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気が付くとこんな近くに

今回は1600字前後で短めです。作者は年なので、学校行事の流れを忘れています。実際の高校生活とそぐわない点がありましたら、可能ならば直しますので、ご指摘よろしくお願いします。

 木立の緑が、芽から小さな葉脈を広げて葉としての位置を確立するように、かって枯れ枝だった木々には均一化された緑が、幹の周りを枝の周囲を、若々とした鱗のように飾り立てていくのだった。

 

 部活紹介兼勧誘会が終わり、級友の立ち位置がはっきりしてきた。かってまりんに文句をつけた溝手は、勉強の面で頭角を現している。みのりも新入部員が三名入り、百人一首をなぎ払う腕が、風にあおられた木々のようにしなっている。やる気の表出が全身にみなぎっている。まりんの傍らには、若武者がいた。時代が時代ならば、戦場に打って出るようなたくましさを秘めた緑川が、彼女の近くで、次の行事についての試案を述べている状況に、心が奪われてしまうのだった。


「……って予定ですよね」

「すみません、よく聞こえなかったので最初からお願いします」

自分の落ち度を緑川のせいにして、平気で振る舞えるほど図太くはない。まりんは、雑念を頭の隅に片づけて、緑川の語りに耳をそばだてる。彼の吐息が肌にかかり、全身の血管が収縮するのを悟られまいと、リノリウムの床を踏みしめた。


 掃除が終わって、学級代表の集まる委員会では、傍らの彼を意識しながら、議論を重ねる。彼の的確な指摘が、散乱していた課題をまとめ、集約へと導く。その手腕に、まりんはただ心を奪われるばかりだった。


「じゃあ、部活があるから資料おねがいします」

「レジュメを人数分まとめてコピーですね」


 騎馬武者のように、身をひるがえして去っていく彼を目と心で見送りながら、まりんは職員室でコピーを借りた。紙をトレーに送る音が、先ほどの興奮を静めていく。無心でいる間、先ほどの彼の面影が切り絵が舞うように脳裏に現れては消えていく。

 

 人数分のレジュメを重ねて折りたたみ、ロッカーへとしまう。誰もいない教室、先ほどの逢瀬を思い浮かべて一人悦に入る。緑川には、特定の思い人はいるのだろうか。一緒に仕事をしているだけで、同じクラスにいるだけで、まだ、深い言葉は交わしていない。彼といる時間は誰よりも長いはずなのに、彼のことはまだよく知らない。プライベートを聞くには早すぎて、雑談を重ねるのには遅すぎる時の位置にまりんはいた。



 その日は予定がなかったので、久々に競技かるた部に顔を出して、読手をしてみる。普段使わない部分に力を込めて札を読む。よくとおる声が、部室を駆け抜ける。この声を緑川にかけられたら、どんだけ反応が響くのだろうか。よそ行きのまりんに、緑川はどんな表情を見せてくれるのだろうか。


「あれ、もしかして疲れてるの」


 休憩時間にぼーっとしているまりんをみて、みのりは少し心配そうに尋ねた。まとめていた髪の一部がほぐれておでこに、パラパラと落ちた。


「ああ、いや、なんでもない」


 自分の妄想を見透かされたような気がして、まりんは慌ててその場を取り繕った。スカートの上の目に見えないほこりを払って、落ち着いているふりをした。


「今回は部活の対抗戦、勝てそうね」

「新入部員の鍛え方次第よ」


 戦力を得たみのりの表情は明るかった。ブームは続いているが、地味な部でもあるので、自分の学校に競技かるた部があることを知らない生徒も多かったのだ。


「じゃ、委員会が暇だったら応援に行くから」

 みのりに、学校対抗戦の日程を教えてもらって、帰り道で別れた。通学路は初夏の日差しを浴びて、少しずつ温もりをアスファルトに蓄えていく途中だった。太陽光の当たる肌が少し火照る。緑川の視線や、たくましい体躯を感じ取った時と同じような感覚だとまりんは思った。


 


 

 やがてくるテストを前にして、部活をする者もそうでない者も、余力を勉強へ置き換えていく。学生として避けられないイベントを目の前にして、余裕があるのか緑川は部活に励んでいる。馬のひづめの音が聞こえる。まりんは、緑川への思いを胸に秘めたまま、参考書に没頭し始めた。テストが無事すめば、緑川の活動を目にすることができる。お披露目会を人参としてぶら下げて、勉強に身を入れるのだった。




 

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