聖地クシナガラにて!
漢とは、常に強さを求め己の限界に挑み続ける者をいう。
己を磨き、己を追い込み、己にストイックになり。そう、漢とは誰よりも自分に厳しい。
嘗て、世界最強と呼ばれ崇められた漢がいた。彼は自身の限界の遥か境地に達し、涅槃すらも超越したと高らかに叫んだ。
そんな漢が言った一言は、まさに全世界の益荒男にとって、衝撃極まりないモノだった。
「今宵、我輩は最強から身を引くことを決意した!!」
そう、この日を境に最強は表舞台から姿を消した。
騒然とした空気が波のように空間を支配する。某都市の超巨大スクリーンにてその表明を視聴していた人々の衝撃は計り知れず、その騒然具合たるや、まさに濁流の最中にいるようだったと後に野次馬は語っていた。
時は流れ平成某年。
此度、聖地クシナガラにて平成最後の下克上が幕を開けようとしている。
参加者が纏められたリストには約8名。世界最強の漢の称号、ただそれだけが優勝商品となるこの大会に集いし8名の益荒男。
東西南北の強者が一堂に会し、力と力で競い合う漢の聖戦、その名は【アヴァターラ】。
あるものは言った。
「最強とは、限界を持たず常に極限へと至る心の強さの表れ」
あるものは言った。
「最強トハ、勝利に囚われヌ達観した領域。」
あるものは言った。
「最強とは、背負うべき誇りに恥じぬための勲章であり証明。」
あるものは言った。
「最強とは、色褪せぬ絆の上に成り立つ集大成。」
それぞれが己が信念を持ち、鉄火万雷蠢く戦地を越える凄絶の舞台にその足を踏みしめる。
薄茶色の道着を靡かせて、深淵の底を彷彿とさせる黒で締める。
傷の陰すら感じさせぬ白タキシードは、連戦無敗の証明か。
そのタンクトップを最もこの戦場の正装に相応しいと思わせるそれは、岩石のように分厚くゴツく、凡ゆる鎧より頼もしい筋肉壁の賜物か。
彼の目に一点の曇りなく。純正の晴天が瞳に注がれたようなそれは、友情の筋書きを歩んできたものにのみ許された証。
東西南北の誇りが今、全世界の注目を浴びるステージへ続く階段に足を伸ばした。
後に続くように、四人の強者が会場に登場した。
先の四人と同様。彼らもまた次元違いの強さを持つ闘気家だ。
故にその眼の先にあるものは【最強】ーーーただソレだけである。
あるものは言った。
「最強とは、どんな困難にも立ち向かい、大切なものを守る為の力。」
あるものは言った。
「最強とはァ…、圧倒的強者として君臨する無敵の力。」
あるものは言った。
「最強とは、伝説として、若人を守り継ぐ者。」
あるものは言った。
「最強とは、どれだけ孤独で在れるか、だってさ、頂点は常に一人だぜ?」
それぞれがまさに特異。限界などこの瞬間にすら超えている。
黒光りの剛体は、異質な輝きと何処か朗らかな一面すら兼ね備えていた。
金色のローブを肩にかける金髪は、今この瞬間に勝利を確信した。
黒髪長髪のその漢は。虚ろな影すら侵食してしまうほどに不可思議で。
そして、緑の髪をした青年は、数多の強者を前に嬉々としていた。
そして今、青年の登場を最後に、計8名、全ての参加者が出揃った。
八人が向かい合う。
皆に笑みを浮かべる者をいれば、何処かそっけない表情を浮かべる者も居た。
親しみを感じる者もいれば、顔すら覚えようともせぬ者も居た。
八人八色。それぞれが己がスタイルでライバルと面を合わせる。
今この一瞬、空間がゆがんだように感じたと語る者も居た。
神すら怯える八人の豪傑、そう、これこそ人類最強決定戦に相応しい。
「それではッッ!ドローの発表に移らせていただきまぁぁあぁぁぁあああぁぁあすッッ!!!」
