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聖戦のアヴァターラ  作者: 紅咲 時雨
第一編 聖戦前日録
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第1章《戦士邂逅》二話 避けられぬ出会い



御都合主義と言ってしまえばそれまでかもしれないが。きっとここで会わなくとも、彼らは惹かれあっていたに違いない。


「ここが闘気家の聖地、クシナガラかぁ…。」

港から歩いて数十分の場所に、アールシュが追い求めていた世界があった。

聖地クシナガラーーーインド共和国の西に位置し、原点にして頂点と称えられ、数多の伝説を遺した闘気家、ガージャが没したと云われる漢の聖域。最強の闘気家を目標にする漢なら誰もが一度は訪れたいと云われる大都市だ。

伝統ある場所だが、近年、ある男がキッカケで爆発的に人気が急増した ー格闘気ー と呼ばれる特殊な才を持つ漢達の格闘技の聖地ということもあり、国が総力を挙げた都市開発が進んでおり、インド共和国の中ではムンバイに次ぐ都市総合力を誇る。


「ルンビィなんかとは比べもんにならねえなぁ…そりゃお金とか複雑なもんが必要になるわ…。」

辺境の村に住むアールシュからすればこのような大都市は右も左も分からない異世界。

鼠色の路を走行する鉄の塊、様々な色彩が塗りたくられた自身の何倍の背丈もある住居。此処に住む人間のほとんどが長方形の板を凝視しており、そんなものとは無縁の生活を送っていた彼からすれば少々不気味な光景が眼前に広がっていた。


「さて、ギンコウを探さねえと…。」

アールシュは歩を進めた。

サラスは村人から預かっていた金銭を一人一人に許可を貰い、全額寄付してくれると言ってくれた。

彼女いわく三ヶ月は食いっぱぐれないくらいはあるとのことだ。

どうやらクシナガラには野獣の類はいなさそうだし、お金を使って商品を買わなければ空腹は間逃れない。

それの価値はまだわからないが、幾らあっても困ることはないと言っていたし、サラスから預かったメモを見ながら生活していこう。

サラスは銀行に金銭を預けていると言っていたが、それらしき建物が見つからない。

でかくて近代的で機械がいっぱいある場所と言っていたが、俺からすれば全部それに見える。

さて、腹が減る前にとりあえずありつきたいがーーーー


「おい坊主。」

後ろから野太い声がアールシュに向けて発せられた。

後ろを振り返ると、声に相応しいガタイの良い黒人男性が呆れ顔で立っていた。

ボディビルダーのような筋肉をパツパツになったポロシャツが引き立てている。

「さっきから同じところをうろちょろと…なんだ?迷子か?」

「…迷子?」

何か心配げに話しかけてくる男。どうやら俺が迷子と勘違いしているらしい。

「別に迷子じゃない。道に迷っただけだ。」

「はぁ?あのなぁ…それを一般では迷子っつんだよ。ったく…どこにいきたいんだ?」

どうやら彼は道案内出来るレベルには此処に土地勘があると見た。これは利用しないてはない。

「ギンコウって、どこにあるんだ?」

「銀行か?あー、確かに此処が初めてっぽいしわからねえよな。わかった、案内してやるよ。…ここからならガーシャ像前の銀行が近い、ついて来い。」

初対面の若造に気前良く案内を開始した男。だがそっからはちょいと想定外だ。

「いや、案内はいい。俺だけで行く。あんたも忙しいんだろ?」

人に借りを作ると後がややこしいって漫画で言ってたし、ここは丁重に断っておこう。

「お?なぁに気にすんな。道案内くらいでそんな恩着せがましくするつもりはねえよ。面倒くさいだろうがついて来い。」

再度呆れたように笑う男。まあ、俺は一回断った。ならこっからはこいつの頼みってことになるな。

「しゃーねぇな。借しだぞ。付いて行ってやる。」

「あ?…めんどくせえな性格してんな。」

「よく言われるよ…さ、行こう。」

「あ…ああ…。そうだ、ついでだしお前の名前教えろよ。お前だのおいだのじゃ会話が貧相だろ?」

道の端を歩きながら、男は俺にそう言った。まあ、いずれ知れ渡る名だしいいか。

「アールシュ。お前は?」

「ダン・D・ゴンザレス。いずれ世界に知れ渡る名だが、何かの縁だ、先行公開といくよ。」

何処か誇らしげなゴンザレス。

何だろうか、こいつの雰囲気と言い自分に自信がありげなところが俺に似ている。こいつとは、気が合いそうだ。



「なんだ、ちょいと騒がしいな。」

何かを察したように、あたりの喧騒を見渡すゴンザレス。俺はこの街のいつもの雰囲気がどんなものかは知らないが、確かに様子がおかしい。反対方面に進んでいる人々の顔がどこか焦燥気味だ。何か厭な予感がする。

「アールシュ。」

朗らかだった野太い声が厳かになった。どうやらこの状況を危機と捉えたようだ。

「どうやらこの先で騒動があったらしい。巻き込まれたら厄介だ。遠回りになるがいいか?」

「そうだな。こんなところまで来て面倒ごとはごめんだ。」

俺たちのあと直線数百メートル先にゴンザレスが銀行の目印として言っていたガーシャ像が見えるが、やむ終えない。言っても急いでいるわけではないので提案を受け入れた。枝分かれになっている道路の右側から回り込む。厄を回避するのは人として当然の事だ。


