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五話 迷子

変わらずソウ視点です。

「……どっちに行けばいいんだろう」


 俺とリョウ君は分かれ道で足を止める。


「……左、じゃ、ないですか? 来るとき、たしか、右に曲がったので……」


 買い物を終えて、来た道を戻ってきたところ、分かれ道に出会った。来た時にも通った、レイに教えてもらった曲がり角だと思う。

 つまり俺たちは、あの時右に曲がったから今度は左に曲がって帰ればいいはずなのだが、立て看板に惑わされている。


「この看板は多分、右が悪魔の小屋(デビリッシュハウス)ってことだよね」


「んー……どっち、なんでしょう……」


 目の前にあるのは腰くらいの高さの木の看板が二個だ。一方には悪魔の小屋(デビリッシュハウス)、もう一方には天使の小屋(エンジェリックハウス)と書いてあるが、木の板の形が紛らわしい。


 左にある、悪魔の小屋(デビリッシュハウス)と書いた看板は、右側が三角に切られて矢印のようになっている。右にある看板はその逆だ。天使の小屋(エンジェリックハウス)で、左矢印。


「ていうか、ここ通ったときこんなのあったっけ」


「あり、ました。僕も、ああなにかあるな……くらいにしか思ってなかったので、ちゃんと見ては……いないんですけど……」


「だよねえ。やっぱリョウ君のいう通り左に行くのがいいのかな」


「え、いや僕も、そんなにちゃんと覚えてるわけじゃ……ない、です」


 看板に従うなら右だが、記憶に従うなら左。

 だけどわざわざ矢印が二つの看板の間を向いているのも気になる。普通、矢印が外側を向くように置かないだろうか。


 服やらなんやらが入っている紙袋をお互い二、三個抱えているのに、なんだかんだで十分くらいここで行く道を決められずにいる。リョウ君はずっとつま先で小石を転がしているし。


「もう、とりあえずどちらかに行って……違ってたら引き返す、ってしたほうが、早いんじゃ……?」


「うん、そんな感じだよね。よし、まずどっちに行ってみる?」


「ええと、やっぱり左……ですかね」


 じゃあ行こうか、と言いかけたところで気づく。俺は空を飛べるんだから、(うえ)から探せばいいじゃないか。

 持っていた袋をどさっと地面に落とす。リョウ君が驚いたように身を引いた。


「ど、どう、したんですか……?」


「なにか大事なことを忘れてないかいリョウ君。俺は天使なんだよ」


「……ええと、天使だと……魔法でどっちにいけばいいかわかる、とか?」


「違う違う。もっと簡単に考えて」


「天使だから、どっちの道が天使の小屋(エンジェリックハウス)に繋がる……か、知っている……?」


「知ってたらこんなに困ってないよ!」


 確かにそうですよね、とリョウ君が軽くしょげる。いや別に怒ってないんだけどね。

 せっかく街に行ったのに呪いのこととかシリアスな話が多かっただけで、俺もともとこういうテンションだし。


「ああーもう、種明かし! 翼があるから、空を飛べる!」


「そういえば、そうですね。……あ、でも、それだと僕、ここに置いてかれ、ますよね……」


「いやいやいや俺そんな薄情なことしないから。ちょっと飛んでどっちの方向に悪魔の小屋(デビリッシュハウス)があるか見るだけだから」


 なるほど、と頷くリョウ君を残してふわっと浮かぶ。なぜだか地面にいる時より風が気持ちいい。


 少し遠くに黒い小屋が見える。空やクリーム色の街の中にぽつんと。左方向だ。そのまま少しだけ旋回した後地面に足をつける。


「左で合ってたよ。行こ!」


 荷物を拾って左の道を歩いて行く。今度もやっぱりリョウ君は俺の後ろを歩いていた。

 かさかさという袋の擦れる音だけが後ろから聞こえる。リョウ君が少し俯きがちに歩いているんだろうな、と今日一日の様子から推測する。


「ねえ、リョウ君」


「ふぇ⁈ はい、あの、はい」


「……そんなに、レイのことが気になる?」


「あ、ええと……」


「ばればれだよ、さっきだって、俺が空飛べるって気づいたのリョウ君にしては遅かったし、今だってほら」


 言いながらくるりと後ろを向く。傾いてきた陽が眩しい。

 案の定、俯いて歩いていたリョウ君は俺が止まったことに気づかず真正面からぶつかる。


 すいません、と謝るリョウ君に俺は静かに言う。こういうこと言う性格じゃないんだけどな、ほんとは。


「ぼんやりしすぎ。レイのことがいろいろ気にかかるのはわかるけど、気にかけたからってどうにかなるものじゃない。もちろんレイのこと全く考えなくていいってわけじゃないよ。でも、その状態でレイに会える? 逆に心配かけると思うよ。考えることも大事だけど、先に行動に起こすことが大事な時もあるんだから」


