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興味が無いとできない脳



「昔から興味のない事は、どんなに頑張ってもできないんだよ。頭の中にシャッターがあって常に閉じている感じ」

溝手は、もどかしい例えを出して、自分の置かれている状況を説明しようと頑張っている。


「変だよな。勉強はあれだけできるんだろう。学年でも上位だよな」二年生が口を挟む。いすかが自分のくちばしが食い違っているのを苛立たせたような口調で。


「勉強は今の所興味があるから」そっけなく口に出す溝手。そのそっけなさが逆に周囲の反感を買う。


「なんですべての学科が点数高いの? 苦手科目とかないの」別の二年生が溝手に問いかけた。


「苦手科目はあるけど、座学だとなんとなくできてしまう。しかし、これから新しい科目が出て、それが嫌いだったり興味が無かったとすると赤点だろうな」周囲の空気を読まずに溝手は続けた。


「なんかわからないんですけど、ただのわがままとしか思えません」三年の女子が疑問をぶつけた。

 溝手は、額から汗を流しながら必死に言葉を選んで、問いに答えようとしている。


「まあ、もう済んだことは仕方がないし、溝手君もできる限りの範囲で頑張ってよ」このままだと糾弾大会になってしまうので、部長の、みのりが助け舟を出した。


 まりんは一人考えていた。自分が溝手と同じ能力だとしたら、新しい変化に対応できるのだろうかと。

もし、新しくすることについて頭が働かなかったら、溝手は重く閉ざされた石の壁の表面に爪を立てるのがやっとだろう。爪がはがれ、血がしたたり落ちても石の壁は動こうとはしない。彼の苦闘のイメージが映像として浮かぶ。


 できないというのが障害だと気づいた。目の見えない人、耳の聞こえない人はよくわかるが、興味を遂行できないのも同じことかも知れない。とにかく彼は読唇術ができなかった。それは脳のバグが原因とされる。だとしたら、どうしてもできないことに説明がつく。まりんはそれを図にしてみようと思い立ち、

帰宅後にレジュメを書いた。


「障害者が、障害に当たることができないように、発達障害者は脳の各部分でできないことはどうしてもできません。目に障害のある人が見えないように、脳に問題がある発達障害者は特定の事が出来ないのです」


 A4用紙二枚にまとめたレジュメをコピーしてまりんは思った。私が溝手君の理解者になってやるんだと。



 かるた部の練習は休みだったので、図書館に行き発達障害について調べることにした。レジュメに知識の裏打ちが必要だったからだ。みのりの部屋で勉強した時の書物とは比べ物にならない難しい専門書が置いてあった。なるべく詳しそうな、分厚い本を借り出そうとした時、見覚えのある顔がいた。


 市来希沙。遠くからでも目立つ金髪ツインテールの女子高生。お嬢様学校の制服を着て、なにやら一心不乱に書籍を読んでいる。まりんは、なるべく小さな声で話しかけた。


「こんにちは、念努高校の高津まりんです」

「……ああ、誰かと思ったらあの生霊娘ね。何の用かしら」


 生霊娘と呼ばれて多少カチンとしたが、そこは大人のふりをして話をつづけた。

「ご熱心に勉強なされているのですね」

「カズくんの衣装を調べてる最中なの、邪魔しないで」

 カズくんと言われて、まりんは少し嫉妬した。緑川は市川とは何もないと言っておいて、愛称で呼び合う仲だとは思っていなかったせいもある。


 ふと見ると、戦国時代の衣装について詳しく書かれているビジュアル的な専門書だった。負けたとまりんは思った。自分は緑川が好きだけど、彼の助けには何もなっていないことを。そして同時に気づいたのは、溝手を助けようとしている事だった。(あれ、なんでわたし溝手君の障害についてしらべてるんだっけ。これって同情心だよね)


 自分の心の動きに気づいて、何かが心の中をすりぬけていった感触を得るまりんだった。




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