だが、まさかこの行動が無駄に終わるとは考えてもみなかった。



「おいおい…。」

眼前に広がる光景を前に、ゴンザレスは苛立ち気味に溜息を吐いた。

「…」

こういう展開は漫画でしか見たことがない。逆にアールシュはこの光景を嬉々として捉えていた。

「何嬉しそうにしてんだよ。ったく、面倒くせぇな…。」

この状況を前に苛立ちはするものの一切の怯えを感じないゴンザレスに、アールシュは何かしらの違和感を感じたが、おそらくそれどころじゃない。

(どうやら人質はゴンザレス含め何人かいるようだし、彼らを無傷で返す方法を考えないとな。

人は一人では生きていけないから、一人でも生きていける俺が守ってやらないと。)

アールシュは、打開策を思考し始めた。


「テメェら!何ぼさっと突っ立ってんだ!!さっさとこっちに来て大人しく人質になりやがれ!!!」

騒動の正体。それはまさにこの【銀行強盗】だった。

黒ずくめの男たちに、四方八方から黒く光沢のある武器を構えられる。多少見渡しただけでもおそらく二桁人はいるだろうか?この規模となるとどこかの反社会的組織が絡んでそうだ。本当にめんどくさいったらありゃしない。遠回りをした意味がない。

それにしても、アールシュの余裕っぷりを見ると無知とはこんなにも恐ろしいものなのかと思う。俺ならまだしも一般人であろうこいつがこんな状況に置かれてこの危機感のなさ。命がいくつあっても足りないだろう。小柄だが筋肉質だから鍛えてはいるというのはわかる。だが相手は武器を所持している。

(さて、どうやってこいつを守りながら制圧するかーーー。)


ゴンザレスは気怠げに辺りを見渡した。その余裕は己の強さたるものだろう。

アールシュは突破口を探していた。彼らに思いやりは己の強さが土台となっているからだろうか。


二人が導き出した答えはーーーーー



先に動いたのはゴンザレスだった。

「なっ!?…っ。」

正に一瞬の出来事だった。

彼らの右正面にてライフル銃を構えていた構成員の背後に回り首を絞め、構成員の意識を落とした。

空かさず斜め前で構えていた構成員の頭部を掴み勢いをつけ左方向にいた構成員に投げつけた。

「グァっっ!!」

「グェッっ!!」

情けない嗚咽が銀行内に響く。ゴンザレスは瞬く間に三人を制圧して見せた。

「…ッッテメェ!!」

意地か蛮勇か、即座に仕留められた仲間を思っての行動か。リーダー格らしきの男はライフル銃をゴンザレスに向け、引き金を引いた。

連なる爆音が銀行内に響き渡る。硝煙の焦げた臭いが一気に充満した。

「お…オオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」

それに触発されてか、他の構成員も遅れて加勢した。爆音が轟音と化し、耳を劈くような音で満ちた。

もちろん標的は蜂の巣になるだろう。数秒後には凄惨な光景が人質やアールシュの前に広がっているはずだ。

そう、彼らは確信していたーーーが


その幻想は、現実を前に砕け散った。


「ーーーーーへぇ。」

その光景を見てアールシュは彼の人あらざる行動に興味を示した。

まず前提として、人間は銃弾を何の対策無しに食らえば大怪我、最悪の場合死亡する。

ましてや四方八方から放たれる鉛玉の豪雨を無防備に食らったのだ。どう転ぼうが死以外の結末がない。

だが、それは一般人の話だ。

彼はそう、一般人と分類して良い人間では無い。

充満した霧のような煙が晴れていく。

そこに存在したのは、見るも無残な死体ではない。

ましてや傷だらけの大男の影ですらない。

ならば、何がそこに存在するというのだろうか。


「…本当に、ここにきてよかった。」

アールシュは己の豪運を、奇跡の信ぴょう性を、ここに認識した。

初っ端から、【コレ】に逢えるなんてーーーー。


「ざ…ざまあみやがれ!!!へへっ…え?」

霧が、完全に晴れた。

地面に散らばるひしゃげた無数の鉄塊。そこには赤色の水はなく、地面には埃とチリジリになった布切れと汚れ、焦げ目だけが存在した。

「…な…な…ぁ…ん…で…。」

先ほどの威勢は何処へやら。リーダー格の男は情けなく震えた声でそこに立つ男に問い質した。

男はーーーゴンザレスは答えた。


「逆に聞かせてくれ。な ん で こ の 程 度 の 武 器 で 俺 を 殺 せ る と 思 っ た ん だ ?」

幻覚か、否。確かに彼は無傷だった。

ポロシャツは原型をとどめておらず、そこにはただ異常なまでに発達した筋肉だけがあった。

その余裕の表情にハッタリはなく、何処か誇らしげに質問を返した。


彼に身体的な変化はなかったが、ただ一つ変化があるとすれば、彼の身体を何かオーラのようなものが取り巻いていた。


「通りで気が合いそうだと思った。お前も俺とーーーー」

アールシュは、さらなる展開へ思いを馳せた。


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