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異文化交流委員会 被験者A君  作者: 雨内 真尋
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6.初めての食事(絶品)

 ゴルディノートさん達魔人に先導され、僕らは竜車という向こうの世界で言うところの馬車に乗り込んだ。客車の外見はは6人ほど乗れそうな広さだったが、中はなぜか外見ではありえないほどに空間が広がっていて、中学の教室くらい広かった。魔法は本当に凄いとマジマジと見せつけられてしまった。


 広い客車だが、その中にはゴルディノートさん、山口さん、護衛の魔人1人だけが乗るらしい。護衛の人達は別のようだ。

 竜車は2足歩行のコモドオオトカゲの様な爬虫類数匹に客車が客車を引いている。外見は恐竜映画に出てくるヴェロキラプトルに似ているといった感じだ。


「ゴルディノートさん、あのトカゲみたいなのは何でしょうか?」

「あれはトートランドドラゴンだ。その名の通りトートランドという地域に生息していてな。足の速さと体力が自慢なんだ。はるか昔は馬に引いてもらっとったんだが、戦争が終わって各国との貿易が増えてからはあの種が主流になっとるのだよ」

「なるほどそうでしたか。ありがとうございます」


 あの竜はトートランドドラゴンというらしい。異世界に来て早くもドラゴンにお目にかかれて、正直かなりテンションが上がってきている。異世界の人達も聞いていた通り全然怖い人はいないので、これなら案外楽しく暮らせそうだ。


「それよりもすまぬな暁星殿よ。本来ならまずは我が国に招待したいところなのだが、学園は既に始まっておるからの。まっすぐザハラハに向かう事になるんだ」


 ゴルディノートさんは突然申し訳なさそうな顔をして、謝罪してきた。しかし、僕としてはいきなり国のトップの方にもてなされても肩身が狭いのでありがたい。それよりも、王なのに僕なんかに頭を下げる方が問題だ。


「ちょ、頭を上げてください!王様が僕なんかに頭を下げたら不味いでしょう!」

「ふっはっは!なーに気にするな!確かに王が簡単に頭を下げるのは不味いが、それは一昔前の話だ。現在は王とはいっても国の運営は多くのものとの話し合いで決めておる。飾りのようなものなのだよ。それにここには人もそう多くはないしな」


 ゴルディノートさんは豪快に笑って、僕の疑問を払い飛ばしてくれたが、横にいる護衛の人が若干慌てた様子でゴルディノートさんを見ていた。この様子だと形だけというのは怪しい気がするな。


 因みにこの世界の学校は僕らの世界とは違い、3月から始まるらしい。この僅かなズレがあったせいで、僕は卒業式の後すぐに異世界へ行くことになったのだ。こっちの世界ではもう既に授業は始まっているのだから。


「明日人君、今日中にザハラハにある君の下宿先の家に着く予定だから、明日は1日準備をして明後日から学園に通ってもらうからね」

「はい、分かっています」

「よろしい」

「なかなか忙しい日々になると思うが、今晩は豪勢な夕食を用意しておる。それを食べて英気を養うがよい!」

「ありがとうございます!」


 そういえば今日は移動続きで朝食の後から何も食べていなかったな。思い出したらお腹が減ってきた。初めての異世界の食事だし楽しみだ。

 竜車に揺られながら僕達は互いの世界の話に花を咲かせて、気が付くといつの間にか日が傾き始めた頃に、ザハラハへ到着した。


 ザハラハは煉瓦造りの家が多くあり、地面にも煉瓦が敷き詰められていた。行き交う人々を眺めてみると、魔人だけでなく、猫耳の人や耳長の人など、多くの種族の人々が生活していた。

 しかし日本とは違い、道には電線一本通ってはいなく、見慣れた景色のない街並みに少し違和感を感じた。ただ街灯などはちゃんとあり、その灯りは先日山口さんが見せてくれた魔法のように、光る玉でそれぞれ街を照らしていた。

