第1章《闘気一閃 アールシュ・K・サルヴィVS鉄野 拳》一話 超次元の初戦
いよいよバトル開始!
「世界が注目する闘気家地上最強決定戦【アヴァターラ】ッ!!待望の第一試合は!。」
高らかに声を上げ、司会者は緑髪の闘気家を指差した。
「戦績実績全てが謎!未開の秘境出身のダークホース!アールシュ・K・サルヴィ選手とーーー。」
階段を軽快に駆け上がり、舞台に足を踏み入れたアールシュ。
ーーーなんだろうな。興奮はしているしワクワクも止まらない。でも実感が湧かない。これが初めてを経験する感覚なのか。なんか不思議だなぁ。
強さへの憧れはあったし、実際に同族を観て激しく昂まっていたのは事実だ。
だからこそ、自分と渡り合える人間と戦えるという場に立っているという事に、言葉に出来ない感情を抱えていた。
ーーーまあ、やってみたら掴めるかもしれない。俺が望むもの、最強というものの感覚が!
アールシュは胴元に結んだ黒色の帯を締めた。目の前に現われる、初めて闘う最強への期待を宿した眼で彼の登場を待った。
「対するは、空手道、柔道、躰道、合気道ーーー礼を重んじ、総ての武は道に倣うと論じた日本武術、その極みに至るべく設館された【闘真館】、そこが生み出した、そう生みだしてしまった日本最強の闘気家。闘いの申し子、鉄野拳だあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!」
舞台に上がった青年。彼が身につけている茶色の道着は汗や血が染み付き、積み重ねた努力が伺える。純正の黒髪はやや短く、爽やかな表情も相まって清潔感が溢れていた。
隆々とした筋肉はスターマンやゴンザレスには劣るものの、武道家らしさを演出している。勿論、これは飾りではなく彼を支える武器だ。
鉄野はアールシュに近づき、手を差し伸べた。
「さっきぶりだな、アーラシュ君。君となら良い闘いが出来るだろう。」
アールシュは、差し伸べられた手を握った。
「最強に至る為、あんたには踏み台になってもらう。全力で来い。」
鉄野は呆気にとられた表情を浮かべ、直ぐ様切り替えて笑みを浮かべた。
「面白いな、元からそのつもりだよ。」
牽制しあう2人。手を離し、互いに持ち場に着いた。
ーーー握手をしただけでも分かる、アイツは強い。あぁ!興奮してきた!
湧き上がる感覚、心臓は激しく鼓動する。
「大会のルールのおさらいしましょう!格闘気は、この25mx25mの正方形の武舞台で行われます!この武舞台から場外へおちてしまった場合、場内でも気絶してしまった場合や降参を申し出た場合はその時点で敗北となります!闘いに於いてのルールは、相手の殺害やそれに準じる行為は失格、飛び道具や重火器など格闘技として相応しく無い道具の使用も同様に失格とさせていただきます。以上です!」
二人が持ち場に着いたのを確認し、司会者は大きく息を吸いーーー
「それでは第1試合、始めッ!!!」
高らかに開戦を宣言した。
ーーー
音は遅れてやってきた。
肉と肉がぶつかり合う耳心地の良い音は、度を越してる越して耳を劈くほどの轟音として
響き渡る。
先に仕掛けたのはーーー
「良い拳だ、ケン。」
鉄野拳は刹那の間で間合いに詰め、アールシュの顔面目掛けて鉄拳を放った。
しかし観客の誰もが捉えられなかった神がかりのパンチを、アールシュは肉眼で余裕綽々といった動きで捉えたのだ。
「挨拶代わりだよ、最強なら掴めて当然だ。」
捉えられた側の鉄野も余裕綽々、どちらも笑みを浮かべて相手の力量を図る。
束の間の静寂を打ち消す様に両者が姿を消したーーー否、消えたのでは無く見えなくなった。
肉眼で捉えられぬ刹那の攻防、残像を追うことすら手一杯の怪物の狂騒。
それでも、確かに分かるのはーーー。
「これが闘気家、なのね。この領域にアールシュは居たのね。」
サラスは驚きの中に納得を見いだした。
彼は生まれてから常にこの領域に居たのだ。故の孤独、故の相容れなさ。闘うことが好きなのにも関わらず、それをできる人間の少なさ、否、皆無だった。
