三年生からのダメ出し
ちょっと力及ばずで文字数が少ないです。
本調子が出てきたら書き足したいと思います。
夏休みのはじめ、まりんは三年のお姉さま方の一人に連絡を取った。大城戸朱鞠という女性が中心人物だという。彼女は175センチという長身ながら均整の取れたモデル体型をしていて、すれ違った男子生徒を必ず振り返らせるというオーラを漂わせていた。大学受験の重圧という重しがかかっている高校生活に、その覆いをはねのけて自由に活動できるバイタリティーの持ち主が彼女だった。
アスファルトを押しのけて芽を出し大輪の花を咲かせるド根性ひまわりのような、圧倒的な存在感が彼女にはあった。
うるさすぎずそれでいて耳に残り香のように休息を与える軽音楽が似合う喫茶店で、私服の彼女が現れる。レトロな柄のワンピースが、体幹のしっかりとした彼女のたたずまいに違和感という名のアクセントをキャンバスにこめられた原色の絵の具を叩きつけたような強さで惹きつける。
「はじめまして」
やや低めの、オフィスの女上司から業務命令を出されたようなはっきりとした口調は、まりんの背筋を反射的に伸ばす。
「私は三年の大城戸朱鞠です。今までの歴史研の出し物に携わっています」
「どうも、はじめまして。二年の高津まりんです」
大柄の三年生を目の前にしたまりんは落ち着かなかった。強めの風に身を震わせる朝顔のように頼りなく映った。
「ところで、あなたは対抗戦でどのような出し物を考えているのかしら」
「はい。本能寺の変はいかがでしょうか」
まりんは押しつぶされそうな心を奮い立たせて答えた。喉の奥に空気の塊が詰まっているように感じた。
「それは誰視点なのかしら」
「えっ」
視点までは考えていなかった。出し物の内容はこれから考えるつもりだった。
「落第点ね。まず、光秀視点か信長視点かはっきりさせてから台本を練って部隊を構築する事ね」
「あ。はい」
「あなたにはまだ無理ね。それともあなたにだけできる様な出し物はあるのかしら」
「私だけですか」
まりんはそこまで考えてはいなかった。彼女の特異体質を生かすという意味なのだろうか。
「5日間猶予をあげます。それであなたにしかできない出し物が考えられなければ降りてもらいます」
そう言い放つと、朱鞠は頼んでいたキウィのスムージーに口をつけた。
「落ち着かなきゃ」
まりんは独り言を言うと、唇をコーラで濡らした。
「ところで、なんであなたは歴史研に興味を持ったの」
「ええ、私は今まで知らなくて、同級生だった緑川さんのたたずまいに心惹かれました」
「日本史に関しては素人ってわけね」
「はい。でもこれから頑張ります」
そこで朱鞠は、まりんを睨んで口を開く、遺跡の石の扉が開いたような重みだった。
「学校の名誉がかかっているのよ。惚れたはれたの恋心でのっかかられても迷惑なだけよ」
「恋とかそんなんじゃない」
「じゃあ何なのさ。歴史も知らないあなたが歴史研に肩入れするわけは」
まりんは返事に詰まった。緑川の方を見ていたかったのが、主たる理由だったからだ。朱鞠の発言でそのことに気づかされた。
店を後にしたまりんは気が重かった。自分にしかできない出し物が何なのか、混迷した心は答えを出せそうになかった。




