度じゃ牽制にもならねェ…ぞッ!!」

瞬時にスターマンまでの距離を詰め、硬く握り締めた拳を顎部目掛けて振り上げた。

「ッ!」

流石のスターマンもこの攻撃には動きを見せ、両腕をクロスして防御で応じた。

が、しかしーーーー

「ッッラァア!!!!」

超加速的に振り上げられる拳は音速を超え、衝撃が両腕を貫通し、顎部に直撃した。

「グゥゥッッ!!!!」

衝撃は脳にまで到達し、激しい吐き気や目眩がスターマンを襲う。ヴェルモンテは賺さず腹部に水平蹴りを叩き込む。

ノーガードでそれを受け、吹き飛ばされたスターマンは近くのビルタワーに激突した。

ドゴォォォ!という崩壊音とともに砂煙が舞う。野次馬はその光景に腰を抜かし、先程までの空気を支配していたチンピラは背景と同化していた。

その中で、相手を追い込んでいるはずのヴェルモンテはなぜか神妙な面持ちだった。

「…確信はあったんだァ…俺の拳は確実に顎部に叩き込まれたァ…。グっ…いてェ…なんだこれはよォ…。」

それは衝撃だった。

なんとヴェルモンテの拳から血が吹き出していた。

ナックルダスターに殴られても傷一つつかなかったヴェルモンテの身体が、負傷したのだ。

先程スターマンを蹴り飛ばした脚にも打撲の痕があり、その異常な状況にヴェルモンテは焦りを感じていた。

「なん年ぶりだァ…?血なんて出したのはよォ…。…俺も人間だったんだな…ァ。」

同時に喜悦に満ちた表情をうかべるヴェルモンテ、拳から視線を上げスターマンが倒れている先を見つめ直す。

「おい、スターマン。そろそろいいだろォ?続きィ…やろうやァ…!」

狂的までに分泌されるアドレナリン。戦闘において初めて経験する興奮にヴェルモンテは獣の如き形相でスターマンへと疾走する。

その風圧で砂煙は散乱し、オールバックの男は姿を現したーーー。

ヴェルモンテとは打って変わって、彼は赫怒していた。

「続きだと…?巫山戯るなッ!!!何を怯えているのだッ!!お前如きが本気を出した程度で壊れるほど脆くないと言っておるだろうがッ!!…それとも、これが本気か…?なら残念だ。所詮お前もそこらのチンピラと変わらないということよ…ぐッ!」

音を置き去りにする疾走。ヴェルモンテはスターマンの根首を鷲掴みし、さらに壁へと押し付けた。

「巫山戯てるゥ…?何言ってやがるんだァ…テメェ…?」

ヴェルモンテは右腕に血管を浮かばせ、手にさらなる圧をかける。

「お前の限界はその程度なのかと言っているッ!!何故追い詰めているはずのお前が身体的ダメージを負っている!闘気家なのだろう!ならばわかるはずだ!」

刹那、ヴェルモンテの右手がひしゃげた。

「ーーーーーッッ!!!!」

ズタボロになった右手は感覚を失い、ヴェルモンテは即座に後方へ飛んだ。

「闘気家が闘気家と言われる所以、お前には、いやお前だからこそわかるはずだ!!何故此の期に及んで闘気を発動していないッッ!!」

「!!」

全体像を見渡して、ヴェルモンテは漸くスターマンの身体に白色の闘気が纏わり付いていることに気がついた。

「これがァ…闘気ィ…?」

「ーーーー知らぬとは言わせぬぞ。お前にも発現しているはずだ。」

そう言って睨みつけるスターマン。

「闘気家同士の戦いであろうと、闘気を発動している人間としていない人間では蟻と獅子以上の差が生まれる。それが現状だ。」

スターマンはそう語りながら一歩ずつ前へ足を踏み出していく。

「確かにお前は強い。闘気家とは闘気を発現させた時点で一般人の数百倍以上の身体能力を会得できる。故に今までお前は今まで負け知らずだった。それが例え闘気そのものを発動していなくてもだ。」

「ーーー。」

「敢えて言おう。私は闘気と言うものが嫌いだ。異国の神から投げつけられた糞便に価値は無いと断言できる。我らが偉大なる米国人はこの様なものに頼らずともあらゆる叡智を持ってして人類の輝きを示すことができる。ならば何故これを使用しているか。答えは明確だ。」

ーーースターマンの闘気が揺らぐ。

「お前達が最強と言い張るこれを以ってッ!!お前達の最強を打ち砕きッ!お前達の世迷言を全否定する為だアアアァ!」


それは噴出する白亜の柱だった。

スターマンの立つ地に輝きを齎らす神聖なる闘気の目覚め、今まさにスターマンは全開を放出したのだ。

その輝きに連動する様に崩れ始める周辺のビル群。スターマン単体の質量に耐えきれず崩壊しだす物質の数々。

野次馬は叫喚し四散しだす。我先にと逃走しその光の柱から遠ざかる。

ただ一人、ヴェルモンテだけがそれを傍観していた。


「ーーーーー圧倒的だなァ…。」

まるで他人事の様にそう呟いたヴェルモンテ。

このままでは白き柱に飲まれ無様に敗北するかもしれない、そんな状態で彼は自然と笑みを浮かべていた。

「負けるかも、しんねえェなァ…。」

人生最大の危機に、ヴェルモンテはただそれだけを考えていた。

敗北が脳裏を過ぎった、今まで圧倒的なまでの勝利しかしてこなかったヴェルモンテには、知らぬ言葉だった。

それがあまりにも新鮮で、未知で、楽しい。

「本気、出していいんだよなァ…。」

ボロボロの身体、血だらけの拳、何もかも初めての経験で。

「ーーーーォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァア!!!!!!!!」

全身に滾る気持ちを声に出し、心体の深部から放出する。

けたたましい咆哮はいずれ色を帯び、金色のスパークが身体中に駆け巡る。

修復されていく身体の傷。そして新たに浮き上がる血管の数々。

色を帯びた咆哮は衝撃波と化し、形為す全てに破壊の限りを尽くした。

地面は砕け、崩壊したビル群をさらに粉砕し、空間すらも歪んだ様な錯覚。

その衝撃は逃げ惑う市民にまで及び、吹き飛ばし、薙ぎ払い、蹂躙の限りを尽くす。

まるで子供が玩具で出来た街を思いつきでぐしゃぐしゃにする様な無残性。

しかしそれは余波でしかなく、狂的なまでのエネルギーは特定の人間にのみ向けられら感謝の解放。

あらゆる暴虐をし尽くした黄金獅子は、白き柱に向け言葉を発した。。

「…感謝するぜェ…スターマン。疼いていた戦闘本能がァ…お前のおかげで発散できるんだからなァ…。」

スターマンは、ただ淡々と黄金獅子に近づいていく。

「礼などいらぬ。言葉で説得するよりも行動で示したほうが早いと思考したまでだ。」

「そうかよォ…!」

お互いの距離が縮まっていくに連れ、圧縮されていく空間。

そして両者は、足を止めた。


刹那。

無数の衝撃波を開戦の合図とし、金色獅子ヴェルモンテと 光のスターマンの真なる戦いが開幕した。

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