 言ってて自分で、こういうのは俺の役じゃないな、と思う。俺にこういうのは向いていない。なのに、思っていることを言葉にしようとどうしてもこうなってしまう。


 レイだったらもっと上手い言い方ができるのだろうか。そう考えて、すぐにそれを打ち消す。レイもこの役には向いていない。レイならきっと、「他人(ひと)のことは放っておけばいい」とか言うだろう。


 いやでも、リョウ君の前だとなんだかいつもと違う感じだったから、もうちょっと優しい言い方をするのか。


 結論、思っていることを口にするのは難しい、と哲学的なことを考えたつもりになってから再び口元を引き締める。


「俺たちができることは、多分、何もない。何かしたくても、それは事実だ。レイだって、君に何も自分のことを語らなかっただろ? 俺だっておじいさんから聞いた話がほとんどだ。レイは何かされることを望んでいない」


 リョウ君から目を逸らしてまた歩き出す。

「でも」と後ろから声が追い(すが)ってきた。


「何か、できる……かも、知らないじゃないですか。だから、僕……は、考えるんですよ」


「リョウ君。レイと話して、思わなかった? 昔のレイがどうだったのかは知らないけど、もし俺の想像通りならリョウ君もわかるはずだ。今のレイは、強く見られることを望んでいる。周りに頼らず、一人で、強く。俺は昔のレイを知らない。でもなぜだかそう思える」


「レイは」


 リョウ君は俺の声に被せて言った。


「レイ、さんのその姿は、」


 だが後が続かない。続く言葉は容易に想像できる。なにせ今日一日一緒にいたのだ。リョウ君のことも彼から見たレイのことも聞いた。


『レイさんのその姿は演技だ。』


 そんなの、俺だってわかってるをわかってるけど、演じているならそれに騙されるのが俺たちの役目だろう。その姿がレイなのだと信じるのが。


「……ソウさんの……スタンスは、僕とかけ離れてます。お互い、お互いの……理想があって、求めるレイさんの姿が、あって。レイさんに求める、自分の立ち位置も……違う。僕は、レイさんに……幸せに、なってほしいし、僕は……レイさんの支えで、ありたい」


「そんなの」


 今度は俺がリョウ君を遮る。

 道は緩やかに右にカーブしていて、そこだけ少し狭くなっていた。


 俺たちはお互いに前を見ながら、一度も視線を交わさずに話す。


「俺が一度でも、君と同じことを思わなかったと思う?」


 リョウ君が口をつぐむ。

 二人の足音だけが規則的に聞こえるなか、俺はゆっくりとその沈黙を破った。


「レイには幸せになってほしいし、自分がレイを構成する要素の一つになれたらと思うよ。できるんならもうとっくにそうしてる。でも、できないんだよ。レイがそれを望んでいないのがわかるから。たとえそう見せかけているだけだとしても、少なくともレイはそう見られようとしているということだ。だったら、俺はこれ以上レイに踏み込むことはできない」


 少し先に小屋が見えた。右側から夕日で照らされて、地面に黒い影を落としている。

 レイは、今日一日どうしていただろうか。


「……僕は、できます」


「そう?」


「はい。……おそらくは。僕は、レイを、救えます」


「そう。それは、昔の知り合いだからとか、そういう安易な考えじゃないよね?」


「はい。……確信は、ないですが、多分」


 頼りないなあ、と笑う。

 だが、リョウ君がいうからにはできるのだろう。確信はないけれど。


 悔しいけど、しょうがない。


 小屋はもう目の前だ。

「ま、じゃあ任せるよ。あ、でも」


 ドアノブに手をかけて、しかし回す前に俺はリョウ君を振り返る。


「これだけは覚えておいて。救われることを望まない人間だっているんだよ」

会話が多かった……。


なんだろう、こういう話のつもりじゃなかったはず……? まあ、大筋そんなにずれてないのでこのままいきます。

次回からはレイ視点です。

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