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異文化交流委員会 被験者A君  作者: 雨内 真尋
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4.別れと旅立ち(卒業)

「3年1組、暁星 明日人!」

「はい!」


 卒業式が始まり、いよいよ卒業証書授与で僕は呼ばれた。1番に呼ばれる僕は皆とは違い来賓の方々や先生方へのお辞儀など、やることが多いがそれもア行の宿命だから仕方ない。1番ということもあり緊張したが、練習通り丁寧に動き無事授与を終えた。

 僕にとっての卒業式の山場はここだったので上手くいってよかった。


 そして式は恙無く進行し、僕達は無事卒業することが出来た。


「よっしゃー!遂に高校生だー!」

「うぅ、ざひじいよ〜」

「おい、この後カラオケでパーッとやろうぜ!」

「お!いいねいいね!おい、皆も行こうぜ!」

「あ、私も行きたーい」


 卒業式が終わり、教室に戻った僕達は荷物を纏めこれからの事に花を咲かせ、別れを悲しみ、最後に皆で楽しもうと至る所で盛り上がっている。

 そんな中で僕は1人荷物を纏め、静かにクラスをあとにした。僕も皆と色々話したい事はあったが、この後すぐ異世界へ向かわねばならず、山口さんと合流する約束があるのでのんびりとはしていられない。

 少し寂しいが、もう思い残すことは無いし二度と会えないという訳でもない。それよりも今は異世界へ行くことの方が大切だ。


 校舎を出ると、校門を挟むように桜並木が僕を出迎えた。季節は3月の上旬、桜はまだ蕾のままで満開は当分先だろう。

 両脇に桜の並ぶ道を1人歩んでいると、校門付近で手を振る人影が見えた。

 目を凝らすとそれはお母さんと妹の綾香だった。さらにその少し奥では、車に寄りかかっている山口さんの姿も見える。

 僕は手を振り返し走って駆け寄ろうとしたが、その瞬間後ろから僕の名を呼ぶ声が聞こえた。


「明日人君―!」


 声の主は平崎さんだった。


「あれ?どうしたのこんな所で。皆でどこか行くんでしょ?」

「それはこっちのセリフよ。明日人君こそ皆と一緒に行かないの?」


 平崎さんは僕を呼び止めるなり、慌てた様子で駆け寄ってきた。額には薄らと汗が滲んでいたので、どうやら教室からここまでずっと走ってきたようだ。


「えっと、僕はこれからすぐに異世か……じゃなくて!高校のある所まで行かなくちゃ行けないんだ」

「そんなにすぐに行かなくちゃ行けないの?最後なんだし今日くらい……」

「そうなんだけどごめんね、色々準備もあるしそれには時間は多い方がいいんだ。遠い場所だしすぐに向かいたいんだよ」

「そうなんだ……。分かった!ならもう止めないわ。明日人君と会えなくなるのは寂しいけど、頑張ってね!」

「うん!ありがとう。平崎さんも頑張って!」


 引き留めようと食い下がっていた平崎さんだったが、僕の意思は固いと分かったのか、もう止めようとはせず応援してくれた。

 平崎さんとの挨拶も済み、少し進んで振り返ると平崎さんも同じタイミングで振り返ったみたいで、少し恥ずかしがりながらも僕らは手を振りあった。

 すると平崎さんは、思い出したように口に手を当てて大声で声をかけてきた。


「あ、そうだ、明日人君!夏休みは会おうね!」

「うん!分かったよ!」

「忘れないでよ〜!」

「はーい!」


 平崎さんと新たに再会を約束した僕は、今度は振り返ることなく家族と山口さんの元へ駆け出した。

 

 校門に辿り着くと、お母さんは目に小さな涙を浮かべていた。卒業式だったからということもあるだろうが、それ以上にこれからしばらく会えなくなることが原因だろう。正直僕だって今にも泣きだしそうだし。


