第三話 龍となりて空の青さを知る
ついに決着!!
平成の世に、闘神が生まれ落ちた。
あらゆる万象を敵に回しても余りある最強の力を持ってして、弱者を支配し享楽に浸ることが出来たにも関わらず彼らが選んだ道は強者と拳を交えることただその一点だ。
自分のように強い男と拳を交える快感は、あらゆるドラッグや女や美酒よりも気持ちが高揚する。
血が吹き出す命のやり取り、痛覚を通じて知る性の実感、つぶれた内臓の狂喜乱舞。
彼らはそれをお預けされていたからこそ、今ここで同類とやり合える喜びは歓喜感涙の極みだ。
そして今、金色の闘神が、この戦いを通じて羽化しようしていた。
全人類が拳を混じえるバトルロワイヤルがあれば、彼は瞬く間に戦場に屍山血河を築くことだろう。
桁違いの鏖殺力、荒野を駆ける絶対王者すら彼には即座に服従するに違いない。
絵に描いたような暴力が相対するは、溢れんばかりの闘志に燃える戦の修羅だ。
見込みがある人間には敗北などやすやすとさせない。全てを絞り出した上で完膚なきまでに叩き潰す。
まさしく生きる切磋琢磨。共に武勇を研鑽し合うことに喜びを覚える闘争の化身だ。
佳境を迎えた第三回戦、蒼天の下、縦横無尽に暴れ尽くした強者2人のうち、武舞台に残るのはたった1人だ。
ーーー
暴風が吹き荒れていた。
当然それを作り出した原因は武舞台の中心で1歩も引くことなく殴り合う二人だ。
闘いにおけるルール自体は皆無と言えるこの大会で、二人は互いにルールを課した。
『引くな、立ちはだかれ』
立ち向かうのではない、なぜなら立ち向かうとは挑戦者、つまり弱者の行動故に。
相手にとって巨大な壁として立ちはだかり、完膚無きまで最強を見せつけろ。
ルールを破ったからと言って死ぬわけでも不幸が被る訳では無い。
だが、ルールを破ることは他ならぬ自分自身が許せないのだ。
殴り、殴り殴って殴れ。
顔を、胸を、水月を、肋を、肩を、潰して壊して破壊しつくそう。
貴様が拝む最後の相手が俺だと言わんばかりに、総てを注いだ一撃を放つ。
一撃を放つ度に脳が酸欠になる、相手の部位を壊す度に口から血反吐を吐く、それほどまでに全力、狂気の部類に属すにはあまりにも常軌を逸している。
最早彼らは脳が潰れようと、生命尽き果てようともこの殴り合いを続けるだろう。
生々しい肉音を音速を超えて鳴らす、観客の頬に血飛沫が飛んだ。
「っ!熱ッ!」
血飛沫を浴びた頬は焼きただれていた。彼らが放つ熱量はとうに常軌を逸し、観客の安全の保証はこの時点で消え去った。
しかしそれで恐れを抱くものはいない、純度100%の暴力を間近で観られるということはそれに呑まれることもあるのだがら、それを承知で彼らはこの場に来ているのだから。
まさしく全員が戦闘狂、きっかけさえあれば観客はその蠱惑に駆られ戦争じみた殴り合いが起きるだろう。
だが、そんな陳腐な暴力を、金と紫が許さない。
お前たちは黙って俺たちを見ろ、この聖戦を目に焼き付けるがいいと言わんばかりの覇気を放っている。
金色の爪牙がゴンザレスの胸部を裂く、既にゴンザレスのポロシャツは破れさり、屈強な肉体が晒されていた。
世界に現存するあらゆる鉱物よりも硬いその強靭な肉体に、ヴェルモンテは亀裂を入れた。
「はっ!!やるなぁ!!」
激痛に歓喜を見せるゴンザレスは拳を腰に持ち込み、構えを取る。
ヴェルモンテは刹那で判断し、構えを取る隙をつきノーモーションで鳩尾に拳を叩き込もうとした。
