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異文化交流委員会 被験者A君  作者: 雨内 真尋
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2.新たな道(未知)

2話連続投稿です。1/2

 明らかに胡散臭い人にしか見えなかったが、学校という単語に思わず反応してしまい、ついつい家に上げてしまった。

 急須で淹れたお茶を山口さんにだすと、僕は自分の分も用意してテーブルの向かいに座った。


「ありがとう、頂くよ」

「それで、学校ってどういう事ですか?」


 お茶を飲んだ山口さんは一息つくと、鞄から大きな茶封筒を取り出した。


「そうだね、学校について説明する前にまずは異文化交流委員会というのがどういうものか、説明するところから始めようか」

「はい、お願いします」


 異文化交流委員会というものは正直気になっていた。異文化と言うくらいだから海外との交流があるのだろうが、名前がざっくりとしすぎていてイマイチ全貌が掴めない。


「異文化交流委員会は今からだいたい30年ほど前に発足されたんだよ。その活動の目的は『異世界との交流』。我々は秘密裏に異世界と交流をしているんだ」

「え?い、異世界?漫画やアニメの話ですか?」

「いいや、現実の話さ。この世界は30年前に突如異世界と繋がってしまったんだよ」

「ご、ご冗談を……。ふざけてるんですか」


 山口さんは真面目な顔で異世界と繋がっただの訳の分からないことを言い出した。


「まぁ、口で言うより見てもらった方がいいかな。この映像を見てくれ」


 そう言うと山口さんは鞄から液晶タブレットを取り出すと手早く操作して、僕に映像を見せてきた。そこに映っていたのは――


『な、何だこの馬鹿でかい扉は!?』

『扉の向こうは空間が捻れてるぞ!』

『お、おい!何か出てきたぞ!?』


 その画面に映っていたのは、高さ20メートル程の巨大な扉だった。しかもその向こうは夜よりも暗い暗闇が不気味に渦を巻いている。


『グギャアァァァァ!!!』


 そして扉の中から現れたのは、体長5メートル以上はある茶色い鱗を全身に纏った、絵本などでよく見る伝説上の生物、ドラゴンだった。

  ドラゴンは扉から出てくると同時に、紅蓮の炎を口から噴射して周囲の人々を襲いだした。


『う、うわぁぁぁ!!』

『な、何だこの化け物はぁぁぁ!』


 その後は撮影者がカメラを落としてしまったのか、視点は地面を向いているだけになったが、音だけでドラゴンが暴れ回っている様子は十分に伝わってきた。


「え……?これ、CGですよね?」

「いいや、これは紛れもなく現実さ。この後はすぐ国が動いたお陰で、世間には広まらなかったがね」

「そんな馬鹿な……、こ、こんなの信じられませんよ!」

「まぁいきなり信じろと言われても無理な話だね。じゃあ僕の手を見ててよ」


 山口さんはテーブルの上に手を置いて僕に見ているように言ったが、一体何をするつもりなのか。


「じゃあいくよ、『フラッシュボール』」


 山口さんが何かを唱えたかと思うと、手の上から眩い光の玉が飛び出してきて、手の少し上を漂って当たりを照らしだした。


「ま、眩しい……!」


 あまりの眩しさに見ていられなくなった僕は思わず腕で目を覆ったが、山口さんが手を握りしめると光の玉も弾けるように一瞬で消えていった。


「どうだい?これで分かってもらえたかな?」

「今のって、もしかして……」

「ああ、魔法さ。これが異世界の技術だよ」


 魔法なんてこの世には存在しないものだと思っていたが、腕には何か仕掛けがあったようには見えなかった。

 こうして実際に見せられてしまっては信じるしかないだろう。


「わ、分かりました。山口さんの話はひとまず信じます。でも、それで一体僕に何の用があるんですか?」

「ああ、それじゃあ1つずつ説明していこうか」


 こうして、山口さんから色々と説明をしてもらった。

 山口さん曰く、異文化交流委員会は30年前ドラゴンが襲ってきた時、扉のから現れた異世界人がドラゴンを討伐して助けてくれたことをきっかけに、友好を深める為に発足されたそうだ。