だからこそ今それが出来ることに喜びを感じているのだろう。
「この程度は序の口ですよ。サーラさん。」
サラスは覡の声に耳を傾ける。
少女は鉄野拳を間近で見ていたのだ、おそらくあの領域は既知の範疇、戦闘という分野に於いて闘真館に所属しているということは数多くの闘いを観ているということでもあるから、目だって肥えているはずだ。
「アールシュさん然り、鉄野様然り。本来の実力の数パーセントも出していない状況です。無理もありません。この戦いで全てが決まるならまだしも、後にまだ試合が残っているのです。いきなり全てを出し切ってしまえばその時点で手の内がばれて、そこで勝てたとしても後々圧倒的不利な状況になります。トーナメントに於いては必要最低限で勝つ。相手が自分と同等の実力であれば尚更です。」
「なるほどねえ、これ以上がまだ待ち構えているのね。」
実際に言葉にしてみれば、その異常さが理解出来る。
現段階で最早一般人では負えぬほどの闘いをしている彼らは、その本質的な実力を発揮していないのだ。
本質的な実力ーーーそう、それが表すものはやはりーーー
「つまりは闘気。それをいまだに見せていないということね。」
「ええ。アレならばその気になれば人間の英知で何とかなる領域です。重火器や軍事用兵器、それらを携えた軍隊をぶつければ多少の足止め、無力化は可能です。」
淡々と答える覡の眼は今だに戦闘を追っていた。
「ねぇ、私には残像しか見えないの、今どういう風になっているか教えてくれないかしら。」
自分の眼でアールシュの活躍を負えないのは悔しいが、それでもやはりリアルタイムでどうなっているかは気になってしまう。
覡は、構わないと言った口調で説明し出した。
「現状は、まだ何とも言えませんね。鉄野様は積極的に拳を打ってそれに順応しつつアールシュさんが反撃を伺っている。という感じです。」
「アールシュが受け手に回っていると…珍しいわね。」
珍しいーー否、そもそもここまで戦いが続いていることすら全く無かったのだから珍しいというのは間違っていたかもしれない。
しかし、アールシュは基本自分から攻めて、一撃の勝利だった。故に最初からそこに違和感を感じていたのは事実だ。
「ーーーこれは私の主観で見た感想ですが、アールシュさんはとても野生的ですね。考えて戦うというものは、頭脳が身体に指示を出すわけですから、常人では感じれぬ一瞬の遅れが発生します。格闘気ではその一瞬が命取りになる場合があります。鉄野様とてそれには抗えません。だからこそ流派や型を身体に染み込ませて信号の遅れを極限まで縮めています。しかしアールシュさんは身体で考えている。身体で動けているからこそ瞬時に受け手に回れています。恐らく普段から頭脳を使用していないからこそ出来る芸当ですね。」
「褒めらているのか貶されているか分からないわね。」
「まさか、褒めているのですよ。格闘気に必要なものを意図せずして持ち合わせているのは才能のほかありません、いえ、最早愛されてさえもいますね。」
「闘気に愛されている」、この格闘気においてそれは最上級の褒め言葉はないだろう。
それと同時に、やはりこの拮抗した試合を打ち破る1番のキーワードが闘気であるということが再確認された。
(一体どうなるのかしら…)
サラスは程よい緊張感のなかで、アールシュの勝利を祈った。
ーーー
その拳を形容するならば、まさに"圧"そのものだろう。
重い拳と呼ばれることはあれど、しかしこの拳は重量の概念を超越している。
圧力、全身に襲いかかる衝撃。常人であれば内臓、骨格、筋肉の限りを破壊尽くす鏖尽の拳。人ならざるものの一撃。
それを受けるは蛮流の凪。論理や道理を無視したそれは、鏖尽の拳を最小の衝撃で受け止める。
人として、自分自身と張り合えるアールシュを見て、鉄野は幸福を痛感していた。
ーーさぁ次は何をしようか、正拳突きで真っ向勝負?前掃腿で崩してから組むか?いや、膝をぶち込むのも良いかも知れない。ああ楽しいな!今まで御影との組手や仮想敵でしか出来なかったこれが存分に楽しめる!最高だ!永遠に続けばいい!…