しかし刹那では遅い、既にそれを亜光速で回避したゴンザレスはヴェルモンテの顔面に闘気を纏わせた拳を叩き込む。
質量を得た闘気の虚像と実像の拳の二段打ち、遅れてやってくる粉砕の拳を顔面に受けて無事であるわけはなく、最低限に抑えても頭蓋骨粉砕は間逃れないだろう。
致命的なダメージを受けたのは事実だ。だがその程度で彼らは前進を辞めることなどあるはずがない。
砕けた頭蓋骨の形を思い出しながら即座に修復し、ヴェルモンテは鉤爪でゴンザレスの横腹を削り取る。
臓物まで届いた殺意の刃に、ゴンザレスは腹部に力を入れ止血、即座に腹部に後ろ回し蹴りを叩き込む。
ヴェルモンテは衝撃で吹き飛びそうになるも脚力で抑え込む、ダメージを全面で食らうがそれでもやはり後退は自分が許せない。
前進しろ、武舞台を粉砕するほどに踏み込みゴンザレスの眉間に拳を叩き込む。
血しぶきが噴く、それを顔に浴びながら獣は狂喜の笑みを浮かべる。
先程まで手も足も出なかった強者を、己が最強で明確にダメージを与えられているからだ。
更なる高みへの飛躍、強者は戦いを経て絶対的で確固たる力を得る。
何故ならば、強さに限界などなく、ならば限界値がない分誰にも到達できぬほど強くなることもやむ無しということだからだ。
振り下ろす黄金の爪、この世のあらゆる名刀よりも鋭いそれは薄皮ではあるがゴンザレスを切り裂いた。
「流石だヴェルモンテ!俺に斬撃を食らわしたのはお前が初めてだ!やはりお前は期待を裏切らないッ!!」
刹那を超えた速度て、ゴンザレスは視界から消えた。
「ここだァ…ッ!!」
視界から消えると共に虚空を薙ぎ払う。手応えは───
「グゥッ!!」
揺れる脳漿、正しく予想は的中。しかしそれでも引くことは無い。
「どうしたゴンザレスゥ…!まだまだ舞えや踊れやァ!」
「良いぞ、その調子だヴェルモンテ…!まだまだお前の本気が見たいッ!舞わせてくれよ踊らせてくれ物足りないんだよ今まで取り上げられできたからなぁ!」
再度ぶつかり合う拳と闘気、それは最初の交わし合いとは桁違いの純度を誇り、この短期間で数多の羽化を繰り返した賜物だろう。
故に最強は留まることを知らず進み続ける。だがしかし幾度と限界を超え続けた2人の体力は既にそこを着き続け今こうやって殴りあえること自体が異常なのだ。
空気の変化を察したのは、褐色の少女だった。
「楽しいなぁ…お兄ちゃん、かっこいいなあ…でも…終わっちゃうんだよなあ…」
寂しそうに呟くリーシャに、イルジオは引っ掛かりを覚えた。
「何故、終わると、思うのですか」
イルジオは詰まりながらも問い掛ける。
リーシャの解答は、至って簡単なものだった。
「お兄ちゃん、さっきから凄い速度で闘気を練り上げてきてるの。圧倒的な差を開こうとして、この状況を打開しようとしてる」
しかしその進化にヴェルモンテはついて行く、否、逆についてこいと言わんばかりの余裕。
今日この日、最強が連続して更新されていくのだ。
終わらせようにも終わらない無限の円環、それがクシナガラに生まれ落ちた。
その気になれば1日後、1週間後、1ヶ月いや1年否それ以上、それそこ世界が終わるまで闘争を続ける修羅だ。
そう信じてしまうほどに、彼らは飢えていた。
血湧き肉躍る生死の奪い合い、聖戦を───
「───掴んだ」
黄金の脈動が停止する。攻撃を先に止めたのは、ヴェルモンテだった。