 向こうの世界の人々も争いは求めていなかったので、お互いの世界の首脳陣で何度も秘密裏に会議は繰り返し行われていたらしい。


 なぜ秘密裏に行われていたかといえば、当時この世界ではネットの普及が始まっていたので、情報は一瞬で出回ってしまう。もし異世界の存在がいきなり明るみになれば、大騒動は間逃れなかったからだ。

 それを防ぐ為に少しずつ、お互いの世界の事を知ってもらうように、慎重に動いてきたらしい。


 そして今年ついに、こちらの世界の一般人から何名かをあちらの世界で生活してもらう事が決定した。

 異世界はまだ現代技術のようなネット世界は普及していない。だから、いきなり異世界人にこちらに来てもらうよりも、こちらから異世界に行く方が情報の出回りは小さく済むそうだ。



「それで、僕が選ばれたんですか。何ご理由で?」

「明日人君は高校受験に失敗してるでしょ」

「うっ……!」


 この人僕が今一番気にしていることを容赦なくつついてくるな。


「なんですか、失敗してるからって文句でもあるんですか!?」

「ごめんごめん、そう怒らないで。それで続きだけど、明日人君さえ良ければぜひ異世界の学校に通って欲しいんだよ」

「え、学校に!?」

「そう、向こうの世界に行って欲しいのは明日人君みたいな今後国を支える若い子達が望ましいんだけど、この時期だともう殆どの子の進路が決まってるでしょ」

「それで、僕みたいに失敗した人に声をかけてるんですか?」

「そういう事!もちろんその人の人間性も重視してるけどね。明日人君は今回の試みにはぴったりの適任者だったんだよ!」


 山口さんは説明しながら、茶封筒の中から異世界の学校の資料を色々と取り出していた。


 山口さんの話は藁にもすがる思いだった僕にとっては、とても魅力的な内容だった。だが、僕には1つどうしても気になる事がある。これを聞かずにはこの話を受ける事は絶対に出来ない。


「あの、ひとつ良いですか?」

「ん?なんだい?」


 山口さんは嬉しそうに資料を僕の前に広げていた手を止め、表情を変えずに僕に向き直った。


「僕、家族に迷惑かけたくなくて、楽してほしくてこれまで勉強してきたんです。だから、異世界の学校に通って将来影響が出るなら、この話はお断りさせていただきます」

「はっはっは!なんだ、そんなこと気にしてたのか!」


 僕の辛辣な空気を察して真面目に聞いていた山口さんだったが、その内容を聞いた途端お茶を吹き出すほどの勢いで突然笑いだした。


「そ、そんなことって!僕にとっては大切な事なんです!」

「悪い悪い、そういう意味で笑ったんじゃないよ。進路なら心配しなくて大丈夫さ、向こうの学校での3年間はちゃんと高卒扱いになるし、進路もこちらで融通するように事前に手配はしてるから!」

「そ、そうだったんですか……、安心しました」

 将来に不安がないのなら僕にこの話を断る理由はない。異世界に行けば家族の負担も減るし、将来の心配もない。それは僕にとって願ったり叶ったりだ。


「うん!それにもし向こうの世界が気に入ったなら永住も考えてもらっていいからね!」

「いや、それは……」


 全く知らない世界で1人暮らしていくなんて、僕にはとても出来そうにない。興味はあるけどまずは家族を幸せにしないと。


「そうそう、向こうの世界で生活するにあたっての生活費等必要なものは、全部委員会の方で用意するから安心していいよ!」

「それは助かります」


 異世界がどこにあるかは知らないけど、遠くに行くのにお金がかかるのなら僕は行く訳には行かなかった。恐らく山口さんは僕に気を使って先に話してくれたのだろう。

 まだ胡散臭いイメージは抜けないけど、山口さんは思っていたよりは良い人だったみたいだ。


「じゃあ、この話は前向きに検討して貰えるってことでいいかな?」

「はい、親次第ですが、僕は受けようと思います」

「ありがとう、これからよろしく頼むよ!」

「はい、お願いします!」


 手を差し伸べてきた山口さんと、テーブルの上で握手を交わし僕は異世界へ行く決心をした。

 


 その後は家に帰宅したお母さんを交えて、山口さんから再度細々とした説明を受け、異世界へ行く事が決定した。

  出発は明日、卒業式のすぐ後だ。


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