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知恵を出し合う部員たち

ノイズキャンセリングイヤホンの使用についてネットで調べてみたのですが、情報は得られませんでした。

競技かるた関係者のお手を煩わせるには忍びないので、今回は取材をせずに書き綴っていきたいと考えております。ですから、実情にそぐわない内容になるかもしれませんが、フィクションという事でご了承ください。

 数日後、まりんはネットで調べ物をしていた。発達障害者の耳の聞き分けの困難さについてだ。みのりはPCを持っておらず、スマホだけが頼りでは心もとない。みのりから、PCを持っている部員たちに声をかけて調べてもらうことにした。


 明度を下げて白い画面の明るさを落とす。本当なら、溝手が調べればいいのにと思ったが、多方面から調べることで、具体的な対策が出てくるのではと期待が込められていた。


 確かに溝手の問題なのだから、彼が自力で検索して解決するのが筋かも知れない。だからといって、部員たちが彼一人に責任をおっかぶせて何もしないというのは、部の団結という意味からも損失につながるとみのりは語っていた。


 まりんは、聴覚障害のある選手が、相手の口唇を読むことで、競技に参加していることを知った。競技かるたを取り上げた漫画にて描かれていた描写だった。ふと、肩から首周りを覆っているつかえが取り払われたような気がした。キーボードの上で疲れた二の腕を休ませるべく、机から離れて肩のストレッチを始める。筋肉が気持ちよく疲れた。肩甲骨を寄せて凝りを取る。関節がパキパキと音を立てる。そのまま床に腰を下ろし、猫のポーズをしばらく続けた。


 ヨガは母がやっていたのを見よう見まねで覚えた。呼吸が大事だと知り、独学の腹式呼吸で気持ちを落ち着かせる。普段使わない筋肉や関節が伸びる。ひとしきり体操を終えると、再度読唇術について調べ始めた。


 PC疲れを軽くいなして、軽い腕立て伏せで肩の筋肉をほぐす。膝をつけたやり方だと、腕への負担が減る。その後パジャマを脱いで制服に着かえた。


 緑川と学級委員としての業務をこなしつつ、一日を終える。緑川の足の具合は大分よくなっているようだが。いずれワイヤーを外す手術を受けなければならないだろう。


「足、大丈夫?」

「しばらくしたら、手術でワイヤーを外さなきゃならない。それからだね」

「また。りりしい武者姿、楽しみにしてるわ」

「しばらく乗馬はないだろうな」


 緑川は精いっぱいの笑顔で答えた。抜き身の刃の白さが空間を走り抜けたような爽やかさが過ぎていった。


 放課後、まりんとみのり、溝手、そして競技かるた部の部員が集まっている。

溝手からは、ノイズキャンセリングイヤホンの使用の打診が来た。


「結局、俺はこの手の器具で、雑音をカットしていくしかないみたいだ」

とネットから印刷した機器の画像を広げて見せた。


「これね、コードとか邪魔にならないの」

 みのりはさすがに部長だけあって、体の動きを心配している。


「それに、運営側に打診して見ないと判断できないわ。他の選手より有利になると判断されるかもしれない」

ノイズキャンセラーをつけることで、他の選手より有利になってしまうとしたら器具の使用は許されないだろうと予測できた。


「ちょっと待ってくれ。俺はこれをつけてやっと人並みなんだ」

 溝手は少しうんざりしたような口調で返答している。そうなのだ、彼らは器具を使うことでやっとみなと同じスタートラインに立てるのだった。


「私は読唇術を調べて来たわ」

 まりんは、プリンターで印刷した読唇術のサイトのノウハウを溝手に見せる。溝手は一枚一枚をじっくり見ていた。紙の擦れる音が、秒針の代わりをしていた。


「ありがとう。こっちを学習してみるよ」

 溝手はまりんの資料をまとめるとカバンにしまい込んだ。彼女の努力は彼のカバンの一部になった。


「ノイズキャンセラーは、運営に訊いてみるかい?」

 男子生徒が、意向を打診した。だがその表情には面倒なことは御免だと書かれていた。


「礼を尽くして、手紙で対応してみるわ」

 みのりは、男子生徒に、部長として対処することを告げると、練習試合へと移行した。静寂が戻り、緊張した空気が張り詰める。


(私たちには静寂でも、溝手君にとっては騒音の真っただ中)

そのことを思うと、まりんの心は悔しさで満たされて、あふれ出る溶液はため息となって口からこぼれおちた。


 練習試合では、まだ溝手は本領を発揮できていない。彼が三晩で覚えた記憶が生かされる日は来るのだろうか。今日も一年生に負けている。悔しさと情けなさを押しとどめて礼をする彼。緑川が絶対に見せることのないであろう愚直さが、溝手の周囲を黒煙のように覆っていた。


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