「まだ闘れるよな?」
無意識のうちに出たその言葉は、抑えきれない欲望と、潜在的な戦闘狂本能の表れだった。それに加えて、アールシュに対しての挑発そのものだ。
アールシュは、歯を見せて喜悦した。
「こっちの…セリフだぁッ!!」
「!?」
超速で向かってくる拳を受け止め、自身へと引き連ける。
そして腹部目掛けての中段蹴り、引き裂かれる程の衝撃を受け、鉄野は「ごぉあッ…ッ!」と吐血混じりの嗚咽をしながら、宙へ浮いた。
これを好機と、野生の勘で捉えたアールシュは雑味のある回転蹴り紛いを鳩尾めがけて放つ。対処しきれないそれを正面から受け止めざるを得なくなった鉄野は、せめて衝撃を減らそうと後ろへと飛んだ。
しかし会心の一撃、抵抗虚しく八割以上の威力でそれを受けた。
「ぐゥあッッ!?ウッ…ッ!」
武舞台の端ギリギリまででなんとか勢いを殺しきり、血反吐を吐き捨ててアールシュを見る。
「鋭い蹴りだな…雑だが芯に当たってる。才能あるよ…長所は伸ばすと良い…。」
血を拭い、笑顔で睨みつけながら彼に近づく。茶色の道着に紅の線が走る。
「だが残念だったね…ここまでだよ。ここで倒しきれなかった。でも凄いよ、ガムシャラ対決なら君の勝ちだ。楽しかった!。」
和やかな口調とは裏腹に、針金の様に張り詰めた空気が漂う。
鉄野拳のなかである覚悟が決まったのだろう。先程とは目の色が違う。
安直な表現ではあるが、第一形態から第二形態へ変身する戦闘民族の様に、空間を歪ませるほどの熱を纏っている。
(ーーー闘気か…?)
似ているが否、これは極度の興奮状態から生み出される品物だ。心拍数を常人の3倍上げ、血流の流れを極限まで上げることにより筋肉に熱を持たせ、溶けた鋼の様にし、靱やか且つ瞬発力に重きを置いたひとつの形態。云わば闘気の幼体、といえば語弊があるがそう言って差し支えはない。
「何、ちょっとした準備だよ。ーーーさっきのお返し、させてもらうよ。」
笑みの中に、ただならぬ覇気を感じた。
野生の勘か、アールシュは思わず身構える。
ヒリヒリとした空気が流れ、アールシュの頬に汗が滴る。先程とは熱気も気温も変わった。明らかに暑い。これが鉄野拳だけで成り立っているというのは、些か狂くなったと考えてしまっても無理はない。
「…アールシュくん、壊れないでくれよ…?」
鉄野は足を引いた。
刹那ーーー
「人技ーー」
揺らぐ人影、朧になった鉄野は錯覚ではなく、まるで蜃気楼かのように非現実的だった。異質な空間下、アールシュはそこに武の象徴を見た。
「闘真流・天下撲廻ッッ!」
ーーー
揺らぐ蜃気楼はその一点に集中し、その姿に修羅を想像させる程の闘志を揺蕩わせる。
しかしとて、まだ彼は【本当の力|とうき】を発動していない、云わばまだ平凡の域。人が死ぬ気で目指せば至れる可能性のあるものだ。
だか、そこにある圧倒的な差。凡人と闘気家の違い。それに覚醒めていなければどれほど至ろうと無用の産物なり。
鉄野の術技は、至ってこその賜物。闘真館が手塩をかけて磨き上げたダイヤの原石。
その真価を、アールシュは思い知ることになる。
ーーー
底知れぬ闘志を感じる。
鉄野が1歩踏み締めることにより、気圧が荒れ、暴風が吹き荒れる。
ざわめく観客席、しかしアールシュだけは前方の敵を見据えていた。
「なるほどな、これでようやく認めてくれたって訳だな。」
武道家としての100%、それを今ここで発揮しているのだ。それは最上級の誉れであり、好敵手に対する最大級の敬意である。
それに応えれないのは漢ではない。
アールシュは不格好ながらも、構えをとる。
鉄野からは朗らかな笑みが見えた。
「出し惜しみはしたくなかったな。後に試合が控えてるから申し訳ないよ…でもこれすらも耐えるとなると…仕方がない、俺は闘気家にならざるを得ない。」
「何を言ってる?俺たちは闘気家だろ?」
当たり前の疑問をぶつける。鉄野は語弊だよと苦笑した。
「確かにそうだけど、はっきり言って俺はあれが好きじゃない。あれはあくまで奥の手で、アールシュ君とは肉弾でぶつかり合うアツいのやりたいんだ。」
