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異文化交流委員会 被験者A君  作者: 雨内 真尋
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7.ケータイは偉大(実感)

 ゴルディノートさん宅での初めての異世界の食事も終わり食後のティーを頂いていると、ゴルディノートさんがふと何かを思い出したよう話だした。


「そういえば、フィリアはどうしたんだ?」


 フィリアさんとはゴルディノートさんの娘さんのことらしい。先程の食事中も少し名前が出てきたので覚えている。


「たしか、学園に通ってらっしゃるんですよね?」

「おおそうだ、今日は久しぶりに食事を共にできると思っていたのだがな……」


 いつも元気なゴルディノートさんだが、娘さんと食事できなかったことがショックだったようで、少し落ち込んでいる。


「あら、言ってなかったかしら?フィリアは今日は部活があるから遅くまで帰らないわよ」

「なんと、そうであったか!ふむ……、部活なら仕方がないか。して、フィリアは何の部活に入ったのだ?」


 異世界の部活か。どういうのがあるのか正直興味はある。


「いえ、まだ入部はしてませんよ。今は仮入部期間で色々と試してるそうです」

「そうかそうか、大いに選ぶがよい!簡単に決めるものでもないのだからな!」


 どうやらフィリアさんはまだ部活を決めていないらしい。それにしても仮入部期間というのがあるのなら、是非僕も参加してみたいものだな。


「あの、部活動にはどういったものがあるんですか?」

「む?興味があるのか?そうだな、定番なもので言うとだな……」


 ここからゴルディノートさんは、学園にある部活動を色々と説明してくれたのだが、口で説明されるだけだと何を言っているのかさっぱり分からなかった。


「あなた、暁星様の世界とこちらの世界では部活の種類も違うのでは?」

「はい、申し訳ないのですが、ほとんど理解出来ませんでした……」


 せっかくゴルディノートさんに説明をして頂いたというのに、申し訳ない気持ちになり頭を下げて謝罪した。


「なーに、謝らんで良い。世界が違うのだから仕方のないことさ!こういった違いを知ってもらう為にそなたに来てもらった様なものなのだからな!」

「ありがとうございます。部活については今後の楽しみとさせて頂きます」

「それがいいわね」


 僕の言葉に、ゴルディノート夫妻は優しく笑顔で許してくれた。王と妃なのにとても接しやすい方々で感謝が尽きない。まだ異世界に来たばかりだが、初めて会った異界人がこの2人で良かったと心から思える。


 その後もゴルディノートさんと他愛もない話をしていると、山口さんが席から立ち上がった。


「さて明日人君、そろそろ家に案内もしたいし行こうか」

「なんだもう行くのか?」

「はい、申し訳ございませんが明日人君には、今日明日で学園の準備と家の整理をして頂かなければならないので」

「ならば仕方がないか……。暁星殿よ、またいつでも遊びに来て良いのだぞ。困った事があればいつでも我らを頼るが良い!」

「はい、色々とご親切にありがとうございます!」

「それでは失礼します」


 こうして僕と山口さんはゴルディノート宅を後にして、僕の暮らす家へと向かった。その道中はゴルディノートさんが用意してくれた竜車に運んでもらう事になった。


「さぁ着いたぞ!ここがこれから明日人君が3年間暮らす家だ!」


 竜車に揺られ案内された家は、ゴルディノートさん宅ほど豪邸ではないが、その大きさは普通に僕のいた世界にある2階建ての一軒家並の大きさだった。


「え……、これですか?流石に大きすぎません?あ、もしかして山口さんも一緒に暮らすとかですか、それなら少し大きい程度ですからね」


 予想外の大きさの家に、僕は勝手に変な解釈をしたのだが、そんな予想は山口さんによって即否定されてしまう。


「残念ながら私はここでは暮らさないな。私はこれから元の世界に戻ったりこちらに来たりと何度も往復することになるから、常に一緒には居られないんだ」


 ここで家の紹介と共に、山口さんから衝撃の事実を言い渡されてしまった。


「え!?山口さんは僕の担当だとか言ってたから、てっきりずっと一緒にいるのかと……」

「申し訳ないけど他にも仕事があるからね。それに私の家は向こうの世界にしかないし。あ、因みに私は今夜中に向こうに帰らないといけないから、明日人君は明日からは1人で生活してもらうことになるよ!」

「えぇ!?そんな急に……」

「悪いけど、委員会も今はバタバタしてるからね。さ!早く中に入ろうか!」

「は、はい……」


 こんな大きな家にいきなり1人で生活するとは、一切想像していなかった。この家の広さはどうも向こうの世界で暮らしてたマンションの部屋よりも広いぞ。

  それに明日はまだ学園には通わないから、1人でザハラハを歩き回ることになるのか。前途多難すぎる。


 そんなことを玄関前で悶々と考えていると、山口さんはいつの間にか厳寒の扉を開けて中に入っていたので、僕も慌ててついて行った。


「さて、色々と説明するけど、まずこの世界は電気、ガス、水道の全てを魔法で補っているんだ」

「そ、それじゃあ僕は何も使えないじゃないですか!?」

「まあまあ落ち着いて。明日人君が魔法を使えないのは分かってるよ。だからこの家には事前に発電機を用意してあるんだ。だからスイッチを押せば向こうの世界と同じように簡単に電気がつく!」