司会者は高らかに声をあげ、責務を果たさんと心に鞭を打つ。少しでも下手な行動をとり、彼らを興ざめさせてしまえば、真っ先に被害を被るのは彼だろう。気が抜けない。
そして画面に映し出された文字に、全視線が注がれた。
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【アールシュ】VS【鉄野 拳】
【ルキウス・ヴィッドマン】VS【ネームレス B】
【ダン・D・ゴンザレス】VS【ヴェルモンテ・デッドコード】
【冥涅大羅】VS【スターマン】
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オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
大歓声が会場中に鳴り響く。その怒号にも近い歓声は落雷すら驚愕させるほどの轟音だった。
止まない歓声の中、観客達の中にはその昂りを堪えきれず失神するものさえ現れたという。
そんな騒音の中、一人の青年ーーーアールシュはあまりの期待に笑みが隠せ無いのか何度も顔を手のひらで覆っていた。
「ッッッッ!!!ーーーーッッっ!!!!」
飛び跳ね飛び跳ねしゃがみこんでは飛び跳ねーーー。
何度繰り返しても治らない高鳴りを見かねた黒人の男性ーーーーゴンザレスは呆れたと言わんばかりに肩をすくめていた。
「おいおいアールシュ。こんな大勢の前でそんな…お前には威厳ってもんがなぁ…」
「何言ってんだよ!こんなのっ…いやまじやべえだろ!」
興奮のあまり語彙力が蒸発してしまったらしい青年を見て、ゴンザレスはやれやれとため息をついた。
そんな彼に道着を纏った小柄な青年ーー鉄野拳が歩み寄って、彼に軽く会釈してきた。
「君がアールシュだね。押忍、俺は鉄野拳。この会場で一番強い漢だ。よろしく。」
そしてアールシュに向かい手を差し出した。
「わざわざご丁寧に…。俺はアールシュ。この世界で一番強い漢だ。よろしくな?」
「…」
唖然とする拳。刹那、彼は思いっきり破顔した。
「ブハッッ!ッッ〜!ァー…こりゃ一本取られたよ。なるほど、世界ね…。そうだ、思い込みはダメだね。もしかしたらこの会場にいるやつより強い奴が世界には存在するかもしれないしね…。」
ツボに入ったのか笑い涙を拭う彼を見て、不思議そうに顔を傾けた。
「いやだから、俺が世界最強…」
「あーはいはい。そうだったね。じゃああれだ。とりあえず君に勝つよ。それでいいかい?」
「うーん、まあ、頑張って。」
「何さそんな他人事みたいに…。…ん?」
一通りのやり取りを横目に見ていたゴンザレスは、どこか不服そうだった。
「おいおい、お前ら舐めすぎだぞ。世界最強がお前らなわけないだろう。」
不機嫌な彼に、アールシュは問いかけた。
「じゃあ誰さ?」
そしてゴンザレスは、そうだなと枕詞をつけ
「ダン・D・ゴンザレス、つまるところこの俺だ!」
自信満々に言い張る彼を見て、二人はーーーー。
「「………ブッッッ!!!」」
同タイミングで吹き出し、地面に転がりながら大爆笑し始めた。
「テメェら畜生!…ったく…何だってんだい。」
さらに不機嫌になってしまった。
「随分と、盛り上がってんなァ?」
「そうだな、ヴェルモンテ・デットコード。」
金色の師子と肉の鎧を纏ったナイスガイが遠巻きに彼らを見つめていた。
片方は狂気染みた笑みを浮かべ、また片方は一切の感情すら見せていなかった。
「ったくよォ…くだらねえ戯言吐きやがるなァ…なぁ…星おと。「スターマンだ。」
「…ダサくねぇかァ?」
「我が国の誇りをリングネームにしたまでだ。恥も外聞も感じない。」
「なんていうかなァ…その星条旗のタンクトップもそうだがァ…陳腐じゃねえかァ?」