純粋な瞳で想いをぶつける鉄野、気持ちはアールシュも同じだった。
「なら、いざ尋常に勝負だ。ケンッ!」
言葉ではなく拳で語ろう。アールシュは地面を思い切り踏みしめ、迅で鉄野に接近する。
踏みしめたそこは抉れ、瓦礫は暴風に巻き上げられている。
鉄野は眼をかっぴらき、シュンッと腕を動かした。
しかし、アールシュはそれに気付くことが出来なかった。
余りにも速く余りにも撓るそれに、アールシュの瞬発力を持ってしても対処することが出来なかったのだ。
「グゥッ!」
側から見ればアールシュが自分から吹き飛んだかのように見えるが、その実数十発の連続殴打。
内臓や骨格、筋肉の類がジャムのようにぐちゃぐちゃになる感覚が永続的にアールシュに襲いかかる。
ぐにゃりと曲がった手足は出血し、骨が突き破っている。
脳震盪が起こったのか、胃液の混ざったそれを吐き出し、寸でのところで勢いを殺した。
息を切らして、眩暈を起こしながら鉄野を見据える。
意外にも、驚いた表情でこちら側を見ていた。
「随分と頑丈だね。満身創痍ではあるけどまだ余裕だ。折ったはずの脚で力強く立ってるし、内臓だってぐちゃぐちゃだろう?闘気家は再生能力も優れているけど、こんなに速いのは不思議だ。」
出血していた手足は修復され、骨はきちんとあるべき位置へと戻っていた。
内臓は己の器官としての役目を果たすべく整列するように整っているのを感じる。
「さて、どうする?修復したとしても近づけば二の舞だよ。今の俺は確実に君より強い。」
余裕、しかし一切の油断なく佇まう鉄野。腰を下げて拳を前に突き出す構えを取り、次の一手へを動きを進めていく。
回復しきるまでに潰す。その気を感じ取らざるを得ないほどの闘志。
アールシュは不完全の修復で、デタラメな構えをとった。
「ケン、おしゃべりが過ぎるぜ。こうやっている間にも俺の身体は回復していっていると感じている。」
「わかっているさ、だからこそ慎重かつ迅速に射たなければならない。」
煽るアールシュに惑わされぬ鉄野。ピリッとした空気の中、それを先に打ち破ったのはーーー。
「ーーッッ!!」
アールシュだった。踏み出しからの超加速、即座に背部に回り込み頭部に向けて水平蹴りをぶち込んだ。
しかし、鉄野にダメージは僅かしかなく、少し重心をぐらつかせただけであってその代償は大きなものとなった。
「甘いよ。この程度の奇襲なら脳内で数万回は反芻した。」
ーーー
足にかかった負荷は大地が紙のように避けるほどだった。
現に鉄野は幾度か地球に対して自分自身の本領を試していた。
地面に向かって放った拳は地を裂き、山を砂に変え、湖を荒れ狂わせる。
イメージトレーニングは極限の領域にまで達し、その成果を存分に発揮した結果ーーー。
人であるアールシュの右脚部を、超過力で粉砕した。
ーーー
数十メートル、否、数百メートルは飛んだだろうか。
右脚は裂け目が入り、肉が見え骨はなかった。
首の皮一枚という言葉があるが、足の繊維一筋、一縷の縄のようにか細いそれのおかげでなんとか欠損は間逃れた。
しかし空中、人が落ちれば即死は確定。闘気家だろうが闘気を発動していない今なら致命的な損傷となる可能性は高い。
仮に無事着地できたとしても、その後が重要だ。確実に迎撃され、次はさらに危機的状況に陥るだろう。
(さて、どうしようか。)
透き通るように頭脳が冴え渡る。普段はあまり考えるタチではないが、今回は流石に危険だ。
ここまでくれば、闘気を発動するというては選択肢第一候補に上がる。しかし今の状況で発動したところで、相手も発動すれば結果はイーブンだ。もしかすると発動せぬまま追い込みをかけてくる可能性もある。
さらに、こんな最序盤で闘気を発動すれば、鉄野拳以上のライバルがいた場合に非常に不利だ。俺の闘気は攻撃面では優れていない。
ならばどうするかーーー。着地までは後数十秒ある。下を見れば半壊したステージ、暴風に舞う瓦礫の数々、そして迎撃を狙う鉄野拳。