 僕の世界では科学が発展したのに対し、この世界では魔法が発展したと山口さんから聞いてはいたが、その違いをこうしてまじまじと見ると改めて文化の違いに驚きを隠せずにいた。


「さて、それでは早速夕食にするかの!」


 街に着いた僕達は、何も食べていなかったという僕の話を聞いたゴルディノートさんが気をつかってくれたのか、まずは食事にしてくれた。

 竜車に引かれ着いた先は、周りの建物と比べ一際豪勢に建てられた立派な店だ。しかし、店の周りを見渡しても看板などの類はなかった。

 本物の名店は看板もださないと聞いたことが有るが、流石は王様の通う店だけあって門構えからして違うらしい。こんな立派な店に連れてこられるとは思っておらず、少し緊張してきた。


「さぁ!遠慮せずに入るがいい!」

「は、はい!」


 ゴルディノートさんに背中を押され、店の中に入るとなんともアットホームな店内が目に入ってきた。入口には広めの玄関があり、正面の大きな螺旋階段に目を惹かれ、壁には高そうな絵が飾ってあったりと高級感を漂わせる。

 綺麗な店内に目を奪われていると、すぐ右の扉が開き奥からウェイトレスらしき、エプロン姿の魔人の女性が姿を現した。モデルの様に綺麗な体型に整った顔立ちだが、その瞳の奥にどこか大人びた雰囲気を感じる美人さんだ。


「ようこそいらっしゃいました!来るのを楽しみにしていましたのよ!」


 女性に静かに整った姿勢でお辞儀をされ、その洗練された動きに思わず見とれてしまった。

 するとそんな俺を見てゴルディノートさんがまた笑いだした。


「はっはっは!なんだ暁星殿、我が妻の美貌に見とれてしまたか!」

「いえそんな、……ん?妻?」


 ゴルディノートさんの衝撃の一言により、緊張で固まっていた体はさらに硬直してしまった。目の前の女性をいきなり妻と言われて僕の思考は完全にショートしてしまった。


「紹介しよう、我が妻でありゴルディノート魔人国第一妃である、アリア・ソル・ゴルディノートである」


 ゴルディノートさんに紹介された奥様は再度綺麗に一礼してみせた。


「あれ、言ってなかったっけ?今日はゴルディノートさんのお宅にお邪魔することになってたんだよ?」

「いやいや、聞いてないですよ!?ていうかゴルディノートさんの家ってお城とかじゃないんですか!?」


 テンパってしまった僕は思わず声を荒らげてしまい、慌てて口元を抑えたがもう遅い。吐いた言葉は呑み込めないのだから。

 しかし、ゴルディノートさんはそんな俺を見て、更に楽しそうに笑っていた。


「はっはっは!気にせんで良い暁星殿、場所を伝えていなかったこちらの落ち度だからな。それと確かに我らは普段は城で暮らしておるが、実は今年から我が娘も学園に通うことになっての。それで妻と娘だけは一時的にここで暮らしておるのだよ。我も普段は城におるが、こうしてたまにこの家にも通っておる」

「そ、そうだったんですか……。知らなかったとはいえ、突然声を荒らげてしまい申し訳ありませんでした」


 僕は改めて深々と頭を下げた。


「気にせんで良いと言ったろう。それよりも腹が減ってきたな。おい、準備は出来てるか?」

「ええ、御二方も中へお上がりください」


 ゴルディノートさんは本当に気にしていないようで、笑顔で奥へと進んで行った。その姿を見てようやく固まっていた体が動き出した僕は、山口さんと共に中へ上がらせて頂いた。


 僕らが席に着くと、ゴルディノートさんの奥様と使用人の方々によって、次々と料理が運ばれてきた。

 大きめの食卓に隙間なく並べられた料理は、パンやサラダなど向こうの世界でも有るものもあるが、それ以外のほとんどが初めて見る料理だった。

 異世界なのだから当然といえば当然なのだが、こうして初めて見る料理ばかりが並ぶ食卓を見ると、少し怖かった。そんな僕の表情を見たのか、ゴルディノートさんの奥様が不安そうな顔で尋ねてきた。


