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相方の評判

 四月も半ばを過ぎ、新顔だらけだったクラスメイトとも徐々に、うちとけてきた。久間珠里(ひさまあかり)という新しい友人もできた。緑川和馬と一年生の時に同じクラスだったという。あの時感じた、緑川から感じた只者ではないオーラ、まりんはさっそく彼のことを聞いてみた。


 クラス委員で相方にはなっていたが、よそよそしさが先行して、お互いのことを話せず、他人行儀な関係のまま、幅を詰められずにいたからだ。


「緑川のこと知らないの、凄いんだよ。歴史研で先輩を差し置いて、桶狭間の戦いを演じたんだから」


 やや興奮気味に語る珠里の話をきいてみると、なぜ彼が高校生離れをした魅力の持ち主なのかということがよくわかった。まりんは、珠里が語り出すまで、歴史研究会は、よくある文科系の地味な部だという印象しかなかった。歴史研は、文化祭の日に屋外で、歴史のワンシーンを再現する演劇部の様な活動をしており、女性とのファンも多いそうである。普通は、二年生が演じるのであるが、長身で剣道の経験もありるということで、緑川が抜擢されたようだ。彼は毛利新介を演じきった。今川義元を討ち果たした若武者である。すべてを演じ終えるのは難しいので、重要なシーンだけで残酷な場面はないような脚本で構成されていた。


「そんなに、注目されているなんて知らなかった」


 文化祭でまりんはもっぱら模擬店のグルメに熱中していて、各部の出し物に関しては無頓着なままでいた。文化祭の花形である男子が、傍らにいて一緒にクラスをまとめている。この状況に、まりんはめまいがしそうで、心ここにあらずといった仕事ぶりだった。


「部活とクラス委員の掛け持ちで大変じゃない?」


 彼の身を案じるふりをして、それとなく話しかけてみた。緑川はニコッと笑って「大丈夫ですよ。むしろファイトがわきます」と余裕を持たせて返答した。


 クラス委員を集めた会では、初めての経験ということもあり、緊張した面持ちで会議に参加していた。しかし、部活すら経験したことのない、まりんにとっては、慣れない活動なので、家に帰ると勉強もそこそこに、家のソファーにもたれかかって天井を見ていた。詰襟を着た緑川のりりしい姿を天井の白い壁に投影して、一人胸を高ぶらせていた。


「まったくこの子は、すぐに横になって」


 母に、埃取りのモップで肩を叩かれて、しぶしぶソファーから降りて、セーラー服をハンガーにかける。暖色系のブラウスとデニムに着替えて、再度ソファーを占領しようとして、母に注意を受けた。


「勉強しないと、ついていけなくなるわよ。クラス委員に選ばれたんだからもっとしっかりおし」

 仕方なく、自室に戻って机の前に座り、教科書を出すが気分は上の空だった。英語のつづりを見て目が踊る。


「そういえば、あいつ真ん中分けが嫌だとかいってた」

 最初に出会った男子の溝手右京に言われたことを思い出した。今時、地味な髪型では自分を売り込めないと思いなおし、まりんは、鏡とブラシを取り出して、髪の毛をいじり始めた。サイドを捻じって止めてハーフアップにしてみる。新しい髪型にご満悦になり、このスタイルで魅力アップとしゃれこんだ。


 鏡を見つめるまりん。化粧は校則により禁止となっているが、こっそりグロスを塗ってみた。女ぶりが上がるような気がした。母の気配を感じて、慌ててティッシュで拭う。内面も大事だと思いなおして、しばらく机に向かう。まりんは今まで、勉強をしなくても成績だけは良かった。なのでサボることも多かったが、副委員長となったからには今まで以上に注目される。かかる荒波をはらいのけるつもりで、少し勉強に励む。


 スマホの着信音が鳴る。みのりからの着信だった。今度体育館で行われる部活動紹介に、どんな服装で行けばいいかという相談だった。


「競技かるたなんだから、いつものカットソーでいいじゃない」

「でも華があるのは着物よね」


 弱小とはいえ、カルタブームは追い風になる。最初に印象付けて新入生をゲットしなくてはならない。弾んだ声から、気迫が見え隠れしていた。会話はその後、男子の品定めや、テレビの内容、教師のあだ名など取りとめもなく続く。

 

 会話を終えてから、緑川はどんな出で立ちで、部活紹介に出るのだろうか。まりんは興味がわいてきた。明日、学校で会ったら、それとなく訊くつもりで、心が弾んできた。興味がわかないクラス委員の仕事だが、

それ以上に、緑川という男性に、気が吸い込まれるように感じている。



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