次の瞬間に顔面に叩き込まれる極砕の剛拳。ゴンザレスの一撃は風圧でヴェルモンテの周りの地面を捲りあげた。
しかし金色の獣は笑っていた。
顔面が血みどろで鼻はひしゃげているのにも関わらず、正に狂気の笑顔を浮かべていた。
闘気の確信、それをヴェルモンテは掴んだのだ。
ゴンザレスが掴んでいるそれを、ようやく掴んだと吠えたのだ。
「掴んだのか…ならやめだ」
寂しそうなゴンザレス、しかし口角は上がり、期待を隠しきれないと言わんばかりだった。
静寂が場を飲み込む、細やかな砂埃が舞い、それが乱れることはない。
ここで終わるのだと、誰もが実感した。
固唾を飲み、目を凝らす。
「ようやく掴んだァ…強さの形だァ…」
猛り狂う闘気は先程とは純度も質も違う、まさしく純金、圧倒的強者の風貌。
隠す必要が無いゆえの存在感、それ故に最強。
ヴェルモンテ・デッドコード、闘気の覚醒。
万物を破壊する最強の矛、剛の闘気。
破壊の権化は、文字通り暴虐に目覚めた。
「そうだ、それがお前の全力、これでこそ俺も本気を出せる」
刹那、世界の質量がクシナガラに集結した。
否、そう錯覚せざるを得ない程のプレッシャーを、たった一瞬で引き寄せたのだ。
紫に揺らめく、炎のような闘気。
一切のムダのない、芸術を彷彿とさせる無謬の存在。
世界に真実があるなら、まさしく彼の強さだろう。
ダン・D・ゴンザレス、闘気発動。
純度は100%、正しく出し惜しみのない本気の本気。
最高の敬意を払い、倒すべき好敵手に力を示す。
「さあ来い、全力で叩き潰す」
荘厳に、漢は宣言する。
「お前を倒すゥ…そして完成させようかァ…」
画竜点睛、最強として示すための最後の一筆。
故に、獣は空を舞う。
「────」
「闘気ィ…解放ォ…」
腕に纏わる金色のオーラは三本の指を描く。
黄金の鉤爪が練られゆく。
そして───
「剛性・黄龍爪穿ォォォォォォォォォォ!!!」
獣は龍となりて、渾身の一撃を放ち───
「来いやァァァァァァァ!!!」
天空の審判を、紫炎を右腕に纏った漢は、己が総てを賭けて迎撃した。
そして、おどろおどろしい轟音と共に、クシナガラを巨大な力が覆い尽くした。
ーーー
ピリピリとした感覚が、男の覚醒を施した。
「…!」
イルジオは今の今まで気絶していたのだ、辺りを見渡して見れば観客はまだ目を覚ましていない。
否、幾人かは既に目を覚まし、砂埃舞う会場にて、解答を目の当たりにしていた。
「ッ…ヴェルモンテ…様…」
祈りが声に出る、そうだ、必ず、必ず彼は立っている。
私の最強は、揺るぐはずがないのだ。
「…お兄ちゃん…」
隣で、少女の声がした。
リーシャ、ゴンザレスの妹だ。
そうだ、私は見たくないのだ。
彼女の悲しむ顔を見てしまえば、勝利の余韻が揺らいでしまう。
それほどに脆い、だからこそ私は人の域を出ないのだと痛感する。
砂埃が薄れていく、見える二つの影、立っていたのは───
「────なぜ…」
何故…何故そこまで貴方たちは。
「闘気家は…何故…ッ!!」
ゴンザレスは、右腕を右半身を爛れさせ、骨が剥き出しになりながらも、大量に汗をかき虚ろな目でふらついていたが、立っていた。
ヴェルモンテは、右手を割り、全身に火傷のように酷い傷で、しかしそれでも前進すべしと前を向きながら、気絶していた。
どちらも立ち尽くしていた。だが───
「第3回戦、勝者は────」
「最強無敵のナイスガイッ!ダン・D・ゴンザレスだァァァァァァ!」