「暁星様、何か苦手なものでもありましたでしょうか?」

「い、いえ、そういう訳では無いです。ただどれも見たことのない料理で少々驚いていただけです」

「そうでしたか、今日はたくさんご用意致しましたので、遠慮なさらずお食べになって下さいね」


 奥様に柔らかな笑みを向けられ、その美しさに思わず頬を赤らめてしまい目を逸らしてしまう。


「では、そろそろ頂くとするかの!」

「ええ」


 ゴルディノートさんが、自分の取り皿に食べ物をよそい始めた。それを見た山口さんも続いて食べ物に手を伸ばし始めたので、僕もそれに続く。

 しかし、料理の中には食べ方の分からないものも多く、自然とサラダを多めによそってしまった。異世界の料理に興味はあるのだが、王様の前だとどうも緊張してしまう。迂闊に下手な食べ方は出来ないだろう。


「い、いただきます」


 そうしてよそったサラダを1口食べてみると、口の中に甘酸っぱ酸味が広がった。味付けは和風ドレッシングに近く食べやすかった。空いたお腹にこの味は効いたようで、皿によそっていた分をあっという間に平らげてしまった。


「美味いか、暁星殿?」

「はい、とても美味しいです!」

「そうかそうか、ではこれもどうだ?妻の得意料理だ」


 気を利かせてくれたのか、ゴルディノートさんは僕の皿にハンバーグの様な肉料理をよそってくれた。しかし肉の上には謎の銀色の玉がある。最もどうやって食べたらいいのかわからなかった料理の1つだが、まさかの奥様の得意料理だった。これは是が非でも食べてみたい。恥を忍んでとうとう僕は口を開いた。


「あの、すみません。こんなにももてなして頂いて申し上げにくいのですが、この料理の食べ方を存じ上げていなくて……」


 僕がそうまわりの人々に聞くと、なんと横に座っていた山口さんが親指を立ててこちらを見ていた。どうやらこの人も食べ方を知らなかったようだ。その顔に腹が立ったので、それなら山口さんが聞いてくれよと睨みつけた。


「なんだ、向こうの世界ではなかったのか、それは失礼した」


 すると僕の言葉を聞いたゴルディノートさんは、怒ることもなく、またも頭を下げてきて僕は慌ててしまう。


「あなた、暁星様が困ってらっしゃいますよ、全く……。暁星様、この料理はですね、このシュリンガナという銀色の玉をナイフで割って、肉全体に広げて食べるのですよ」

「あ、ありがとうございます!」


 困っていた僕に奥様は助け舟を出してくれて、更に食べ方までレクチャーしてくれた。奥様に教えて貰った通りにシュリンガナという銀の玉を割ってみると、中からトロトロとした透明感のある汁が溢れ出した。


「シュリンガナは魔人国で取れる植物の種で、火を通すと中の実が辛味のあるタレになるのですよ」

「そうなんですか。では、いただきます……。んん!美味しい!」


 シュリンガナのタレを絡めた肉を1口食べてみると、口の中で辛さと共に旨みが一気に広がった。少々辛みが強いが、それがまた肉の良さを引き立てている感じだ。噛む度に肉汁が溢れてきて、それがさらにタレの辛さとよく合っていて美味い。1口食べた瞬間、次を求めてフォークが止まらない。


「あらあら、そんなに慌てなくてもまだまだありますよ」


 そんな僕を見た奥様は静かに柔らかく笑っていた。


「はっはっは!なかなかいい食べっぷりになったな!男ならそうでなくては!」


 ゴルディノートさんもご機嫌に笑いながら、また色々と僕に料理はよそってくれた。非常にありがたいが、王様にそんな事をさせてしまっていることに、若干の負い目を感じている。本人は楽しそうにしていて、一切気にしていなさそうだが。


 こうして僕は、奥様やゴルディノートさんに食べ方を教わりながら、異世界の料理を存分に満喫した。


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