「明日人、もういいのね?」

「うん、ちゃんとお別れは言ったし、それにまた会えるしね」

「そう……、分かったわ。これからは大変だろうけど頑張るのよ」

「うん」


 お母さんと2人しんみりしていると、山口さんがカメラを片手にぼくらに校門前に立つように指示してきた。


「ささ、せっかくの門出なんだし笑って行きましょうよ!写真撮るので皆さん並んで並んで!」


 暗い空気を払おうとしたのか、山口さんは陽気にカメラを片手に僕の背中を押してきた。


「ありがとうございます」

「いえいえ!それじゃあ行きますよー……はいチーズ!」


 静かな校門前にシャッター音が妙に耳に響いた。

 その後は、綾香も交えて最後に雑談をして、いよいよ車に乗り出発の時を迎えた。


「じゃあ、行ってくるね」

「明日人、辛くなったらいつでも帰ってきていいんだからね」

「うん」

 お母さんの目にはもう涙はなく、いつもの優しい笑顔で送り出そうとしてくれた。

 綾香はさっきまでは冗談を言い合う程に明るかったのだが、別れる寸前になり、我慢の限界が来たように目に大粒の涙を浮かべていた。


「お兄ちゃん、元気でね……」

「泣くなよ綾香、またすぐに会えるから」

「ほんと?」

「本当だよ。綾香が困ってたら、兄ちゃんはいつでも飛んで帰ってくるよ」

「ふふ、ありがとう……。じゃあアイスが欲しくなったら呼ぼうかな」

「それはやめてくれ」


 今にも泣きだしそうな彩花だったが、僕の言葉に少しは笑顔を取り戻してくれたようだ。


「じゃあ、そろそろ行きますね」

「はい、お願いします。お母さん、綾香、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

「ゔゔっ、ま、またね……」


 お母さんと綾香に見送られ、車は出発した。


「いい家族だね、明日人君も泣いていいんだよ?」

「からかわないで下さい。それよりもこれからどこに向かうんですか?」


 車が動き出すとすぐに、隣に座っていた山口さんがからかうように話しかけてきたので、僕は軽く流すと今後の目的地について聞いた。


「詳しい場所は言えないけど地方の山奥だよ。途中までは車で向かって、そこからヘリに乗り換えて向かうんだ」

「そうですか」

「さて、一応確認しておこうか。明日人君がこれから向かうのは異世界にある5つの国の間にある中立地域の学校だ」


 異世界は5種族の異世界人によって、5つの国が統率している。


 北を統べるドワーフ王国とその王。

 西を統べるエルフの里とその長。

 南を統べる魔人国とその王、魔王。

 そして東は北東と南東に別れており、北東を統べるのは多くの種族の獣人族が集まって出来た、この世界最大国家である獣人連合国と獣王。

 最後に南東では魔の大樹海で精霊達が自由に暮らしている。王などの統率する王などはいない。


 そして、それぞれの国の間にある土地を中立の土地とし、そこに5つの国の種族を集めた学校が複数造られたそうだ。

 大昔は戦争の絶えない世界であったらしいが、ここ数百年は大きな争いもないまま平和な日々が続いているらしい。


「僕が行くのは、確か魔人族の国の近くでしたよね?」

「そうだよ、よく覚えてたね。偉い偉い」

「ちょ、やめてください。僕はそこまで子供じゃないんですから!」

「はははっ!ごめんごめん、ついね」

「まったく……」


 山口さんは事ある毎に僕を子供扱いしたりして、小馬鹿にする節があって困る。山口さんにはもちろん感謝はしているが、もう少し大人らしい佇まいをして欲しいものだ。


「魔人国に近いといってももちろん他の種族も大勢いるけどね」

「それはよかったです。魔人って名前だけ聞くと少し怖かったので」

「大丈夫大丈夫!彼らは確かに見た目は怖い人もいるけど、中身は僕らと何も変わらないよ!」

「そうでしたか。見た目で差別しないように気を付けないとですね」

「そうだね、昔は戦争もあったらしいけど、彼らも今では皆平等に暮らしているからね」


 見た目で差別するなんてこの現代でももう昔のことだ。最初は驚くかもしれないが、それでもちゃんと中身で判断しなければこの先上手くやっていけないだろう。

 

 ただ、そうして山口さんと色々と話をしていると、そこでふと1つの疑問が浮かんだ。


「山口さんって異世界人なんですか?」

「ぶっ!ゲボゲホッ!いきなりどうしたんだい!?」


 ちょうど山口さんが水を飲んでいるタイミングで聞いたので、思いっきり吹き出してしまった。少し申し訳ない気がする。

 だが、そんなに変な事を聞いただろうか。


「いや、だってこの前魔法使ってたじゃないですか」

「ああ、そういう事ね。急に変な事言い出すからびっくりしたよ」

「変な事って……」

「安心してくれ、私はれっきとした日本生まれ日本育ちの人間だよ。言い忘れてたけど、こっちの世界の人間も魔法は使えるからね」

「えぇ!?そうなんですか!?」


 これには正直初めて異世界の映像を見た時くらい驚いた。いくら異世界があるとはいっても、てっきり魔法を使えるのは向こうの世界の人達だけだと思ってあたからだ。

 そしてそれに対しては、山口さんがすんなりとその理由を話してくれた。


「そんなに驚く事じゃないさ。こっちの人間だって昔は魔法を使ってたんだ。ただ、こっちは科学技術が発展していったせいで、魔法の技術が廃れていったってだけの事でね」

「本当なんですか?」

「ああ、現に今でもアフリカなどの地域の少数民族は今でも魔法を使っているし、それに500年程昔に魔女狩りが行われるまでは一般に魔法は使われていたはずだよ」

「……なるほど、何となくですが理解出来ました。でもそれならなぜ魔女狩りなんて事を……」

「さあね、この世界には魔法は合わなかったのかもしれない。でもこれからその溝を埋めていくのが僕達異文化交流委員会の役目でもあるし、その為に明日人君にも協力してもらってるんだ」

「そうでしたか。分かりました、僕もやれるだけの事はやってみます」

「その意気だ!さぁ、そろそろヘリに乗り換えるよ!そうしたら異世界までは1時間もかからない。気を引き締め直してくれ!」

「はい!」


 いつの間にか大きな山の麓まで車は来ていた。車の先を見てみると、遠くに小さくだがヘリも見えたので、恐らくあれに乗って行くのだろう。


 初めてのヘリに初めての異世界。初めての事だらけだが、気圧されていても仕方ない。僕は両手で頬を叩くと、気合を入れ直して異世界へ行く覚悟を決めた。


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