「貴様には関係ないだろ。俺は俺を貫く。それができる力がある。」
「…ほォ…まァ…いいやァ…。ついでだから聞かせてくれよォ…。俺らの中でェ…一番強そうなのはだ「私だ。」
「…被せんなよォ…。あと間違いだぜェ…?なァ…?」
「…じゃあ聞いてやる。この中で最強な「俺だァ…!」
「…」
「へへっ…やられたらやり返す主義でなァ?」
キヒヒと奇妙な声で嗤うヴェルモンテにスターマンは思わず肩をすくめた。
(…一体なんだんだこいつは。)
と、初対面の彼に鬱陶しさを感じ、故郷の方角を遠い目で眺めていた。
大歓声の中、とある一個集団は特定の人物にその声援を届けていた。
「ルキウスゥゥう!頑張ってくれよぉぉぉ!!」
「あんたがナンバーワンよ!絶対勝ってね!」
「くぅぅぅ…俺の分まで頑張ってくれよ!!」
歓声は希望に満ちたもので、彼の背中を押すようだった。
その声に応えるように、透き通るような瞳の彼はその手を高く振り上げた。
「任せろぉぉぉ!俺達〈ヘタイロス協会〉が一番強いって、お前らの分まで証明してやる!!」
その声に昂りで応えるヘタイロス協会の会員。その光景に爽やかな笑顔を浮かべた。
「ネぇエえぇ…ルキウスさんって…あなたデスよネ?」
背後に虫が湧き出たかと錯覚するほどの気味の悪い声に、ルキウスの表情は凍りついた。
「どうシたのデスか?おっとコレはシつれい…。オドロかせてシまいまシたネ?」
「っ…。」
冷や汗が溢れて止まらない。ルキウスは今、想像を絶する恐怖を背後に抱えていた。現に彼は今、後ろを振り向くことができない。
強さとか、そんな次元にこいつはいない。ただ、気味が悪い。
「ワタシのなはB。ななシのオトコですが…Bとおよびクださい…イごおみシりおきを…」
「…俺はルキウスだ。一回戦で当たる相手だ。あんまり関わらないほうがいいんじゃないか?」
どうにかしてこの恐怖を遠ざけたい。その一心で彼はBを冷たく突き放した。
「ヒドい…なんてツメタいオトコなんでシょう…。デは…。」
呪詛のように重たい言葉を残し、彼はトボトボと去って行った。
そしてようやくルキウスは彼の姿を目視した。
痩せぎすの、白スーツの男だった。
誰もが戯れに興じている中、一つの陰は遠巻きに虚ろんでいた。
彼の存在に、誰も気づかない。否、既に彼は人間の認識外にいる。
今彼がここで消えたところで、信仰には全く支障をきたさないだろう。それほどまでに必要のない、闇だった。
だが、それで良かった。これこそが彼の長所であり、必勝の手口だからーーーー
「そこのアンタはどう思うのさ。やっぱ俺が一番だと思わねえか?」
「!!!」
そう、ただ一つ、ここに例外が存在していた。
「?」
「ゴンザレス?お前誰に…ってうおっ!」
彼が認識したことにより、会場中の人間が彼を認識し始めた。
「お前…どうして…?」
「どうしてってお前…そこにお前がいたからだろ。ずっと。」
「…」
彼ーーー冥涅大羅は即座に彼を敵として認識した。
「ああ、それもそうだな。どうしてこんなことを聞いたのだろうか。でだ、質問の返答だがーーーー。」
彼の目を、ジッと見る。
そして、この言葉を根幹にきざみつけるように、深層意識へ誘うように、彼に放った。
「最強は、この我輩だーーーー。」
一興も終わり、ついにその時がやって来た。
「そ、それでは僭越ながら!開会の宣誓をこの私がさせていただきまぁあっァァァァァぁぁす!!」
司会者は高らかに声をあげた。
「この日、聖地クシナガラにてェェェェェェェェェ!聖戦、又の名を【アヴァターラ】をぉぉぉ開催しまァァァァァぁぁあす!!!!」
この宣誓を境に、闘気家達の激闘が幕を開けた。
感想お待ちしています。