ふと、脳裏に過ったのは瓦礫を利用した変則的な落下。上手い具合に着地しやすい瓦礫を足場、または盾にしながら落下し、無防備よりも安全かつ、浮上する瓦礫を利用するのだから落下時間の遅延も効果として見込めるから、通常よりも万全な状態で挑めるだろう。
足の修復度合いーー骨の八割修復、筋肉繊維四割と言ったところか。
瓦礫に着地するには非常に心許ない、故に選んだ選択はーーー
「よっ、とォ!」
逆立ちの姿勢になり、腕をつかっての着地。脚部を丸め込みできる限り、風圧で足に負担をかけさせぬように瓦礫で守る。
選んだのがなかなか大きいものだった恩恵か、ちょうど身体が隠れた。
辺りを見渡し、一つの作戦が思い浮かんだ。姿を隠しながらの奇襲、良い具合に欺く事ができれば不可能ではない戦術だ。
しかしーーー
「空中戦をご所望かな?いいね、誘いに乗るとしよう!」
鉄野は右脚を地面に叩きつけた。瞬間、ダイナマイトが爆発したかのような轟音とともに、武舞台の残骸が飛び散り、暴風に飲まれていった。
そして、それに乗り、瞬時に上空へと飛翔した。
「なんて奴なんだよッ!ケンッ!」
奇襲を仕掛けるどころか、こちらが先に仕掛けられてしまった。
捕まっていた巨大な岩石の如きそれから手を離し、一点集中ーーー
「オォォォオオオオオオオ!!!!!」
それを全力で殴り付け、荒々しく粉砕する。
此方へと向かってくる鉄野に向け、石の礫が発射された。
弾丸の如き速度で放ったそれは、決して攻撃の為に使ったものではない。
あくまで妨害用、そもそもこの程度では闘気家に傷一つ与えられない。
「小手先の技だね、あまり褒められたものではないなァ!」
鉄野は声の圧だけでそれを粒子に変えた、だがしかし、これは悪手だったのだ。
「っ!?」
辺りに舞うのは砂煙、あの瓦礫を砕いただけでは出ないほど尋常ではないそれが鉄野の目を眩ませた。
薄っすらとした視界の先、鉄野はそこにアールシュを見た。
「砕いてる…尋常じゃないほどの瓦礫を、俺に向けてーー。」
超速の駆動で岩石に移り変わり、刹那の間合いでそれを鉄野方向へ向けて砕く。
大量の粒子に攻撃力はなくとも、闘気を発動していない鉄野の目は人の眼だ。目眩しの脅威として五月雨のごとくに降り刺さる。
落下まであと数秒の域まで来た。鬼が捕まえるのが先か、人が逃げ切るのが先か。
「グゥッっ!!」
視界が悪くとも動く事は出来る。ここで仕留められずとも、優位に立つには非常に重要な局面だ。
足に負荷をかけさせ、追い込みを掛けて闘気を発現させればーーー
鉄野は砂煙の嵐を抜け出し、鉄野はアールシュに向かい拳を構える。
そこには、ニヤリと笑みを浮かべる彼がいた。
「ッッオアアアァ!!!」
胴体を軸に、加速した上段蹴り。それが見事に右耳のそこに激突した。
「落ちッーーーーろォォォォォォ!!!!」
九割がた回復した足を支えに、全力の可動で鉄野を武舞台に叩き落とした。
落下と同時にドォオオオン、といった爆発音が鳴った。
続いて、アールシュが万全な状態で会場へと着地、一気にイーブンの状態へと巻き戻しに成功した。
砂煙が晴れ、そこには頭部から出血した鉄野が、両足と右腕を地面につけた状態で立ち上がろうとしていた。
「はぁ…っ、はぁ…。全く、最悪だよ。折角順当に勝ち筋が見えていたのに…一筋縄では行かないなぁ。最初の奇襲でくらった上段蹴りの数十倍は威力があったよ。戦いの中で確実に進化しているね。アールシュくん。」
滴り落ちる血を左腕で拭い、苦笑いを浮かべる鉄野。
アールシュは、足が動くのを確認し、構えを取った。
「当たり前だ。常に進化し続けてこその最強だ。頂を更新するのはいつだって自分じゃなければならない。」
「全くその通りだ。君とは見ているビジョンが似ているのかもしれないな。ならば尚更負けられない。」
アールシュの答えに、何か整理がついたのか。鉄野は深呼吸をして、構えを取り直した。
「俺は俺の最強を更新してみせる。人技の先へと継なぐ術技、ここに披露して見せようか。」
「望むところだ。何が来ようと俺はお前を超えてみせる。ケンッ!」
両者の全力ーーー限界を超えるための闘いが今、幕を開けた。
感想お待ちしております。