これにて、我が主の敗北が確定した。
遠のく意識、抜け落ちたように脱力し、涙を流す。
とうとう、負けてしまったのだ。
ヴェルモンテ様は、最強では無くなった───
「いえ、ヴェルモンテさんは最強です」
イルジオに声をかけたのは、やはりリーシャだった。
「だって見てください、ヴェルモンテさんは負けなかった、だってお兄ちゃん、後ろに引いちゃった…」
ふらつくゴンザレスの足取りは千鳥足で、位置を前後しているのは明白だった。
「一勝一敗です。私、お兄ちゃんのこと大好きだけど、その分凄く厳しいんです!」
リーシャはふん!と言いたげに胸を張り、そして慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「とってもかっこよかったです、ヴェルモンテさんは最強の好敵手だと思う、少なくとも、私はお兄ちゃんに黒星をつけたヴェルモンテさんをライバル視してます!もちろん、イルジオさんも!」
「…そう…ですか…」
少し理解できないが、そんな励ましが胸に沁みて涙が止まらない。
そうだ、ヴェルモンテ様は最後まで示してくれたのだ。
「やはり貴方は…私の最強です…」
漢は静かに泣いた。英雄達の闘争を祝福するように───
ーーー
ああ、おれがかったのか…
脳がやききれて、意識がうつろだ…
もう少し…回ふくに集中…しよう…
…
「リーシャ!お兄ちゃんは勝ったぞォォ!」
満面の笑みで、親指を突き立てる。
「お兄ちゃん!一回戦じゃ褒めないよ!でも凄かったー!」
叫び返すリーシャ、そして流れるようにゴンザレスは仁王立つ漢の前に立った。
「誰かに負けるかもしれないと焦るのは初めてだった。めちゃくちゃ楽しいな、生きてるって実感が毎秒襲い来る」
後ろには担架を持つ救護班が迫っていた。時期に彼を運ぼうとするだろう。
だが、それは違うとわかっていたから。
「起きろよ、ヴェルモンテ。最後の最後で他人頼りだなんて、お前を慕う奴らに申し訳ねえだろ」
どん、と肩を叩く。先程まで白目を向いてた金色の龍は、ぎょろりと黒目を戻した。
「…喰えねェ…」
にたりと笑い、満身創痍を感じさせぬ態度で踵を返した。
「今の俺はお前に負けたァ…つまりドン底だよなァ…龍の目ん玉はまだ描かれちゃいねえェ」
かつ、かつと武舞台を去りゆく男は、観客たちの大声援の雨を受けつづける。
「何度でも昇ってやるよォ…空の青さなんかじゃ満足しねえェ…いずれ空を黄金に染めてやるよォ…」
どこまでも荘厳な漢は、最強に恥じぬ態度で姿を消した。
ーーー
「…ヴェルモンテ・デッドコード…なるほど、あれが闘気の確信か…」
少年は目を輝かせ、敗者に憧れを抱いた。
本来なら真逆であり、しかしゴンザレスにないそれをその男は持っていると理解したから。
「…俺よりもお前が向いてるよ、シャクナ…ああ、譲ってやるよ」
虚無に話しかけるイシマは、ヴェルモンテと同じく会場を後にした。
ーーー
「…馴れ馴れしいだけの男だったな、闘気家などそんなものか」
金髪蒼眼の漢は、試合を見届けため息を着く。
「この程度で最強だと…?我が祖国を差し置いて…片腹痛いわ」
苛立ちが隠せぬのか、そもそも何故彼は苛立つのか。
「涅槃大羅…必ず貴様に目に物見せてやる…」
全ての確執は、拳を混じえて発覚するだろう。
一回戦最終試合の幕が、開けようとしていた。
次回、第一回戦最終試合!!!!




