覚醒の時
日が違づいてきている。演技初心者のまりんも少しずつ表現という物が分かってきたのかもしれない。上級生のお姉さま方から見ればまだとてもじゃないようだが、そう思わないとやっていけない。私の中には少しずつ演技力という物が芽吹いている。奇跡が起きるかもしれない、自分なりに手ごたえを感じる。この殻を破れば私は変わることができる。
「自分を信じなきゃ」
何度もくじけそうになる心に喝を入れて稽古場に赴いた。顔に緊張が走る。表層筋は疲れ切っているが表現力が付いたせいだと思う事にする。
重いドアを開いた時、上級生から思わぬ言葉を浴びせられた。
「遊びはこの辺にするから、高津さんもう下がって」
「どうしたんですか。まだできます」
「勝てないのよこのままじゃ。あちらさんは本腰を入れてきた。ロシアのナントカを使うのは止めてジャンヌダルクに変えてきた」
「そう来たか」
向こうの出し物がマイナーだという事で互角に戦えると勘違いしていた。そうか、やはり勝負に出てきたんだ。両足を支えていた気力が萎えてしまいその場に座り込んでしまった。
「私は統括者として現行の衣装と舞台背景を使って作れる話を決める。あなたはもう降りなさい」
「ならば、その新しいテーマを私にやらせてください。お願いします」
「無駄です。あなたには才能が有りません」
やはり、私の力では演技は無理だったのか。まりんは今までの人生で何にもチャレンジしてこなかったことを恥じた。そうなのだ、気合だけで現実が変わることはないのだ。劇的に変わるのはお話の世界の中の事だけなんだ。
まりんはすべてを悟って諦めたが、まりんのなかにいるまりんはまだあきらめていなかった。羽化した鳥が飛び立とうとするようにゆっくりと霊体をからだから外して、上級生の下に歩み寄った。
「私の事を覚えているかい」
上級生は後ざすった。何か今までのまりんではない別の女性がそこに現れたからだ、彼女は凛として気高く背筋を伸ばして彼女を見据えていた。急に背筋が寒くなってきた。
戦国の世、幾世にも繰り返す戦乱の日々、市井の民は言うに及ばず為政者さえもが生存をかけて生き抜こうとしていた時代。その必死さ気力そして覚悟が時空を超えてたどりついたのかもしれない。
まりんは、戦国時代に生きる女性の気迫を身にまとう。その威力が上級生をたじろがせた。
その日からまりんは変わった。日常をゆるくすごす女子高生の姿はどこにもなく、時代の空気を瞬時に召喚し我が身に重ね合わせる奇跡をまとった彼女はめきめき存在感を増し、和馬とのやりとりも緊迫した空気を醸し出すようになった。