 山口さんは説明しながら、玄関先のスイッチを押し、部屋の電気を付けた。懐かしのLEDの明かりだ。確かにこれなら向こうの世界と何も変わらないので、僕でも生活は出来そうだ。


「こんな感じで同じようにガスと水道も発電機で使えるようにしてるから生活は問題はないはずだ。ただし……」

「ただし……?」

 山口さんは言葉を途中で止め、普段の胡散臭い態度から一転して真剣な面持ちになった。僕もその表情に釣られ、思わず気を引き締めた。

「発電機で生活を賄えるのはこの家でだけだ。他の施設に行けば必然的に魔法の使用を迫られる事になるだろう。だからこそ明日人君には、この世界で快適に生活してもらうためにも、一刻も早く生活系の魔法を取得してもらわなくてはならない」


 異世界へ来て早速僕は生活の違いを感じた。普段当たり前に使っていた電気、ガス、水道がこの世界にはない。その事実がじわじわと僕の頭の中に浸透してきた。

 魔法を使えることはこの世界では当たり前。ならばこの世界で生活するなら、当然僕も身につける必要がある。


「ぼ、僕はこの世界で上手くやっていけるんでしょうか……?」


 この家を1歩でたら魔法を強要される。その事に僕の心には自然と不安が溜まっていく。

 しかし、ちらりと山口さんの顔を伺うと、なんといつものあの胡散臭い顔に戻っていた。


「とまあちょっと脅しすぎちゃったかな?ホントのこと言うと、生活に必要な魔法技術は1日もあれば取得できるんだよ!」

「なっ!?またあなたは僕をからかったんですか!?」

「ごめんごめん、明日人君を見てるとつい弄りたくなっちゃうんだよ」


 山口さんは手で頭をポンポンと叩きながら、笑顔で謝ってきた。やはりこの人はどうも信用しきれないと改めて実感した。


「異世界に来てまで冗談言わないでくださいよ!」

「いやー、明日人君とこうして話すこともしばらく出来なくなっちゃうからさ。今のうちにと思って」

「なら、他に話すことがあるでしょうに……」


 山口さんの態度に呆れ果てた僕は、彼を置いて家の中を1人で進んでいった。


 一通り部屋の中を確認すると、部屋の間取りは3LDKとなかなか贅沢な広さだった。僕の荷物は卒業式を行っている時に運ばれていたらしく、既にベットや勉強机などは部屋に運び込まれていた。


 因みにリビングには真新しい家具も用意されていたので山口さんに確認すると、異世界への移住に対する引越し祝いだと言っていた。家具を頂けるのはありがたいが、これだけ多いと少し恐縮してしまう。

「それじゃあ私はそろそろ向こうの世界に帰るけど、最後にこれを渡しておくよ」


 山口さんから渡されたのは、液晶画面の着いた小型のタブレットのようなものだった。しかし一瞬タブレットかと思ったが、どうも厚みが違う。渡された物は厚さが10cm程もあるからだ。今までこういった類の機器に触れてこなかった僕には、皆目見当がつかないので山口さんに確認した。


「これは?」

「明日人君見るのは初めてかい?これはポ〇ットWiFiと言って、簡単に言うとこれがあれば向こうの世界の人と電話が出来るんだよ」

「えぇ!?こんな所まで電波が通ってるんですか?」

「いや、流石にそこまでは出来なかったよ。だからそのポ〇ットWiFiはあの巨大な扉から漏れてる微弱な電波を拾えるように改良した特注品なんだ」

「そ、そうだったんですか。凄いですね……」


 異世界まで来て電話が出来るとは思わなかったので、これには素直に感心した。地球の現代の技術凄すぎる。


「ほら、こっちは君のお母さんに託されたケータイだよ。卒業祝いだとさ」


 そう言って山口さんは鞄から箱に入ったままのケータイを差し出された。


「お母さんから……。ありがとうございます」


 お母さんからの卒業祝いと聞いて、思わず家族の顔を思い出してしまい、目頭が熱くなった。


「じゃあ私はもう行くから、……ちゃんと家族に電話するんだぞ?」


 山口さんはそう言うと、背中越しに手を振りながら玄関を出ていってしまったので、僕は慌ててそのあとを追った。


「山口さん、ここまでありがとうございました!」


 山口さんには困らされる事も多かったが、それ以上にこんな素晴らしい世界で学校まで用意してくれた人だ。この人がいなかったら今の僕はどうなっていたか分からない。山口さんには感謝してもしきれないだろう。


「楽しい学園生活をおくれよ!」

「はい!」


 山口さんは肩越しに振り返り、手を振りながら颯爽と帰っていった。

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